第5話 聖獣さん達と天使さんの卵のご対面です
聖獣専門店を出て、その後は食料品店でお買い物を終えてから帰宅します。
聖樹都市は空間術によって建物の内部が拡張されていたり、まったく別の空間に繋がっていたりするので、見た目よりもずっと広大で複雑な構造となっています。
建物の中に入ったのに外の景色に変わったり、外観は小さな家なのに中身はホールのような大きさだったりと、複雑すぎて平面の地図では表せない有様です。
私が与えられた部屋も、そんな不思議空間の一角にあります。
寝室、居間、ダイニングキッチン、トイレ、お風呂、脱衣所兼洗面所が完備されていて、とても過ごしやすい部屋です。
その上で必要に応じて、ポイントで空間を広げて増築も可能です。広い部屋が欲しくなったり庭が欲しくなったりしても、引っ越しが必要ないので便利ですね。
まあ、その為にはポイントを貯める必要がありますが。
「ただいま帰りました」
部屋の入口から中に声を掛けてから、靴を脱いで部屋に入ります。しらたまさんとちまきさんの脚も柔らかなタオルできちんと拭いて、室内を自由に歩き回れるようにします。
「今日からここで、皆で暮らしましょうね」
「なう~」
「わっふー」
しらたまさんとちまきさんを、部屋のフローロングの床にそっと降ろします。お二人とも嬉しそうにお返事して、好奇心旺盛に部屋を駆けまわったり、あちこちの匂いを嗅いだりしています。
「実はお二人に、紹介したい方がいます。こちらの居間にどうぞ」
私はお二人を手招きで居間へと招きます。そこには、クッションに鎮座する大きくて白い卵がひとつあります。
「こちらは、天使さんの卵です。名前は孵ってから付けようと思っていますので、まだ付けていません」
しらたまさんとちまきさんに、もう一人の同居人を紹介します。
……天使さんは、神の使役として聖樹から与えられる存在です。
けれど卵を孵すにも能力を強化するにもポイントが必須ですので、使役するかどうかは本人の意思に委ねられています。
自身が強くなる事に拘る場合は、他の存在にポイントを割くのを望まれない方もおられますからね。
私は卵を受け取る事を選びました。
天使さんが卵から孵るにはポイントが必要ですので、どれだけ与えるかによって、孵化の時期が違ってきます。
天界での給与にあたるお金とポイントは、危険、不快、大変といえる仕事、あるいは長時間の労働を熟す事によって、多くを得られます。
逆に私のように、半日ちょっと働いて残りは自由といった、ゆとりのある働き方をしていますと、得られる分は少なめになります。
それに、自分が得られたポイントからどれだけを天使さんに分け与えるかも、個々の判断によって変わりますからね。
そういった事情から、天使さんがどれくらいの期間で孵化するかは、主人である神の采配によって随分と変わってくるのです。
ちなみに私は、自分が得られたポイントの内の半分を卵に注いでいます。そのおかげなのか、半年ほど前に卵を受け取った際にはウズラの卵よりも小さかったのに、今ではダチョウの卵よりも大きく育っています。
この様子ならきっとそう遠くない内に、天使さんが生まれるのではないでしょうか。
「今はまだ卵から孵っていませんが、孵ったら、ぜひ天使さんと仲良くしてあげて下さいね」
「わん!」
「にゃん!」
お二人とも、大きな卵を見て嬉しそうにお返事して下さいます。
私がローテーブルの上からクッションごと卵を降ろして床にそっと置くと、ちまきさんが右から、しらたまさんが左からゆっくりと近づいてきて、卵の側面にそっと鼻先をくっつけて、ご挨拶しています。
「さて、お二人ともこれまで野山で暮らしていたのですし、お風呂で体を洗いましょう。しらたまさん、ちまきさんは、お湯に濡れるのは大丈夫ですか?」
訊ねてみたところ大丈夫そうでしたので、私は服を着たままでお風呂場に移動します。大きな盥にぬるめの温度でお湯を溜めて、その中でお一人ずつ順番に、まずはお湯でわしゃわしゃと洗っていきます。
その後聖獣用シャンプーを泡立てて丁寧に全身の汚れを落として、ぬるめのシャワーのお湯で泡を綺麗に洗い流します。
洗い終わったらタオルで水気を拭きとって、ドライヤーで乾かしたら完成です。
ちなみにドライヤーは、電気製品ではなく神具と呼ばれる品です。
天界では、動力が必要な道具は大抵が神具か聖具です。地球の電気の代わりに、神気や聖気でエネルギーを賄っているのです。
その後、私が夕食を作っている間は、しらたまさんとちまきさんは自由時間です。
ソファーのクッションの上に寝転んで過ごしています。もふもふな毛玉になっています。たまに毛玉からしっぽが飛び出して、ぴょこんと揺れるのが可愛いです。
(暮らしに素敵な潤いが足されましたね)
改めて、同居を決めて下さったお二人に感謝です。
天使さんが無事に孵ったら、暮らしが更に賑やかになるでしょうね。その時がとても楽しみです。
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