第4話 聖獣さん達を連れて聖樹都市に帰りました

 しらたまさんとちまきさんを連れて、聖樹都市へと帰還します。

 異動手段は、徒歩で山のふもとまで降りて、その後は設置してある転移陣を起動して都市への帰還となります。

 転移陣は空間拡張鞄と同じく、神術の一つである空間術で作られた神具であり、神力を籠めれば空間術のスキルを持たない私でも使用出来る仕組です。

 転移陣は天界各地を効率良く移動する為の便利なインフラとして、あちこちに設置してあるのです。



「ハニャさん、ただいま帰りました」

 採取課の受付で待機していた先輩に声を掛けます。

「お帰り、ミモリくん。……おや、その子達は?」

「仲良くなれましたので、同居してもらおうと思いまして、連れて帰ってきました。聖獣のしらたまさんとちまきさんです」

 私は腕の中に納まるお二人を紹介します。お二人はとても小柄なので、私でも苦も無くまとめて抱っこ出来るのです。

「可愛い子達だ。こんにちは、僕はハニャ。二人ともよろしくね。ミモリくんと仲良くやれればいいね」

 ハニャさんがにこりと微笑んで、しらたまさん達に挨拶します。お二人もそれに鳴き声で挨拶を返します。

 ハニャさんは神族の先輩であり、私の教育担当官でもあります。そして本日は買取係でもありますね。

 薬草と似た見た目の違う草を採ってきてしまった場合の指摘や、適切な採取の仕方の指導などをしてくださっています。

 以前に何度か一緒に山歩きをしながら採取について直に教わった事もあり、とてもお世話になっている先輩です。

 ハニャさん灰色がかった白髪を短髪にして藍色の目をしている青年姿で、黒ぶち眼鏡が特徴の方です。穏やかで人当たりが良いので、人見知りな私でも気安く話す事が出来る有難い存在です。

 ですが、恋愛対象にはなりません。ハニャさんには既に素敵な奥様がいらっしゃるそうですからね。


「今日の成果です」

 天界から与えられた空間拡張鞄には時間遅延効果も付与してあるそうなので、取り出した収穫物はどれもかなり新鮮な状態です。種類別に袋に小分けしてあるので、種類に間違いがないか、どれだけ採れたかなどをきちんと確認してもらいます。

 ここで見逃してしまうと、毒草が調理されてしまったり調薬に使われてしまったりする恐れもありますからね。確認は大事です。

「査定が終わるまでの間、しらたまさんとちまきさんを部屋で自由にさせても良いですか?」

 査定中、ずっと大人しく待機というのも退屈でしょう。

 都市内でも聖獣さん達が自由に寛いでいる姿を見かけますし、日本と違ってリードを付けておかなければならないという制限もないようですから。

 聖獣さんは神族のペットではなく対等な立ち位置なのですから、行動の自由が担保されるのは当然と言えるでしょう。

「部屋の中なら構わないよ。でも、部屋の外に出ると迷子になってしまうかもしれないから、外には出ないようにね」

 ハニャさんの許可も下りました。それを聞いて、お二人は私の腕の中から飛び出して、床の上を元気に駆け回ります。

「にゃうん!」

「わおん!」

 追いかけっこのようにお二人がじゃれ合っているのを眺めながら、査定を続けて手続きを終了。本日の売り上げを支払って頂きます。

 ……ちなみに、こちらの世界での天界での通貨は「シェン」という単位で数えられています。日本円に換算すると、1シェンが10円から30円くらい、でしょうか? 物価が違うのではっきりわかりませんが、大体それくらいだと思います。



 採取物を買い取りして貰った後は、聖獣専門店にお買い物に行く事にしました。お二人のこれからの生活に必要な物を買う為です。

 神族には聖獣さんと共に暮らす方がそれなりにおられますので、専門店の品揃えは豊富です。

 聖獣さんは地球の動物に似た見た目の存在の他にも、まったく違う見た目の方など多種多様ですので、お店の品揃えもそれに合わせて色んな種類とサイズが取り揃えられています。

「ブラシとシャンプーは必須ですよね。他にも何が必要なのか、お店の方と相談して決めましょう。お二人も欲しい物がありましたら、遠慮なく言って下さいね」

 私は前世でペットを飼った事がないので、動物さんと同居するのに必要な物が何かわかりません。ですので、専門家とご本人の意見を窺いたいと思います。

「にゃにゃにゃ、ふーにゃん」

「これが良い感じです」「こちらも気になります」と言いたげに、ちまきさんは自分に必要そうな物を、前脚で積極的に指示していきます。

 たまに私をじっと見つめて、「これも買って良いですか?」と言いたげに窺ってくるのを感じます。

 ちまきさんはどうやら、買い物にはお金が必要な事も、お金を稼ぐには労働(採取物の売り払い)が必要な事も、今日の出来事だけで理解した様子です。ちまきさん、すごく賢いですね。

 そして私の懐具合まで気遣って下さるなんて、なんいい子なのでしょう。感激です。

 流石にお値段が高すぎると手持ち的に厳しいですが、出来る範囲でご希望の物を揃えてあげたいです。


「わふわふ! わふんっ」

 一方、しらたまさんは店員さんの足元にじゃれついて、遊んで欲しそうな様子です。自分の持ち物にあまり拘りがないのかもしれません。初対面の店員さんに好奇心いっぱいにじゃれついていますし、人見知りしない性質なのでしょう。

(私と会った時もそうでしたが、とても無邪気で人懐っこいですね)

 それでも、私とちまきさんが買い物で場所を移動すると、慌ててこちらに駆け寄ってきて、「次はどこに行くのでしょうか?」と言いたげに、私達の周りをぐるぐると駆け回ります。

 遊びに夢中になってこちらの動向に気づかず離れ離れに……とならない辺り、しらたまさんもとても賢いですね。

 どうやらしらたまさんは駆け回って遊ぶのがお好きなようですから、玩具としてボールやフリスビーを買っておきましょう。喜んで下さると良いのですが。

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