第1章10話:川で漁をする

初夏。


私たちは、背中にかごを背負い、3人で森に入った。


狩猟しゅりょう漁労ぎょろう採集さいしゅうなどを学ぶためだ。


山小屋周辺に広がる、森。


広大で……


穏やかな森だ。


草や土などの匂いが立ちこめる。


辺りは自然の香りに包まれている。


みずみずしい若緑わかみどりの草木が、陽光に照らされて、エメラルド色の光を拡散させていた。


森林浴でもしたくなるような森だ。


とても澄んだ景色であり、心が洗われるような感覚がする。


気温は涼しげである。


小鳥の鳴く声や、獣が茂みを駆け抜ける姿が見受けられる。


クレアベルは先頭を歩く。


私たちは籠だけを背負っているが、クレアベルは籠とともに竹竿たけざおも背負っている。


漁労をするので、おそらく釣りのためだろう。


「山小屋近くの森には魔物はいない。だが森の奥に踏み入れば、魔物も出てくるようになる。……このあたりはまだ、魔物はいないから平和だな」


3人で、のんびり散歩気分である。







森の中を5分ほど歩く。


途中でクレアベルは、イモを採取した。


パタパタイモと呼ばれる、さつまいもみたいなサイズのイモだ。


よく食卓に上がってくる。


私たちの炭水化物の主役をになうイモである。







さらに進む。


森のゆくてに小川があった。


幅は4メートルほど。


しとしと、と優しい音を立てて流れる清流。


ほとんど深さがない。


透明度が高くて、川底の石や砂利の姿が透けてみえている。


空は葉に覆われて、やや暗がりになっている場所だが……


枝葉の隙間から降り注ぐ陽射しが、小川の水面をきらきらと照らす。


その光景は、本当に美しくて、感嘆してしまうほどだった。


「この小川は清らかなので、飲める。……が、川の水を生で飲むのはオススメしない。飲むときは必ず、火で熱してからだ」


と、クレアベルが注意をした。


さらに小川をまたいで奥に進む。






しばらく森をゆくと今度は、幅15メートルほどの川に辿り着いた。


天が開けており、陽光が燦々さんさんと降り注いでいる。


この川も、とても透明感が高くて、美しい。


川の途中には、水に半分浸かった岩石が点在していた。


手前は浅いが、川の中央あたりはそこそこ深そうな雰囲気だ。


「ここには魚がいる。釣りができるぞ。うちの食卓に並ぶのも、ここで採れた魚だ」


クレアベルは背負っていた籠と竹竿をおろした。


私たちもクレアベルにならって、籠を地面におろす。


クレアベルは説明した。


「この竹竿で釣るんだ。竹竿の作り方は今度教えるとして……実際に何匹か、魚を釣ってみようか」


釣りか……


私は、ふと思ったことがあり、口にしてみた。


「あの、お母さん。試したいことがあるのですが」


「ん? なんだ?」


クレアベルが首をかしげる。


口で説明するより、やってみたほうが早いと思ったので、私は実演することにした。


川の正面に立って、両手を前に伸ばす。


十本の指先からシュバッとチョコレートの糸が飛び出した。


その糸をぐんぐん伸ばし、絡め、あみを作る。


そう、魚をる網だ。


サイズは川の向こう岸に届くぐらいの大きなサイズ。


私はその網を、川の中に浸けて、深くもぐらせ……。


次の瞬間、ガバッと囲い込むように網を丸めてから、水面へと引き上げた。


丸く閉じられた網。


その網の中に、大量の魚が入っていた。


(うん、大漁だ……!)


これぞ【チョコレートりょう】である。


狙い通りの結果になって、私は満足する。


「どうでしょう、お母さん? これなら一発でたくさん魚を獲れますが」


と言いながら、私はクレアベルを振り返る。


しかし、


「……」


クレアベルは、あんぐりと口を開けて固まっていた。


「お姉ちゃん、すごーい!」


と、アイリスが無邪気にはしゃいだ。


ややあってからクレアベルは我に返り、言ってきた。


「セレナ。お前は……なんというか、メチャクチャだな」


「そ、そうですか?」


「ああ……いろいろと有り得ないだろ、お前の魔法」


チョコレートの網で、大漁にすくいあげられた魚たちを見つめながら、クレアベルはそう感想をこぼした。







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