第16話 避難所に移動しました
「そこの青い門を抜けて、その後右方向へ!」
「わん!」
現在私達は避難所を目指して移動中です。
聖樹都市の内部は空間術による様々な仕掛けがあって、外から見たものと実際の地形がまるで違います。その為、地図や案内なしでは目的地に辿り着けないような複雑な構造をしており、避難所までの道筋を覚えている私が道順を告げています。
聖獣のしらたまさんとちまきさんは素早く走れるので、周りを警戒しつつ私の指示通り、先導して走って下さっています。
モリエルさんは体が小さい分歩幅も小さいので、最初は私が抱えて移動しようとしたのですが、なんと実際のところは私と同じくらいの速度で走れる事が判明しました。
これは、私の走る速度が平均より遅いのも理由の一つです。私は山歩きに慣れており、歩く速度は遅くないのですが、走る速度は人よりも遅いのです。
モリエルさんは見た目に反して体力が大人並みにあるので、走る速度さえあるならば、私が抱えて移動するよりも、本人が自分で走った方が、素早く移動できると判断しました。
そうして走って避難している途中の事です。
渡り廊下を移動していたところ、上空から大きな音がしました。慌ててそちらを見上げてみると、複数の集団が空を飛びながら交戦している姿が見えました。
武器や神術を使った立ち回りで、お互いに訓練とは思えないような真剣さで激しく戦っています。剣戟の音も聞こえてきて、遠目にも迫力があります。
「きゃうん」
「にぃ」
しらたまさんとちまきさんが、小声で警戒を促してきます。お二人も戦闘を目にして緊張しているようです。
私も実際の戦闘を見て、恐れと共に、途方に暮れるような気持ちになってしまいました。
空を高速移動しながら激しく戦うその姿は、今の私には到底辿り着けない境地にあります。
私はついこの間、ようやく「浮遊」スキルを取得したばかりで、ゆっくりとしか空中を移動できません。ましてや戦闘に使えるようなスキルなんて、一つも持っていません。もしここで敵に襲われてしまったら、抵抗しようもないのです。
「とにかく、見つからないように逃げるしかないですね」
「はいでしゅ」
皆さんと顔を見合わせて、自分達に出来るのは逃げる事だけと改めて認識して、私達は建物の陰に隠れて走り出しました。
幸い、襲撃役の方達は防衛についている方達と戦闘中でしたので、こちらに襲い掛かってはきませんでした。おかげでそのまま渡り廊下を通り抜けられました。
「この転移陣に、神力または聖力を込めて下さい」
無事に辿り着いた避難所の入口で、防衛に当たっている方から転移陣を指し示されます。
「悪魔族が天界の住人の姿に化けて、内部に入り込もうとする手口があります。ですが魔界の住人には、神力も聖力も使えません。ですので避難所に入る時には検査も兼ねて、一人ずつ転移陣に力を込めて移動してもらっています。気絶や怪我で転移陣を自力使用出来ない方は、別途医務室に搬送しています」
成人男性の姿をした天使さんが避難所への入口で、本人の力を使って転移陣を使用しなければならない理由を教えて下さいます。
「わかりました」
私は頷いて、皆さんを見渡します。
聖獣さん達は神力は使えませんが、聖獣の生来の性質として、聖力は扱えるはずです。念の為お二人に確認してみると力強く頷いていますので、彼らから順に転移陣を使って移動してもらいます。
そうして全員でようやく、目的の避難所へ辿り着きました。
何か所かに別れているという避難所のうち、この場所は大きな広間になっていました。そして既に大勢の避難者さん達が集まっています。ここにいる殆どの方は、私達と同じく生産職の非戦闘員の方々なのでしょう。
皆さん不安そうな表情で、近くの方と小声で話をしたり、座り込んでタブレットを見つめたりして、訓練状況を確かめているようです。
(そういえば急いでいて、タブレットも持ってこなかったです)
私は自分用の携帯連絡具であるタブレットを自宅に置いたままにしてしまった事に、ここに来てようやく思い至りました。
(空間拡張鞄も置いてきてしまいました。……もっと日頃から、常に手元に置いておく癖をつけて、非常時に素早く持ち出せるようにした方がいいかもしれません)
周りを見回してみると、ちゃんと自分用の鞄やタブレットを持って避難してきている方々もいます。私も今度はぜひそうしなければ。
今回は初めての訓練参加という事もあって、後になって反省点を思いつきます。それらは次回以降に生かすとして、今はただ、訓練が無事に終わるのを待つしかないようです。
避難所に使われている広間をざっと見た限り、知り合いの姿は見つけられませんでしたので、同居人の皆さんと一緒に隅っこで大人しくしていましょう。
……避難所に移動して来てから、かれこれ一時間ほどが過ぎました。
ドガン! ガシャン!!
不意に大きな破壊音が響いて、私達は一斉に顔をあげて周囲を見回します。
なんの前触れもなく、壁の一部が崩されていました。
「敵襲!!」
避難者の警護に当たっていた神族の方が、鋭い警告を叫びました。
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