第7話 浮遊スキルを取得します
おはようございます。
しらたまさんもちまきさんも、朝から元気です。
天使さんの卵もクッションに鎮座して、健やかに育ち中です。
今日の朝食は洋風にしてみました。食パンに苺ジャム、スクランブルエッグにウインナーとミニトマトとカットオレンジ、そしてホットミルクとオニオンスープという献立です。
日本のパンも美味しかったですが、こちらのパンは更に美味しいです。ジャムもすごく美味しいです。
それに野菜や果物も、新鮮で瑞々しいです。流通の際に時間遅延の神術で鮮度を確保出来るので、新鮮なのはそのおかげでしょうね。
さて、今日もいつものように山へ採取に行くのですが、今日はしらたまさんとちまきさんも一緒に行って下さるそうです。
散歩がてら、外で運動がしたいようです。
私としましても、お二人が一緒に来て下さるのは嬉しいです。一人で黙々と歩き回るより、楽しく過ごせる事でしょう。
「では、行ってきます」
「わわわん!」
「にゃーお!」
天使さんの卵に挨拶して、三人で出発です。
転移陣で山に移動した後、しらたまさんとちまきさんは最初の内は、お二人で駆け回ったりじゃれ合ったりしながら、山菜などを採取しながら移動する私の近くで楽し気に遊んでいたのですが、次第に私が何を採取しているのかを理解し始めて、「その植物ならこちらに沢山生えていますよ」と言いたげに、私を次の採取地に案内して下さるようになりました。
私と出会うまでこの辺りで暮らしていたようですし、近辺の植生に詳しいようです。
それにしても、すごく賢くて良い子達ですね。
「ふわわ。この崖は……、ちょっと登るのがきついかもしれません」
私の身長の三倍程はある急な崖を前にして、少し途方に暮れます。
ちまきさんが意気揚々と先に立ち、「次はこちらに行くと良いですよ」といった様子で案内して下さったのですが、そこには私の登攀技術では登れそうにない崖が立ち塞がっていました。
どうしたらいいのでしょうかと悩んでいたところ、しらたまさんとちまきさんは背中の小さな羽をパタパタと動かして、ゆっくりと空を飛んで崖を軽々とクリアしてしまいました。
「なるほど、お二人は空も飛べるのですね」
そういえばこれまでは地面を駆け回ってばかりでしたので失念していましたが、お二人の背中には可愛らしい羽があるのです。
体に比べて小さな羽を少し羽ばたかせるだけで器用に飛べるのは、聖獣さんならではなのかもしれません。きっと物理の力ではなく、聖力で飛んでいるのでしょう。
私が感心して見上げていると、お二人はまた羽をパタパタさせて、再度崖下まで戻ってきて下さいました。どうやら私が崖を登れない事に気づいて下さったようです。
私の足元で「登らないのですか?」と見上げてくるお二人のつぶらな瞳に、何とも申し訳ない気持ちになります。私の運動神経では、この崖を自力で登るのは難しいのです。
「……少しだけ待っていて下さい。貯めていたポイントで、浮遊スキルを取得しますから」
私はお二人にそうお願いします。
「浮遊」スキルとはその名の通り、空中を移動出来るスキルです。
ただ、移動速度は遅く、とてもゆっくりとしか移動出来ません。
高速移動したい場合は「飛翔」スキルを使います。「浮遊」と「飛翔」のスキルの違いは、速さの違いの他にも、周囲への影響の違い、そして消費神力の違いがあります。
飛翔スキルは術者の周囲を風の膜で覆う関係で、使用すると周囲を風で吹き飛ばして被害を出す恐れがあり、また消費する神力も、浮遊スキルとは段違いに多くなるのです。
そういった仕様の違いもあって、浮遊の方が飛翔よりも初心者向きのスキルです。
(私もそろそろ、次のスキルを取得するか、ステータスを強化するかしたいと思っていたところですし、浮遊スキルを取得しても良いですよね。ゆっくりとはいえ空を飛べれば、移動で今のようにショートカットする事も出来ますし、高い位置の木の実を採取したりも出来るようになりますから。採取向きのスキルだと思います)
私が今持っているスキルは採取と鑑定の二つだけですので、移動に便利なスキルを足すのは悪い選択肢ではないでしょう。
それに、しらたまさんとちまきさんのお二人は勿論、これから生まれる天使さんも、種族特性で空を飛べます。そうなると同居人の中では私一人だけ、空を飛べない事になってしまいます。
ここはぜひ、お揃いで空を飛べるようになっておきたいところです。
目を閉じて心の中でステータスと念じます。そうして、自分にだけ感知出来るステータス画面を操作して、新規スキルの取得画面を映します。
天界ではポイントを使いステータスを強化したり、スキルを取得出来るという特典がありますが、これはすべての神に平等になっている訳ではありません。
個々の素質によって取得出来るスキルには違いがあり、向いているスキルは低ポイントで取得出来ますが、向いていないスキルは高ポイントが必要になるか、最悪、取得自体が不可能だったりします。
私が以前、様々な業種の職業体験をしても中々向いている職業に巡り合えなかったように、残念ながら神になってさえ、向き不向きというのは存在するのです。
ただ幸いな事に、浮遊スキルは難易度の低いスキルですので、取得しやすいスキルです。私でも問題なく取得出来ました。一安心です。
「浮遊スキルを取得出来ました。試しに使ってみますね」
神力を込めて念じると、ゆっくりと足元が宙に浮かんでいきます。
(ふわー、ちゃんと宙を浮いています)
事前にわかっていた事ですが、こうしてファンタジー的な力を使うのはある意味初めてです。鑑定スキルで物の名前や特性がすぐに読み取れるのもファンタジーといえばそうでしたが、やはり空を飛ぶというのは特別感があります。
心躍る気持ちを感じながらゆっくりと上昇し、崖の上まで移動します。しらたまさんとちまきさんも私を見守るように、一緒に空を飛んで移動して下さいます。
「無事に崖を登れましたね」
「にゃ」
「わふ」
私達は三人で手を取り合い、新たなスキルの取得と崖の制覇を喜び合いました。
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