第3話 最後の会話

7月の夏休み初日、吹奏楽部は地方大会へ向けて練習が本格化するところだった。

入院中の由紀から、吹奏楽部へ手紙がきたと顧問の谷先生から話を聞く。由紀は8月のコンクールの日に心臓の手術にうけることになったという。

真紀は、昼の時間を利用して、由紀の病棟へ向かった。

「先輩、きてくれたんですね」

「心臓の手術ってきいてね・・」

「先輩のそういうところ大好きです」

「・・・」

ミンミンゼミが夏空を響かせている。

「先輩、コンクール頑張ってくださいね。県大会行けなかったら、許さないですよ!」

「ええっ?まー今年もだいじょうぶだよ」

「何があるかわからないのが、コンクールですから」

「由紀ちゃんに言われると説得力あるよね・・地方大会とはいえ、油断はしないよ」

「手術はコンクールの日になりました」

「そうか、コンクール聴きにきてほしかったな・・」

窓にとまっていた、ミンミンゼミの声が大きくなる。

由紀は、目を真っ赤にして、突然涙を流しはじめたた。

「先輩、私、死ぬのこわいんです。また、県大会へ向けて部活へ戻ってこれますよね。」

心臓病の手術は、死をともなうことがある。

医師からはそう告げられていた。

真紀もそのことは知っでいる。

頭が真っ白になりそうなのをこらえながら、声をだす。

「何言っているの!あたりまえでしょ、県大会だけじゃないよ、由紀ちゃんと参加できない全国大会なんてないよ。」

由紀の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。

真紀は、なんとか話せたものの、

本当は由紀にどんな声をかけていいかわからなかった。

震える由紀を、真紀はだきしめてあげた。

「大丈夫、また一緒に練習できるよ。

部室で金賞代表の表彰状持って、待っているから!」

「はい、先輩。」

真紀も涙でいっぱいになった。

それが、由紀との最後の会話となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る