第10話 天使さんが孵りました

 朝食を食べ終えてから二時間が過ぎて、天使さんの卵は輝きをどんどん増しています。もうそろそろ孵化しそうですね。

 ずっと卵の近くでワクワクと見守ってきたしらたまさんとちまきさんも、落ち着きがありません。ふんすふんすと鼻息が荒いです。

 そしてついに光が一際強くなりました。

 あまりの眩しさに、私は思わず目を瞑ります。


「はじめまして! ご主人しゃま!」

 瞼越しに光がなくなったのを感じると同時に、少し舌ったらずな幼く高い声が耳に届き、慌てて目を開けると、目の前には小さな……五歳くらいの年齢に見えるお子様がいました。

 輝くような金髪は縦ロール状態にカールしていて、緑の瞳はエメラルドのように深く澄んでいます。そして天使さんですので、背中には一対の純白の翼があり、頭には光る輪っかが浮いています。

 その肌は陶器のように滑らかな白色で、目がぱっちりと大きくて、とても可愛らしく綺麗な容姿をしています。

 ですが、誕生したばかりで一糸まとわぬ姿をしている事に、私は慌ててしまいました。


「え、あ、貴方が天使さんですか?」

「はいでしゅ! 僕がご主人しゃまの天使でしゅ!」

 天使さんは小さい手をしゅぱっと元気いっぱいに挙手して、明るい笑顔でお返事を下さいます。

「待って下さいね。今、とりあえず着られそうな服を持ってきますから!」

 私は急いで、寝室のタンスから上着を何枚か持ってきます。

 ただ実際に着てもらうと、羽があるので、普通の服ではうまく着れないようです。厚手のシャツを羽織って貰いましたが、背中部分がこんもりと盛り上がってしまっています。これは急いで天使専門店で服を揃えなくてはいけませんね。

 上着だけを羽織って素足のままの天使さんは、興味深げにしらたまさん達を見つめています。

 一方のしらたまさん達も、天使さんの一挙一動をじっと凝視して、興味津々の様子です。

「それでは、改めてよろしくお願いしますね。私はミモリです。そしてこの子達は聖獣さんです。こちらの白い方がしらたまさんで、こちらの灰色の方がちまきさんです。先日から同居して頂いてるので、仲良くして下さると嬉しいです」

 私から改めて挨拶します。

 正直内心では、神の補佐役である天使さんが、まさかこんなに小さな姿で誕生するとは思っていなかったので、少し驚いています。

 天使さんは最初から固定の姿で誕生するので、今後どれだけ経っても見た目が成長する事はないそうで……つまり、ずっとこの姿のままという事になります。

 私の方は特に問題ないのですが、ご本人は果たして、その姿で良かったのでしょうか? 今後の生活で、不便な事がないと良いのですが。


 そもそも、眷属となる天使さんに対して、卵状態の時に、容姿や性別、そして特技などを眷属とする神が強く希望すれば、ある程度その通りに出来るのだそうです。

 天使さんは卵状態の時に、仕える相手の前世の知識やその願望を無意識に読み取って、出来る限り希望に近づけるのが普通なのだとか。

 ただ私の場合は、私の希望に左右されるのではなく、天使さんご本人が望む姿や特技を選んで欲しいと願っていました。

 私自身、神として転生する際、自分で自分の姿を決められたのがとても嬉しかったので、天使さんにも同じように、なりたい形を自分で決めて欲しいと思ったのです。

 なので、今の天使さんの姿は私の願望ではなく、ご本人が望んだ姿なのだと思います。

 それなら私が言う事は何もありません。天使さんがその姿でも過ごしやすいように、部屋を少しずつ改造していけば良いだけです。


「わふん!」

「にゃにゃー」

 しらたまさんとちまきさんが前脚の片方を差し出して、天使さんと握手します。

「はいでしゅ! ご主人しゃまがミモリしゃまで、聖獣しゃんがしらたましゃんとちまきしゃんでしゅね! これからよろしくお願いしましゅ!」

 天使さんはにっこりと満面の笑顔でお辞儀して、しらたまさん達の前脚を小さな手できゅっと握って、「毛がふわふわで、にくきゅーがぷにぷにで、さわり心地が良いでしゅね!」と、とても嬉しそうにしています。

 また、しらたまさんは握手の後は果敢に天使さんとの距離を詰め、肩によじ登ろうとしています。

 一方のちまきさんは差し出されたままの手に鼻を寄せて、ふんふんと匂いを嗅いだりして、徐々に距離を詰めています。

 新しい同居人との初対面はどうやらお互いに好印象のようで、私も一安心です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る