第23話 《TRAITOR》



ドドドドドドッッ!!!



バルバトス艦内が大きく揺れた!


「ボスさん!!」

「アニマの空間圧力多数確認しました!!」


『くっ!!』



転びそうなアルを支えたおれが、さらに転倒しそうになるのをY子が支え、

相変わらずなその冷静口調で状況を伝えた・・・・!


「デュシー島を中心とした、ピトケアン諸島及び周辺海域に現行アニマが

 出現中です。これから現れる新生アニマの殲滅計画を妨害する為と推測します。」


このタイミングだ。当然っちゃあ当然か・・・!!


『周辺に展開しているKINGSの戦力はどうなっている!?』


「現在全部隊が交戦中です。過密に戦闘領域が展開されている為、空間が極めて

 不安定化しています、このままでの異空間移動は推奨しません。」



『判った!シアン!空間接続は止めて、バルバトスを異空間からデュシー島上空へ

 解放してくれ!』



「はっ、はいっっ!!」

「あっ!!ぼ、ボスさん!!」

「でも異空間からの脱出先の位相に敵が・・・!」

「モニターに映します!」



映された映像は凄まじかった。

青空が歪みに歪み、その中で数百の戦艦と羽を持った無数の怪物達が激しい

攻防を展開していた。アニマの戦力にはあんな化け物もいたのか・・・!


巨大な翼と腕が一体化した、その銀色の飛行個体は両翼を広げれば恐らく10mは

あるだろう。そして固形化した海の上に立つ全長100m程の白い巨人・・・・!!

宙を漂う白濁色の鰻の様な物体・・・・!!


レーザーの閃光や雷光、ミサイルが飛び交い敵も味方も墜ちてゆく。

この中心に辿り着くにはどうしたらいい?



その時!

モニターに映ったアニマの群れが、突如天から伸びた銀色の槍に次々と貫かれ

串刺しになっていった。天空から延々と伸びる槍は即座に数を増やし、無数の槍の雨

となってアニマの大群を固まった海面に墜落させていった・・・!!



「これは騎士団の援護ですね。」

「ストレラが動いてくれたのでしょう。彼女らは機動力に優れている。」

「素早く、優秀な行動です。」


パーマはこんな時だというのに普段通りの涼し気な顔で説明した。

しかしこの援護はかなり有難い・・・!!


「丁度我々バルバトスが脱け出す位相のアニマを排除してくれた様です。」

「今なら抜けられるでしょう。」



「・・・・・!!」

「は、はいっ!!い、今!バルバトス・・・異空間を出ました!!」


ゴゴゴッ!!と艦が揺れる!


『不時着出来そうか!?』



「不時着?呑気な事言うじゃん。

「甲板から飛び降りればいい。私の力に任せなよ」


ウェルシュのゴッドハンドか・・・!

確かにあれで一度宙に浮いた事がある。似た要領で着地も可能って訳か・・・!


『よ、よしわかった!』

『腹を決めるしかないな・・・!!』


『ヘリコ!アルを頼んだぞ!』


「えぇ、任せて。」

「必ず戻って来るのよ!」


ヘリコはアルを抱いておれから引き離した。


「まさゆ、き・・・・ぁ・・ぁ」


『それじゃあアル、行ってくる。』

『待っててくれ。できるだけすぐに戻ってくるからな!』



おれ達は司令室を出てエレベーターへ向かった。

離れていくアルの表情は少し歪んでいた。


・・・ごめんなアル。きっとアニマと急に接近して、不安なんだよな?

普段から殆んど表情を動かさないアルが表情を変えた時、その感情が不安や恐怖

で一杯だなんて・・・本当は避けたかったんだ。


その嫌なものを取っ払うには、逸早いちはやく決着を付けるしかない・・・!!




おれ達は甲板に立った。




目の前には巨大な空間の歪みの中心、特異点が不気味に揺らめき、ノイズを

放っていた・・・!!


凝固した海面から300メートルって所か。


『・・・・・ウェルシュ、頼む!』


「りょーかい。」



Y子がフッと平然に飛び下り、パークも続き、ウェルシュも跳んだ。

怖がっている場合じゃあない、おれは走って甲板の縁から思いっきりジャンプした!



宙を裂いて突進するアニマの怪物を天から延びる銀の槍が貫く。

おれ達の身体は次第にウェルシュの力に包まれ、浮遊感を覚えた。

そして、落下に伴って衝突しそうになる槍を浮遊感に導かれてひらりと躱す。


おれ達は無事着地し、固形の海面に足を着いた・・・!



