第2話 採取の途中で聖獣さん達に出会いました

 自然豊かな山に分け入って歩き回りながら、山菜や薬草や野草など、売れる物を選んで採取していきます。

 効率良く採取できる場所と種類をしっかりと覚えないと、山を歩き回る重労働のわりには収穫物が少なくなってしまって儲けが出ないので、覚えの悪い私なりに頑張って覚えました。

 神として誕生してからしばらく、様々な職業体験をしてみましたが、私は自分に向いている職が中々見つからず、様々な業種を体験してきました。

 最終的に採取を本業にすると決めた後は、コツコツ貯めていた神ポイントを使って、「鑑定」と「採取」のスキルを取得しました。

 そのおかげで、目当ての植物の分別は、覚えなくても「鑑定」で分かるようになっています。

 それでも敢えて採取物の種類を自分の頭で覚えるのは、その方が効率が良いからです。

 遠目から視界に映る物すべてに鑑定を掛けると、大量の文字が一気に浮かび上がってきて、目当ての物を探すのに苦労するのです。

 ですから、目当ての植物の特徴を最初から記憶しておいて、摘み取る際にさっと鑑定で確認する方が、手間が掛からず手早く済ませられるのです。


 私が採取に出歩くのは、天界の中でも主に聖樹を中心とした周辺地域です。

 この辺りは季節こそ存在しますが、温暖で極端な温度差はありません。

 冬でも雪は降りませんし、夏でも半袖が必要ないくらいに快適な気候です。

 そういった気候が関係するのか、あるいは天界という特殊な土地柄故なのか、この辺りでは一年中、色んな種類の山菜や薬草が豊富に自生しています。とても有難い事ですね。

 また、聖樹は天界にとっても重要な聖域であり、聖樹の周りには強固な聖結界が張り巡らされていますので、神を襲ってくるような危険な魔物や動物は、結界内には存在しません。そのおかげで、一人で出歩いていても安心です。

 ただ、自分で転んだり崖から落ちたりした場合は怪我をするので、その点は注意して行動しなければなりませんね。



 ふと、採取物を摘み取る為に地面に向いていた顔を上げます。

 木々の向こうから、わんわんにゃにゃんと賑やかな鳴き声が耳に届きました。

 犬さんでしょうか、それとも猫さんでしょうか……と思いながら、気になって見に行ってみたところ、白い犬さんと灰色の猫さんがお二人で遊んでいました。どちらも長毛種で小型で、ふわふわのもっふもふです。まだ小さくて幼い感じの外見で、とてもとても可愛らしいです。

(はわわ、真ん丸な毛玉さんに短い手足が生えているようです。なんて愛らしいんでしょう)

 あまりの可愛らしさに、ついそちらを凝視してしまいます。

 天界には普通の動物は存在しないはずですので、彼らはおそらく聖獣さんなのでしょう。ふわふわの毛に紛れてわかりにくいですが、よく見ると、犬さん猫さんのどちらも、背中に小ぶりの羽が生えているようです。あんなに小さな羽で飛べるのか不思議ですが……聖獣さんなので、物理の力だけで飛ぶ訳ではないのでしょうね。


(ふわふわでもふもふで、すごく撫でてみたいです。……でも、このまま近づいていいものでしょうか?)

