キルキルサイボーグ
後藤文彦
キルキルサイボーグ
ミルミル
キルキルが 4さい の とき、おとうと が うまれた。おとうと の なまえは ミルミル だ。かあちゃん も とうちゃん も ミルミル ばっかり かわいがる ので、キルキル は やきもち を やいて おもしろく なかった。ミルミル が 1さい に なって、いっぱい うごける ように なってくると、キルキル は、ミルミル と いっしょに あそんだ。ミルミル は とても かわいかった けど、かあちゃん や とうちゃん が あんまり ミルミル ばかりかわいがるので、キルキル は やきもち を やいてミルミル に いじわる したり、かあちゃん や とうちゃん が 見ていない ときに、こっそり ミルミル を たたいたりした。それが、とうちゃん や かあちゃん に 見つかると、キルキル は すごく おこられた。そういうとき、とうちゃんは、
「キルキル が ミルミル に やきもち やいでんのは わがっけっと、んだがらって、ミルミル ば いじめだら、ますますキルキル は おごらいんだど。キルキル ばがだなあ。ミルミル ど ながよぐして、ミルミル に やさしぐ してれば、キルキル も かわいがらいんだど。とうちゃんだって、キルキル ば かわいがりてえ げっと、いっそ わりい ごど ばり してっから、かわいがれねんだ。」
という。
とうちゃん
かあちゃん も とうちゃん も、キルキル の ことを おこって ばかり いる。かあちゃん は、キルキル が、たべもの や のみもの で ふく や ゆか を よごしたりすると、すぐ おこる。とうちゃん は よごして も おこらない。とうちゃん が おこるの は、あぶない こと を したとき や ほかの ひと が いやがる こと を したときだ。 だから、ミルミル を おしたり して、ころばせたり すると、
「ちっちゃい こ の ほね は、よわい から、おれやすいんだぞ。もし、ほね おれだら、たいへん な ごどなんだど!」
と、かんかん に なって おこる。キルキル は、ミルミルばかり かわいがられて、やきもち を やいて あたまに きたから、ミルミル に しかえし を してやった だけ なのに、どうして、とうちゃん に そんなに おこられ なければ ならない の だろう。
「こらっ、わがったのが!」
とうちゃん の おこる の は とまらない。キルキル は、すなお に とうちゃん の いうこと を きく の は、くやしい ので、ゆび で 耳を ふさぐ。
「…らっ、とうちゃん が、大っきい こえ で おこってる とき は、あぶない ごど どが、すぐに いうごど きがねげねえ どぎ なんだど!耳 ふさいで、とうちゃん の いうごど きがねがったら……」
とうちゃん は、ますます かんかん に なって おこり つづけている。
じこ
とうちゃん は おこって ない とき は やさしい。ある日、キルキル は、とうちゃん と ふたり で、スーパーに かいもの に 出かけた。キルキル は うれしくて、どうろ を スキップ しながら どんどん はしって いった。とうちゃん よりも さきに スーパー に つきたい と おもった。
「キルキルっ、あぶねっ、はしんな!」
とうちゃん が さけんだ。とうちゃん は じぶん が、おそく なって まけそう だから、そんな こと を いって いるのだ。キルキルは、どうろ の まん中を どんどん はしった。
「こらっ、あぶねでば! どうろ の まん中 はしって だめだ!」
とうちゃん は また おこりだした。キルキル は あたま に きて、ゆび で 耳を ふさぎ ながら はしった。とうちゃん が、なんか ひっし に さけんで いるようだった。ゆび を 耳に つっこんで いると、あんてい が わるくて ころんで しまった。
「…よげろっ! すぐに ころがれっ!」
ゆび が 耳から はずれて とうちゃん が ひっし に さけんで いる の がきこえた ― と おもったら、目の まえ に、大きな トラック が きて いた。あ、もう まに あわない。キルキル は トラック に ひかれて しまった。
キルキルの のうみそ
キルキル は きゅうきゅうしゃ であきた かがく だいがく に はこばれた。からだ は ぐちゃぐちゃ だった。のうみそ だけ が たすかった。キルキル の のうみそ は、みず の 入った とうめい な カプセル に 入れられ、けっかん から えいよう が おくられて いた。のうみそ だけに なったキルキルは、かんがえる こと は できた けど、もの を 見たり、音を きいたり すること は できなかった。
