第30話 《氷のお城にて》



戦闘機から放たれるレーザーや、ミサイルの爆発光。


宙を切る蒼白いやいばや氷の柱が反射する太陽の光によって空域は

眩しく照らされ、その中でKINGSの戦力は光に消えていった。



数の消耗を全く意に介さぬアニマの戦力や、味方の繰り出す

攻撃の嵐を躱しながらバルバトスは氷の領域の中心部・・・すなわち

アルがいる氷状球体へと突き進んで行く・・・!



―「ボスさん!みなさん聞こえますか?シアンです!」―


『ああ、どうした?』


―「今、ボスさんの体に展開している治療用の異空間ですが、

  この強い空間圧力下ではすぐに消滅してしまいます。

  今はウェルシュさんのゴッドハンドで空間圧力を遮っていますが

  その力から離れれば離れるだけリスクが増えます。」―


―「ウェルシュさんから絶対に離れないでください!」―


『ああ分かった。』


『ウェルシュ、よろしく頼む。』


「いいよ、私に全部まかせなよ」

「今度はあなたから離れるなんてヘマはしない。」



なんだか出会い頭に殺されかけた事を思い出すな。

本当に丸くなってくれたもんだ。


あの頃から比べて、状況が何もかも変わってしまった。

当時のおれに今の状況を伝えても何一つ信じやしなかったろうな。

状況も変わって、人も変わった。いや、正確には本来あったこいつらの

見えない部分が少しずつ見えてきたんだ。


―「それと、アルちゃんがいる氷の球体は、内部にいくつもの空洞がある事を

  観測しました。外壁を攻撃して、一番外側の空洞に侵入する必要があります。

  そこからは入り組んだ内部の空洞を通るか、氷を削岩して中心部を目指して

  下さい!」―


―「アニマの反応も内部に潜んでいますから、戦闘も覚悟が必要です。」―

―「反応の識別パターンから、強力な兵器の出現が予測されます!」―


なるほど、中に入ったら直ぐにアルの元へ辿り着けるわけじゃなさそうだ。


・・・・あの氷状球体の内部は、アルの力の爆心地だ。

そのエリアにアニマが侵入できている、という事はつまり、アルの攻撃対象が

アニマを識別して避けていると考えられる。


球体の外では、氷の柱がKINGSもアニマも無差別に攻撃しているから

あの球体の内部に存在するというアニマはおそらく、アルに接触して

その心を乱してコントロールできる程の相手・・・意識を持って、他のアニマの

軍勢を率いる事ができるベイジンの様なランクの手合いが想定できるな・・・



『・・・了解した。』


『なら、守りはウェルシュに任せるとして、必ず来るアニマの襲撃に対して

 攻撃と進路の確保は主にパーマにお願いしたい。いけるか?』


「いいですよ。何なりとお使い下さい。」


『体力はどうだ、持つか?』


「ええ、少なくとも貴方に残された体力よりはずっと頼りになるかと。」


『上等だな。今回も何が起こるか予想のしようが無いからな。いつもよりも

 慎重に、かつ確実に進むぞ。』



「ボス、目的のポイントに着く。」

「10秒後に飛び降りるから構えて。」


『お、おう!』


巨大な氷状球体の上方をバルバトスが滑空し、機体が斜めに傾き始めた。

ウェルシュのゴッドハンドがおれとパーマを包み込み、ウェルシュが甲板を蹴ると

おれ達も空中へと離艦し、球体へ急降下を始めた・・・!


球面より500m程の高さから落下していく。

パラシュート等の安全装置は着けていないが、着地を担っているのはウェルシュだ。落下による不安は無い。


着地まで100mかという所でウェルシュのゴッドハンドが球面の氷を抉り、分厚い

氷の層が粉砕されて穴が開いた!


『うおっ!!!』


『・・・あの中・・・空洞になってるな!』


「このまま中に入る!」




球面を突き抜けて派手に内部に侵入し、着地した。


『・・・・ふぅ!』

『首尾よく中に入れたな、流石だウェルシュ。』


「ここからはアニマとの戦いになる。」


「ファントムの力を切り上げた今、外側の氷の柱と違ってここに居る私達への

 攻撃は確認できない。という事は、アルはアニマが存在するこの内部空間全体を

 非攻撃対象として識別しているんでしょうね。」


顎に手を当て、パーマが口を開いた。


「空間圧力が極めて高いこの空間では、私の能力はスタミナの消費が激しい。

 こうしてアイドリングストップを挟めるのならば好都合です。

 その代わり、既にアニマに気取けどられたでしょうがね」


『なあに、危険な領域で完全に敵に見つからずにすんなり行けるとは

 思っていないさ。外があんな状況なんだ。ここまで一気に来られただけでも

 順調だ。』


『さあ、アニマも動き出しただろうから更に急ごう!』


「そうね。ボス、まずは通路を進んでみましょう。」

「私の力で氷の層をぶち抜いて中心を目指す手もあるけれど、私も消耗は

 極力避けたいわ。アルの力が仮に私達に向いた時、こちらの身を守る体力が

 残っていなければ全滅してしまう。」


『分かった。二人共、能力の使用を最低限に抑えて進もう。』



この氷状球体の内部はまるで洞窟の様になっており、シアンが言うには

入り組んでいるらしい。


おれ達が侵入したこの場所は偶然、球面に近い空洞だったらしいが

もし偶然ではなく、このくらいの厚さの氷の層で空洞が張り巡らされている

蟻の巣の様な構造だと仮にしたら、通路を進んで中心部を目指すのはかなり

時間が掛かるかもしれない。


氷に囲まれて冷えきった空気の中を歩いて進むにはリスクが付きまとう。

この寒さではやがて低体温症を引き起こすだろう。



足場も氷で出来ている上に、形状も安定しない。


道とは言えない通路は時に上へ、時に下へと向きを変え、気を抜けば足を滑らせて

転倒してしまいそうだ・・・・と、思った途端に足を滑らせてしまった!


『おわっ!』


しかし転倒は免れた。

ウェルシュが後方から支えてくれたのだ。


「気を付けて。」

「革靴で、しかも杖突きで歩く様な足場じゃない。」

「頭でも打たれたら困るわ。」


『ああ、た、助かる。』


ウェルシュは少しだけ身を寄せて、次の一歩、また一歩を支えてくれた。


『・・・・おまえって、結構やさしいよな。』


「は・・・はぁ!?」

「べ、別に私は・・・・!」


「・・・勘違いしないでくれる?ボスを守るのが私の仕事だから

 それでフォローしてるってだけだから!それだけっ・・・!」


『そ、そうかよ。じゃあ、おまえに優しくしてもらえるのは役得ってやつか。』

『はは、こりゃラッキーだ。』


「ちっ、へらへらすんな・・・・バカ」



『お前も気を付けろよ、パーマ。』

『履いてる靴はおれと大して変わらないんだからな。』


「私の体は貴方に負けず劣らず貧弱です。」

「私もフォローが欲しいところですねぇ」


「はあ?こんな場所で転ぶくらいならアンタはクビよ!」

「裏切りの償いに転んで死ね・・・!」


『じゃあ間を取って三人で手でも繋いで歩くか?』

『あははっ』


「だからヘラヘラするな!何の間を取ったのよ・・・!」


「くふふっ」



こんな場だからこそ空気を張り詰めるのは御免だ。


おれもパーマも体力に余裕がないんだ。ウェルシュだってその筈だ。

状況に追われてこわばった顔でアルを迎えに行く訳にはいかない。


『しかし、進むからには中心部に近付いていなきゃな。』

『このまま闇雲に進んでいたら時間が掛かりすぎる。』


「その点は心配に及びません」


「私の力はの遮断です。つまり空間兵器による、あらゆる客体への干渉。

 Y子が異空間を張り巡らせて周囲の地形を把握するのと似た理屈です。

 ファントムシステムによって此処の構造を把握する事ができる。」


『おぉっ!マジか!』

『ならリードを頼めるな・・・!』

『・・・で、この通路は目的地点に近付けるのか?』


「ええ、少しずつですがね。」

「この空洞は入り組んでいる上に、どこから侵入しても一本道で中心部に

 到達する事はできない様ですね。必ずどこかで壁を破壊して奥の空洞へ抜ける

 必要があります。」


『どん詰まりの洞窟が幾層にも重なった構造って訳か。』


「なるべく最小限に壁を破壊しつつ進行時間を加味して迅速に進む・・・」

「如何でしょう。」


『それだな。敵との遭遇も見越したペース配分を考えなきゃならん。』

『任せるぞ、パーマ。』


「お任せあれ。」



数十メートル程進むとパーマは立ち止まり、ウェルシュを見て氷の壁を

コンコンとノックした。


「・・・道、間違えてたらマジで殺すから」


「その殺意は信頼に値しますねぇ」

「私は守りを考えずに任務をこなせます。」


「減らず口を・・・」


ウェルシュはパーマをかすめて壁を破壊した。


ニヤリと風穴に侵入するパーマにおれとウェルシュも続く。

二度、三度と壁をぶち抜き、少しずつ氷状球体の中心部に近付いていく。



やがて更に温度が下がり、体が震えを催し始める・・・・


『アルの力が強まってるのか・・・』

『・・・霧が出てきた・・・この温度で霧なんて出るのか?』


「これは私達の世界で兵器αアルファが使用した異空間張力に近い。」

「強固な氷結空間に閉じ込めた対象を、霧の凝結とその凍結で

 凍死、圧死させる。これはただの霧じゃない。αアルファの空間兵器による

 特異な現象よ。」


『“近い”ってのは、同じじゃないって事だよな。』

『別物って意味か?それとも不完全って事なのか?』


「不完全って事。」

「この現象は冷酷無比な殺戮兵器αアルファの攻撃としては完成されていない。」

「見て、壁や床を」


氷の壁を見ると、凝結して出来た水滴が凍りつき、少しずつ壁が厚くなっていく。

つまり空洞自体が小さくなっているんだ・・・!

歩く度に足元からジャリッ、と音がする。


「相手の位置を特定する手間を掛けずに、テリトリー内にいる者全てを

 徐々に殺していく・・・私達の世界のαアルファなら、凍結速度も

 氷の硬度も段違いだった。」


パーマの示した壁を破壊してウェルシュは続けた。


「その力をアルが完璧に使いこなして、かつ意識をアニマにコントロール

 されているとしたら、私達がここへ侵入した瞬間にもっとキツい攻撃を

 受けていた筈。この現象は燃費も悪いし対象が死ぬまで時間が掛かる。」


「・・・・アルの能力は、その気になればαアルファに匹敵する力を

 既に持っていると思う・・・・つまり」


『アルが攻撃の力を押さえ込んでいるのか・・・?』


「かもね。」


『アル・・・!』



アルの元へと急がねばならない思いに更なる焦りが募る。


自意識を完全に失っているのではなく、アニマによって振り乱される心を

失い切る事なく、たった一人で必死に抗っているのか・・・?


それはあまりにも辛すぎる。



『ウェルシュ、パーマ。』

『・・・・少し、無理はできるか?』


「今更私にそれを聞く?」

「それに、無理ができない体なら今頃何処かのバカの隣で寝てるわよ」


「同感ですねぇ。」

「そもそもこの空間自体が常軌を逸した危険な空間なのです。

 無理を前提に入れずに立っていられる場所ではありません。」


『悪いな、二人共』


『・・・ここからはペース配分を無視する。』

『ウェルシュ。壁を手当たり次第破壊してくれ。』


『手近な近道があれば、パーマ、案内を頼むぞ。』


「了解しました。」



早速ウェルシュが壁を破壊する。

しかしかなり分厚かったらしく、鈍い音をたてて空いた穴の中で

砕けた巨大な氷の岩が足場を半分埋めてしまったが、続けてゴッドハンドが

奥側の空間へとそれらを吹き飛ばした。


即座に移動するとそこは広い空洞で、細い道や大きな道があらゆる角度に

続いていた。



バキバキバキッ・・・!!


突如、鋭い音を立てて天井から巨大な氷のトゲが伸び、ヒビが入ると

砕け散ってしまった。すると、なんと中からアニマが現れ降ってきた・・・!!


『ついに来たか!』


数にして30程だ。

デカい剛力のLEVEL-3アニマが3分の1・・・十体程度。

他のアニマは初めて見る形状をしている。


『新生アニマの一件から、いろんな姿のアニマが増えたな・・・』


「あれ等は殆んどがLEVE-4の一種。」

「それぞれの能力は違うけれど、その危険性から纏めてLEVEL-4に

 分類されているわ。」


「あなたがいちばん目にしたLEVEL-4は自爆タイプね。」

「強力な自爆に特化している分、他の能力は高くない。」

「でもLEVEL-4の単純な戦闘能力水準はそれなりのものよ。」


このLEVEL-4の群には、以前見た羽の生えた飛行個体も混じっている。

今は数で押されると痛いが、応戦しない訳にはいかない・・・!


こちらが構えると、今度は氷の床から大きなトゲが現れ同じ様に砕けると

そこから見覚えのあるアニマが現れた。


『お前・・・・!!』

『ベイジン!!』



「やってくれたものだな・・・森川まさゆき」


『生きていたのか!』

『ブラックホールに巻き込まれていなかったとはな・・・!!』


「ほう・・・ブラックホールを使ったのかね」

「ともあれ、生まれたてのアニマを消滅させるとはね」

「・・・想定外だ」


『お前だってあの内部にいたんだろうが。まるで他人事だな』


「私がそこにいた?」

「・・・それはどうかな」



するとベイジンの影が氷面から浮き上がり、炎の様に揺らめく影が

立体的に人型を形成し、ベイジンの影から分離した・・・!


『なっ!!』

『分裂したのか!?』


「遣わした私の影がまだ戻って来ていなくてね」

「まだ情報も揃ってはいないが、私の可愛い兵器達が失われた可能性が

 ある・・・・換わりの代替え品をストックしておこうと思ってね。」


新生アニマの内部で出くわしたのはこいつの影だったのか・・・!



『・・・しつこい野郎だな』


『アルの心を乱したのはお前だな・・・!』

『安全圏で、いつまでも思い通りになるとでも思ってるのか!』


吸引レールガンを取り出し、銃口を向ける。

・・・・奴は絶対に許せん。


「見たところ、キミ達は既に随分と消耗しているようだ」

「その、ザマでは到底危機とは呼べんね」


「兵器αアルファは既に私の制御下にある」

「相変わらず小回りの効かん失敗作だが、キミ達を消す程の力は発揮できる筈だ」


「言葉を返す様だが、キミに安全圏は無い・・・・森川まさゆき」



『そんなものを求めるくらいなら此処まで来るかっ!!』


ドォッッ!!

トリガーを引いてレールガンが発砲の光を放った!


しかし、すかさず前に出たベイジンのコピーがレールガンの閃光を

受け止め、本体を守ってしまった!


『くっ!・・・やっぱり無理か!』


「ボス、下がって。」

「私がやる・・・!」


ウェルシュが俺の前に出ると、ベイジンは手袋をはめた人差し指を

こちらへ向け、ヒュッと下へと切った。


途端!

バキバキバキッッッ!!!

と天井から氷の巨大な刃が現れ、孟スピードでおれ達を目掛けて伸長しんちょうを始めた!!

おれはウェルシュの力で即座に位置を離れ、氷に斬り潰されるのを免れた!


『く、くそっ』

『アルの力を利用しやがって!』


ベイジンの背後で待機していたアニマも動き始めた。

ウェルシュはおれを守りながら、中距離を保って応戦を始める。



「・・・・森川まさゆき」

「キミはまたαアルファを奪いに来たのだろう」


「だが、αアルファはこの為に作り出されたのだ」

「我々の存在証明に走るノイズ人類を取り払う為にね・・・」

「キミ達の人間ごっこでは決して追い付かない兵器の性を見たまえ」


「私の声に、αアルファはその本分を即座に思い出したよ」

「キミ達とは在るべき世界が違うのだ」


『黙れ!』

『お前にあの子の何が解るっていうんだ!!』


「少なくともαアルファは自らの存在を認識しているよ」

「つまらない内的エラーを引き起こし、人の様な葛藤の様相を見せたが

 私の手招きに自ら戻って来たのだ」


『葛藤・・・・?』


「キミ達を滅ぼす兵器としての使命、存在理由。そしてキミ達が植え付けた

 人として生きるなどという馬鹿馬鹿しい幻想、妄想の狭間で葛藤を見せた」


「だが即席で施した暗示など、破るに容易いものだ」

「自らがかを思い出させればよい」


「簡単な言葉の誘導でアレは思考を閉じたのだ」


「アレはもはや私の操り人形」

「次なる完全な兵器を生み出すまでの間に合わせとして役に立ってもらう」


『お前っっ!!!』



「ボス!熱くならないで!」

「挑発よ!消耗している私達にとって致命傷になる隙を作ろうとしている!」

「問題は奴の言葉じゃない、あなたの言葉をアルに届ける事でしょ!」


『ウェルシュ・・・!』

『あ、ああ・・・すまん、その通りだ。』


「パーマ!アンタはあの口数の多いリーダー格を消して!」

「LEVEL-4の追撃を蹴散らしながら私の力で壁を破壊して進むわ!」


「それが良さそうですね。」

「やれやれ・・・LEVEL-4よりも格上のアニマは骨が折れますが」


おれをゴッドハンドで持ち上げながら、襲い来るアニマ達を蹴散らすウェルシュを

見て肩をすくめながらパーマは姿を消し、瞬時にベイジンコピーの背後に現れて

その首元を切り裂いた・・・・!


『よしっ!奴のコピーはこれで・・・!!』


しかし切り裂かれたベイジンのコピーは陽炎かげろうの様に揺らめいて消えてしまった。

そしてまたベイジンの影から複製が産み出される・・・今度は四体だ。

奴等はその体を漆黒の刃に変化させ、パーマへ向けてその波打つ薄い刃を

突き伸ばした・・・・!


『パーマ!!』


しかし、同時に放たれた刃の波はパーマに当たらず氷の地面を抉った。

ギリギリで躱したらしい。


「・・・これは当たれば即死か致命傷ですねぇ」

「まぁ当たればの話ですが。」


パーマはまた姿を消し、今度は本体であるベイジンの横に現れると

手に持ったナイフを瞬時に逆手に持ち替え、スパッッ!と奴の首に斬撃を入れた!


入った・・・!今の刃の軌道は確実に本体の首を捉えた筈だ!


『やった!!』

『パーマ!流石だ!!』



「・・・・ファントムシステム。」

「面倒な力だ」


ベイジンは倒れるどころか微動だにせず、平然と言葉を発していた。


『馬鹿な・・・!!』

『首を切っただろう今!』


「私に並みの攻撃は通用しないよ」


奴の体が突如振動しながらその腹部が平面の円盤型に変化し、やがてその円は

波を打ち始め、一気に水平に広がった!


その薄い刃は一瞬で周囲の壁を貫通し、他のアニマすらをも両断してしまったのだ!


「・・・・ちっ!!」


ウェルシュはゴッドハンドで正面から受け止め、後方へ数メートル押されて

しまった。


同時に後方へ一回転して攻撃を躱したパーマは、波打つ刃に手を突いてその上に

着地し、ベイジンを見据える。


「ファントム・・・・キミはリコフォスの駒だった筈だが」



「その通りですよ。しかし引き抜かれて今はKINGSに出戻り状態です。」

「おかげで肩身が狭いのです私は。貴方を潰せば少しだけ勝ち馬に乗り易くなる

 かもしれません・・・・クフフ、利用させてもらいますよ?」


「勝ち馬とは腑に落ちないな・・・KINGSが勝利する確率が、キミには幾分でも

 見えるというのかね?」


「KINGSの勝利はあり得ない話ではありません。」

「“森川まさゆき”に対するアニマの執着は、そのままアニマが感じている敗北の

 驚異とも受け取れます。ある意味KINGSの勝機はあなた方が自ら提示している

 のです。」


「クククッ、ならば今この場で私の包囲網をどう切り抜けるというのだね」



「・・・そうですねぇ、まずは並みの攻撃が効かない貴方に、並外れた攻撃で

 退場して頂きましょうか。」


パーマは刃に突いた手に力を込める様にして “あの技” を使った。

そう・・・・あのアダムという化け物を葬ったあの力。


原子結合の遮断だ!


「・・・・!」


ベイジンは胸から斜めに切断され、胸部と腕が水平の円盤の上にボトッと落ちた。

これは決まった。完全に勝負ありだ!



しかしウェルシュが呟いた。



「・・・・まだ死んでない。」


『え?』

『何言ってんだ。あれで死なない訳・・・・』


しかし、切り離された胸部も腕も黒い円盤の刃に飲み込まれ、欠損した奴の

体は完全に再生してしまった!


『う、嘘だろ?』

『あいつ、不死身なのか!?』



「なるほど・・・体感してみると凄まじい能力だ」

「KINGSが切り札の一つと認定するのも必然だが・・・」

「しかし、その消耗した体で使用するには体力の消費が激しすぎるのでは

 ないのかな?」


「・・・・ふぅ」

「まさかこれも効かないとは・・・」

「察するくらいならそのまま殺されていてほしいものですねぇ」


ベイジンコピーが刃となって背後からパーマに襲い掛かり、パーマはそれを

躱しながら後退を始めた・・・!


