第33話 エマさんとお出かけします 前編
本日、私はお友達のエマさんとお出かけをして、買い物をしてくる予定です。
モリエルさんは服飾ギルドに新作の手作り品を売りに行き、しらたまさんとちまきさんは山にお出かけするとの事です。
しらたまさん達はいつもは私と一緒に採取で山に行っているのですが、今日はいつもは行かない方面へ遊びに行ってみるそうです。
実はしらたまさん達だけで外に出るのは、同居して以来これが初めてとなります。これまでは迷子になったら困るので、私かモリエルさんのどちらかがいつも一緒でした。ですが先日、お茶会でハンプタン様からGPSもどきと通話機能が付いた神術具を頂いたので、彼らだけで外出しても大丈夫になったのです。
しらたまさん達はいつもはいかない場所を探索して、そちらで高そうな採取物を見つけたら、明日改めて私を案内して下さるそうです。頼もしいですね。
朝食後、午前中の内にエマさんと合流して、服屋、靴屋、雑貨屋、本屋など、興味のあるお店を巡ります。その後は飲食店でお昼ご飯です。注文した食事が来るのを待つ間、エマさんと適当にお話をして時間を潰します。
「先にメールで大体のところは聞いてたけど、動画に関する依頼は、どうるすか決まったの?」
早速、エマさんに例の話を切り出されました。
「それなのですが……」
私は言葉に詰まります。まさしくそれが、最近の悩みの種でした。
数日間、様々な動画を見て話し合いを重ねた結果、しらたまさんとちまきさんの意見は、「やってみても良いかも」「少し興味あるかも」といった感じで、動画のお仕事に前向きでした。モリエルさんも、しらたまさん達がやる気ならぜひ協力したいと、積極的肯定の姿勢です。
なので後は、私の意見次第なのです。
今回のお話を聞いた時、私は条件の良いお仕事だと思いました。ですが後で、果たして私に動画作成ができるのか不安になりました。
そもそも私は天界に転生してから、様々な人気職で職業体験を受けてみたものの、すべてうまくいかずに挫折した身です。
神族に転生したのですから何でもできるようになったのではと安易に考えて、興味ある分野に突撃しては失敗するの繰り返しだったのです。
思えば当時は、憧れだけで突進してしまっていました。
戦士体験では、攻撃を受けると体が固まり目を瞑ってしまっては、戦いに向いていないと諭されました。術具師体験では手先の器用さと発想力が足りないと言われました。文官業や接客業も体験してみましたが、続けるにはしっくりこなかったので、結局はそれも職業体験のみで終わりました。
転生しても私の本質は変わっていないのですから、もっと自分に向いているかどうか、深く考えるべきだったのでしょう。それを怠ったから中々職業が決まらず、右往左往する羽目になったのです。
今回依頼された動画は、主役はあくまで聖獣さん達であって、私とモリエルさんは補助役に過ぎません。
けれど補助役といえど、撮影や編集は私達の役目になるでしょうし、神族と聖獣さんが仲良く暮らしている様子を広めたいというクライアントの要望上、私達もある程度は画面に映る必要があります。
果たして私にそれが熟せるでしょうか? 依頼を受けてからできませんとなれば、ハンプタン様にご迷惑をお掛けしてしまいますし、同居人の皆さんも困らせてしまうでしょう。
前世で炎上の怖さを見ているので、余計に慎重になっている部分もあるかもしれません。
「同居している皆さんは前向きな考えなので後は私次第なのですが、まだ悩んでいるんです。職業体験の時のように、また失敗してしまったらと思って」
当時を知っているエマさんにそう零します。
「別に、失敗してもいいんじゃない? 職業体験なんて、合っているかどうかを試す為の期間なんだから、向いていないとわかっただけで充分役割は果たしているわ」
お試し期間の内に見切りをつけられただけマシという事でしょうか。
……確かに、職業体験は向いているかどうかを知る為の期間です。それを活用したに過ぎないと言われれば、そうなのかもしれません。
「何事も、試してみなければわからない事はあるわ。できない事をずっとやらないまま終わるのも、何だか勿体ないでしょ。もしかしたら、やればできるようになるかもしれないのに。私達には折角長い時間があるんだもの。色々な事に挑戦した方が楽しいわよ」
エマさんが明るく笑いかけてきます。彼女は何事も積極的に試してみれば良いと考えているようです。
「仕事を依頼されたのだってミモリだけじゃないんでしょ? それなら例えミモリが途中で止める事になったとしても、そこまで影響ないんじゃない?」
続いてエマさんは私の懸念点を、スッパリと切って捨てました。
そういえばハンプタン様も、複数の方を順次招待して声を掛けていると仰っていました。ならばどちらにしろ、聖獣動画を配信する人はいずれ出てくるでしょう。
今回のお仕事は、何も私達だけが依頼されているものではないのでした。
「なるほど、……それもそうですね。少し気負い過ぎていたのかもしれません」
エマさんの助言のおかげで、私も気が楽になりました。
以前の出来事を教訓にして、新しい事に挑戦するのに消極的になっていましたが、折角良い条件のお仕事で声を掛けて頂いたのです。もっと前向きに考えてみましょう。
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