とうちゃん は、おいしゃさん に きいた、
「この子の のうみそ は、ずっと カプセルの中で、いきていがねげ ねえ の すか。」
おいしゃさん は いった、
「いえ、もし、この子の のうみそ ば、サイボーグの じっけん に つかわせて もらえんだごって、おかね は、ただで いいがら サイボーグに してあげすと。んでも、せいこう すっか どうが は わがんねげっと」
とうちゃん は いった、
「わがりした。この子の のうみそ ば サイボーグの じっけんに つかって けらいん。ぜひ おねがい すっから」
キルキルの のうみそ は、たくさん の でんせん で コンピューターとつながれて、そのコンピューターには、ものを 見る ための カメラ、音を きく ための マイク、こえ を 出す ための スピーカーなどが つながれた。
トラックに ひかれて から、なに も 見えなくて、なに も きこえなかったキルキルには、カメラに うつった へや の 中 が 見える ようになり、マイクに 入った おいしゃさん の こえ が きこえる ようになった。でも、その けしき は、ゆがんで いて、いろ も なんだか おかしかったし、おいしゃさん の こえ も、キーキーと、なんだか おかしくきこえた。でも、おいしゃさん が なに を いって いる のか は わかった。
「キルキルさん、きこえるすか?」
と おいしゃさん が いった ので、キルキルは、「きこえるよ」と、いった つもり だったけど、スピーカーから、
「ッガ、ギーゴージョー、ガガガガガ」
と音が なった ように キルキルには きこえた。
「そっかー、きこえだがー、いがった、いがった」
と おいしゃさん は いった。キルキルは、「キルキル、トラックに ひかれで、どうなったの?こごは どこ? おとうさんは? おかあさんは? 」と いって みたけど、
「ッガ、ギーギー、ドッゴ、ッガ、ヒガ、ッガド、ッゴ、ッゴ、ドッゴ? ッオド? ッオガ、ガガ?ガガガガ」
とスピーカーが なって いるように きこえた。おいしゃさん は、
「まあ、まあ、まあ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。ちゃんと しゃべれる よう に なるまで、いろいろ どコンピューターの ちょうせづ しねげ ねえがら。まあ、まあ、まあ、そう あわてねくて、いいがら。おかあさん ど おとうさん ど おとうとさん は、いま、でんわ してよんで あげっからね。」
キルキルの のうみそ は、あきた かがく だいがく の サイボーグけんきゅうしつ というところ に はこばれて きていた。そこには、おいしゃさん の ほかに、コンピューターを いじる 人や、きかいを つくる人 など、いろんな かがくしゃ の 人が きて、キルキルの のうみそ と でんせん で つながっている コンピューターや、そのコンピューターに つながっている カメラやスピーカーなどのきかい を ちょうせつ した。かがくしゃ の 人たち が、いろいろ な ちょうせつ を すると、もの の 見えかた や、音の きこえ かた や、こえ の 出かた などが かわってくる。キルキルは、見えかた や きこえかた が どんなふう にかわった のか を おしえると、かがくしゃ の 人たち は、また ちょっと ちょうせつ を して、すこしずつ、すこしずつ、キルキルは トラックに ひかれる まえ と だいたい おなじ くらい に、見たり、きいたり、しゃべったり が できるよう に なった。とうちゃん は、
「キルキルど はなし でぎる ように なった。これだげでも じゅうぶんだ。いがった。いがった」
といって、よろこんで いた。かがくしゃ の 人たち は、
「んで、こんど は、手ど足 うごかす じっけん すっから」
といった。
キルキルロボット
つぎ の 日、キルキルの まえ には、キルキルと そっくり の かお や からだつき の ロボットが はこばれて きた。そのロボットは、キルキルの のうみそと つながれた コンピューターと たくさんのでんせん で つながれた。ロボットを いじって いた人が、
「どれ、カメラば ロボットの目のカメラに きりがえっから」
と言って、コンピューターを かちゃかちゃ と いじった。そしたら、いっしゅん 目の まえ が まっくら に なった と 思ったら、今まで 見えていた ばしょ と ちょっと ちがう ばしょ が 見える ようになった。あれ、ここは どこだ? と おもって、あたり を 見まわしたら、なんか、くび が うごいて いる ような かんじ だ。あっ、キルキルは、じぶん の のうみそ が、すいそう の 中に ぷかぷか と うかんで、いっぱい でんせん が つながれて いる の が 見えた。キルキルは 今、ロボットの 目に とりつけられた カメラから見ている のだった。