天井から氷のトゲが出現し、敵が次々と増えこちらに向かって来る。

それに応戦するウェルシュだが、このままでは消耗するだけだ。


『まずい流れだな・・・!』

『このままじゃあいつまで経ってもアルの元にたどり着けない。』


「ボス、考えがあるわ」


『聞かせてくれ。』


「作戦を変更して、防戦に徹しながらこの氷状球体の中心を目指しましょう」

「中心に近付いたら、アルへの接触はあなたとパーマで試みて。」


「中心まで近付けばパーマの力でも十分氷の壁を抜けられるでしょ。

 空間圧力もパーマの力で遮断できる筈。アルを救出するまでの間は

 私が敵を食い止める。」


『おまえ達の負担がでかすぎるな・・・大丈夫か?』


「大丈夫。このまま戦ったら消耗が無駄になる。」

「あのベイジンとかいうアニマは普通の攻撃方法では殺せない。」

「でも今は奴との戦い方を考えている暇は無いでしょ?」


確かにそうだ。

今のおれは尚更、アニマに囲まれた状況で一人で進む事は出来ない。

治療用の異空間がアルの空間圧力で消滅してしまったら、片手足が全く

動かなくなってしまう。だから空間圧力を遮ってくれる二人の内のどちらかの

同伴がなければならない。


戦闘状況ではアルと接触できる訳がないから、アルの元に辿り着くなら

敵を全て倒すか、ウェルシュかパーマが食い止めてくれるかだ。

しかしベイジンは攻略方法が解らないし、パーマは能力の性質上、多数の敵を

食い止める事には向かない。


ならウェルシュの案が良さそうだ。


『そうだな。確かに今は時間が無い。』


『パーマ!!こっちに後退してくれ!』


するとパーマはこちらに跳躍し、ウェルシュが能力でキャッチすると

ゴッドハンドの力で即座に走り出し、壁を破壊して進み始めた。



『―――と、いう感じだ。パーマ、ウェルシュが食い止める間よろしく頼む。』


「それは有り難いですねぇ、疲れる方の担当はウェルシュですか。」

「私はもう既に疲れてしまったので丁度良かったです。」


滑空しながら襲い来るLEVEL-4の飛行個体を叩き落としながらウェルシュは

舌打ちをして言った。


「体力尽きて使い物にならなくなったらり潰してやる」


『磨り潰されるなよ、パーマ』


「手厳しいですねえ、善処しましょう。」



もはや何度目かも分からない氷の壁の破壊とアニマからの逃走、応戦で

ウェルシュの消耗はどんどんと蓄積していった。


ウェルシュは普段から薬を服用している。

能力を無力化する毒・・・それに抗う為の薬。しかしその頓用とんようは彼女に中毒作用を

もたらし、兵器使用の慢性的な疲労や激しい痛み、強い倦怠感に捕らわれる

というリスクを与えた。


おれはウェルシュの負担を抑えたくて、追いかけて来るアニマにレールガンで

応戦するが、流石にLEVEL-4のアニマには大して効かないらしい。

飛行個体の背に乗ったベイジンもコピーを生み出し、攻撃を仕掛けてくる・・・!


何層も壁を破壊して斜め下へ進んでかなりの距離を進んだ筈だ。


「ウェルシュ、次の壁を破壊したらそこで私達を下ろしてください。」


「・・・分かった」



分厚い層をぶち抜いて広い空洞へ出て、最後の壁を破壊するとウェルシュは

おれとパーマを氷面に下ろした。


「さあ、この先に進めば間もなく中心部です。」


『ウェルシュ、大丈夫か!?』


「・・・・さっさと行って。」


向かい側の穴からアニマが入り込んで来た・・・・!


『ウェルシュ、リーダー命令だ。』

『必ず体力を残して、危なくなったら退いて脱出してくれ。』


「・・・・ふん、余裕が無いのはそっちもでしょ」

「この先だって別に安全でも何でもないんだから。」


「作戦失敗の場合、パーマの能力で脱出をするならあなたはアルを残して撤退する

 決断をしなければならない。」


『・・・分かっているさ。』


するとパーマがやれやれとでもいう様に、迫り来るアニマの手勢へ一歩踏み出し

片手を前方にかざした。


「ふぅ・・・それでは貴方の憂いを少しだけ解消しましょうか。」


ドドドドッッッ!!!


前方から襲い来るアニマ達が見えない何かに衝突して急停止してしまった!


