ちょうだい
@d-van69
ちょうだい
「ねぇ、お母さん。半分ちょうだい!」
それがこの子の口癖だった。お菓子やジュースの食べ物などはもちろんのこと、私が読んでいた小説や通話中のスマートフォンですら、娘はなんでも貪欲に求めた。
分けられるものは当然分け与えたが、それ以外のものは無理だと諭した。しかし娘は駄々をこね、一向に諦めることはなかった。仕方なく、小説はすべてのページをバラバラにして、スマートフォンは分解して部品を均等に分け与えた。もちろんそれらは本来の用途には使えなくなっているのだが、彼女は満足したようで満面の笑みを浮かべていた。それは何物にも代え難いものだった。不妊治療の末にようやく授かった娘なのだ。望みは何でも叶えてあげたかった。私は娘が喜ぶ姿を見たさにありとあらゆるものを分け与えるようになっていた。
まさか、肝臓まで半分与えることになるとは思わなかったが。
娘は6歳にして思い肝炎を患った。迷うことなく私は生体肝移植のドナーとなった。しかし、その努力も空しく彼女は術後に感染症で亡くなった。
静まり返った斎場の小部屋に小さな棺は置かれていた。その中に白装束に身を包んだ娘が横たわっている。きちんと化粧をされているせいか、眠っているようにしか見えない。
通夜の準備や弔問客への対応は全て夫がやってくれた。そのせいで疲れたのだろう。今はぐっすりと眠っている。
だが私まで眠るわけにはいかない。明日の葬儀まで、一晩中線香を絶やさずにこの子を見守ってあげなければならないのだ。
不意に違和感を覚えた。
まさか。そんなことがあるはずはない。
見間違いだ。棺の中で、なにか動いたような……。
突然、娘がカッと目を見開いた。
棺の中から小さな手が伸び私の腕を掴む。とても子供のものとは思えない力で。
そして……
「ねぇ。お母さんの命、半分ちょうだい!」
あぁ……。
私はどうすればいいのだろう……。
ちょうだい @d-van69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます