第28話 《心の質量》



残酷なほどに広い深淵なる闇の中、か細い神経回路の様にY子の異空間を

張り巡らせながら、あいつが生存可能な異空間を探し求めて全力で走る。



しかし見つからない。

通信だって当然繋がる訳もなく、遭遇するのはアニマの追撃手だけだ。

やはりこの果てしない抽象空間で当てもなく人探しなんて無謀か・・・?


だが、Y子とおれは再会出来たんだ。

・・・たとえ条件が違おうとも、運命を手繰り寄せられると信じるしかない。



「わたしの異空間で、生き物が生存可能な空間を手当たり次第に構築して

 中に巻き込んでいます。そこにパーマが居れば瞬時に察知できますが、

 ・・・アダムのエネルギーで異空間が分裂と崩壊を繰り返しているせいで

 いくら探索してもキリがありませんね。」



『あいつが攻撃を受けたのはリコフォスの老人が居た部屋だったよな。』

『あの部屋を探せないか?』


「あの部屋は、あの攻撃で消滅してしまっています。」

「部屋の外の異空間に飛ばされた時、パーマが他の異空間に干渉して侵入したと

 すれば、アニマ内部のどの異空間に入り込んだのかは予測が付きません。」


『異空間に侵入できていなかったら・・・どうなるんだ?』


「あの老人の部屋が存在した異空間ごと消滅して死んでいるでしょう。」


『・・・・・最後まで諦めないで探そう』



アウロラとリコフォスの産み出した異空間に侵入しては脱出して、また他の

異空間へ・・・・方向感覚も頭の中の地図も役には立たず、ここが何処かも

判らない。代わり映えの無い洋館風の通路がただ続く。


どの異空間を移動していても地響きが鳴り、空間を揺らした。

これはアダムのエネルギー波なのだそうだ。その波を一度受ける度に

異空間がダメージを受けて崩壊していくらしい。

Y子の異空間も例外じゃない。


パーマを捜索するのも異空間を股に掛けるのも、極めてタイトな時間の勝負なんだ。



「・・・・・」


他の異空間にアクセスする為に立ち止まったいささかなにY子の身体が揺れた。


『Y子・・・!』

『だ、大丈夫か!?やっぱりもう限界なんじゃ・・・・』


「・・・・大丈夫です。」

「今日はラッキーデーみたいです。」


『ラッキーデー?』


「貴方が私の事をたくさん心配してくれます。」



薄い笑みに乗せてY子はそう言った。

まるでおれが普段から心配なんかしない奴みたいじゃないか


『冗談言ってないで、限界なら言ってくれ。』


「わたしなら・・・・・」


「・・・・・!」



「何か来ます・・・!」


Y子が天井を見上げると、おれとY子の前方10m先で突然何かに押し潰される様に天井が崩壊し、床を突き抜けて外側の異空間へと沈み込んだ。


『次は何だ・・・・!!』


「・・・急速に異空間が崩壊していってます。」


が外部空間からこのアニマ内部へ入ってきました・・・!」

「無差別に異空間を破壊して廻っているみたいですね」


『もはや驚く力も無いが・・・悪魔って何だ?』



「覚えていますか?貴方が此処アニマの異空間へ閉じ込められる直前に、ウェルシュの

 ガードを突き破った青いクリスタル状のアニマです。」


あれは一瞬の出来事だったが覚えている。

翼の生えた悪魔。おれはその追撃によって捕まってしまったのだ。


「アレの名は“イブリース”」


「大量破壊の為の兵器ではなく、単身の兵器をピンポイントで破壊する事に

 特化した近接戦闘特化型の兵器。イブリースはアニマの兵器の中でも別格です。

 今遭遇して勝てる敵ではありません。」


「・・・・ボス」

「潮時です。」


『・・・・』


おれはポケットからリンゴ爆弾を取り出した。

このブラックホールを発動してしまえば、新生アニマもアダムも消滅させる事が

