第24話 ハニャさんに相談します 後編

「そもそも、この招待は受けた方がいいのでしょうか?」

 ふと、根本的な疑問に立ち返ります。

 ハニャさんが一緒に行って下さるなら心強いですけど、そこまでして貰ってまで参加する必要があるのでしょうか?

 勿論、天界のトップに近い偉い方からの招待をお断りするのが非礼にあたるというのであれば、参加は最初から決定なのですが。今回の招待状はどれくらいの影響力があるものなのでしょう。

「外せない用事があるならともかく、そうでなければ受けた方がいいと思うけど……、ミモリくんは行きたくないのかい? お茶会に何か不安でもある?」

 ハニャさんに優しく問われて、私は自分の気持ちを言語に纏めてみます。

「最初は、面識のない偉い方からいきなり招待状が届いた事に驚きました。今は、呼ばれた理由に見当がつかないのが不安です。……それと、こういう招待を受けた時にどうするべきなのかという常識を、私はわかっていないので、どう行動したら正しいのかわからないのです」

 先ほど自覚した自分の気持ちを、正直に打ち明けてみます。


「招待の理由か……。合っているかわからないけど、推測してみようか。……ハンプタン様は確か、聖獣関連のクラブを複数主催しているはずだから、君と同居している聖獣くん達の勧誘とかかな?」

「ええ、まさかと思いましたが、それが理由の可能性が、本当にあるんですか」

 一度考えて、まさかと思い却下した推測がハニャさんの口から再度出てきて驚きます。

「あるいは、君の交友関係が少ない事を把握して、お節介を焼こうとしているとか?」

「え、上層部の方がそんな事まで気にするんですか?」

 次いで出された推測に、先ほどよりももっと驚かされました。

 確かに私は内向的で人見知りな部分があるので、自分から積極的に他人と交流したりしない方です。仕事環境も買取以外では人との係わりは殆どありません。

 お友達と呼べる程の交流があるのはエマさんお一人だけですし、こちらの世界に親しい人が少ないというのは紛れもない事実です。

 けれど私のそんな個人の事情を、見知らぬ偉い方が気に掛けているとは思ってもみませんでした。


「いや、思いついたから言ってみたけど、多分ないと思うよ。人には人のペースがあるものだし、そもそも人との関わりを好まない人だっている訳だしね。それに君はこちらの世界に来たばかりなのだから、焦る事もない。最近はしらたまくん達や天使くんと同居して、周囲も賑やかになってきてる事だしね」

 苦笑したハニャさんからそんなふうに話をされて、私はようやく、実は友関係の少なさでハニャさんに心配を掛けてしまっていたのだと気づきました。

 いくら担当官とはいえ、ハニャさんがここまで私の事を把握して、心配りして下さっているとは思ってもみませんでした。

 現代日本においては、上司部下の繋がりはもっと希薄なイメージがありましたが、実際はもっと踏み込んだものだったのでしょうか。

 あるいは単に天界と現代日本では、人との関わり方がまるで違っているだけかもしれません。私にはどちらが正解かわからないので、想像するしかありませんが。


「ハンプタン様がお節介を焼いて友人候補を紹介するなんて事も、ないではないと思ったけど……、まあ、可能性は高くないと思う。流石に上層部が、そこまで個人的な事に口を出さないんじゃないかな?」

 この辺りの匙加減は、ハニャさんもいまいちよくわかっていないようです。

「上層部も一枚岩じゃないからねえ。人によってやり方も違ってくるし。完全な予想は難しいね」

 確かにここでいくら考えたところで、正解はわからないですよね。

「ただ、今回断ったとしても、ハンプタン様が諦めなければ、また似たような招待を受けるだけかもしれない。それなら一度招待を受けて、用件を確認した方がいいんじゃないかな」

 言われてみれば、一度断っても先方が諦めない限りは、何度も招待を繰り返される可能性もあるのですね。

 偉い方からの招待を何度も断るなんて、ストレスで胃に悪そうです。それならいっそ、さっさと用件を聞いてしまった方がすっきりするでしょう。

 要件を聞くのと要望を受け入れるのはまた別の話です。まずはお相手の目的を知らなくては、対応しようがありません。


「それにこの世界では、お茶会やパーティで顔を繋げて交友関係を深めていくのは、至極自然な事だからね。今回の話を断ったとしても、いずれは他の誰かから、また別の形で招待を受ける機会があると思うよ」

「そうなのですか? お茶会の招待って、そんなに頻繁にある事なのですか?」

 私は何となく、お茶会とは高尚なもののように感じていたのですが、どうやらもっと気軽な催し物のようです。

「お茶会やパーティなんかを定期的に開く人は結構いるし、その際に広く招待状を送るのもよくあるよ。いずれ体験しないといけない事なら、僕が同行してフォローできる状況下で、初めてのお茶会を体験してみた方がいいんじゃないかな?」


 ……そんな話し合いの末に、招待されたお茶会に出席する事が決まりました。

 ただ、モリエルさん達が同行するかどうかは、家に帰ってから皆さんとお話をしてから、改めて決める事にします。

 ハンプタン様の目的が聖獣さんにあった場合は、しらたまさん達が話を聞いた方が早いのでしょうが、彼らがお茶会に行きたくないなら、無理強いはしたくないですからね。


 その後も、ハニャさんからお茶会に必要な知識を習いました。

 何かを要望されて、それをお断りしたいけれど直接断る勇気がない場合は、「考えておきます」と答えておいて、あとでハニャさん経由でやんわりとお断りしてもいいといった、世渡りの仕方も教えて貰いました。

 他にも、「服装はご自由に」と言及されているので、無理にドレスアップなどはしなくていい事。礼儀作法も細かい事は気にせず、普段通りで問題ない事。

 お茶会へ行く際の手土産も、持っていってもいかなくても、どちらでも良いとの事です。

 この辺りは私の中にあった漠然としたイメージよりも、随分と決まりが緩やかな気がしますね。

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