第1章5話:チョコレート魔法

数年の歳月が流れる。


私は4歳となった。


春。


昼。


晴れ。


山小屋から30秒ほどいったところにある、森の一角。


円状に切り取られた、半径15メートルぐらいの森の広場。


中央奥に切り株がある。


そこで私は、進化した【チョコレート魔法】の実践テストをしていた。


手のひらにチョコレートの刀を生成した。


柄を右手に握る。


さらに切り株のうえに、30センチほどのサイズの石を置いた。


私は、チョコで出来た刀――――【チョコレート・ブレイド】を上段に構える。


「……」


集中する。


草木の匂いがする。


春のお日様の匂いがする。


優しい土の香りがする。


木から、はらりと一枚の葉が離れた。


「ふっ!!」


チョコレート・ブレイドを振り下ろした。


スパッ、と。


切り株に置かれた石が、真っ二つに両断される。


勢いあまって、切り株までうっかり傷つけてしまったが……


石を切り裂くことには成功した。


ふう……と、ひとつ深呼吸をする。


「良い切れ味ですね、私のチョコレート」


チョコレートを刀の形を変化させたうえで、斬性ざんせいを持たせ、切れ味を強化した剣――――


チョコレート・ブレイド。


攻撃手段の一つとしてストックしておこう。






次――――


私は、自分の背中に意識を集中させた。


肩甲骨あたりの、服の上から、にょきっ、とチョコレートを生やす。


ぐんぐんチョコレートが伸びていく。


やがてチョコレートの先端が、手の形状へと変化した。


さながら【チョコレート・ハンド】というべき、チョコの手である。


そのチョコの手が、ぐっと拳を握り締める。


次の瞬間。


近くにあった岩石に、殴りかかった。


「チョコレート・パンチ!!」


ズガァンッ!!


と、チョコレートのパンチが岩に炸裂し……


岩石は瓦礫がれきのごとく粉砕した。


「良い威力ですね、私のチョコレート」


と、感想を述べる。


攻撃手段の一つとしてストックしておこう。






さて、最後に。


私が会得した最終奥義を確認する。


目を閉じる。


カッと見開いた。


「チョコ化!」


次の瞬間。


私の身体が、チョコレート色に変色しはじめる。


しかも、どろりとした液体状へと身体が溶けていく。


そう。


【チョコ化】とは、私自身をチョコレートにへんげさせてしまう、究極の奥義なのだ。


ちなみにこのとき、私に付随する服や装備品ごとチョコ化することができるので、うっかり所持品を置き去りにしてしまうことはない。


完全にチョコレートと化してしまった私は、地面のうえに溶けて広がる。


さながら形の崩れたスライムのようである。


(ぬん!)


と、身体に力を入れる。


すると、私は地面のうえを這うように走り始めた。


この状態でも動くことができるのだ。


とりあえず近くにあった木に近づき、へばりつき、よじのぼって、枝のうえを這う。


そこで【チョコ化】を解くことにした。


少しずつ、人型へと戻っていく。


ほんの数秒で、元の私へとへんげした。


枝のうえに座った状態である。


「ふう……」


チョコレート魔法の実践テストはこれにて終了だ。


最後に。


ひと仕事終えた自分へのご褒美として、ひとくちサイズのチョコレートを生成する。


口の中に放り込む。


もぐもぐ。


「ん~っ、美味しい!」


甘くて、苦い。


自分好みの安定したチョコレートである。


満足した私は、枝を飛び降りて着地し、山小屋へと帰ることにした。






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