第1章8話:魔法の練習

<セレナ視点>


――――それから1年。


8歳になる。


私とアイリスは、クレアベルの教えのもとで。


筋トレをおこない、剣術の修行をした。


ちなみに、読み書きや計算も教えてもらった。


この世界は識字率が低く、誰でも読み書き算術ができるわけではないようだが……


クレアベルにはその手の教養があるらしく、私たちは、文字の書き方や、算数について教えてもらうことができた。


(算数はともかく、文字について教えてもらえるのはありがたいね)


と、私は思った。


あと、このときはじめて知ったことだが……


私たちが住む山は【キトレルさん】という名前らしい。


名もなき山かと思っていたが、ちゃんと地名があったのだ。


覚えておこう。


――――また、この年から、弓術の稽古も始まった。


弓を扱えるようになれば、魔物を遠距離から狩れるようになる。


狩りの安全性がぐんと高まる。


だから、クレアベルの指導で、私たちは弓の練習もおこなった。








――――さらに1年が過ぎる。


春。


私は9歳になった。


剣術、弓術は、そこそこモノになってきた。


この年から、筋トレのやり方が変わった。


魔力をともなった状態でおこなうようになった。


【身体強化魔法】と呼ばれる魔法を使用しながらトレーニングするのだ。


名前のとおり、フィジカル強化の魔法である。


このトレーニングによって【身体強化魔法】は成長していき……


やがて素手で岩を砕いたり、


鋼のような防御力を持つ肉体を、手に入れることができるという。


また、身体強化魔法を使ったトレーニングでは、いくら身体を鍛えても、筋肉が成長しない。


つまり鍛えまくっても、ムキムキにはならないということだ。


まあ、体型を気にする人にはありがたい話だろう。


(でも、魔法か……)


魔法。


それはファンタジーの象徴というべきもの。


科学文明に生きた私にとっては、もちろん、なじみのない力だ。


しかし異世界の人間は、みんな魔力を有している。


私の中にも、魔力回路がある。


魔力回路から、魔力を引き出し、それを全身に血流のごとく巡らせるのが【身体強化魔法】だ。


魔力はイメージで操るもの。


……チョコレート魔法でさんざんやってきた作業だ。


なので私は、同じ要領で、身体強化魔法のイメージをする。


チョコレート魔法で、魔法の操作に慣れていたおかげか、


すぐに習得することができた。


あとは【身体強化魔法】を維持しながら、トレーニングをするだけである。


私は、筋トレに打ち込んで【身体強化魔法】を鍛えた。







さらに一週間後。


昼。


晴れ。


山小屋・裏手の空き地。


私とアイリスは身体強化魔法に引きつづき、


【火魔法】の訓練をおこなっていた。


クレアベルは、説明する。


「火魔法を習得すれば、火打石がなくとも、たき火がおこせるようになる。肉を焼いたりするのがラクになるぞ」


確かに魔法ナシで火をおこすのは簡単ではない。


異世界には、マッチもライターも存在しないのだ。


摩擦を利用した原始的な火おこしで発火させるしかない。


そんなの、できる気がしない。


だから、私はぜひ火魔法を覚えたいと思った。


――――魔法はイメージで操る。


しかし、体内にある魔力をめぐらせるだけでよかった【身体強化魔法】とは違い……


火魔法は、何もないところから火を発生させるイメージが必要だ。


それってどんなイメージだろう?


まあ、チョコレート魔法と同じ要領でやってみようか。


私は、手のひらを仰向けにし……


その手のひらの上に魔力を集中させ、火球かきゅうが現れるイメージをした。


すると。


(お……!)


私の手のひらの上に、シュボッ……という音とともに丸い火の球が出現した。


それを見ていたクレアベルが感心の声をあげる。


「おお! 一発で火魔法を習得するとは。さすがセレナだな」


「お姉ちゃん、すごい!」


アイリスも尊敬のまなざしで私を見つめてきた。


(やっぱり、チョコレート魔法で慣れ親しんだおかげで、魔法の習得が速くなっているのかもしれないね)


私はそう理解した。


「よーし、私も……!」


と、アイリスが意気込んだ。


しかし。


アイリスはなかなか火魔法を成功させられなかった。


クレアベルが、アイリスに付きっきりで教え始める。


私は暇になった。


(こんな簡単に火魔法が習得できるなら、水魔法とか、風魔法とかも、すぐに習得できるんじゃないかな?)


ふと、そんなことを思った。


どうせ暇だし、やってみようかな。




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お知らせ:

女主人公ハイファンタジーの作品を他にもいくつか投稿させていただいております。

下記の作品は、大変ご好評いただいている作品ですので、よろしければ本作とあわせてお読みください!


『グラティールの公爵令嬢』

https://kakuyomu.jp/works/16817330658177036968




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