第3話 聖獣さん達に名前を付けます
もふもふの可愛らしい聖獣さん達と一緒に、お弁当を食べる事になりました。
私の昼食用に商店街で買ってきた、卵焼きやハンバーグの入ったお弁当が一人分だけでは、三人で分けて食べるには量が少ないでしょう。
なので私は非常食として空間拡張鞄の中に入れていた、ご飯パックとツナ缶と焼き鳥缶も出す事にしました。
異世界の天界なのにこうして日本食が食べられるのは、神族の先輩の中に、私以外にも日本出身の方々がいらっしゃるからです。
その方々が、米や味噌や醤油といった日本食に欠かせない食材を、こちらで開発して流通させて下さっているのです。
食べ慣れた食材や料理をこちらでも不自由なく頂けるのは、本当に有難い事ですね。先輩方には感謝しています。
……ツナ缶にマヨネーズと醤油を掛けてツナマヨにしたものと、焼き鳥缶の中身、そしてお弁当とご飯パックを、お皿にそれぞれ三等分していきます。
聖獣さん達は人や神向けの料理を食べるのは初めてなのか、好奇心いっぱいのキラキラした眼差しで私の手元をじーっと注視したり、ふんふんと熱心に匂いを嗅いでみたりして、食事を待ち侘びている様子です。
「はい、分け終わりました。では頂きましょうか」
「わぅん!」
「にゃお!」
お二人は待ってましたと言わんばかりにお返事して、目の前に置いたお皿に豪快に顔を突っ込みます。はぐはぐもぐもぐと元気いっぱいに食べ始めます。
見ていると可愛らしくてつい視線を向けてしまいますが、私も箸を手に取って、一緒に食事を始めます。
お弁当を丁度良い温度に温める為の神術スキルもあるようですが、残念ながら私はまだ、該当のスキルを取得していないので使えません。
それでも冷めていても、お弁当は美味しいです。
「ご馳走様でした。……お二人も満足出来たでしょうか?」
非常食を追加した甲斐あって、お腹も程よく膨れました。自分の分を完食してお二人に訊ねると、お二人のお皿に盛りつけた分も綺麗に空になっています。
「きゃん!」
「なう!」
嬉しそうな返事と、満足そうに前脚と舌で顔をペロペロ洗っている様子から、どうやら提供した食べ物に満足して頂けたようです。
お弁当を食べ終わった後は、お茶を飲みながら腹ごなしの休憩をします。食べてすぐに動くとお腹が痛くなってしまったりするので、休憩は大事です。
いつもは採取物の収穫量によって、その後の行動が変わります。
採取物が午前中の内に目標に達していればこのまま住処である聖樹都市へ帰りますし、そうでなければもう少し歩き回って採取を続ける場合もあります。
自然に生る物ですから、日によって採取量が変わるのです。
あまりにも収穫が少ないと買取額も少なくなってしまい、生活費が足りない事態になりかねません。それは困ります。
実は天界では、割り当てられた部屋の代金や水道料は無料です。税金もありません。そのおかげで暮らしに必要なお金は少なく済みますので、とても暮らしやすいです。
最低限の暮らしをするなら、お金を必要とするのは衣服代や光熱費くらいでしょうか。
神族にとって、贅沢な食事は必須ではありませんからね。綺麗な水と少量の果物があれば、それで事足ります。そして果物は豊富に自生していますから、自分で採取する手間さえ掛ければ、お店で買う必要もないのです。
……ですがそれでもやはり、美味しい食事を食べたいと思うのが人情です。
日々を楽しく暮らすにはそれなりの娯楽が必要です。
そして、一番多くの神族が求める娯楽こそが「食」なのです。
私もそうした考え方を持つ内の一人で、例え他の出費を削ったとしても、食費はあまり削りたくないという考え方なのです。
その為には、それなりの収穫量を確保しないと厳しいという訳です。
(幸い今日は、午前中にそれなりの収穫量を確保出来ています。このまま帰っても問題ないでしょう)
すぐ近くで満足そうにゆったり寝そべる猫さんと、辺りを元気いっぱいに駆けまわる犬さんの姿をのんびりと眺めます。
お二人とも幼く見えますが、聖獣さんならば天界の自然の中で問題なく暮らしていけるのでしょう。
けれどほんの僅かな時間一緒にいただけなのに、私の方が彼らと離れがたく思ってしまいます。
まだ出会ったばかりですが、もし良ければ私と一緒に来てくれないでしょうか。
「あの、私はそろそろ、聖樹都市に帰ろうと思います。……その、お二人はどうしますか? もしよければ、私と一緒に来て下さいませんか?」
このままお別れするのはとても寂しく感じられて、思い切って一緒に来て欲しいとお願いしてみます。
「にゃにゃう」
「わわわん」
お二人はお互いの顔を見合わせて頷き合ってから、揃って私の膝に前脚を置いて、しっぽをぶんぶんと振って、キラキラの眼差しで見上げてきます。これはおそらく同意ですよね。嬉しいです!
「ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね!」
「わん!」
「にゃう!」
私はお二人のふわふわの前脚を手に取って、三人で握手します。
想像以上にふわふわで気持ちの良い毛の手触りが伝わってきて、手のひらには肉球のぷにぷにした感触が感じられて、気持ちが浮き立ちます。
聖獣さんは神族にとって、相棒とも呼ぶべき対等な存在です。
本来ならば寝床も食事も自力で何とか出来る、強く賢い種族なのです。なので気が合わなかったり居場所が気に入らなかったりすれば、きっとすぐに出て行ってしまうでしょう。
私の暮らす部屋が、無事に彼らに気に入って貰えれば良いのですが。
「では一緒に帰りましょう。……あ、その前に、お二人に名前を付けてもいいでしょうか?」
これから一緒に暮らすのに、いつまでも「犬さん」「猫さん」とお呼びするのもおかしな気がします。
彼らに本来の名前があるのかどうかはわかりません。
いずれ彼らが成長して言語を喋れるようになれば、もしかしたら本来の名もわかるかもしれませんが、今はその名を知る術はありません。
なのでひとまず、私が呼ぶ為の名前を付けさせて欲しいとお願いします。
「わん」
「にゃん」
お二人とも「構いません」と言いたげに、鷹揚に頷いて下さいます。
「はい。では犬さんの方は「しらたま」さん、猫さんの方は「ちまき」さんとお呼びしても良いでしょうか? どちらも、私の前世の世界の食べ物の名前です」
「わおん!」
「にゃおん!」
色で見れば、白い毛並みの犬さんを「しらたま」と呼ぶのはともかく、灰色の毛並みの猫さんを「ちまき」と呼ぶのはおかしいかもしれませんが、灰色の食べ物で可愛らしい名前が、咄嗟に思い浮かびませんでした。フィーリング勝負で良しとしましょう。
ともあれ、無事に同意が取れましたので、これからは「しらたまさんとちまきさん」と呼ぶ事に決定です。お二人とも、どうぞこれからよろしくお願いしますね。
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