第20話 自衛に役立つスキルを検索してみます
「もう少し、自衛出来れば良いと思うのですが」
つい、溜息が零れます。
正直、今の私の戦闘力では、人界の治安の悪い地域に降りるのも躊躇われます。見習いとはいえ一応は神族なのに、並みの人族よりも非力なのです。
これまでは安全が確保されている天界内で暮らしていたので危機意識がありませんでしたが、いずれ行動範囲を広げる際には、もっとしっかり自衛しなくてはと、今回の訓練であらためて感じました。
「そうね、戦闘向きなスキルが取れなくても、自衛に使えそうなスキルを取ったり、ステータスを強化したりすればいいんじゃない? 防御、逃走、隠密あたりに役立ちそうなスキルとか、何かないかしら」
エマさんのアドバイスに、目から鱗が落ちた気持ちになりました。
言われてみれば戦闘スキル以外でも、自衛に使えそうなスキルはありました。戦闘向けスキルは軒並み取得不可でしたが、取得可能なスキルの中に自衛に役立つ物が何かあるかもしれません。
「調べてみるでしゅ」
私の横でモリエルさんが早速、手持ちのタブレットでステータスボードを読み込んで、取得可能なスキルを検索しはじめました。
ちなみにステータスボードとは、スキルやステータスを操作する為の神術具です。神族や天使さんの場合、誕生時に配られるタブレットにその機能も一緒に内蔵されています。
「僕、付与定着と物質強化なら、ポイント貯めれば取得できましゅ」
モリエルさんが元気に挙手して、嬉しそうに自己申告します。
どうやらモリエルさんも素質的に、戦闘向きのスキルは取得出来なかったようです。ですが代わりに自衛に役立つスキルは取得出来そうとあって、とても嬉しそうです。
生活補助スキルといった一般スキルは取得出来る人がかなり多いのですが、戦闘スキルや高等スキル、特殊スキルなどは、持つ人を選ぶのですよね。後は生産スキルも向き不向きがはっきりしています。
モリエルさんの素質はどちらかというと、生産スキル取得に向いているようです。料理、裁縫、洗濯、掃除といった家事系統のスキルはどれもすべて初期から取得可能になっていましたし、以前本人がいずれ取りたいと言っていた栽培スキルも取得可能リストに入っていました。多分、手先が器用でまめな性格なのが生産スキルの取得に有利に働いているのでしょう。
「それなら、持ち物に強化を付与できるわね。それに付与定着スキルは他人のスキルも付与できるから、組み合わせ次第で、色んな効果のある神術具を作れるわよ」
エマさんが楽しそうに、スキルの使い方を説明します。神術具の作成なんて、何だかロマンに溢れていますね。
「モリエルさんは裁縫もできますから、自分で一から神術具を作れるようになる訳ですね。凄いです」
既製品を買ってきて術を付与するのもいいですが、自分の作品に付与するというのは、何だかより一層ロマンが溢れているように感じられます。
「これから頑張ってポイント貯めて、物質強化と付与定着を取得しましゅ!」
モリエルさんも握りこぶしで今後の目標を宣言しました。
「わん!」
「にゃ!」
しらたまさんとちまきさんもこの会話を聞いて、「自分達の取得可能スキルも見てみたいです」と言いたげにこちらに寄って来ました。器用に後ろ脚で立ち上がって、前脚で私の膝をてしてし押して催促してきます。
「ステータスを見てみたいんですね? はい、どうぞ」
私は自分用のタブレットを、お二人が使えるように床に置きます。
聖獣さんのスキルやステータスを確認するには、本人にステータスボードを表示してもらう必要があります。
野生で暮らす聖獣さんの場合はそもそもタブレットを持っていないので、スキル取得やステータス強化には、天界のあちこちに設置してあるステータスボード用の石板に触れて、操作する必要があります。
今回の場合は同居人である私のタブレットを使う事で、聖獣さんのステータスボードの表示が可能となります。
まずはしらたまさんがわくわくした表情で、床に置かれたタブレットを前脚タップで操作して、ステータスボードを表示させました。
(そういえばしらたまさん達は、ステータスボードを見るのはこれが初めてかもしれませんね。もっと早くお見せしておけば良かったです)
