第22話 招待状が届きました

 おはようございます。

 モリエルさんが手作り鞄を売りに服飾ギルドに向かった日から三日経ちました。

 ちなみにモリエルさんの手作り鞄は服飾ギルドでもかなりの好感触だったようで、きちんと高値で引き取って頂けたようです。

 また、モリエルさんの裁縫技術の評価も高く、ギルドに所属して、定期的に手作り品を卸して欲しいとも願われたとの事です。

 既に出来上がっている製品をそのまま買い取ってもらうだけならばギルドに所属しなくても問題ないのですが、購入者が作成者に特別品を作ってもらう場合などは、ギルドに間に入ってもらわなければなりません。

 服飾ギルドの担当者さんはモリエルさんの裁縫の腕前を見て、「貴方ならきっと、いずれは個別注文が入るようになるでしょう」と、熱心に勧誘してきたそうです。

 モリエルさんは本業が農家の為、農業ギルドに既に所属したのですが、勧誘を受けて、兼任で服飾ギルドにも所属する事になりました。


 昨日は朝から雨だったので、お仕事はお休みにして家でゆっくり過ごしました。

 今日はいい天気になったので採取に出掛ける準備をしていたのですが、そこで玄関から呼び鈴の音がしました。

 玄関に出向くと、郵便局の制服を着た郵便配達員の方がおられます。

「ごめんください。お手紙をお届けに参りました」

「ありがとうございます」

(お手紙なんて珍しいですね)

 天界にも郵便制度がある事は知っていましたが、実際にこうして受け取るのは初めてになります。上層部からの連絡事項も友人とのやりとりもメールや電話で済んでいるので、紙の手紙を受け取る機会がこちらに来てからなかったのですよね。

「どちらからでしょうか?」

 心当たりがなかったので、首を傾げながら手紙を開いてみます。

「……招待状?」

 私の目に真っ先に入ってきた文字に、私は思わず固まってしまいました。


 送られてきたのはお茶会への招待状でした。

 差し出し人の名前はハンプタン・レビデスとあります。

(どなたでしょうか? 聞き覚えがありません)

 知り合いの名前ではなかった事に困惑してしまいます。

 名前も知らない相手からいきなり招待状が送られてくるなんて、普通じゃないのではないでしょうか。それともここでは、知らない相手からいきなり招待状を貰うのは普通なのでしょうか。

 招待状に書かれている内容は、十日後にお茶会を開催するのでぜひいらして下さい、というものです。

 また、私だけでなく、同居している方々(モリエルさんとしらたまさんとちまきさんの事ですよね)もぜひご一緒においで下さいとあります。

 自由な服装でお気軽にとも記載されていました。

 ですが肝心の、「何故私を招待したいのか」については書かれていません。これはどう解釈したら良いのでしょうか。


「ご主人しゃま、どうしたでしゅか?」

「ええと、知らない方からお茶会の招待状が届きまして。モリエルさんは、ハンプタン・レビデスという方をご存じですか?」

「ハンプタンしゃんでしゅか。知らないでしゅ。ネットの人物じゅかんで調べてみるでしゅ」

 モリエルさんが不思議そうに首を傾げて、自前のタブレットを取り出して操作を始めます。

「人物図鑑! そういえば、そういう物もありましたね」

 人物図鑑とは、名前で検索すると登録済みの存在の顔写真と経歴が調べられるサイトです。神族も天使さんも誕生時に登録が義務付けられているので、大抵の人はここで調べる事が出来ます。

 ハンプタンという方はきちんと図鑑で見つかりました。性別は女性で、なんと最初に聖樹の実から孵った百人のうちの一人だそうです。

 つまり、主神であるアンカーシェ様以外ではこの世界最古参。呼称は「さん」付けではなく「様」付けの方が良さそうな、とても偉い方でした。


最初の百神

政治部在籍

聖獣交流クラブ会長


 調べてみると、ハンプタン様は随分と多くの肩書を持っています。上記の他にも色々な肩書が並んでいましたが、私達に関係ありそうなのは、多分この辺りでしょうか?

「上層部の方でしゅ?」

「どうやらそのようです。それに、聖獣交流クラブの会長でもあるようです。もしかしたら、しらたまさん達をクラブへ勧誘したいのでしょうか」

 そんな理由で招待状を送ってきたなんて本気で思っている訳ではありませんが、他には理由が思いつきません。

 ちなみに「クラブ」とは、趣味や教養などを目的とした同好の会の事です。活動内容はクラブ毎に多岐に渡っていて、活動頻度もクラブの方針によって違うらしいです。

 年に一度程度しか集まらないクラブもあれば、毎日のように集まって活動している活発なクラブもあるのだとか。

 私はまだ天界に来て日が浅く、生活基盤を整える事を優先していたので、クラブ活動はしていません。天界にどのようなクラブがあるのかも詳しく知りません。

 ハンプタン様はどうやらいくつものクラブを主催しているようです。


 それにしても、どうしてこのような偉い方が私にコンタクトを取ってきたのか、本当に謎です。

 正直わからない事だらけなので、どなたかに相談したいです。ですがお友達のエマさんは私と同期なので、天界の事情については私と同じで詳しくないでしょう。

「招待状について、採取課のハニャさんに相談してみます」

 他に頼れる方も思いつきませんので、仕事以外の話になるので申し訳ないですが、先輩であるハニャさんに相談する事にしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る