第26話 どれくらい偉いのでしょう?
「それで、ちまきさんは何が疑問だったのですか?」
翻訳アプリのおかげで聖獣さんの言葉がわかるようになったので、改めてちまきさんに質問します。
「にゃーにう、なうなう、にゃおーん」
『この世界作ったアンカーシェ様、偉いのわかる。ならハンプタン様、どれくらい偉い?』
ちまきさんが首を傾げながらおしゃべりします。やはりこちらに言葉として伝わるとなると、これまでよりも沢山おしゃべりしてくれるようになるのですね。
そしてようやく、ちまきさんの疑問の内容がわかりました。
「どれくらい偉いか、ですか……。ちょっと難しいですね」
私は腕を組んでむむむと悩み込みました。ちまきさんの疑問にすぐに答えてあげたいのですが、適切な答えが思い浮かびません。
「アンカーシェ様が一番というのはわかりやすいですが、では二番が誰かというと、すぐに思い浮かばないです」
神族の序列は年齢順ではなく、実力と実績に応じた身分制となっています。
一番上に創世神であるアンカーシェ様が君臨し、その下に天界を運営する上層部があります。更に身分で言えば、上級神と下級神と見習いの三つに分かれています。
ただこれは、神族と神族の使役である天使さん達には適応されますが、聖獣さん達には適応されません。聖獣さんの多くは野生暮らしで、政治に関わらないで生きている方が殆どですので。
しらたまさん達のように聖樹都市で暮らす事を自ら選んだ聖獣さんも、身分制度の中に組み込まれる訳ではありません。聖獣さんはすべて客分扱いというのが近いでしょう。
「この世界が創られたのが二万年くらい前でしゅ。その当時からずっとアンカーシェ様を支えてきた古参の方でしゅから、しゅごい方なのは確かでしゅ。けど、具体的に何番とかはわからないでしゅね」
モリエルさんも私と同じように腕組みして、うーんと唸りました。
言われてみれば、二万年も働き続けているというのはそれだけで尊敬に値します。それほど長い期間天界の発展に貢献し続けてきたのですから、身分がどうあれ敬意を払うには充分でしょう。
ただ、同じ立場の方が百人近くいらっしゃる訳ですから、具体的に何番の偉さかはわかりません。人物図鑑にも、身分が具体的な数字として表されている訳ではないですしね。
「政治部の議長が二番目に偉い立場でしょうか? でも議長の役職は数年ごとの持ち回りだった気がします」
上層部については聖樹の実から孵った後に座学で一通り習ったのですが、あまり実感が無かったのですよね。まさか私が関わる事になろうとは予想していませんでしたし。
(そういえばちまきさん達は私達と同居するまでは野生で暮らしていたのですから、私達が習ったような聖樹都市の基本的な知識がないのですね)
ふと、ちまきさんやしらたまさんが、私とは種族も成り立ちも違うという根本的な事に気づきました。
聖獣さんも言語知識などは初めから理解しているのでしょうが、他の知識はわからない事の方が多いのでしょう。
モリエルさんは卵の時分に私の知識を吸収しているので私と同程度の知識がありますが、ちまきさん達にとってはここでの暮らしはわからない事だらけだったのかもしれません。
(これまでもわからない事を気楽に聞けなくて、暮らしに不便や不安があったかもしれません。ああ、やっぱりもっと早くに、翻訳アプリに気づいていれば良かったです)
私は内心で反省します。
ちまきさんは私達を気遣ってか、これまでの暮らしに不便はなかったと言ってくれました。ですが今後はお二人がもっと暮らしやすいようにしていきたいものです。
お二人がわからない事をすぐに聞けるように、聖獣さんが常時携帯できる形の翻訳道具を探して買いましょう。それに例え疑問がなくても、日々の暮らしでお二人と意思疎通しやすくなるのは嬉しいですしね。
「ハンプタンしゃまが上級神なのは間違いないでしゅ。見習い神のご主人しゃまや下級神よりもずっと偉いのは間違いないでしゅ」
モリエルさんがざっくりとした答えを述べました。
「うにゃー」
『大体わかったー』
ちまきさんはそのざっくりした答えで問題なかったようです。
まあ、ハンプタン様が具体的に何番目に偉かろうと、私よりも遥かに偉い方なのには変わりありません。失礼のないようにしなければいけませんね。
「わうわう」
『偉い人に、しらたま、どうすればいい?』
しらたまさんがちまきさんの使っていたタブレットに横から触れて、翻訳アプリを使って訊いてきます。
お二人にとっても、偉い方とお会いするというのはプレッシャーになるのでしょう。失礼があってはいけないと緊張している様子です。
「大丈夫ですよしたらまさん。聖獣さん達には、神族の身分制度は適用されませんから。私達に接するのと同じように、自然体で接して問題ありません」
私はお二人を安心させようと、精一杯の笑顔を浮かべてそう言います。
実際身分制度が通じるのは、神族と天使さん達だけです。聖獣さん達は別に、偉い方に傅く義務はないのです。
「にゃおーん」
『なら、ちまきも行く。そんで、用事一緒に聞いてあげる』
「わん!」
『したらまも行くー!』
そんな訳で疑問も無事に解決し、お茶会には皆さんと共に行く事になりました。
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