できるが、どこかにいる筈のあいつも飲み込まれて助かる見込みはない・・・


『・・・Y子・・・』


「やれるだけの事はやりました。」

「これ以上はやむを得ません。」


Y子に促され、おれはリンゴのへたを折った。

するとリンゴは回転しながら宙に浮き初め、発動のカウントダウンを刻み始める。



―「・・・・森川まさゆき」―


『フォスか』


―「リンゴ爆弾の作動を確認したよ。」―

―「これからぼくとイヴの力でキミ達の足元に脱出用のトンネルを作り出す。」―

―「そこへ飛び込んでほしい。落下に任せてアニマから脱出するんだ。」―


『・・・・あぁ』


―「ファントムは見つからなかったんだね」―

―「けれど、やれるだけの事はやったんだ。もう打てる手段はないよ」―


『・・・・分かってる』


―「・・・それじゃあ、イヴ。」―

―「ぼくと同期してくれ。」―


「・・・・」


Y子は目をつむって俯くと、目の前の床に丸い穴が出現した。

これが脱出用のトンネルか・・・・簡単に空いたな。


―「さぁ、飛び込んで!」―

―「アダムのエネルギーによる空間破壊が激しくなってきた。」―

―「ぼくももう持ちそうにない・・・・!」―


『あ、あぁ。わかってる』


「ボス、脱出後は・・・・」


「・・・・・!」


『どうした、Y子?』



「・・・・たった今、ファントムシステムの反応を捉えました。」


「パーマです。」


『・・・・!!!』

『本当かY子!!』


「かなり微弱ですが、生きている様です。」


『行くぞ!』


―「ま、待って!」―

―「もう爆弾はカウントダウンを始めている!」―


「大丈夫です。位相を探ってみると、パーマの居る異空間は

 この真下から接続出来そうです。このまま脱出用の穴に落下して

 途中でその異空間に入り込みます。」


『すまんフォス!あと本当に少しだけ待っていてくれ!』


―「・・・・解っているとは思うけれど、森川まさゆき。」―

―「キミが死ねばKINGSの勝利の方程式は崩れる事になる。」―

―「キミが背負っているものを忘れないで・・・!」―


『あぁ・・・!』

『行くぞY子!』


おれは穴に飛び込み、Y子も続いた!



手足の自由が半分効かない状態での歩行よりも、落下による移動は比にならない

ほど早い。探していたあいつの居場所が脱出経路と触れ合っているのなら、Y子の

言う通り脱出のタイムリミットを然程ロスする必要もないだろう。

不幸中の幸いとはこの事だ・・・・!


ヒュン!

と、おれとY子は新しい異空間へ出た。

Y子がおれを担いで着地するとその通路には瓦礫が散乱しており、その中に

ボロボロの男が倒れていた。


・・・・・パーマだ!


『おいっ!パーマッ!!』



駆け寄って声を掛けるが返事はない。

しかし生きている事は解っている・・・・!


『よし、連れていくぞ!』


「分かりました。ではわたしが・・・・・」


「・・・・!」

「来ました!!」


『何!?』


バキバキッッ!!と何かが割れる音が響き、やがて天井を突き破り悪魔が現れた!!

蒼く透き通る肢体と背面の翼、そして腰から伸びた太くて長い尻尾・・・・

硬質を思わせるその体は驚く程しなやかで柔軟だ 。


奴はその体をひねりこちらを見た・・・・!



『逃げるぞ!Y子!!』


Y子は空間をさっき落ちてきた穴に接続し、地面に異空間の穴を繋いだ。


瞬間、奴は瞬時にこちらに向かって飛翔して襲い掛かる・・・!!

Y子が光粒子砲で悪魔イブリースを捉え、奴は軌道を反らして背後の天井に

突っ込んだ!


おれとY子はパーマを引きずって地面の異空間に飛び込むと、悪魔もおれ達を

追いかけて脱出用の異空間へ侵入してきた!!



