第4話 初めて出来た仲間は街一番のおてんば娘

「しかしながら勇者様といえど四千年の時を生き、力を蓄えた魔術師に勝てるかどうか……」

「四千年生きてるとか化け物じゃん」

 遊は思わず不機嫌な声を返してしまう。


「勇者様、そこでじゃ。そのお力を我らに見せていただけないと思っての」

「……は?」

 遊はこの世界でのんびりと過ごすのが目的だったのにという思いがある。

「狂気の魔術師と相打ちしたという勇者様の実力、見られる機会などそうそう捨ておけぬ」

 町長の口調は真剣そのものだった。

「それに最近なにやら不穏な気配もうごめいておるからのう」

「うーん……友好目的くらいならいいかな」

「承った。こちらからは、わしの孫娘であるルルエルを出そう」

 老人が声を上げると、一人の少女が遊のもとに駆け寄って来た。

 青髪のショートカットに、勝ち気な青い瞳。遊とは対称的なやる気に満ちた顔をしている。


「なーに?おじいちゃん」

 どうやら彼女がルルエルらしい。

「ルルエルや。勇者様と戦って欲しいのじゃ」

「いいよ!場所はどこでやるの?」

「中央広場がいいじゃろう。できれば町民を集めたいがかまわないじゃろう?」

 ルルエルの問いに老人は答え、さらに確認してくる。

「いいよ!」

 老人は遊にゆっくりと説明する。

「勇者様の事を多くの者に知り、何かを学び取ってもらいたいのじゃ」

「いいんじゃない」

 遊は好意的な回答を示した。

「では、勇者様。ゆっくりとまいろうか」

 歩き出した老人の後に遊はついていった。


 途中大きな十字路を右に曲がり、進んでいくと開けた場所に到着する。

「なるほどなー。ここなら試合くらいなら出来そうかもね」

 遊はぐるりと周囲を見回しながら納得する。 

「アイツが勇者か……」

「狂気の魔術師と相打ちしたなんて信じられないな……」

 町民が集まるにつれてひそひそとしたやりとりがあちらこちらで目立つ。

 見物客が百を超えた所で老人が声を張り上げた。

「勇者様とルルエルとの手合わせを行う。あくまで力量見せ合うものじゃ。一挙手一投足見逃さず、手本として欲しい」

 返ってきたのは歓声である。

「あの町長の孫娘が相手をするのか……」

「こりゃいい勝負になるんじゃねぇのか?」

 興奮したように叫ぶのは男性達の町民だが、女性たちの町民も目を輝かせていた。

 誰もルルエルが勝つと思って無いあたり、狂気の魔術師を倒したという勇者の強さがうかがえる。


「では、合図にはこれを使いましょう」

 老人は右手のひらの上にコインを両名に見せた。

 軽い動作で五メートルほどの高さまで放り上げられたコインが地面に触れる。

 その直後、ルルエルは地を蹴って一瞬で間合いを詰めて、剣を抜かず鞘で殴りつけた。

 脱力した長身痩躯より、眠気が滲み出している。

「うわぁ!?」

 身をひねり、遊はルルエルの斬撃を避ける。

 直後。

 ヒュゴァ!!

 聞いたことも無いような音と共に、遊の足元がえぐり取られる。

 それを見て遊は……

「……ま、まじ?」

 さっきの攻撃を遊が避ける事が出来る事が出来たのは奇跡と言ってもいい。もしかしたら手加減されていたのかもしれない。

「まいったなあ……僕も本気でやらないと」

 するとルルエルが遊を見て、

「今まで本気じゃなかったの?」

「まぁね」

「じゃあ、わたしも少し本気を出しましょうか」

 とルルエルが鞘に入れていた剣を抜いて、

「いくよ」

「ちょっと卑怯だよ。こっちには色々本気になるには準備があるんだ。そんないきなり斬りつけられてもダメ」

「どういう事?」

「ちょっと待ってて」

 言って、遊は立ったまま寝てしまった。

「ねぇ、大丈夫?本当に斬っちゃうわよ?」

 それに遊は一つ頷き、

「………」


 そうして戦闘は再び始まった。

 遊の動きが……

 加速する。

 剣を振り回してくるルルエルに対して、全ての斬撃を寝ながら避けるのだから尋常な実力ではない。

「うそだろ?あの町長の孫娘が圧倒されてるぜ?」

「し、信じられない。あいつ寝ながら戦ってやがる!?」

 見物の町民がざわめきはじめる。

「いやはや、お見事です、勇者殿、まるでルルエルが相手にならなかったようですな」

 それを感じた町長は二人の前に立ち、終了の合図を告げる。

「勇者の方が何をやっているのか、わからなかったならなかったな……」

「町長の孫娘相手くらいじゃ相手にならないことはよくわかった」

 見物者はそれぞれ感想を述べる。

 戦いの時間が短いという者、遊の力がよくわからないという者が多い。

「わしの言った通りじゃったな、勇者様の速さについていける者が皆無に近い。勇者様と共に戦えるものなど、わしの孫娘のルルエルくらいじゃろう……」

 長は悔いる。


「うーん……ルルエルって子が良ければ仲間にしてもいいよ?」

 遊はそう言って町長を喜ばせた。

「本当か?ありがたい!」

 町長は目を輝かせると遊の手を握って何度も礼を言う。

「大した事はしてないんだけどなあ」

 遊が困惑すると、町長は「そんな事はない」と否定した。

「わしの孫娘のルルエルが勇者様と一緒に世界を救ってくれるだけでもありがたい話しなのだ!」

「でもルルエルって子はいいって言ったの?」

「そう言うと思ったから、ルルエルに事前に承諾を得ておいたのじゃ!!ルルエルは面白いと言っておったよ」

「まぁ、そう言う事なら仕方ないよね……行くよルルエル」

「行きましょうか勇者様!!」

 こうして、とんでもなく性格が違う二人の旅が始まった。

 

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