ステータスボードを見ても保有ポイントがないと何も出来ないので、しばらく後で良いかと思っていたのですが、いずれ自分が取得したいスキルのような明確な目標があった方が、ポイントを貯めるやりがいを感じられたのかもしれません。
タブレットのステータスボードを表示にした状態で、しらたまさんがこちらに内容を見せて下さったので、どんなスキルが取得可能なのか、私達も一緒に見ていく事になりました。
「しらたまさんは防御結界と身体強化のスキルが取得可能なんですね!」
身体強化は戦士職にとっての基本といえるスキルです。それが取得出来るなら、自衛にはかなり有用でしょう。更に、防御結界はまさに防御の為のスキルと言っても過言ではありません。
しらたまさんのスキルは、護衛騎士っぽい構成ですね。とても頼もしいです。
次いで、ちまきさんにタブレットが渡り、ちまきさんのステータスボードが表示されました。ちまきさんもしらたまさんと同じようにステータスボードの画面をこちらに向けて、私達に見せて下さいます。
「わあっ! ちまきさんは、ブレス(火)、身体強化、斬撃(風)と、かなり戦闘向けなスキルが取得可能なんですね! お二人とも凄いですっ!」
ちまきさんの取得可能スキルを確認して、私は気持ちが昂って、つい声を張り上げてしまいました。
どうやらちまきさんは同居人の中で一番、攻撃系スキルの素質があったようです。
ブレス(火)はそのまま、口から炎を吐き出す遠距離攻撃ですし、斬撃(風)は爪から風の刃を飛ばす遠距離攻撃です。それに加えて身体強化とは、かなり理想的な戦士のスキル構成ではないでしょうか。
こうして見ると、モリエルさんが補助、しらたまさんが防御、ちまきさんが攻撃と、かなりバランスの良いパーティな気がしますね。
「ご主人しゃまは、どんなしゅきるがあるんでしゅか?」
モリエルさんに問われて、私は手元に戻ってきたタブレットで、自分のステータスボードを読み込んでみました。何度も見ている画面ですが、相変わらず戦闘系スキルは取得可能リストに一つもありません。
今回は自衛に役立ちそうなスキルという着目点で、取得可能リストを検索していきます。
「私は……、自衛に関連しそうなスキルで取得可能なのは、空間術や飛翔のスキルでしょうか? 空を飛べる飛翔スキルや空間術の転移が使えれば、逃走には役立ちそうです。ですが、どちらも取得にも使用にも大量のポイントが必要になる高等スキルですので、実際に取得出来るのは、かなり先になりそうです」
飛翔も空間術も、どちらもとても有用なスキルですが、その分取得に必要なポイントがかなり高いのが特徴です。スキル使用時に使う神力もかなりの量が必要になるので、ステータス強化で神力保有量の増量もしなければなりません。
今のペースだと、一つのスキルを得るのに数年は掛かるのではないでしょうか。どちらも取得するとなると、実現は随分と先の話になりそうですね。
「空間術が使えるようになれば、転移だけじゃなくて空間拡張も出来るようになるから、仕事の依頼も引っ張りだこでお金には困らなくなりそうね。それにモリエルちゃんの付与と組み合わせれば、空間拡張鞄が作り放題になる訳だし。凄いスキルが取れそうで良かったじゃない」
エマさんが笑顔でそう祝福して下さいます。
成程。空間拡張鞄を自分で作れるというのは、とても便利ですね。いつかモリエルさん達にもそれぞれ、体格に合わせた可愛い鞄を持たせてあげたいです。
「そうですね。自衛用スキルを取得するのを今後の目標にしましょう。エマさん、相談に乗って下さって有難うございます」
「いいのよ、私も久しぶりにミモリといっぱい話せて楽しかったわ」
「明日からポイント集め、頑張るでしゅ」
「わおん!」
「にゃあん!」
全員で顔を見合わせて笑い合います。
その後は人界に行っていたエマさんから、この世界の人々がどんな暮らしをしているのかといったお話を聞いたり、魔獣と実際に戦った時のお話を聞いたりして、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます