第6話 前世の世界との関わり方のお話です

 ご飯を炊いて、豆腐とネギと溶き卵でお味噌汁を作って、野菜とベーコンの炒め物を作ります。その他は、買ってきたお惣菜のエビフライ(タルタルソース付き)とお漬物で、夕飯の完成です。

 ちまきさん、しらたまさんと三人でご飯を食べます。

 お昼ご飯の時と同じように、私が食べる一食分と同じ量を用意したのですが、お二人ともぺろりと平らげました。お二人の体の大きさに対して量が多すぎたかもしれないと先ほど気づいたのですが、見ている限りでは問題ないようです。

 聖獣さんは、体の大きさと食べる量は比例しないのでしょうか。


 食後、私が食器を洗ったりして片づけをしている最中は、しらたまさんは居間とダイニングを行ったり来たりと家の中を探検されている様子で、ちまきさんは聖獣専門店で買ってきて先ほど設置したばかりのキャットタワーを上下移動して遊んでいる様子です。

 お二人は夕方お風呂に既に入っていますので、私は一人でお風呂です。そうしてお風呂から上がってくると、はしゃぎ過ぎてお疲れなのか、お二人ともソファの上で眠っているようです。

 寒くないようにと用意しておいた毛布の下に潜り込んでいるらしく、毛布が一部だけ丸く盛り上がっています。こちらはちまきさんですね。

 そしてしらたまさんはタオルケットを自分の下に敷いた状態で、いわゆる「へそ天」と呼ばれる寝相を披露しつつ、すぴすぴとお眠り中です。


 私はまだ寝るには早いので、残りは趣味の時間です。ネット小説が更新されているかチェックしましょう。

 寝室の机に設置されたパソコンに向かって、キーボードを操作します。

 実は、この世界から地球世界のネットに接続出来てしまうのです。

 また、ここ天界、そして他の近隣世界も、ネット環境がある世界限定ですが、ネット接続出来るのです。

 ただこれは、読み込み専門であって書き込みは出来ない、機能の限定されたものです。

 ですがそのおかげで、前世で気になっていたネット小説や漫画の続きが読めます。

 それにあちらの天界とこちらの天界の通販部門を間に通せば、あちらの世界で欲しい品物を現物で注文する事も可能です。(数量制限や品物制限といった決まりはあります)

 おかげで娯楽には困りません。とても有難いですね。

 更新されていたネット小説を読み、紅茶を淹れて一息つきます。



 かつての自分が生きていた世界に対しての干渉は、こちらの世界の天界の法で禁じられています。

 けれどそういった決まりがあっても、前世に残してきた親しい相手にお別れくらい告げたいという願望は、誰にでもあるものです。

 この世界に生まれる神は皆が前世持ちなのですから、そんな思いを抱える存在も多いです。

 その願いに対して、以前の世界への未練を減らす為の救済措置があります。

 それが、聖樹の実に宿っている期間に、親しい間柄の相手に対してそれぞれ三度だけ、夢を通して会話をする事が許されるという制度です。

 そうは言いましても所詮は夢ですから、相手の方はそれを現実とは捉えず、単なる夢、あるいは己の願望の現れとして片付ける事も多いらしいです。

 それでも、最後にきちんとお別れを告げる事で自分なりのけじめをつけやすいですし、それなりの慰めにはなるものです。


 私も以前、聖樹の実の中に宿っていた時に、家族や友人に夢を通じてお別れの挨拶をしました。

 一度だけでは伝えたい事が伝えきれず、それぞれの相手に最大数である三度、夢に立つ事を繰り返しました。

 聖樹の実に魂が宿ってから、実際に肉体を持ち神として転生するまでの期間は、こちらの世界の暦で一年程です。

 その期間、穏やかな揺り籠の中でゆっくりと過ごしながら、前世での自分の死を受け入れて新しい自分になる心の準備をするのです。

 そしてそれから、こちらの世界の仕組みを予習をしたり、自分の姿を設定したりといった、転生に向けての諸々の準備を済ませるのです。


 私が聖樹の実から誕生しこちらで活動し始めてから、もう半年になります。……そろそろ、前世の皆も、哀しみから立ち直っているでしょうか。

 どうか、そうであって欲しいです。

 ネットを通じてあちらの世界を垣間見れるとはいえ、前世の家族がどう過ごしているかといった個人情報は得られません。

 こちらから前世の人達に連絡を取る事も禁じられています。

 彼らが穏やかに暮らしていればと信じるしかありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る