第5話 街ギルド最強の冒険者
ルルエルと遊は街のギルドへと来ていた。
「やっぱり勇者様とわたし達だけじゃ無理だと思わない?ねぇ聞いてるの?」
ルルエルが呼び掛けるが、遊は幸せそうな顔をして寝ている。
「…………はぁ」
ルルエルがため息をつきながら言ってくる。
「なんで勇者様はそんなにやる気がないわけ?」
「眠いんだもん」
「あ!あ!勇者様起きてるじゃない!わたしの話し無視してたでしょ!」
「今起きたんだよ……それで話しってなに?」
遊が眠そうな声で話しかけて来た。
「わたしたちだけじゃ狂気の魔術師に勝てそうにないから仲間を探さないかって話し」
「ふーん……。いいんじゃない」
「勇者様も他人事じゃないんだからね?自分の仲間になる人なんだから真剣に選ばないと」
「わかったよ。僕も一緒に探せばいいんでしょ」
遊はギルドの受付へと向かった。
「狂気の魔術師を倒しにいくから仲間が一人欲しいんだけど。なるべく強い人」
遊の話しを聞いた受付のいかつい大男は声を張り上げ、ギルド内にそれを伝えた。
「おいみんな!このガキ達が狂気の魔術師を倒しに行くそうだぜ!」
受付の話しを聞いた周囲の人間は嘲笑や失笑を返してきた。
「狂気の魔術師を倒しに行くとかイカれてるぜ」
「ガキがいきがりやがって」
なんて言葉がギルド内に溢れ返ってる。
「でもな、どこにでも物好きは居るもんだ。おいレイ、やってみるか?」
レイと呼ばれた人物は、艶やかな金色の長い髪を後ろにくくり、青い切れ長の瞳に均整の取れた容姿をした青年で、ギルドの奥で一人で酒を飲んでいた。
「俺ザコだし。絶対無理なんだけど」
「嘘つけ。お前このギルドで一番強いだろ」
レイは指を口に当ててシッーとやっていた。
「あーあ。なんで受付のおっさん言っちゃうかなあ。黙ってればバレないのに……」
レイはため息をつきながら立ち上がると腰に差していた剣を抜いてこちらの方を向いた。
「ザコだけどさ……俺より弱い奴らとは組みたくないわ」
レイは遊に向かってすごい勢いで突進してきた。
「ふっ!!」
レイの掛け声と共に、長剣がすくい上げるように遊のあごめがけて迫ってくる。
持っている武器が長剣の類であるところから見るに、恐らく剣術の流派は『ワルフラーン戦闘国剣術』。魔法と剣を同時に扱える流派だ。魔術国家のアルタグンと同盟を組んでいるので、剣術と魔法の研究が進み、手数の多さによる密度が高い強力な剣術だと聞く。
「なんでまた勇者様、寝てるのよ!今起きないとやられちゃうよ!」
ルルエルは遊のことを必死に揺するがいっこうに起きる気配はない。
「あん?」
とっさに遊は体を反らしてレイの攻撃をかわしていた。
「勇者様。よかったあ起きてたのね……って、また寝ながら戦っているの!?勇者様!」
「ちっバカにしやがって……これならどうだ!」
レイは魔法陣を描くと光の矢を魔法陣の中央から遊へ向けて放った。
光の呪文だ。
魔法が着弾し、爆炎が上がる。
「さすがに死んだろ……」
レイが身をひるがえして元いた席に帰ろうとすると、煙の中から遊が飛び出して来てレイの首筋に剣を突きつけた。
「わかったよ降参だ……。だから剣をどけてくれないか?」
レイは両手を上げて降参した。
とんでもない強さだった。
まるで人間とは思えないほど……。
しかし、遊は無言でしばらくその後もレイの首筋へと剣を突きつけ続ける。殺すわけでもなく、かといって剣を収めるわけでもなく。
レイはその後不機嫌そうな顔をしながらも遊とルルエルと仲間になる約束をした。
遊が剣を収めたのは仲間になる約束をしたその後に遊が起きた時だったという。
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