「ちゃんと、見えっちゃ?」
コンピューターを いじって いた人が いった。
「うわー、くび も うごぐー」
とキルキルが いうと、その こえは、ロボットの 口の おく の スピーカーから なっている の が、ロボットの 耳に とりつけられた マイクから きこえる の が わかった。キルキルは 今、じぶん が、ロボットの かお の あたり に いる ような かんじ が した。
「どれ、んで、手も うごぐ ように して みっから」
コンピューターを いじって いた人が そう いうので、 キルキルは、手を うごかして みると、 ロボットの 手が、あちこち に うごいた。 まだ、じぶん の うごかしたい ように は うごかなかった。 それから まいにち、キルキルは 手を うごかす れんしゅう や 足 を うごかす れんしゅう を つづけた。 とくに あるく れんしゅう は なかなか むずかしかった。 なんにち も なんにち も れんしゅうして、コンピューターも ちょうせつ して、キルキルは どうにか ころばないで あるける ように なった。おいしゃ さん が やってきて、
「どれ、そろそろ のうみそ ば ロボットの あたま に 入れで みっか」
といった。キルキルの のうみそ は、ロボットの あたま の 中の 小さい すいそう に 入れられた。ロボットの うで や 足 は でんき で モーターを うごかして うごき、カメラで ものを 見たり、スピーカーで こえを 出したり するのにも、でんき を つかう。ロボットの からだ の ひょうめん には、からだじゅう に たいよう でんち が ついて いて、光を あびると たいよう でんち で でんきを つくって、それを ためて おくこと が できる ように なっていた。でも、のうみそ を 生かして おく ため には、えいよう や さんそ という くうき が ひつよう だ。むね の ふたを あけると、そこに えいよう の しる が 入った かんを 入れられる ように なっていた。さんそ は、口から くうき を すって、とり入れ られる ように なっていた。
「えいよう も、口がら たべもの たべて、とり入れ らいる ように したいんだげっと、も すこし まってでね。あ、んでも、あじセンサーの べろ つけだがら、たべもの の あじ は わがる ようになっから。たべだ もの は、はら の タンクに たまるがら。いっぱい に なったら すてねげねえよ」
キルキルの のうみそ は、ロボットの あたまの 中に 入れられ、ロボットと コンピューターに つながれていた でんせんも はずされ、キルキルは、のうみそ いがい は すべて きかい の サイボーグとなった。
リモコン
ミルミルと かあちゃん と とうちゃん が サイボーグ けんきゅうしつ に やってきた。かあちゃん は、キルキルの ふく を もってきた。とうちゃん は だっこ していた ミルミルを ゆかに おくと、キルキルを だっこ した。そして、
「うわー、おもでえごだ」
といった。サイボーグけんきゅうしつ の 人は、
「きかい だがらねえ。パワーも あっから、あぶない ような どぎは、この リモコンで パワーば よわぐ して けらいん」
といって、とうちゃんに ケータイでんわ みたいな リモコンを わたした。
ひさしぶり に、うちに かえってきて、キルキルは ミルミルと あそんだ。ミルミルは、だいぶ しゃべれる ように なっていて、
「ねえね、ブーブ つぐってえ」
といって、キルキルの 手を ひっぱって、つみ木 の ところに つれて いった。キルキルは、つみき で、車を つくって やった。まだ、手の コントロールが うまく いかないので、つくる のに なかなか くろう した。そしたら、ミルミルは、
「ガッチャーン」
といって、せっかく キルキルが つくった 車を くずして こわして しまった。キルキルは すごく あたまに きた。ミルミルは、キルキルが サイボーグけんきゅうしつ に いる あいだ、ずーっと、かあちゃん と とうちゃん を ひとりじめ していた くせに、と おもうと、ますます あたまに きて、キルキルは、つみ木を ミルミルに むけて ぶんなげた。でも、まだ 手の コントロールが うまく なかった ので、つみ木は ミルミルには あたらないで、かべに ぶつかり、ズコンっと 大きい 音を たてて かべに つきささった。その音を きいて とうちゃん が とんできた。
