天界でスローライフしています
アリカ
第1話 異世界の天界に転生しました
こんにちは、はじめまして。神薙(かんなぎ) 美杜(みもり)と申します。
性別は女性です。元は地球という星の日本という国で、一介の女子高生として過ごしていました。
現在は地球とは違う星……というか違う世界で、人の住まう人界ではなく天界に転生しまして、神見習いという立場で暮らしています。
冗談のような話ですが、本当です。驚きですね。
ですが、天界に住まう神の見習いとはいえど、毎日宴を開いて豪華三昧とか、そういう優雅な暮らしをしている訳ではありません。
きちんと働いて、お金と神ポイントを稼がなくてはならない日々なのです。
……神ポイントというのは、労働の対価として天界上層部から支給される代物で、これを使ってステータスを強化したり、スキルを取得したりできる代物です。とても便利ですね。
神であっても、聖樹の実から孵ってすぐの生まれたての見習いは、あまり強くないですし、便利な力も持っていないのです。
努力して働いてポイントを貯めて、それを使って強くなってようやく、きちんとした神になれるという寸法です。
ちなみにお金はそのまま、食料や衣服などの生活必需品を購入するのに使います。こちらは地球と同じようなものです。
私が思うにおそらく地球の天界では、こちらのシステムとはまた違うシステムで運営しているのではないでしょうか。単なる想像ですけども。
どちらにしろ、この世界はそういうシステムで回っているのですから、受け入れるしかありません。
それと、聖樹の実から孵る神見習いは、毎年百人くらいの人数がいます。結構多いですね。
今年生まれたばかりの私にも、同期が百人ほどいます。
そういう見習い神達が沢山いますので、一人が特別扱いとかそういった事は全然ないです。
ここの神は皆が私と同じように、どこか別の世界で生きた記憶を持った前世持ちであるそうで、そういった意味でも私の存在はまったく珍しくありません。
そもそも天界に暮らす住人は神やその眷属、そして聖獣といった存在しかいませんので、神だからといって無条件に敬われたりはしません。人柄が良かったり身分が高くなれば敬われますが、私達のような見習いは一番の下っ端ですから。むしろ上に気を遣ってばかりですね。
聖樹の実から生まれてすぐに、先輩さん達からここでの暮らしについての教育を受けて、どんな職業につきたいかを話し合い、一通りの教育実習を受けましたら、すぐに労働開始です。忙しないですね。
これだけだと、天界で神として暮らすのも人界で人として暮らすのも、あまり変わらないと思われるかもしれません。
ですがこれでも一応は神ですので、人とは違う部分も当然あります。
特に神族らしいと思えるのは、容姿と寿命でしょうか。
天界で神として転生する前段階として、聖樹の実の中でしばらく、揺り籠のようにゆったりと過ごす期間があるのですが、その期間中に、自分で自分の外見を好みで選べるのです。
デフォルトで何種類も美しい容姿のモデルが用意されており、そこから更にカスタマイズして、理想の自分を作り上げていく訳です。
外見年齢は勿論、性別も自分の意思で選べます。男性、女性、無性、両性具有など、選択肢も豊富です。
それと髪、目、肌の色や質感なども自由に選べます。
年老いて死ぬという事もありません。一応は不老不死です。ちょっと限定的ですが。
実は、天界の象徴である聖樹の根元には神の核がまとめて保管されており、それを砕かれない限りは、生身の体を失っても、何度でも聖樹の元に復活できるという仕組みなのです。なんだかゲームみたいですね。
なので、もし外敵に天界まで攻め込まれ、聖樹もろとも攻撃されて核が壊されてしまえば、私達は滅んでしまうという訳です。
ですので完璧な不老不死ではなく、限定的な不老不死なのですね。
聖樹の守りを受け持つのは、神の中から選抜された優秀な守護神達です。
そうやって聖樹と核を厳重に守らねばならないのには理由があります。
可能ならば天界まで攻め込んで、神や天界を滅ぼしたいと目論んでいる、敵対的な種族が存在するからです。
それは、魔界に住む悪魔族です。
神族と悪魔族は永い事、いくつもの世界を巡って争っています。
魂は清く澄めば天に上り、暗く濁れば魔に落ちます。遥か昔から勢力拡大を狙って、魂のリソースを奪い合う戦いが、天と魔で繰り広げられているのです。
天の生物が魔に落ちたり、魔の生物が天に昇ったりするのは滅多に怒らない為、双方の狙いは自然と、人界に存在する魂に絞られています。
神は人を導き善なる行いを推奨し、悪魔は人を堕落させて悪の道に誘います。
前世の地球では、神話や創作物の中ではともかく、日常にはそういった話は聞かなかったものですが……実はあちらの世界でも、裏では天界と魔界で丁々発止やり合っていたのでしょうか?
