第22話 《無音の胎動》




気が付けば11月半ばである。



おれがKINGSとアニマに関わり始めて、まだ1ヶ月も経っていないという事実には

おれ自身驚きだった。


なんせ自分の人生も、世界の都合も、この短期間に大きく変化してしまったのだ。

こんなに短いスパンで起こる事とは到底思えない怒涛のイレギュラーラッシュの中で

おれは家も職も失くし、未だに命の危機に直面し続けているが、今のおれは何故か

それほど絶望はしていない。


バルバトスを構成するこの面々を眺めてみると、根拠は無いが何とかなるのでは

ないかと思えてしまうのだ。不思議だ。




先日のサピエンテスにおける不愉快な会議を終えて3日経った。

異空間張力による硝子化現象は首都の強制的な機能喪失をもたらした。


経済団体への打撃はもちろん、政治の箱庭である霞ヶ関や永田町はその機能を

完全に失い、官邸も国会も消滅し、その真空を埋めるために、残された政治派閥や

地方行政による臨時政府が立ち上げられ、その本拠を近隣の神奈川へ移し、暫定的に

政治指導者を選定した。


臨時政府は他国のメディア統制と歩調を合わせ、大規模な敵性組織の攻撃と報道し、

表面上、攻撃を受けた日本を一種の旗頭に国際協力の元での徹底対抗を訴えた。



日本国における、影響力を持つ主要政治家や著名人達の死。

そしてあまりにも膨大な民間人の死。母親、父親、兄弟や恩師、友人、恩人

・・・・そして子供達。


もはや他人事などは通用しない圧倒的な死の存在感に、国内は大きく混乱していた。




おれ達バルバトスの面々は、この世界に起こる筈の“アニマ発生”の前兆を探して

無秩序に発生する空間の歪みを処理して廻っていた。


それがおれ達に出来る事だ。


異空間の処理にはY子とパーマが主に当たっていたのだが、Y子の体は想像以上に

ゴッドハンドの影響でダメージを受けており、ヘリコによるドクターストップが

掛かってしまった為、戦闘はパーマが受け持つ事になった。



Pちゃんさんは世界各国により組織された対アニマ臨時委員会におもむいたまま

まだ帰っていない。事が事だけに難航するのは当然だ。臨時委員会でのやり取りは

複数の国々の、それぞれの都合が渾然一体と化した一種の力場なのだ。


ところが、今朝のPちゃんさんからの通信によると明後日にはバルバトスに帰還できるらしい。KINGSの兵器供与による交渉は概ね軌道に乗ったらしく、しかし、

当面KINGSの戦力は切迫するとの事だ・・・・これはどうやっても避けられない。


その会議に森川まさゆきが出席しなくて大丈夫なのだろうか、と心配したが

Pちゃんさんは通信で「大丈夫です、任せてください!」と力強く返した。


頼もしすぎる。



・・・・彼女はかなりの苦労を経験してきたんだろうな。


KINGSの総司令官として各国の取引の矢面に立ってアニマと戦いながら、

内側ではあのサピエンテスの老人達と気の休まらない議論を交わしつつ、

このクセの強いバルバトスの面々を纏めなければならないなんて・・・・


彼女はおれに小難しい仕事をさせまいと気を回しているらしい。

だが、あの一切の苦労を見せない姿を見ていると、むしろ彼女の為に少しでも

おれに出来る事をしなければと焦ってしまう。


だから時間が空けばこうして資料室でバルバトスやKINGS、アニマの情報を

収集し、自分に出来る事を考える時間に充てた。


それでも空間兵器の専門知識が前提となる情報が多過ぎて、おれの脳の処理能力は

限界ギリギリでフル稼働しながら結局オーバーヒートしている有り様であった。


・・・・これじゃあ様にならない。


・・・・・そこで、取り敢えずバルバトス内の掃除と料理を担当しようと思う。

一人暮しの独身男とはいえ、これならば努力も実りやすかろう。


・・・・そこ、ショボいとか言わない!




