第27話 お茶会の為の準備をします

 お茶会に行くと決めたなら、まずはハンプタン様に出席のお返事をしなければなりません。

 雑貨屋で便箋を買ってきて、ハニャさんに教えて頂いた形式通りに、できるだけ丁寧に手紙に文字を綴っていきます。

 我が家のメンバー以外にも担当官のハニャさんが同行するという事も、忘れずに書いておきます。

 ……それにしても、普段の生活では文章のやり取りはデジタルばかりでしたので、こうして紙に直筆で字を書くのが久しぶりで、とても緊張しますね。

 こちらの世界の文字は聖樹の実の中にいる時に学んでいるので知識としては問題ないのですが、それを綺麗に書けるかどうかは別問題なのです。書き慣れていないとどうしてもぎこちなくなってしまって、頂いた招待状のような優美な文字になってくれません。

 それでもせめて精一杯丁寧に書く事を心がけます。

 書き終えた手紙を見直して誤字脱字がない事を確認した上で封筒にしまい封をして、郵便局に預けてきました。これでお返事は完了です。


「次は、着ていく服の準備でしょうか」

 お返事が終わったので、次に移ります。

 私には一応、以前エマさんと一緒に買い物に出掛けた際にエマさんに選んでもらった余所行き用の服があります。天界は年中気温があまり変わらなく季節に服を合わせる必要がないので、それで問題ないと思います。

 私の方はそれで良いのですが、卵から孵ってそう経たないモリエルさんは、持っている服の数自体が少なく、余所行きの服も持っていません。

 いくら招待状に普段着で良いと書いてあるとはいっても、少しは良い服装でお洒落していきたいと思うのが人情ですよね。

 それにしらたまさんとちまきさん用に、携帯型の翻訳道具も欲しいと思っていたところです。

「明日、皆さんで一緒に買い物に行きましょう」



 そんな訳で翌日、前にネット通販で買った子供服専門店「キャラメリゼ」というお店へ行って、モリエルさんの服を買いました。

「はわわ、モリエルさん、すごく可愛いですー!」

「こちらのクラシカルタイプも、気品があって良いと思います!」

「それも素敵です! モリエルさん、こちらも試着して下さいますか!?」

「あああっ、素材が良いと、どんなタイプの服もさらっと着こなせますね!!」

 実際に実物を見て試着してもらうと、通販で画面を見て選ぶよりもずっと楽しくて、テンションが上がりますね。

 モリエルさん本人よりも付き添いの私の方が浮かれて、お店の店員さんと一緒になって、モリエルさんの服選びに夢中になってしまいました。

 子供服ってどれもサイズがちんまりとしていて、それだけでも見ていてすごく楽しいのです。更にこちらのお店は特に可愛らしさに特化していて、品の良いレースやリボンが使われていたり、動物モチーフの耳やしっぽがついていたりします。それにクラシカルなスーツもゴシック風に豪華絢爛な仕上がりで、もうお店中の服すべてが可愛らしさで溢れています。


「こんなに沢山は必要ないでしゅよ……」

 珍しくモリエルさんがとても困った顔をして、私達が選んだ服の中から更に厳選して、品数をどんどん減らしていきます。家計を預かる身として余計な出費は許さないという強い決意を感じます。

「すみませんモリエルさん、楽しくて浮かれてしまいました」

「ご主人しゃまが楽ししょうなのは、僕も嬉しいでしゅ。でも、よしょ行きの服は一着だけで良いでしゅ」

「はい」

 モリエルさんに叱られて、上がり切っていた私のテンションが下がります。あまりの可愛らしさに我を忘れ、はしゃぎすぎてしまいました。

 最終的には、普段着を数着、寝間着を一着、余所行き用の服と靴の一揃えを買う事になりました。どれもこれもモリエルさんに着て欲しくて、ものすごく厳選しても、余所行きの服一着ではとても収まらなかったのです。


 買い物の後、お店の店員さんにはぜひまたいらして下さいと言われて、笑顔で連絡先を交換しました。店員さんはモリエルさんに子供服の広告塔として、イメージモデルになって欲しいそうです。

 お話を聞いてみると、こちらの店員さんは販売だけでなく、お店の子供服のデザインを一部担当されているのだそうで。金髪美幼児天使モリエルさんの姿に創作意欲を刺激され、熱心にイメージモデルに勧誘されたのです。

 モデルになれば服を割引してもらえるという話にはモリエルさんも乗り気のようで、また後日に改めて詳しいお話をする事になりました。



 それから聖獣専門店に移動して、携帯型の翻訳道具を購入しました。

 ちまきさんは赤のリボンに見えるタイプの首輪で、リボンの中心部分に金色のメダルが付いている形状の翻訳道具を、ちまきさんが自ら選びました。艶のある灰色の長毛に赤と金のコントラストがとてもお似合いです。お洒落で気品があって、とても可愛らしいです。

 一方しらたまさんが選んだのは青の首輪で、こちらはリボンタイプではなく、金色のメダルの形の翻訳道具を首輪から吊り下げるタイプです。こちらもしらたまさんのふわふわの白い長毛に、青と金のコントラストが映えますね。首元でゆらゆら揺れる金色のメダルがとても素敵でお似合いです。

 ついでに聖獣用の服も買わないかと聞いてみたのですが、ちまきさんもしたらまさんも、服には興味がないそうです。

 寒い訳でもないですし、お二人ともふわふわもふもふの立派な地毛がありますから当然と言えばそうなのですが、少しだけ残念です。


「お二人とも、とてもお似合いですよ」

 会計を終えてから、その場ですぐに首輪をつけてもらいました。これでこれからはいつでも会話がスムーズに行えますね。

「にゃう」

『赤いのー』

「わふ」

『青いのー』

 お二人が得意げにふんすと鼻息を鳴らしているのが可愛らしくて仕方ありません。

 色々と急な出費が嵩みましたが、皆さんの可愛らしさが更に磨かれたので、私はとても満足です。

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