第14話 天使さんの職業が決まりました
初めての山歩きの翌日、モリエルさんは家で家事を熟した後は、パソコンを使って調べものをしていたようです。
私の方はいつものように、しらたまさんとちまきさんと一緒に山に採取に行っていました。
午後、家に帰ってから、モリエルさんに訊ねてみます。
「職業体験には行ってみないのですか?」
色々な職業を実際に体験してみれば、やりたい事が見つかるのではないかと私は考えたのですが、モリエルさんは首を横に振ります。
「だいじょぶでしゅ。もう決めました。僕、山を歩くのは向いてなかったでしゅけど、植物はしゅきなので、しゃいばいがやりたいでしゅ!」
勢い良く片手を挙げて、モリエルさんが宣言します。
「しゃいばい……、栽培ですか。モリエルさんが決めたのなら、私も応援します」
一瞬、「しゃいばい」とは何でしょうと迷いましたが、すぐに「栽培」だと気づけたので、私も笑って頷きます。
本人が希望する職につけるなら、それが最良だと思います。
勿論、適材適所という言葉があるように、本人の希望と適性が一致していない場合もありますが、それも実際にやってみなければ、合っているかどうかはわかりませんからね。まずは試してみれば良いのです。
「ありがとごじゃいましゅ」
肯定されて嬉しかったのか、モリエルさんが指をもじもじと絡ませて、照れながらお礼を言います。
「家に畑を用意しましょうか? それとも、他の農家さんの元で働かせて貰いますか?」
私は次に、モリエルさんがどのような形態で働きたいのかを訊ねます。
植物の栽培をするには、まずは畑にする為の土地が必要になります。
その土地を自力で用意するか、それとも他の農家さんのところに働きに出るかで、初期に必要なポイントが変わってきます。
この世界の天界は、球体の星の上にはありません。広大な白い空間に、いくつもの浮遊大陸や浮遊島が点在する形で、一つの世界が構成されています。
そして、私達神族の大半が暮らす聖樹都市がある大陸は、天界で最も大きな面積を有する浮遊大陸なので、大陸上には広大な土地が存在します。
ですが土地そのものは有り余っていても、都市に必要な最低限以外の開発は法律で禁止されています。野生で暮らす聖獣さんの為に、自然豊かな環境を維持しているのです。
自然を壊さないように採取だけをするならともかく、土地そのものを開発するのはNGなのです。
なので、個人的に土地が必要な場合はポイントを支払って、異次元空間に私有地を所有しなければなりません。
今回の場合も、まずは異次元空間に土地を創造するところから始まりです。
ちなみに天界には海が存在しないので、魚の養殖をしたい場合、まずは淡水湖や海水湖、もしくは地上の海を模した異次元空間を始めに用意する必要があるので、初期投資ポイントが高い事で有名です。
「出来れば、自分用の畑が欲しいでしゅ。僕の残りのポイント、全部使いましゅ!」
モリエルさんの希望は、自分用の畑が欲しいとの事でした。
「わかりました。私も保有ポイントの残りが少ないので、少しだけになってしまいますが、ポイントを補助しますね」
本当なら、畑を確保する為のポイントを私がぽんと出せれば良かったのですが、生憎と今は手持ちのポイントが殆どありません。
先日、山で浮遊スキルを取得して、その後にモリエルさんの部屋を作るのを分担してと、立て続けに消費してしまったので、少しずつ貯めていたポイントはもう残り僅かなのです。
空間を創造する神術スキルは取得ポイントが高いので、その分、空間を創造したり拡張したりするのに必要なポイントも高くなってしまうのですよね。
それでも、自分が空間術のスキルを持っていなくとも、ポイントを払うだけで家を拡張出来る仕組みがあるおかげで、とても助かっていますが。
「わん!」
「にゃん!」
私達のポイントも使っていいですよ、と言うように、しらたまさんとちまきさんも元気に鳴き声をあげます。本当に思いやりのある良い子達です。
「皆しゃま、ありがとごじゃいましゅでしゅ」
モリエルさんは深く頭を下げてお礼を言いました。
家の玄関から続く廊下の一角に扉を増設して、その先を畑用の空間に設定します。
家の増築機能は、庭やプールといった野外空間にも対応しているのです。
設定してすぐに、何もなかった廊下の壁には一枚の木の扉が出現します。そしてその扉を開けると、小さな畑のある風景が広がっていました。
野外の景色はどこまでも続いているように見えますが、実際には移動出来るのは畑の範囲内の空間だけで、他は映像のようです。
目に見える景色は自然のものにしか見えないのですが、実際に触ると不可視の壁で遮られているのがわかります。
注いだポイントがあまり多くないのもあって、用意された畑の面積は小さめです。ですが、これからまたポイントを貯めて、ゆっくり拡張していけば良いでしょう。
「畑用の空間は、定期的に雨を降らせたり、気温を自動調節したり、便利な設定がたくさんあるんですね。これなら水遣りも自動で出来て良いですね」
「はいでしゅ。ここで野菜を作ってみましゅ。そのうち畑を拡張していって、薬草や果樹も作りたいでしゅ」
そう答えたモリエルさんは、我慢が出来ないとばかりに土の上を飛び跳ねて、嬉しそうにはしゃいでいます。
それを見て、しらたまさんとちまきさんも一緒に飛び跳ねて遊んでいます。
「薬草が安定供給できるなら、薬師さんにも喜ばれそうです。モリエルさんは栽培スキルを取得するのですか?」
「しゅきるは、よゆうができたら取得するでしゅ。今は畑に使って、ポイント足りないでしゅから」
「そうですか。確かに普通に野菜を育てるだけなら、スキルがなくても可能ですね」
栽培スキルがあれば、植物にとっての最適な状態がわかったり、植物の育成を速めたりといった事も出来ますが、なくても普通に畑を作る分には問題はないのでしょう。実際、前世の地球では全員が、スキルなしで農業をしていた訳ですしね。
……こうして、モリエルさんの職業は「農家」に決まりました。いずれ、薬草や果樹も育てるなら土地を更に増やしていく必要もありますし、いつかは大規模農家になるかもしれませんね。
私は前世で農家の出身でしたが、山に採取に行く時や田植えや稲刈りといった農繁期以外は、それほど農業のお手伝いをしていませんでした。
なので、どれだけお手伝いが出来るかは不明です。
けれど、モリエルさんがとても嬉しそうですし、出来る限りは頑張りたいと思います。
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