 聖獣さんは基本的に神族と共生関係にあるので、近づいても攻撃されたりはしないと思います。

 以前、職業体験している時、教官役の先輩がフラミンゴさんの姿をした聖獣さんを、仕事中に常に一緒に連れていたのを覚えています。

 聖獣さんはきちんと仲良くなれれば、私達の相棒や友人のような存在として、共に在ってくださる存在なのでしょう。

 ですが私は、動物の扱いに慣れていません。前世でも、一度もペットを飼った事がありませんし。

 どうしたらいいか迷って眺めていたら、どうやらあちらも私の存在に気づいたようです。

 こちらを見て、元気良く鳴くお二人。目がキラキラと輝いていて、敵意は少しも感じられません。

 犬さんの方は長い白い毛につぶらな青い目をしており、猫さんの方は長い灰色の毛につぶらな紫の目をしています。どちらもとても綺麗で可愛らしいです。

「わわん!」

「にゃうなん」

「……こんにちは?」

 私はどうしたらいいのか迷って、首を傾げて挨拶します。


「わん!」

「にゃん!」

 お二人は元気にお返事をしてくださって、こちらに駆け寄ってきます。

 それでもその勢いのままにいきなり飛びついてきたりはせず、私の近くを駆け回って、嬉しそうに見上げてきます。気遣いの出来るいい子達です。警戒心は感じられず、無邪気さと好奇心に溢れる目でこちらを見つめてきます。

 そして、近くで見るとより一層、小さくて愛らしくて、もう、言葉に出来ない程に可愛らしいです。

(こうして出会えたのもご縁ですし、出来れば撫でる許可を頂けるくらい、仲良くなれれば嬉しいのですが)

 つい、下心が発動します。

 お二人のそのもふもふでふわふわな毛を、是非堪能させて頂きたいです。


「初めまして、私は神薙 美杜と申します。ミモリと呼んで下さい」

 初対面でいきなり撫でていいかと訊ねるのも失礼でしょうし、まずは頭を下げて自己紹介をします。お付き合いの基本は挨拶からですよね。

(確か、歳を経た聖獣さんは、言葉を喋れるようになると習いました)

「お二人とも、こちらの言葉は喋れますか?」

 天界の常識を習った時の内容を思い浮かべながら、そう訊ねてみます。

「わーぅん」

「なーう」

 私が恐る恐る質問すると、お二人は揃った仕草で「いいえ」と言いたげに首を横に振りました。どうやら、こちらの言葉はきちんと通じているようですが、喋る事は出来ない様子です。

(まだ幼い感じですし、生まれてからそう経っていないのでしょうね)

 聖獣さんは親から生まれてくるのではなく、天界に漂う聖気が凝って生まれる存在だそうです。ですのでこのお二人も血縁ではなく、偶々出会って仲良くなって一緒に行動しているとか、そういった関係なのでしょう。


(聖獣さんは味の濃い料理を食べても、健康に問題はないはずですよね)

 彼らと仲良くなるにはどうすれば良いか考えていて、ふと彼らの生態が頭に浮かびました。

 聖獣さんは天界に漂う聖気を吸収する事が食事となるので、他には綺麗な水や果物を少量摂取すれば、それだけで良いらしいです。なのでこの子達も肉食獣な見た目に反して、天界に自生する果物が主食のはずです。

 ですが、別に他の物が食べられない訳ではないと聞いた事があります。

 実は私達神族も、本来ならば聖獣さんと同じで、聖気を吸収していれば、綺麗な水と果物少量で足りる体質なのですが、それでも前世が人間だった記憶があるせいか、多くの人が多彩な食事を好みます。

 その食事とは当然果物だけでなく、穀物や野菜、肉や魚、香辛料なども豊富に使って調理された物です。レシピのレパートリーもそれぞれの前世の物を取り入れており、大変バラエティー豊かな多国籍(多世界)料理です。

 私が採取する山菜に需要があるのもそのおかげです。

 例え果物と水だけで過ごせる体質だとしても、やはり美味しい物が食べられるならそうしたいですよね。人情的に。

 なのでもしかしたら聖獣さんも私達と同じように、もっと色々な種類の美味しい物を食べたいと思ったりするかもしれません。


 お昼に食べる用に持参したお弁当に思いを馳せます。

 私が背中に背負っているのは、神術で空間拡張が施されたリュックです。こちらは神見習いに一律に配布された初期装備です。今は中に、採取物やお弁当などを入れています。

「よければお二人も、一緒にお弁当を食べませんか?」

「わん!」

「にゃう!」

 お二人はぱっと表情を輝かせ、嬉し気に地面を飛び跳ねました。

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