『くそっ!!』

『ありゃ地獄の果てまで追いかけてくるな!!』


「地獄へはあの悪魔一人で行ってもらいましょう。」



現在落下中の穴は直径5m程の幅がある。

Y子はその幅ギリギリのデカさの光粒子砲を落下しながら上方へ放ち、悪魔を

光の昇龍に飲み込んだ!


・・・しかし駄目だ!

奴のクリスタルのボディは光粒子砲を突き抜け、こちらを追って接近していた!

悪魔が通り抜けた直後から穴の壁がバキバキと音を立ててヒビが入っていく。


『何なんだあれは・・・!!』


「イブリースの力です。異空間による構築物を水晶に変え、破壊しています。」


Y子は立て続けに光粒子砲で狙い撃ちするが、悪魔の機動力と防御能力は

かなり高度だ!躱されては防がれてを繰り返す。


やがて悪魔は両腕をこちらへかざし、白い光の粒を纏い始めた・・・!



「・・・・・っ!」


Y子は奴の方向に異空間の入り口を数枚重ねて展開した。

おそらくこれは防御行動だ。しかし、おれ達との間を隔てる複数枚の異空間は

いとも簡単に次々と破壊され、突破されていった。

まるで硝子の薄い壁をジェット機が突き抜けていくかの様だ・・・・!!


そして極め付けにとんでもないものを見た。

Y子が放った光粒子砲すらも奴に直撃した瞬間から結晶化していき、悪魔の

進行に粉砕されて粉々に砕け散っていく!!


『Y子!!』

『光が見える!出口じゃないか!?』


おれ達が出口を通過しようとした瞬間、悪魔の放った光の衝撃波がおれ達を

吹き飛ばした!!


『ぐあぁッッ!!』


黒の空間から衝撃と水晶の破片を伴って排出された形でおれ達は外に出た。

おれ達は新生アニマの外部にようやく脱出したのだ。しかしピンチは何も

変わりはしない・・・・!


大空に浮遊する直径1km程の黒い球体アニマを白い膜が覆っており、落下し続ける

おれ達の下方には結晶化した、街の様な構造物が浮遊している。


「マズイですね・・・!」

「アダムも脱出してきた様です・・・!」


『なんだと!?』



アニマの白い膜を突き破り、アダムもこちらへ落下してくる!

悪魔はアダムに接触すると、彼方へと飛び去ってしまった。

アダムの黒い眼球がこちらを捉え、泣き声を上げながらエネルギー波を

飛ばしてくる!


奴のエネルギーに巻き込まれて、おれ達は結晶の構造物に直撃してしまった!!





