第1章13話:魔物
釣りが終了したら……
私たちは、さらに森の奥へ進む。
魔物を討伐するためである。
「弱い魔物と戦って、戦闘の経験を積んでみようか」
とのことだった。
5分ほど歩いてから、クレアベルが言った。
「ここからは魔物が出てくる。【身体強化魔法】を忘れずに使うんだ」
「わかりました」
「わかった!」
私とアイリスは返事をする。
私たちは既に【身体強化魔法】を、呼吸をするかのごとく発動することができる。
だから、サッと身体強化魔法をまとう。
「この近くに出てくるのはホーンラビットだけだ」
クレアベルがそう説明した。
ホーンラビット。
角が生えたウサギの魔物。
ホーンラビットの魔物肉は、
塩を振ると、焼き鳥のような香ばしい味になる。
うちの食卓にもよく出てくる定番メニューだ。
「ホーンラビットは、ウサギのわりに動きがのろいし、打たれ弱い。初心者が倒すのにうってつけの相手だ。ツノによる攻撃は危険だが、お前たちは現在、身体強化魔法をまとっている。その状態なら、ツノで突かれようともダメージはほとんど受けないだろう」
「つまり、安全に狩れる魔物だということですね?」
と私は聞いた。
クレアベルがうなずく。
「ああ。ゆえに、しばらくお前たちにはホーンラビットを相手に、魔物狩りの練習をしてもらうことになる。……と、噂をすれば」
クレアベルが横の茂みに視線を向ける。
そこから一匹の魔物が飛び出した。
ホーンラビットである。
「最初は、特に指示はしない。思うようにやってみろ」
と、クレアベルが言った。
私たちはうなずく。
ホーンラビットはこちらを見上げて、警戒している。
距離にして10メートルぐらいか。
(よし……)
チョコレート魔法で倒そう!
と、私は思ったので、肩からにょきっとチョコレートを生やし……
ナイフの形状を取る。
【チョコレート・ナイフ】である。
それをギュンッと伸ばして、高速でホーンラビットに近づけた。
「!!?」
ホーンラビットが逃げる暇も、悲鳴をあげる暇もない。
瞬速でチョコレート・ナイフを突き刺す。
「きゅうっ……」
ぐさりと刺さったナイフを引き抜くと、ホーンラビットが動かなくなる。
よし。
討伐成功だ。
「お姉ちゃん、すごーい!」
と、アイリスがはしゃいだ。
クレアベルも、チョコレート・ナイフに驚きつつ、うなずく。
「まあ、なんというか……さすがセレナだな」
「えっと、ありがとうございます?」
と、私は応じた。
「さて、次はアイリスの番だ。ほら、新手だぞ」
とクレアベルが、あさっての方向を指差す。
クレアベルが示唆した先には、もう1体のホーンラビットがいた。
アイリスが剣を構えて、攻撃を開始した。
私はそれを眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
「魔物って、たくさんいるんですね」
「魔物は倒しても、次から次へと湧いてくるからな。さっき『魚は
「なるほど。ちなみに次から次へと湧くのは、強いモンスターもですか?」
「いわゆる"
「へえ……そうなんですね」
逆にいえば、ボス狩りをしたいなら、早い者勝ちということでもある……ということか。
覚えておこう。
……結局。
アイリスは、ホーンラビットを倒せず、取り逃がしてしまった。
その後、アイリスは、何度かホーンラビットを見つけては交戦し。
5度目の対戦の末に、ようやく一匹、狩ることができた。
「お姉ちゃんは1回で倒せたのに、私、5回もかかっちゃった……」
と、アイリスは落ち込んでいた。
クレアベルは言う。
「セレナと比較するな。お前はお前だ」
私も励ました。
「そうそう。アイリスのほうが2つ年下なんだから、できないことが多くても仕方ありませんよ」
実際は、魔物狩りのキャリアは、私もアイリスも同じなので、年齢差を言い訳にはできないかもしれない。
―――しかし、そもそも私の中身は21歳の社会人だ。
さすがに、まだ7歳のアイリスよりは、効率的な動き方には意識が回る。
ついでにチョコレート魔法というチートもあるしね。
そのぶんだけの差が生まれるのは、自然なことだろう。
「そっか。うん、でも私も、お姉ちゃんに負けないように頑張るよ!」
とアイリスは気を取り直した。
この日は、あと3匹ほどホーンラビットを狩って、山小屋に帰ることにした。
夕食は、美味しい焼き魚と、ウサギ肉を堪能した。
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