『さ、流石だなウェルシュ・・・!』


「当たり前でしょ。」


「ボス!わたしも褒めて下さい!」


『Y子、お前別に何もしてないだろ。』


「いや、もうなんでもいいから褒めてください!」


『めちゃくちゃだなお前!』



ウェルシュは激しい戦闘が繰り広げられている上空を見上げて呟いた。


「・・・なんか変だと思わない?」


『変?』


「現行のアニマが出現した時、どの艦も不意を突かれた。」


「でも出現したアニマは、前の異空間張力の時みたいに出現を予測できないタイプ

 じゃない・・・・しかも、そのタイプのアニマがこの規模の軍勢に異空間で

 奇襲をかけるには、外側からのアプローチだけでは不可能・・・」


そうか、特別な兵器でない限り、そんな事が簡単にできたら最初から戦いに

ならないよな・・・・・


『ん?・・・・待てよ?』

『それって、KINGSの内側に内通者がいるって事か・・・・?』


「・・・・そうじゃなきゃ説明が付かない。」

「KINGSの空間技術はそこまで甘くはないし、各セクションを纏める管理者だって

 バカじゃない。かなり高度な空間技術を持つ技術者の仕業か・・・もしくは」


Y子がそこに言葉を被せた。


「プロテクトを遮断する力を持った、KINGSの兵器か。」




「・・・・あるいは奇跡か。」


「その可能性だって、捨てきる事はできませんよ?」


パーマは肩をすくめて言った。



その時、ウェルシュはパーマの方向へゆっくりと首をひねり、吃驚の混じった

瞳を大きく見開いてパーマを捉えた。


Y子は黙っておれの前に移動し、同じ様にパーマを見る。




「・・・しかし、この空間は一体何なんでしょうねぇ」


「この中心地を取り巻く、戦場と化した全ての空間の中で“森川まさゆき”

 という存在だけが確かに見えている世界があるのでしょう・・・・」


「人ならざる存在アニマ。そしアニマと戦う為に《人》とい生身の翼を自ら

 切り落とした人ならざる兵器達・・・・生命は大地と海により産まれ、

 水と土の上に生きる為にせめぎ合う。しかし、この空間はどうでしょう。」


「私達は、一体何を手にしようとしているのでしょうね。」



パーマは歩みを始めて、いつもと変わらない質量の薄い足取りで進む。


『パーマ・・・・?』



パーマの足が砂浜を踏みしめ、その歩みを止めた。

・・・・こちらを振り返る



「私は思いますね。人に総意などという物が存在するのなら、それはきっと、

 大地への反逆・・・・・・・裏切りなのだろうと」


「人は星の制裁を受けるべきなのかもしれない。」



パチンッ・・・・


手を歪んだ空に仰ぎ、指を鳴らした。



その瞬間、パーマの周囲に無数の黒い空間の歪みが出現した・・・!


『パ、パーマ!!』


歪みからは直ぐにアニマが大量に出現した。

しかし奴等は、その只中に立つパーマに襲い掛かろうとはしない。


『な・・・・何・・・?』



「チッ!・・・アンタ・・・・!!」


ウェルシュと同時にY子も構えた・・・!



『お・・・・おい、パーマ?』



「くくっ・・・貴方は面白い人でしたよ。。」

「しかしここまでです」



『何・・・言ってんだ?』

『お前・・・・』



「貴方を殺すだけならまだ簡単でした。しかし、バルバトスの戦力を大きく

 捲き込む様にとなると骨が折れます。なんせ皆さんお強いですし?」


「それによもや、αアルファをもKINGSに引き入れてしまうだなんて・・・・

 これは一番の計算違いでしたよ。」


「・・・こちらの世界でαアルファが完成した事で、貴方を殺してしまい

 さえすれば全てが簡単に終わる筈だったのですが、貴方との最初の接触で

 αアルファに潜在していた不確定要素が目覚めてしまった。」



『うそだろ・・・・?』


『パーマ・・・・』



パーマはニコッと微笑んで答えた。


「本当ですよ。」


「あの公園でαアルファの力が暴走した際、その力がまだ制御不能であると判った

 ものですから取り敢えず森川まさゆきを生かしてもうしばしKINGSに潜伏する

 事にしたのですが・・・・」


「しかし、流石はバルバトスの精鋭です。」


「以前からそこのお二人や司令殿は、バルバトスを直接破壊する些細な隙すら

 与えてはくれませんでした。敵のあらゆる工作に異常なまでの警戒を張り巡らせて

 いましたね。それが森川まさゆきの合流で随分と緩んだと思えば、今度は

 αアルファのバルバトス格納・・・・これには参りました。

 尚更迂闊に刺激しようものなら、こちらまでやられかねません。」



「・・・まさか、中国の研究所でアニマに侵入を許したのもアンタって訳。」



「ご明察です。」



『・・・なっ、何!?』


「・・・・では、ボスとアルの二度目の遭遇時に、あれほどピンポイントで

 場所と時間を合わせてアルを伴ったアニマが出現したのも・・・」



「ああ私です。まぁこれは裏目に出ましたがね。」


「パペッターボックス除去の際は、流石にロムザが全てを終わらせるだろうと

 思いましたが、なんとこれも失敗です。」



「・・・お前っ・・・!」



「森川まさゆき・・・・・」

「・・・・・貴方は確かに普通の人間じゃない」


「しかし、この状況下では流石に逃げる事すら不可能な筈。」


「予想通り、αアルファと貴方はこうして離れてくれましたしね。」



『パーマ・・・・最初から、嘘だったのか・・・・?』



「えぇ、勿論です!」

「気付かなかったでしょう?」

「高度に人を欺く為にはまずは自分を騙すものですが、私には騙して困る自分が

 元々ありませんから、より高度に皆さんを欺く事ができたかと。」



パーマがKINGSを裏切っていた・・・・?


そんなバカな。

お前もあのロムザって奴みたいにアニマに寝返ったっていうのか?

確かにお前は何考をえているのか、いまいち判らない所はあったさ。

けど決して人を傷付けたり、まして殺したりなんてしない奴だと思っていたんだ。



・・・・そこに居たらお前は、取り返しの付かない事になるんだぞ?


・・・・・戻りたくても戻れなくなってしまうんだぞ?



『な、何でだ?・・・・何でお前は・・・』




「ボス!悠長に話してる暇は無い!」

「とっととこいつ等を片付けないと、アニマが新生したら厄介な事になる!」


『・・・ぐっ!・・・だが』


「作戦の失敗は全人類の死を意味します。」

「バルバトスのアルも、シアンも、司令もヘリコもニャンぷくも全員死にます。」

「ボス、生きるべきか死ぬべきか・・・指示を下さい。」


『・・・・・クソッ!!!』

『やるしか・・・ないのか!!』



「おや・・・・まだ生き残れると思っていますか?」

「バルバトスのセキュリティデータは既にアニマに筒抜けです。」

「ほぅら、あの通りです。」



ドゴオォォォッッッ!!!!


後方上空から爆発音が響いた。


『・・・・・!!!!!』



戦艦バルバトスが攻撃を受け、黒煙を立てて傾いていた・・・!!


『まずいっ!!!』


「ボス!前を向いて!来るよ!!」


『・・・・くっ!』



最悪だ・・・・!!!


どうする!?

落ち着け、落ち着け、落ち着けおれ・・・!!


そうだ、今行動しなければ全部が終わる!

剣を振るうのはお前じゃないだろ森川まさゆき!!

今Y子とウェルシュを最も信じる事が出来なければ、お前の手には何も無いぞ!

こいつ等を隣で見てきたから考えられる選択肢を選ぶんだ!!



『Y子!アニマが新生する前に攻めきってくれ!

 後方は一切気にせずに、異空間を優先で破壊するんだ!!』


「わかりました!」


『ウェルシュ!防御メインでY子のサポートを頼む!!

 敵の絶対数がこれ以上増えない様に、Y子の異空間破壊の間はなるべく他の

 アニマの数を減らしてくれ・・・!!』


「了解・・・!」


地上こっち上空バルバトスに戦力を分散したら数の応用で絶対に負ける!

 バルバトスが持つかどうかはシアンの技術と騎士団に賭けるしかない!』

『時間との勝負だ!行くぞ!!』



――――瞬間


ドッッッ!!とY子は硬い海面を蹴り、前方へ急速に滑空し同時に光粒子砲で

前方のアニマ達を異空間ごと焼き払っていく!


もはや敵がLEVELいくつのアニマなのかは判らないが、どう見ても

LEVEL3よりも上だろう。見た目も動きも人間味が一切無くなり、動きも素早く

その身体は見るからに力強い奴等ばかりだ・・・!


しかしY子の戦闘は見事としか言い様が無かった。

地面や敵の身体、そして武器すらも足場にして縦横無尽に錯乱し、主に敵の

頭部を狙った攻撃と、同時に繰り出される光粒子砲によって即座に敵の屍を築き

上げていった・・・!!



『く・・・くるっ!!』


こちらに向かって突進してくる、巨大なオオカミ型の怪物がいた!

しかし前方50メートル程で奴は突然頭部から腹部程まで潰れ、逆の後方へ

ふっ飛んでいった・・・・!

ウェルシュの攻撃だ・・・・!!


ウェルシュの見えない腕、ゴッドハンド。

その力でウェルシュとおれは宙に浮いた・・・!腕の一つがおれの足場になって

くれているんだ・・・・・!


ウェルシュは地上の敵を次々と撲殺し、飛んでくるミサイルやら爆弾やらが

空中でこちらへ届く前に全てをガードし、Y子を遠距離で狙うアニマ達を

次々と潰していく。二人の攻撃は圧倒的だ・・・!!



「ふむ・・・・まぁ、そうなる事は解っていましたが。」

「ではこれならばどうでしょう。」



パーマの後方の異空間が広がり、あの全長100メートル程の白い巨人が現れた!!

その顔には、あの自爆型のLEVEL4と同じ様な赤い球体が埋め込まれている。

そして巨人は地響きを立てながら、こちらへ走り始めた・・・!!



『で・・・・・でかすぎる!!』

『ウェルシュ!あいつはヤバイぞ!!』


「ふんっ!・・・ナメるな!!」


ゴゴゴゴゴゴッッ!!


と、硬い海面を抉りながらウェルシュの攻撃が横から駆け抜ける様に薙ぎ払い、

巨人の両足を巻き込み、膝から下を失った巨人が横に傾き倒れ始めた瞬間、

とてつもない破裂音が周辺の空気を大きく叩いた。巨人はそのストマックに巨大な

拳の跡を刻んでパーマの遥か後方へと大きく宙を舞い、遠方の落下地点で巨大な

爆発を起こした・・・!!!


『う、うぉっ!!!』



「・・・・ふぅ、流石ですねえ。」

「しかし、忘れていませんか?私の能力。」



パチン!とパーマが指を鳴らすと突如、おれとウェルシュの周囲に大量の

LEVEL4が現れ、水中のクラゲの様にふよふよと宙を漂い始めた!!


「!!!」


『っま、まず・・・・!!』



ドドドドドォォォッッ!!!!



おれとウェルシュは一斉に爆発したLEVEL4の爆炎球に飲み込まれた!!


しかしゴッドハンドの力はそんな大爆発の灼熱の中でもウェルシュとおれを

守り切り、風と共に巻き上がる黒煙の中から脱出した!



「まだまだ終わりませんよ?」



『・・・なん・・・だと?』

刹那、再度おれとウェルシュを囲む様に白い巨人が6体出現し、

円陣を組む様に屈み、まるて鳥籠で閉じ込めるが如くおれ達を包囲した!

これは流石に・・・・!!


「・・・・ちっ!」



とてつもない爆発が起きた。


おれはウェルシュに守られて爆炎に焼かれる事は免れたが、あまりの衝撃で

二人共吹き飛ばされてしまった・・・!!!



『う、うわぁーーっ!!』



ウェルシュの透明な護り手に、今の衝撃で隙間が空いたのだろう。

肌を裂くような気圧がおれを押し退け、さらに襲い来る止まない追撃の

影が目に飛び込んだ!


おれを囲む様に空中に跳躍してきた怪物達は、しかし一筋の閃光によって

撃ち落とされていく・・・!


・・・・Y子の狙撃だ!!



しかし、パーマの絶望的な能力は息つく暇すら与えずに、読めない軌道を描いて

こちらに襲い掛かった。現れたのは全身が青いクリスタルの様に光輝く、翼を

持った悪魔だった・・・・・


「・・・・コイツは!!」


ウェルシュの反応を見なくても俺にだって解った。

こいつは違う・・・!

これまでのアニマとは明らかに・・・!


その全長5メートル程もある巨躯きょくから繰り出された強烈なパンチは

おれを覆っていたウェルシュのガードを打ち破り、その衝撃でおれは

勢い良く空中に放り出されてしまった・・・・!!



「・・・・・今ですっ!!!」


すると、おれの背後の軌道上に黒い異空間が出現した!


ウェルシュがおれをキャッチしようとしたのだろう。

クリスタルの悪魔に追撃を受けながらこちらに能力を差し向けた様であったが、

おれとウェルシュの間に多数のLEVEL4が割り込み爆発した・・・!!


『うおぁーーー!!!』



おれは黒い異空間に飲み込まれてしまった・・・!!




―――瞬間、全ての音が去り、静寂と闇に包まれた。



音も、視界も、触覚も、その全てを呑み込む闇。

黒い闇の中に落ちて、落ちて、落ちて・・・・・


やがて落ちているのかどうかさえ判らなくなり、意識は薄れ、闇へ溶けていった。






「無限の闇へようこそ。」



「森川まさゆき」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る