第25話 聖獣翻訳アプリを発見しました

 招待状の件をハニャさんに相談できたおかげで今後の方針が無事に決まりましたので、私は帰宅して同居人の皆さんに改めて事情を説明し、お茶会に参加するかどうか聞いてみる事にしました。

 するとモリエルさんは、「ご主人しゃまが行くなら僕もしゃんかしましゅ!」と、参加に乗り気でした。しらたまさんも、「皆が行くのなら自分も行きます」といった様子で、元気よくしっぽを振って、お出掛けを楽しみにしているようです。

 ただ、ちまきさんはしきりに首を捻って、何か不思議そうにしています。

「うにゃーう?」

「どうしましたか? ちまきさん。お茶会に行きたいかどうか、わからないって事でしょうか?」

「にゃおにゃん」

 ちまきさんが首を振ります。

「違うみたいでしゅ」

「では、お茶会がどういうものかわからないとかでしょうか?」

「なーお」

 また、ちまきさんが首を振って否定します。

「それも違うみたいでしゅね」

 ……困りました。ちまきさんが何かを疑問に思っているのはわかるのですが、その疑問が何なのかを察する事ができません。

 聖獣さんは長く生きれば言葉を喋れるようになるそうですが、幼いお二人はまだ言葉を喋れません。それでも私達の話す言葉はきちんと通じているのですが、お二人がこちらに何か伝えたい際には、鳴き声やジェスチャーでしか意思疎通ができないので、ちまきさんが何を疑問に思っているのかがわからないと答えようがないのです。思いつく限りあれこれ訊ねてみるのですが、どれも違うようです。


「そうでしゅ! 言葉を喋れない聖獣しゃんとの意思疎通の仕方について、ネットで調べてみるでしゅ」

 私が途方に暮れていると、モリエルさんが解決策を探してタブレットで検索を始めました。

「……あったでしゅ。聖獣翻訳アプリ!」

「ええ!? そんなアプリがあったのですか!?」

 私は驚きすぎて呆気に取られました。

 未だに前世の常識に囚われているのか、まさか天界にそんなファンタジーなツールが存在するなんて、想像もしませんでした。

「うう、ごめんなさい。ちまきさん、しらたまさん。私がもっと早くにアプリの存在に気づいていれば、意見を言いやすかったですよね。私が至らないばかりに、不自由な思いをさせてしまいました」

 自分の手落ちに落ち込んで、お二人に深く謝ります。

「ご主人ししゃま、気づけなかったのは僕も同じでしゅ」

 私が落ち込みモリエルさんが焦る中で、ちまきさんがモリエルさんのタブレットを肉球でテシテシ叩きます。

 すぐに翻訳アプリを使わせて欲しいという要望でしょう。モリエルさんが慌ててタブレットを操作して、アプリをインストールして起動しました。


「うーにゃ、うにゃにゃ」

『気にする、ない。別に不自由なかった』

 ちまきさんが鳴き声を上げると、それに後追いするように、タブレットを通して副音声の機械的な翻訳がつきました。少し拙い言葉遣いですが、本当に鳴き声が言葉に翻訳されています!

「凄いですっ!!! 本当にちまきさんの言葉がわかります!」

「わぁ! 良かったでしゅ! これでしらたましゃんとちまきしゃんの言いたい事がわかるでしゅ!」

 私とモリエルさんは、手を取り合って大いに喜び合いました。

 これまでも、しらたまさんもちまきさんも私達の大事な家族でした。それでもこうして、本人の意思を言葉で確認できるのは格別です。

「わんわうわうん!?」

『しらたまの言う事もわかる!?』

 この様子を見ていたしらたまさんが、わくわくした表情で訊ねてきます。

「わかります! ちゃんと伝わっていますよ、お二人の言いたい事!」

 しらたまさんも言葉が通じたのが嬉しいらしく、その場で何度もぴょんぴょんと飛び跳ねて、しっぽもぶんぶん振って、喜びを露わにします。

「わわわん、うおーん、わおん!」

『ミモリ、モリエル、好き! 言う事伝わる、嬉しい!』

「しらたまさん! 私も嬉しいですっ!!」

 あまりの喜びに気持ちが溢れて、私は衝動のままにしらたまさんを抱きしめて、頬ずりしてしまいました。モリエルさんも一緒に私の腰に抱き着いてきて、言葉が通じるようになった喜びを分かち合いました。


「にゃおーん!」

『ちまきの話聞く!』

 ちまきさんがちょっと怒ったように、床を軽く叩いて強く主張します。

「あ、しょーでした。ちまきしゃんの疑問が何か、聞こうとしてたんでしゅ」

「はわわ、そうでした」

 私とモリエルさんははっと我に返ります。

 そういえば元々の発端は、ちまきさんが何を疑問に思っているのかわからなくて困っていたのでした。お二人の言いたい事がわかるようになったのが嬉しくて、直前の出来事が頭から飛んでいってしまっていました。

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