第3話 異世界に現れた希望の光
「おおっ!勇者様が降臨なされたぞ!」
「勇者様ぁ!」
寂れた街の昼下がり、広場で一人の老人が突然声を上げると、それまで近くにいて別々のことをしていた人間が、口々に叫びだした。
「ん?」
遊は有名人でも歩いていたのかと、広場の人間の方を見ていた。
「ついに勇者様があらわれたぞ!」
「勇者様が私たちを救ってくれる!」
「え、ちょ?僕?」
わけのわからない人間達を言ってる人間達に、取り囲まれて動けなくなった。当然、人違いだろうと思って辺りを見回すが、しかし皆、自分の方を見ている。
遊は驚きのあまり、動けずにその場に立ち尽くした。
自分に向けられた視線と歓声があまりにも突然で、何が起こっているのか理解する間もなく、次第に人々が彼の周りに集まり始めた。
「なんなの君たち!どいてよ!?」
僕はこの村をウロウロしてただけで、何も悪いことなんてしてないはずだ。しかも危ない宗教にも手は出してない。
「僕は何もしてないぞ!離してよ」
遊は心の中で訴えた。
「神は見捨てなかったんだ!」
「引っ張んないでよ!服が破けるでしょ!」
「希望の光がついに!」
「わけわかんない事言って無視しないでよ!」
遊は叫びながら、腕を払いのけようとしても多勢に無勢だった。周囲の人間は皆興奮しきっていて、しわくちゃにされてしまう。
なにか知らないけど嬉しそうな顔をしてるし……危ない宗教の人間なのかもしれない。
「離してよ!」
そう言ってちょっと拳を振りかぶってみたが、連中はまるで驚いてなかった。
さすがに自分は内心焦り始めていた。これだけ人数がいるとやばいよなあ実際。このままどっかに拉致られて、洗脳とかされるのではないのだろうか?
「逃げちゃおっと……」
遊は小声で呟きながら、何とかこの場から抜け出そうと考えた。しかし、その瞬間、一人の声が彼の行動を止めた
「あなた様は勇者様なのですよ」
「はぁ?なんでよ?知らないよそんなの」
「それについてはワシがご説明を」
最初に勇者だとか言い始めた老人が遊の前に出てきた。
仕方ないので遊は説明を聞く事にした。
「ワシがこの町の町長をしております」
「ふーん、町長ね。それで勇者っていうのはなんなの?」
「少し長くなりますがいいですかな?」
「あっそう。長くなるならいいや」
遊は眠そうな声を返して去っていく。
「あぁ、待ってくだされ!簡単に言いますと四千年前に狂気の魔術師と相打ちとなり、世界を救った勇者様とあなた様は瓜二つなのです!」
「ん?いい歳こいて厨二病なのおじいさ……ってああ!アレかあ!?」
一瞬町長がいい歳ぶっこいて、ふざけてるのかと思ったが、僕には思い当たる節があった。この町のど真ん中には、めちゃくちゃでかい短剣を持った勇者の石像が立っていた。
町の中をウロウロしてた時になんかデカい像があった事は記憶していた。
「それで勇者になったら昼寝が二十四時間出来るとか、ふかふかな羽毛布団がもらえるとかそういう特典は?」
「ありません」
「あっそう」
町長にあっさり否定され、遊はふてくされた声を返す。これじゃあ用はないな。
「『眠りし者……世界を救う者なり……』この伝説にある通りあなたこそが勇者様なのです!」
「だからおじいさんの黒歴史はもういーって。何もないなら僕は行くよ」
老人は慌てて遊の腕にしがみついて来た。
「お待ちを!世界を!この町をお救いくだされ!」
「えー、なんで通りすがりの僕がそんな危なっかしい事しなくちゃならないんだよ?」
と遊は肩をすくめて言い、くるりと身を翻してその場を立ち去ろうとした。
「この世界を救えるのは勇者様!あなたしかいないのです!」
しかし、町長の必死な叫び声は遊には届いていなかった。
遊はすでに立ちながら幸せそうな顔をして眠り始めていたのだ。彼の呼吸は穏やかで、まるでこの世界の運命などまったく関係ないかのように、深い眠りに落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます