第21話 モリエルさんのハンドメイド作品が完成しました
突発的な訓練があった日から三日が過ぎました。その間はいつも通りの平穏な日々でした。
私は今日もいつも通り、しらたまさんとちまきさんと一緒に山に採取に赴き、モリエルさんは家で畑の世話をしたり裁縫をしたりして過ごしました。
「ご主人しゃま、初めて作ってみたあ鞄が完成したでしゅ」
「おめでとうございます。ぜひ見てみたいです」
「これでしゅ。お出かけ用の肩掛け鞄でしゅ」
モリエルさんが机の上に置いてあった鞄を手に取り、私へと差し出します。
「可愛らしいですね。布の切り替えと丁寧な刺繍がとても素敵です。こんな素晴らしい物を作れるなんて、モリエルさんは凄いですね」
私は鞄を手に取ってじっくりと眺めて、モリエルさんの作品を褒めます。実際、縫い目も均等に整っていますし、センスも良く、大きさも手ごろな、素敵な仕上がりです。とても初めて作った作品とは思えない素晴らしい出来栄えです。
(うちにはミシンなんかないですから、これ全部手縫いって事ですよね。それでこれだけの物が作れるなんて、本当にお見事です)
不器用な私には到底無理です。モリエルさんは手先が器用な上に、根気とセンスまであるのですね。
「ありがとごじゃいましゅ」
私の褒め言葉に、モリエルさんは照れて頬を赤く染めました。
「これを服飾ギルドに売りたいんでしゅ」
作った鞄を手に、モリエルさんが希望を述べます。
モリエルさんは家計の足しにするという目的で裁縫を始めたので、作った作品は基本的に売りに出すようです。
実は天界では、個人間で直接取引をすると、生産者がお金しか貰えないか、あるいは消費者がポイントまで支払わねばならないかの二択となるので、どちらかが損をしなければなりません。なので個人が物を売りたい場合は、各ギルドを通すのが当たり前なのです。
個人の作成者の作品が気に入って特別に注文して作ってもらう場合でも、ギルドを間に挟んでやり取りする事で、通常の売買と同じく、お金とポイント両方を生産者が受け取れるシステムになっています。
そのそも天界のシステムでは、生産者がギルドで作品を売ると、お金とポイントの両方が同じ数字で貰えるようになっています。
ですが買い手が物を買う場合は、お金のみで買えるようになっているのです。
これは鞄だけに限らず、どの製品でも同じ事です。私が採取してくる山菜や薬草も、そうやって流通しています。
ポイントはスキルの取得、ステータスの強化、部屋の拡張など、とても重要な使い道が沢山あります。なので消費者側からすれば、通常の買い物にはポイントを使いたくありません。
一方、生産者側の視点で見れば、作った物がお金でしか売れなければ、ポイントを手に入れる機会が殆どなくなってしまいます。
それらの問題を解決する為に、個人生産者は一旦、生産品を各ギルドに売るのです。
ギルドでは買い取りの際にその品物の価値を見定めて、お金とポイントを同額で支払って下さるのです。そしてギルドから消費者へ販売する際には、手数料がややプラスされた上で、お金のみでの販売となるのです。
ちなみに直売店舗を持つ生産者の方……お菓子屋さんやパン屋さんとかですね……の場合は、書類で販売数を報告する事で、ギルドから纏めてポイント支給を受けています。
そうなると当然、ギルドから生産者に支払われるポイントは、一体どこから供出されているのかという疑問が湧いてきますよね。
それを支払って下さっているのは、天界の上層部です。
天界の住人が安全に健やかに暮らす為の手段として、給料の一部としてポイントを供給しているのです。
そして、上層部がその為の膨大なポイントをどこからどうやって補っているかというと。
実はポイントとは、聖樹の聖気を変換した代物なのだそうです。
ですので、天界の発展には聖樹の存在が欠かせないのです。聖樹から聖気を大量に得られるからこそ、私達は様々な形でその恩恵を受けられるのです。
「いいと思います。明日、私も一緒に服飾ギルドに行きましょうか?」
「だいじょぶでしゅ。一人で行けましゅ」
服飾ギルドへの同行を申し出ましたが、断られてしまいました。
確かにモリエルさんは子供の姿をしているとはいえ、とてもしっかりしているので、一人で買い物にも行けます。天使さんの役割は神族の補助なのですし、幼い見た目に引き摺られて過保護にし過ぎるのも良くないのかもしれません。
「わかりました。気を付けて行ってきて下さいね」
「はいでしゅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます