第11話 天使さんに名前を付けます

「それで、貴方のお名前は?」

 生まれたばかりの天使さんのお名前を訊ねてみます。

「まだありましぇん。ご主人しゃまが付けて下しゃい! ……でもでも、食べ物の名前じゃなくって、天使らしい名前がいいでしゅ!」

 そう返されました。

 卵から孵ったばかかりの天使さんには、固有の名前はないようです。

 そして私が聖獣さん達に食べ物の名前を付けたのを知っていて、自分まで食べ物の名前を付けられるのでは、と危惧しているようです。

 ……実際、先に止められていなかったら、天使さんにも食べ物関連の名前を付けていたかもしれません。先にはっきりと希望を告げて下さって良かったです。

 天使さんが私が聖獣さん達の名前を付けたのだと知っているのは、卵の中にいる間に、眷属となる相手の知識や記憶を天使さんが読み取って、学んでいるからですね。

 眷属となる神の記憶と知識を共有する事で、天使さんは初期学習しているのです。

 神としてもそういう相手が眷属として間近にいる事で心が安定したりしますし、共用の前提知識がある事で、会話に齟齬が出にくかったりするのです。

 自分の記憶と知識を共有する事を望まない方もそれなりにいらっしゃいますが、そういう方はそもそも最初から、天使さんの卵を受け取らないですから。


「天使さんらしい名前ですか……。そうですね」

 私はどんな名前がいいでしょうかと考え込みます。

(そういえば前世の地球では、天使といえば、ミカエル、ガブリエル、ウリエルというふうに、「エル」の付く名前が多い印象でしたね)

 それなら、「~エル」という名前にすれば、天使らしいくなるのではないでしょうか。そして更に、私の名前から「モリ」の部分を採って「モリエル」という名にするのはどうでしょうか。

「では、モリエルさんという名前は如何ですか?」

「……モリエル! しゅてきでしゅ! 僕はこれからモリエルと名乗りましゅ!」

 私の考えた名前に、きゃっきゃと無邪気に喜ぶ天使さん、改めモリエルさん。

 それを見て、一緒に飛び跳ねて喜ぶしらたまさんとちまきさん。

 一人きりだった私の自宅にも同居人が増えて、随分と賑やかになりましたね。嬉しいです。


「気に入って頂けて良かったです。ところで、モリエルさんの性別は?」

 先程、卵から孵った直後に裸だった時は、意図してそちらを見ないように目を逸らしていたので、本人に自己申告して貰わなければ、性別が分かりません。

「僕は無性でしゅ」

 モリエルさんが答えて下さいました。

 ……モリエルさんは無性だったようです。

 まあ、天界では無性も両性もそれなりの人数がいるので、そう珍しくはないかもしれません。

「そうだったんですか。それなら、モリエルさん用の寝室を用意した方がいいですね」

 同性ならしばらく同じ寝室でも良かったかもしれませんが、異性ならばきちんと部屋を分けた方がお互いに気楽でしょう。

 実はまだ、天使さん用の寝室は用意していませんでした。本人がどのような部屋を希望するかわからなかったので、卵が孵ってから考える事にしていたのです。

 予め服を用意しておかなかったのも、天使さんがどんな姿で生まれるのか、予想がつかなかったからです。


「僕の部屋でしゅから、僕がポイント出しましゅ! ご主人しゃまの気持ち、自分でなりたい自分を決めてねって、卵に中にまで、ちゃんと伝わってたでしゅ。だから僕、まだスキル取ってないでしゅ。ポイント余ってましゅ」

 一生懸命な様子で、モリエルさんがそう申し出てくれます。

 どうやら、私がこれまで注いできたポイントは、孵化に使った分以外はまだ余っているようです。

 通常なら、神の希望するスキルやステータスを取得してから生まれてくるのでしょうが、私は本人に選んで欲しいと思っていたので、そのせいでしょう。

「その分はぜひ、ご自分の興味あるものに使って下さい」

 まだ生まれたばかりのモリエルさんも、これからゆっくりと興味を惹かれるものを探していけば良いと思います。

 私はあれこれと職業体験を試して最終的に採取を仕事に決めましたが、モリエルさんがもし別の仕事をしたいなら、それでも良いのです。楽しく過ごせる仕事を見つけるのが大事だと思います。

「でも、ご主人しゃまにも、趣味にポイント使って欲しいでしゅ。僕、しぇめて半分は出しましゅ」

 モリエルさんも譲りません。私がモリエルさんに自由を謳歌して欲しいのと同じように、モリエルさんも私に自由に生きて欲しいのでしょう。

 この天界ではお金とポイントがないと、どうしても生き方が制限されてしまいますからね。特に自分の能力を増やせるポイントは、使い方を大事に決めていかなければなりません。


「うにゃにゃっ」

「きゅうーん」

 ここでちまきさんとしらたまさんが、激しくしっぽを振って主張してきます。

 どうやら彼らも自分達の貯めた分のポイントを使っていいですよと言いたい様子です。

 お二人はここに来てから居間のソファで寝起きしているので、それぞれの個室がない状態なのですが、自分達の部屋よりも人型のモリエルさんを優先して下さるようです。

 ……皆、同居人思いの良い子達です。

 私達は誰がどれだけポイントを出すのかを話し合い、皆で分担する事で決着しました。ただ、しらたまさんとちまきさんはまだポイントを貯め始めて日が浅く、殆どポイントを貯められていませんでしたから、ほんの少しだけ負担して頂く事にしました。

 そして今後はポイントは全員分を一度纏めて、その後に四分割する決まりを新たに話し合って設定しました。

 お金の方は、全員分を一度纏めて、そこから仕事と生活に必要な分と貯蓄分を除いてから、残りを四分割にしてお小遣いにする事に決まりました。

 こうして話し合いを重ねる事で段々と、同居ルールが決まっていくのでしょうね。

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