第29話 お茶会開始です

 花に溢れる庭園を見渡せる位置にある東屋につくと、少女姿の天使さんが出迎えて下さいました。ハンプタン様に仕える天使のポーさんだそうです。ポーさんはピンクブロンドのゆくるカールした髪を肩より上で切り揃えた髪型で、目の色は琥珀色の10代半ばの見た目の女性です。

 彼女は私が渡した手土産の花束を花瓶に生けてテーブルに飾って下さったり、モリエルさんの手土産のクッキーを箱からお皿に移し替え、お茶菓子として一緒に出して下さったりしています。

 そしてその間に、ハンプタン様が自らお茶を淹れて下さいました。

 お茶会とは、全員が主催者の選んだ紅茶を飲むようなイメージがあったのですが、ここではそんな事もなく、好みの飲み物を聞かれてそれを頂きました。

 ハニャさんはコーヒー、私はミルクティー、したらまさんはイチゴミルク、ちまきさんはオレンジジュースです。全員バラバラのリクエストになってしまいましたが、すべて手際よく用意されて供されました。

 お茶菓子も見事です。食べるのが勿体なく思えるような綺麗な飾りつけのケーキの他にも、マフィンやマカロンのように軽く摘まめる一口大のお菓子や、甘い物が苦手の方向けのサンドイッチやソルトクッキー、チーズや胡椒の味付けのクラッカーなどもあります。

 お茶会の主催者とはここまで準備を万全にしておかなければならないのかと、私は内心で慄きました。正直、私にはお茶会の主催など出来る気がしません。


 ハンプタン様からどうぞと勧められて、お茶とお菓子を口にします。

「お茶もお菓子もとても美味しいです」

 お世辞ではなく、ミルクティーもケーキもとても美味しいです。

「お持ちいただいたクッキーも、とても美味しいですわ」

 モリエルさんが手土産にと持ってきたクッキーを優雅に食べて、ハンプタン様がそう仰います。

「モリエルさんが作ってくれました」

「まあ、モリエルさんはお料理がお上手ですのね」

「ありがとごじゃいましゅ」

 ハンプタン様は柔らかな笑みを絶やさずに、私達に気さくに話しかけて下さいます。私とモリエルさんはそれに失礼のないように答えていきます。

 私は今、自分がどれだけ緊張しているのか、自分でもよく分かっていません。

 以前ちまきさんからハンプタン様がどれくらい偉い方なのか訊かれてもうまく答えられなかったように、正直なところ身分差を正しく実感できずにいます。それでも初対面の目上の方というだけで、固くなってしまいます。


「こちらの庭園は、お花がとても綺麗ですね」

 緊張を紛らわす為につい視線をずらすと、そこで自然と目に入った庭園の花々が素晴らしかったので、それをそのまま言葉にします。

「有難うございますわ。わたくし昔からお花が好きで、お庭に特に力を入れておりますの。そう言って頂けると嬉しいですわ」

 ハンプタン様はとても穏やかで、こちらが何を言っても柔らかく微笑んで答えて下さいます。ですが私の方は内心まるで落ち着きません。そして、これ以上はどう話題を繋いでいいかもわかりません。

 困り果てた私はついに、お隣に座ってニコニコしながらコーヒーを飲んでいるハニャさんに、目配せで助けを求めました。



「ハンプタン様は確か、聖獣交流クラブの主催であられましたよね。こちらの庭園でも、聖獣くんと遊んだりなさるのですか?」

 ハニャさんが私の目配せに気づいて、さらっと会話に混ざって下さいました。更に聖獣さんの話題を出す事で、本日のハンプタン様の用件が聖獣さん関連なのか、あるいはそうでないのかを探るジャブを放っています。凄いですハニャさん。社交経験値底辺の私とは大違いです。

「ええ。うちには現在、四人の聖獣さん達が暮らしておりますの。彼らはここのお庭でよく遊んでいますわ。本当は今日も、彼らも貴方達にお会いしたいと言っておりましたのよ。ですけれど、初対面でいきなり大人数が出迎えては、驚かせてしまうかもしれないでしょう? それで結局は遠慮して、おうちで待機しておりますの。……それで、よろしければ後で、彼らを紹介させて頂けないかしら?」

 ハンプタン様がハニャさんの質問に答えられます。

 どうやらハンプタン様も複数の聖獣さんと同居しているようです。

 考えてみれば聖獣交流クラブの主催を務める程の方なのですから、聖獣さんと同居していても不思議ではありませんでした。同居している聖獣さん達がこのお茶会に参加していないのは、私達を気遣っての事のようです。

「勿論です、ぜひご紹介下さい」

「にゃ、にゃにゃ?」『お仲間、いるの?』

「わふわふー」『会う会うー』

 聖獣さんにお会いできるのは楽しみなので私は即答し、ちまきさんとしらたまさんも、嬉しそうにしっぽを振って答えます。

 お二人はうちに引っ越してきてから、他の聖獣さん達とは顔を合わせる機会がありませんでしたからね。同族と遊べるのが楽しみなのでしょう。

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