「キルキルっ、なに やったのやっ? つみ木 なげだのがっ。なんで そんなごど するんだ。つみ木は すごく かたい ものだ って わがってっぺ。しかも、今の あんだ は、きかい の からだ だがら、力 つよいんだど。もし ミルミルに あたって だら、どう なってだど おもう? かべに つきささった っつうごど は、ミルミルの あたま にも つきささってだど。あたま に つみ木が ささって のうみそ が つぶれて しまったら、もう サイボーグに なる ごど も でぎねんだがらな。しんで しまうんだどっ......」
こうつう じこ の あと、キルキルが サイボーグに なる まで、とうちゃんは ずーっと、キルキルの ことを しんぱい していて、やさしくて、いっかい も おこらなかった けど、ひさしぶり に とうちゃん に おこられて、キルキルは とうちゃん に おこられていた とき に すごく あたまに きていた ことを おもい出して、ますます あたま に きて、
「うるさい、うるさい、うるさい」
と いいながら、耳に ゆびを 入れて ふさいだ。とうちゃん は、キルキルの ゆび を はずそう と したけど、キルキルの 力が つよくて はずせなかった。そしたら、とうちゃん は、ポケットから リモコンを とりだして、ボタンを おした。すると、キルキルは からだ じゅう の 力が ぬけて、そこに たおれて しまった。
「キルキル、きこえっか」
と とうちゃんは しずかに いった。キルキルは、からだ は うごかせ なかった けど、見たり きいたり する こと は できた。というか、見たくない ききたくない と おもっても、目をつぶったり 耳を ふさいだり すること は できなく なっていた。とうちゃんは しゃべり だした。
「とうちゃん だの かあちゃん の いうごど が まちがってる ごども あっかも しゃね。んでも、今の キルキルが とうちゃん だの かあちゃん の いうごど きがねで、じぶん の やりたい ように すきな ように やってる よりは、とうちゃん だの かあちゃん の いうごど きいた ほう が、ずーっと、あんぜん で、キルキルは そん しないで すむんだど。あたまに きたがら って、人ば たたいだり、ながめ いいがら って、ベランダの さぐ に よっかがったり、おもしいがら って、ちゅうしゃじょう で はしり まわったり してだら、そのうぢ、だれがに おおけが させだり ころして しまったり、あんだ だって、ベランダがら おちて しんで しまったり、車に ひかれて しんで しまう がも しゃねん だど。っつうが、げんに、あんだ、とうちゃんの いうごど きがねがった がら、車に ひかれて しまったんだべ。どうにか サイボーグに なれだげっと、こんど、のうみそ が つぶれたら、もう しんで しまうんだがらな。とうちゃんが おこって いろいろ しゃべってる どぎ は、あんだに あぶない ごど だの わるい ごど だの その りゆう ば おしえでっとぎ なんだ。おごらいでっとぎ に 耳 ふさいで、とうちゃん だの かあちゃん がら あぶない ごど だの わるい ごど だの そのりゆう ば きぐの やめだら、あんだは、あぶない ごど だの わるい ごど だの その りゆう が、わがんない おとな に なって しまうど。そして、人ば ころして ろうや に 入れられだり、あぶない ごど して しんで しまったり すっかも しゃね。とうちゃん だの かあちゃん の いうごど は、ぜんぶ は 正しぐ ねえ がも しゃね げっと、そんでも ちゃんと きいて おいだ ほう が、あんだ に とって とく なんだ。もし、とうちゃん の いうごど が おかしい ど おもったら、耳 ふさぐんでねくて、なにが おかしい ど おもう のが、ちゃんと 口で いって みろ。そしたら、とうちゃん も あんだの はなし きぐど。」
そういって、とうちゃん は リモコンの ボタンを おした。キルキルは からだを うごかせる ように なり、おきあがった。とうちゃん は キルキルの あたま を なでた。キルキルの からだ には、からだ じゅうに センサーが うめこまれて いるので、あたまを なでられている かんじ を ひさしぶりに かんじた。
おわり
キルキルサイボーグ 後藤文彦 @gthmhk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます