第19話 お食事会で乾杯します
エマさんを室内に招いてお食事会を始めます。
今日はモリエルさんと一緒に張り切ってご馳走を準備したので、テーブルの上は料理でいっぱいですよ。エビフライや唐揚げといった定番の揚げ物に加えて、ポテトサラダやカットフルーツ、グラタンやパスタといった感じで、色々と作ってみました。
「では、乾杯です!」
「乾杯!」
「かんぱーいでしゅ!」
「わわわん!」
「にゃにゃーん!」
飲み物の入ったグラスを掲げて乾杯です。しらたまさんとちまきさんはグラスは持てないですけど、一緒に声をあげて参加して下さいました。早速あれこれとお皿に取り分けて食べてみます。
しらたまさん達の分はお皿に取り分けて床に並べてありますが、お二人も色んなご馳走がたくさんあるのでとても満足そうです。豪快にお皿に顔をつっこんで、はぐはぐと嬉しそう食べています。
「うん、美味しい。料理の腕があがったんじゃない?」
「モリエルさんのおかげです」
実際、私一人ではこんなにたくさんの料理なんて作れません。手際が良くて料理上手なモリエルさんが、主になって作って下さったのです。
「そういえば、今日の訓練はどうだった? 実は私は今日、悪魔族の恰好して、襲撃側で参加してたのよ。合宿中に私達見習い戦士は全員、襲撃側として訓練に参加するようにって通達があったのよ」
お料理を堪能して、エマさんがお土産に持ってきて下さったケーキを食べる頃になって、エマさんが今日の訓練を話題にします。
「ええっ、そうだったんですか!?」
まさかエマさんが襲撃側だったとは思いませんでした。けれど考えてみれば今回の訓練で、襲撃側も神族や天使さん達がやっていたのですから、その役目を担う人達がどこかにいなければ、そもそも訓練が成り立ちませんよね。
私が出会った襲撃側の人達の中にはエマさんらしき人は見当たりませんでしたが、別の地区への襲撃を担当していた中にいたのでしょう。
「そうなの。まさかいきなり襲撃側に回るなんて思ってなくて、私もびっくりしちゃったわ。でも襲撃側に立ってみると、どう攻めるべきかって、これまでとは違う視点で考えるから、守る際の参考になったわ」
襲撃側として参加したエマさんにとっても、今回の訓練は得る物が多かったようです。
「実は、今日の訓練で何か思い詰めてないか心配になって、ミモリに会いに来たの。ほら、ミモリは以前の職業体験の時も、戦士になれなくて落ち込んでいたじゃない?」
「しょーだったんでしゅか?」
エマさんの言葉にモリエルさんがきょとんとして、意外そうに目を瞬かせます。
「……ええ、そうなんです」
実は以前、エマさんと一緒に戦士の職業体験を受けた時、教官から戦闘に向いていないと断言されて、しばらく落ち込んだ事があったのです。
神族に転生する際に全員健康な体に生まれ変わるのですが、運動に関してはどうしても個人差があります。それにスキルにも向き不向きがあって、取得するのにポイントが大量に必要な場合や、ポイントをどれだけ費やしてもどうやっても取得できない場合もあるのです。これも素質による個人差ですね。
私はそれで、運動神経が鈍い上に戦闘系スキルの取得にも向いていなかったので、教官から不向きだと判断されました。
当時の私は、折角ファンタジーな世界に転生したのに、花形職業である戦士になれないと知って、がっかりしてしまいました。
転生したからには、前世で苦手だった運動も得意になっているのではと、内心で勝手に期待してしまっていたのもあります。その期待が裏切られて、かなり落ち込んでしまったのです。
その時一緒にいたエマさんはそれを覚えていて、急遽会いに来て下さったんですね。
気を遣わせてしまって申し訳ないですが、その心遣いが有難くもあります。
「わざわざ様子を見に来て下さって有難うございます、エマさん。思い詰めるという程ではないのですが、確かにちょっと、自分が不甲斐なく感じていました。もっと普段から、ステータスやスキルを鍛えておけば良かったのではと考えてしまいまして」
私はエマさんの優しさに甘えて、心に引っ掛かっていた内容を相談してみる事にしました。
避難する際に急ぐ余りに、携帯用のタブレットや空間拡張された鞄を持たずに出掛けてしまった事も反省すべきです。それに避難所が襲撃された時、怖くて目を瞑って硬直しているしか出来なかったのも考え物です。
採取の仕事についた後は、それに役立つスキル取得にポイントを割いてきたのですが、もっと別の使い方があったのかもしれません。
「防衛なんて本来は戦闘職が担当するものなんだし、戦えない人が無理をする必要はないと思うわ。誰にだって向き不向きはあるんだしね。真面目に避難行動をするだけで充分じゃない?」
「それは、誰だって当然なのでは?」
ここは天界です。善人しか存在しないのですから、周りを敢えて困らせるような問題行動を取る人なんていないのでは? と思ったのですが、実際にはそうは行かなかったようです。
「それが意外とすぐに避難してくれなくって、他人を煩わせた人もいたのよ。手が離せないとか言って」
「ええ、そうなのですか……?」
その内容に私は困惑しました。エマさんは肩を竦めて溜息をつきます。
どうやら突発的に始まった訓練だった為、その時にとても大事な事をしていた人の中には、それを放ってすぐに避難すると決断できなかった人もいたようなのです。
人に迷惑を掛けようとしてわざとそうしたのではなく、焦っていて視野が狭くなった結果として、人に迷惑を掛けてしまう場合もあるんですね。これは私も気を付けなければいけませんね。
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