・・・・・・・



――目が覚める。


『・・・ぐ・・・くっ』


辺りは透明な水晶でできた、古代ローマ都市の様な目映まばゆい構造軍だ・・・・

どうやって、クリスタルの地面に叩きつけられるのを免れたのかは分からない。

辺りにはY子もパーマも居なかった。


『・・・Y子!!パーマ!・・・近くに居たら返事してくれ!』


駄目か・・・

ここはもう新生アニマの内部ではない。

外へ脱出する事に成功したのだ・・・上空には球状のアニマが見える。

それを覆う白い膜の中で、アニマの形が歪み、絶えず変化を見せていた。


『・・・・リンゴ爆弾が・・・爆発したのか・・・?』



すると、キングカードに通信が入った。


―「ボス、聞こえますか?」―



『Y子!!無事か!!』


―「はい。わたしはアダムの追撃を受けてその結晶都市から海面に落とされて

  しまいました。アダムも貴方の近くにいる筈です。」―


―「すぐにそちらに向かいます。それまでアダムに見つからない様にして下さい」―

―「・・・・歩けますか?」―


『あ、あぁ。』

『片腕と片足が完全に動かないが、近くにフォスから貰った杖が落ちてる。

 何とか隠れる場所を探してみる・・・・Y子、そっちにパーマはいるか?』


―「・・・・いえ、パーマは貴方の近くに落下した筈です。」―

―「貴方が無事である事を考えれば、おそらく彼も無事でしょう。」―


―「そこはイブリースの生み出した、あなたを仕留める為のフィールドです。」―

―「市街地を模した構造になっている様ですが、他にアニマは存在していません」―



―「ボス、今は不確定要素であるパーマは気にせずに貴方が生き延びる事を

  優先して行動してください。アダムの索敵能力は未発達です。この状況なら

  視覚的に身を隠せばやり過ごせる可能性があります。」―


『あ、あぁ。』

『悪魔のイブリースはもういないみたいだ・・・何が起こってるんだ?』


―「・・・恐らく、アダムのデータや今回の記録をアニマへ持ち帰った

  のでしょう。今はアダムによる追撃に任せたのかもしれません。」―


―「・・・好都合です。」―



通信を切ると杖を拾って何とか立ち上がる。

フォスから受けていた応急処置は消滅し、体に不自由と苦痛がのし掛かった。

この状態でアダムから逃れられる可能性はどれ程のものだろう。


ロムザと再会した時、Y子を見失ったアダムはなかなかおれ達を見つけ出せなかった

訳だから、Y子の言う通り、敵を捉える能力はまだ未発達なのは解る。

あとはパーマだ・・・Y子はああ言ったが、それじゃあ困る。


不確定要素がなんだろうと、あいつをまた見付けなければ・・・!



