第30話 お茶会の本題です
「ところでミモリさんは普段、聖獣さんの動画を見られたりなさいます?」
ふいに、ハンプタン様からそんな質問をされました。
「聖獣さんの動画ですか? いえ、見た事は殆どないです」
「動画はお嫌いでして?」
「いいえ。機会がなかっただけで、嫌いな訳ではありません」
これまでは趣味の時間をネット小説を読む事に費やしてきたので他の趣味を持っていませんでしたが、別に動画が嫌いな訳ではありません。
むしろ可愛らしい聖獣さんの動画なら、見ているだけで癒されそうで興味があります。そういう存在があると知っていれば、検索して見ていたかもしれません。
「皆さんがもしお嫌でなければ、聖獣さんの動画作成をお仕事の一つとして検討して頂ければと思っておりますの」
「お仕事、ですか?」
え、もしかしてこれが、本日のお茶会の本題なのでしょうか。
一応、聖獣さん関連のお話ではないかという予想は的中したようですが、内容が動画とは、かなり意外です。
「しらたまさんとちまきさんは、動画を見た事はあるかしら?」
「わう?」『どーが?』
「うにゃ」『しらないと思う』
ハンプタン様から質問されたしらたまさん達が、揃って首を傾げます。動作が揃っている上にタイミングもぴったり同じで可愛らしいです。
それはそれとして、お二人が動画を知らないのは想定内です。私の家にはテレビも置いていないですし、タブレットは普段私やモリエルさんが持っているので、これまでお二人に動画を見せる機会がなかったのです。
パソコンならば私が使う時以外は空いていますが、お二人の前脚ではマウスやキーボードの操作は難しいでしょう。
それにお二人とも空いた時間は走り回ったり寝転んだりと、それぞれ好きな事をしていて退屈しているように見えませんでしたし、暇つぶし用に動画を見せようと思った事もありませんでした。
「聖獣交流クラブの活動の一環として、神族と聖獣さんの交流をもっと増やす為に広報をしていきたいと思っておりますの。特に、天界で暮らしはじめたばかりの方でも気軽に聖獣さんと暮らしていけるのだとアピールしたいと思いまして。そこで、まだ若い方で聖獣さんと暮らしている方に、動画での広報のお仕事について頂けないかと考えておりましたの」
「それでミモリくんが条件に当て嵌まった訳ですか」
ハンプタン様の説明に、ハニャさんがなるほどと納得しています。
つまり今回の招待は、天界で暮らし始めたばかりで聖獣さんと同居しているという条件で検索して、私が引っかかった結果なのですね。
「ええ、そうなんですの。ミモリさんの他にも条件の当て嵌まる数人の方に、順次招待状をお送りして、お話をさせていただいておりますわ」
どうやら私の他にも、今回の条件に当て嵌まる方が複数いらっしゃるようです。
「お仕事の内容は、聖獣さんとの暮らしぶりを定期的に動画で投稿して頂くというものですの。今回はこちらが依頼して動画を作成していただくのですから、広告収入やギフト収入といった通常の動画収入の他にも、クラブから活動費と補助ポイントが出ますわ。他にも初期投資として、撮影用機材や編集ソフト、撮影部屋の供与といった特典もあります」
ハンプタン様がお仕事を引き受けた際の報酬内容を並べていきます。
広告収入とは、動画の再生数に応じて貰える報酬ですね。動画を再生すると付属して広告も表示されて、その広告が表示された分だけお金になるという仕組みです。
そしてギフトとは、いわゆる「投げ銭」の事のようです。特定の動画を見て、その動画を面白いと思い応援したいと思った方が、投稿主に対してお金を寄贈できる仕組みです。
私はこれまで動画配信には特に興味がなかったので詳しい事はわかりませんが、天界での動画収入の仕組みは、前世と似ているようです。ただ、地球で有名な動画サイトにおいては、収入を得る為には実績や審査が必要だったのに対して、こちらではアカウントを作りさえすれば最初から収入が得られるようになっている部分が違うみたいです。
もしもお仕事として動画配信を引き受けるなら、個人で配信者になるよりも優遇されていますね。動画を配信する際の通常報酬の他に、仕事の報酬が発生するのですから。二重に報酬が貰えるなんて、なんだかお得ですね。
それに動画撮影用に専用の部屋まで用意して下さるとは、随分と至れり尽くせりです。
(ですが、動画の主役は聖獣さんなのですから、一番大切なのは、しらたまさんやちまきさんの意見ですよね)
そして肝心のお二人はまだ動画を見た事がなくて、動画がどんな物なのかもわからない状態です。そんな状態では答えを出せるはずもありません。
それに、動画を撮るにしても編集するにしても、実際にやるとなればモリエルさんの協力も必要になってくるでしょう。
なので家に帰ってから動画がどんな物かを学んで、全員で話し合ってから、改めて答えを決めたいです。
「皆で話し合わないといけませんし、すぐには答えを出せそうにありません。申し訳ありませんが、しばらく時間を頂けますでしょうか」
私はハンプタン様の提案にそう答えました。
以前ハニャさんに、「その場で断りづらい場合は「考えておきます」と言っておいて、後で断っても問題ない」と聞いていましたが、今回のこれはお断りの常套句ではありません。本気で考えてみないと結論がわからなかったのです。
「ええ、勿論です。答えは急ぎません。検討して頂ければ嬉しいですわ」
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