その辺りは私にはわからないですが、少なくともこちらの世界では、天界と人界と魔界の関係はそんな感じです。
悪魔と戦う戦士は、天界の中でも花形の職業です。
危険な分だけ実入りが良いので、給料も断トツです。それはお金でもポイントでも同様です。
当然私も戦士職には憧れがありましたが、運動神経が鈍いので戦闘は向いていないと、戦闘担当の教官に判断されてしまいました。……残念ながら自己判断でも同感です。
いずれ、神ポイントを使ってステータスを強化できたら、多少は戦えるようになるかもしれません。ですが、今はまだ到底無理な話です。ポイントでかなり念入りに強化してからでないと、これからも難しいでしょうね。
(集団行動やパーティプレイは、人見知りでマイペースな私には向いていないので、一人で戦えるくらいまでポイントで強化するまでは、実戦はお預けです)
私は見習い用に与えられた個室で、櫛で髪を梳かしながらそう考えます。
真っ直ぐな性質のサラサラな髪は漆黒で、煌めいた艶があります。鏡越しに見る容姿は、肌は乳白色できめ細かい質感であり、目は宝石のように澄んだ水色です。
外見は、十代半ばの美少女です。
自分の姿を美少女と言うのは非常にアレなのですが、我ながら渾身の作なので、ついつい見とれてしまいます。
聖樹の実の中にいる時に、頑張って試行錯誤して、理想通りに作り上げた姿ですので。
腰より長い黒髪を三つ編みにして、その後バレッタで頭の後ろに纏めます。動きやすさ重視の髪型です。
服装は、汚れても構わない綿の長袖シャツと厚手のズボンです。これから行くのは野外なので、こちらも動きやすさ重視です。
荷物はお弁当や水筒の他、非常食やランプ、採取物を入れる袋などをいくつか。そして腰には鉈とナイフを装備します。
まるで神らしくない恰好ですが、これが私の普段の仕事着です。
何故なら、私のお仕事は採取係だからです。
神に転生しておいて、何故あえて採取? と首を傾げられそうですが、私は現在、山野に自生する山菜や薬草、野草などを採取して、それを売り払って生計を立てています。
悪魔と戦う戦士は無理となった後、他の職業も色々と教育実習で体験してみたのですが、書類を処理する文官も向いておらず、料理や裁縫といった生産活動にも、繊細な作業が苦手な私は向いていないとされてしまい、できそうな仕事を探してあれこれと試しているうちに、採取に行き着きました。
前世の日本では、私は田舎の農家生まれでした。
春に山菜を採取するのが好きだったので、それだけは進んで毎年やっていました。それを生かして今世でも、天界で採取生活をしていく事になった訳ですね。
逆に言えば、他に私に出来そうな職業がなかったという事なのですが……。
取り柄のない身が切ないです。
ですが前向きに考えれば、神見習いとして真面目にやっていけば、いずれは神ポイントが貯まりますから。
ポイントを使ってスキルを入手したりステータスを強化したりしていけば、いずれは段々と、出来る事が増えていくと思います。
いつか私にも出来る事が増えるのを未来の楽しみに、今日も地道に、平和な天界の自然の中で、採取行動に励もうと思います。
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