コツッ、コツッ、クリスタルの地面を杖で突きながら歩く。


意識が万全じゃない。

体力が殆んど残ってはおらず、今横になったら即座に気を失える自信がある。



足取りも安定しないな・・・真っ直ぐ歩くのもやっとだ。

日の光を反射し、果てしない砂漠にすら思える水晶の街路に、気の遠くなる

一歩一歩を踏み重ねて進んだ。



透明な階段、透明な橋、透明な坂。



・・・そして小さな噴水広場に出た。


動きの概念を奪い去った、噴水の静寂の中ヤツはそこにいた。




『よお。』

『・・・ボロボロじゃないか。』



「・・・・・・・」


「おや・・・生きていましたか。」

「つくづく運の強い方ですねぇ・・・・」


『何言ってんだ。』

『おれが生きてる事なんて知ってるだろ?』


『・・・おれを地面との激突から守ったのはお前の筈だ。』



「何の事やら・・・」



『さあ、ここを出るぞ。』

『立てるよな?』



「・・・・貴方は森川まさゆき失格ですねぇ」


「敵と味方の判別がつかないとは・・・」



『お前にはついてるってのか?』

『そいつはおかしいな。お前にはお前が無いんだろう?』

『それなら味方もくそもない。ならおれが敵か味方か決めてやる。』



「くふふ・・・」

「私はね、本当にどうでも良いのですよ。」

「人類がどうなろうとも、アニマがどうなろうともね」


「兵器として存在する。故に兵器の本分を果たして消えていく・・・」

「それが私達兵器にとっての最後の救いなのです。」



『・・・・そうか』


『だがもうお前は兵器じゃない。』


『お前、言ったろ。』


『―兵士が兵器として作られた。だからそれは兵器である―』

『それなら断言してやる。』


『お前は人間だ。だから兵器じゃない。』


『・・・こんな所で死んだって、救いになんかならん。』

『そんなのは、ただの悲しい妥協だよ。』



「・・・・・」


『お前にそれを否定する事は出来ない・・・そうだろ?』



「ククッ、困りましたねぇ」

「ではそれを受領する私を破棄してしまいましょう!」

「生憎、私には私という実体がありませんからねぇ、貴方の希望も

 あらゆる条理も、言ってしまえば抱える必要など無いのです。」


ヤツはヘラヘラと笑いながら立ち上がり言った。


「私はこれまで生を求めて来ました。」


「・・・知りたかったのですよ。兵器にされた時に奪われた

 あの痛みや悲しみの所在をね・・・・兵器として洗練されるにつれ

 削ぎ落とされてゆく人間的感情。温もり、希望・・・・」


「兵器としての自己を肯定するために、失った物を理解したかった」


「そうする事でのみ、兵器としての自己を実感できるのだと・・・」


「しかしそれは無駄な事でした。」

「失った瞬間“無”となったソレには、理解を埋めるほどの穴など存在しては

 いなかったのです。そう、生を求める段階はとうに過ぎ・・・・いえ、

 始めからそんな段階など存在してはいなかったのです。」


『・・・・・』


「世界を見渡せば、どうですか。」

「この世界は驚くべき程に無機的に出来ている。」

「システムを生み出し、システムに生き、システムに捕われ、しがみつき、

 やがては迷子になって死んでいく。」


「・・・・滑稽ではありませんか。」

「私は決めたのですよ。」



「システムによって調律されたこの世界を、望み通りシステムのみに帰結させ

 ようとね」


「これはある種の死の克服なのです」


「・・・そうは思いませんか?」



『くだらん』



「・・・・くふふ」

「アウロラのシステムもリコフォスのシステムも、共に人の生み出した合理性の

 帰結に過ぎません。どちらが勝っても結局人はプログラムに生かされる事に

 なるのです」



『・・・・もういい。』


『まずは、ここから離れよう』



「・・・・お好きにどうぞ」

「私は役割を終えました。後はアダムによる廃棄を待つだけの存在。」


「これにて退場させて頂きましょう。」



おれはヤツの目の前に移動し、ありったけの力で握り拳を作り

それをヤツの顔面に本気で叩きつけた。



ゴッッ!!


「・・・・・!」



『痛みを失っただと?』

『じゃあその痛みは他人のものか・・・・?』


『・・・ふざけるな!』


『おれは、を見ているんだ!!』

『お前は、透明でもなんでもないんだぞ!!』

『生きているお前を見ているからおれは、お前が死んだらおれも痛いんだ!!』


『何かを受け取る自分が居ないだと?』

『だったら今すぐ両手をこっちに伸ばせ!その両手を支えてでも持たせてやる!』


『アウロラもリコフォスもKINGSも関係ない!』


『おれは、他の誰でもないだけに言ってるんだ!!』

『おれを見ろ!!お前を見ているおれが見えるんなら、お前は確実に

 ここにいる!おれを信じろ!!』



「・・・っ」



「・・・貴方は」




オギャアアァァァアァァーーー!!!



『・・・・!!!』


アダムだ!!


透明な坂の下からゆっくりと浮遊し、周囲を見回している。

アダムがこちらに気付くのに、そう時間は掛からなかった。


あの超速で瞬時に移動し、奴はおれ達の目の前に突撃してくるのだった!


ドオオォォオォッッ!!!



しゃがんで吸引レールガンを構えた・・・!


『パーマ・・・・おれは戦うぞ。』


「・・・・!」


『おれには特殊な力なんて何もないが、自分の生きる意思で戦う事ができる』


『どんな選択肢が与えられているかなんて関係ないんだ。』

『生きるために戦う意志があれば、人の承認なんて必要ない。』

『おれはおれとして生きて、死んでいけるんだ・・・・!』



「・・・戦う意志・・・」



『生きよう!パーマ!!』


『自分を探す為にでもいい!』

『人間として満足するその時まで・・・生きよう!!』



アダムは四つん這いでこちらに向かって来た・・・・!

やがておれの目の前にその巨大な顔面を近付け、ギョロギョロとこちらを眺めながら

その腕を振り上げる。おれは奴の黒い眼球を狙って銃口を構え、トリガーを引いた!


ドンッッッ!!!!



エネルギー弾が歪曲しながら拡散し、やがてその光のニードルは二つの束に

収束してアダムの両の目に直撃した!!



「ォギャアアァァァーーーーッッッ!!!」



奴は怯みもせず、その振り上げた腕をおもいっきり下ろし、おれごと地面の

クリスタルを叩き潰した!!!





・・・・が、おれは死んでいない・・・・

それどころか奴の掌に当たってすらいなかった・・・!


引っぱられて奴の後方の屋根に着地していたのだ!



『・・・・パーマ!!』



「・・・・不思議だ」

「・・・身体が勝手に・・・」


「・・・私は・・・・」



『は・・・はは!』

『・・・直感で動いたな?』


『そら見ろ!なにがシステムや合理性だ。』

『お前の中に生身の実感が息づいている証拠だ!』


「・・・・貴方には、私が見えるのですか?」


『何言ってんだ、最初っからそう言ってるだろ。』



「・・・・・私には、私が見えません」


『なら時間を掛ければいい・・・』

『生きてさえいれば、それが出来るんだ。』


『約束するよ、パーマ』

『お前は必ずお前を見つける事になる』

『それまでその命をおれに預けろ。』



「・・・・・」

「・・・・強引なお方だ」



アダムはキョロキョロと辺りを見回して、こちらを振り向いた。



「・・・・アダムはロムザとの戦闘で消耗しきっている様です」


「アニマとの直接の繋がりが絶たれている今の状態なら、葬り去る事が

 出来るでしょう。」


『そ、そうなのか?』

『だが、アイツは再生能力が半端じゃない。』

『並みの攻撃じゃ仕留められないぞ。』



「・・・・並みじゃない攻撃を加えれば良いのです。」


『並みじゃない・・・・攻撃?』



するとパーマはおれの隣からフっと消え、辺りに現れては消えてを繰り返し、

アダムの攻撃を躱しつつ撹乱していった。

アダムは衝撃波を周囲に飛ばし、クリスタルを破壊していく!


『うわっっ!!』


足場が崩壊し、クリスタルの建物が崩れた!


その時!


パーマは、四つん這いになっているアダムの後頭部に乗り、手を当てた。



アダムの首が一瞬だけ光り、次の瞬間にその首が根っこから離れて地面に

ずり落ちた。



20mもある巨体は首を失い、大量の血液を吹き出しながらゆっくりと

その血の池に沈んだ。



『・・・・な、なんだ・・・これ・・・』


パーマはいつの間にかアダムの上からこちらに移動していた。



「私の力は“遮断”・・・ですから、原子の結合を遮断させてもらいました。」


『そんな馬鹿な・・・・』



あまりにも凄まじい光景にへたり込んだおれだったが、パーマがこちらを

見下ろしながら手を差し出した。


「貴方は私に言いました。」


「・・・・私に私を見せると・・・・」


「面白いですね・・・・」



「この条件で貴方が懇願するのなら、それまでは力を貸すのも悪くはありません」



パーマの手を取って、何とか立ち上がった。


『それでいいさ』


『・・・帰還しよう。Y子もこっちに向かってる。』




一度は違えた道でも、人の作る道にはそのうちまた合流するチャンスがあっても

いい筈だ。人は変われる存在だから、それが許されなければこの世の中は

寒くて悲しすぎるじゃないか。


見上げるとアニマの球体が消滅してしまっていた。

ブラックホールがアニマを飲み込んで、異空間ごと消滅したらしい。


フォス達は脱出できたのだろうか?



そうだ。フォスだって人類のつむぐ道の分岐の先で新生アニマごと死のうと

していたんだ。こいつらは自分の命も他人の命も軽く見すぎている。

それじゃ駄目だ。人類の為に戦う存在がそんなんでは・・・・



『あー・・・パーマ。』


『お前、そういえばバルバトスのルール、ちゃんと解ってるか?』



「・・・・ルール?」



『そう』


『“命大事に、生き延びて沢山笑う!”』

『これだな。』



「・・・クフフ」

「実にシンプルなルールですねぇ、初耳ですが」


『細かくて難しいよりはいいだろ』


「ごもっともです」



仮面を付けすぎて、やがて自分の素面が分からなくなってしまった道化を伴い

その迷いの道に合流したおれは、バルバトスという希望の道へ帰還しようと

していた。


迷わない保証はないが、お互いが見えるだけ違う筈だ。



今はただ、奴の質量を見失わないようにするしかない。



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