『なんだ!?』


「敵とこちらの間に、“遮断の壁” を構築しました。」

「数分間、敵の攻撃を食い止める事ができるでしょう。」


『なっ!バリアを張ったのか!?』


「フフ、これでは消耗がフェアではありませんからねぇ」

「少しは休憩できるでしょう。」


「・・・・・」


ウェルシュは座り込んでヒラヒラと手を振った。

行けって事だ。


『ウェルシュ、よろしく頼んだぞ!』



おれとパーマは、ウェルシュが最後に空けた穴を潜り、早足で進んだ。



氷の通路がうねって前方に伸びている。

温度が更に下がり、少々呼吸がしづらい。


なるべく速く進むためにパーマの肩を借りて速度を上げて急ぐと、

やがて何処からともなく声が聞こえてきた・・・!


――――~~ァ・・・・


――~~ァァ・・・!


『何だ?何の声だ!?』



・・・ャァァ~~!


ニャァァァ~~~!!


『・・・ニャア?』


ニャアァァァ~~~!!


立ち止まって壁を見ると小さな隙間が空いており、中から声が

聞こえるのだ。


『ネコ?こんな所に?』


「・・・・!!」


「はにゃ!?そ、その声はオレの下僕・・・」

「いやいや、森川まさゆきニャ!?」


『え』


『まさか、ニャンぷくか!?』


「ニャアアァァーーーーー!!!」

「助かったニャァーーー!!」

「たしゅけてぇぇ~~~!!!」


『お前、なにやってんだそんな所で!』


「居たくて居るんじゃないニャァ~~!」

「アルの力に捲き込まれたんだよぉ!」

「あの時オレ様、アルに抱かれてたから・・・・」


『お前・・・・死ななくて良かったなー!』

『後ろに下がれるか?このぐらいの隙間ならレールガンで穴開けてやる。』


「ニャーー!構わんから早く撃ってくれにゃーー!!」


レールガンを取り出し、隙間に向けてトリガーを引いた。

中にいるニャンぷくに当たるとまずい。正面からではなく斜めの方向から打ち込み

壁の隙間を抉った。


ニャンぷくに弾が当たる事はなく、隙間は抉れて少しだけ広がったが、ニャンぷくが

いる空間まで穴を空けるには少しだけ角度が足りなかったみたいだ。


しかし流石はネコである。

広がった隙間をシュルっとすり抜けて、おれ達の目の前にテッと着地した。


「ニャアーーー!」

「助かったぜーーー!!」

「やったっ!やったっ!」


ネコはリズミカルにスキップしながらクルクル回り始めた。


『アルに抱かれたお前がここにいるって事は、やっぱりアルがすぐそこに

 いるって事だよな?』


「んお?ああ、その筈だぜ!」


「それにしてもオメー、生きてたんだなぁ」

「アニマに捕まったって聞いて、おらぁダメだなって思ってたんだけどな。」

「まあなんだ、アレだよな。ンナイスっ!!」


『うっぜ・・・・』


「あっれぇー??」

「でもパーマのコンチキショーも一緒じゃん!」

「なになに?やっぱり戻って来たのかー?アニマは給料低いのかー!?」


「まぁそんなカンジですよ。フフ」


構っている暇は無い。早く進もう・・・

そういえば何かを忘れている気がしていたんだが・・・そうだ、コイツだよ。


『さあ行くぞ!ニャンぷく、お前もついてこい!』


「うおっしゃアアァァ!!!」

「このオレ様が解放されたからニャアおめーら勝利確定だぜっ!」


「で、これから何すんのぉ?」



ネコは鼻水を凍らせて、間の抜けた顔でこちらを見上げた。

その顔は、まるで頭蓋骨の中に脳みそではなく、たまごボーロがぎっしり詰まって

いそうなお間抜けな表情だった。


放っておこう。



気を取り直して・・・・・だ。


孤独で冷えきったアルの息吹とさえ思えてしまう様な、凍てつく透明な空気の中

おれ達は力の限り先を急いだ。


・・・・待ってろよ、アル。


今直ぐに迎えに行く・・・!









――――――――――――――――――――――――

『お知らせ』


《あらすじと登場人物》のページにて、キャラクターのビジュアルイメージを少しずつ更新しております。よろしかったらご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818023212601145147/episodes/16818023213740987545


一話一話がかなり長いにも関わらずご覧いただき、本当にありがとうございます(ToT) 応援アイコンを励みになんとか最後まで完走したいと考えております! お時間の許す限りお付き合い頂けたら幸いです(´;ω;`)



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