医務室にY子とウェルシュの様子を見に行くついでに、ヘリコに差し入れの

コーヒーを運ぶとありがとう、とカップを受け取ってくれた。



「あれから異空間張力はまだ発生していないわね。」


「硝子化現象を引き起こしたアニマの兵器は、KINGSの追跡部隊が複数基捉えて

 破壊する事に成功したけれど、全てを捉えきる事はできなかったみたい。」


『・・・・あの異空間張力がまた現れる可能性があるのか』



「各国はアニマの脅威によって世界中が混乱する事を恐れている。

 メディアを使ってカバーストーリーを流し始めたわ。」



『テロ組織の兵器による攻撃・・・・・だなんて無理くりな言い訳じゃ流石に

 嘘もつき通せないと思うんだがな・・・・・』


「無理もないわ。その空間に存在する、ほぼ全ての存在を瞬時に硝子化 させて

 しまう・・・なんて自然法則はこの世にあり得ないもの。」


「情報統制によって架空の敵を作り出した方が、人々を安心させるシナリオを

 実際の現象に覆い被せる上で楽なのよ。何時でも消す事ができるしね。」



現象自体がファンタジーすぎて、真っ当なリアリティーで覆い被せようとしても

その説明は全体的に歪にならざるを得ない・・・・前もってKINGSがアニマ対策用の

臨時委員会等の枠組みを作っていたから、世界中で速やかに連携してフェイクカバーストーリー

共有できたのだろう。



『・・・今のところは、各国とKINGSの繋がりが危うくなる様な事は避けられている

 みたいだな・・・ホッとしてもいいんだろうか・・・』


「今はそれでいいと思うわ。司令が委員会で上手くやったみたいね。」



『・・・・・凄すぎる。』


「ふふ、あなただってサピエンテスであの老人達に譲らなかったじゃない。」



・・・まあ、それは奴等が森川まさゆきルールという特殊な弱味を持っていて、

おれはそこを無理矢理ほじくっただけに過ぎないんだがな、実際。


『サンドウ氏がこちら側でよかったよ。』

『・・・そうだ、彼は他のサピエンテスのメンバーとは考え方が大分違うよな』


『あの三人はまるで人間として別の人種って感じだった。』

『血が通っているのは彼だけだと思ったよ。』



・・・・するとヘリコは遠くを見るように視線を移し、言葉を漏らした。


「彼も昔は兵器を軽んじていたわ・・・」


キィ・・・と椅子に座って少しもたれると、コーヒーを口にし自らのデスクの上に

目を向けた。デスクには写真立てが伏せられていた。


ヘリコはゆっくりそれを立てて、やわらかい瞳で見つめた。



『あ、かわいいなぁ・・・・!』

『ヘリコの娘さんか?幼少時代だな。』



写真の子供はアルよりも少し年上ぐらいの女の子のだった。

海岸で大きな麦わら帽子を首にかけて笑っている。



「えぇ、私の大切な一人娘。」


「・・・・・大人になれずに死んでしまった」



『・・・・・!』



ヘリコはこちらを見上げて静かに微笑んだ。


「医学なんて無力ね」



「医学も科学も、生命の不可逆性から逃れる事は出来ない。

 テクノロジーの可能性にのぼせ上がっていた幼い私の幻想は、この子の死で

 完全に・・・・・・」



「・・・人は向き合えないと辛いの。だから目を逸らして逃げる。でも人が人である

 事から逃げる事は出来ない。向き合った時、人は変わらざるを得ないわ。

 その時ようやく人は人であることを深める事が出来る。」



「サピエンテスの老人達の人生は言わなくても解るわね?」


「・・・・サンドウは変わる事ができた人間だと思うわ」


「・・・・夫としては目も当てられなかったけれど。」




『・・・・え?・・・夫?』


『・・・ヘリコとサンドウ氏はつまり・・・・』



「ふふ、昔の事だわ。」

「むかし、むかーしの事。」


「この子以外はね。」


そっと写真立ての縁を指でなぞってヘリコは目を伏せた。



すると医務室へ黒猫のニャンぷくとアルが入ってきた。



二人は今朝から一緒に過ごしていたみたいだ。ニャンぷくは中二病だから

精神に少年を住まわせている分、お友達としてぴったりなのかもしれない。

追いかけっこをしたり、Pちゃんさんが以前用意してくれた絵本等を一緒に

読んだりして遊んでいたみたいだ。


・・・・猫とはいえ、アルにそんな友達が出来てよかった。

ニャンぷくをバルバトスへ連れてきた事で生じた嬉しい誤算だ。



「おいオーイ!ドクター!」

コイツアルを診てやってくれよー!」

「ったくよぉー、鬼ごっこしてたら転んじまってさァ、ったくドンくせえチビだぜ!

 膝を擦りむいちまってやんの。」


「あらあら、じゃあこっちにいらっしゃい 」


アルはヘリコの目の前にある丸椅子にちょこんと座った。


『なんだアル、転んじゃったのか?』

『今度、必殺アイテムのマタタビを買ってやる。』

『ニャンぷくなんぞそれで一発で捕まえられるからな。』


「また、たび?」


「オマエー!オレとアルの真剣な戦いに薬物マタタビなんて持ち込むんじゃねえ!」

「スポーツマンシップに泥を塗るなよなっ!!シュッシュッシュッ!!」


ニャンぷくはテーブルの上に器用に上がり、尻尾をこちらへ向けて挑発的に

シュッシュッシュッ!と振った。おれはその尻尾にデコピンをかましてやった。


「ニャッ!!動物虐待!!動物愛護団体!!!」


『うるせー。猫のお前と子供のアルとでは身体能力に差がありすぎるんだよ。』



「ふふ、気を付けて遊ばなきゃね。」


ヘリコはアルの頭を優しく撫でて、擦りむいて少しだけ血が滲んだ膝に、

簡単な手当てをしてくれていた。



・・・・ヘリコがアルを単なる兵器ではなく、人として受け入れてくれた理由が

少しだけ解った気がした。


大切な子供を失った彼女が持つ、悲しい優しさと覚悟。

きっとその胸には、人の深みの中で静かに脈打つ“愛”が暖かく光っているのでは

ないだろうか。



「まさゆ、き」


『ん?もう痛くないか?』


「ぅん」


『そっか、よかったな!』



アルは両手でおれのズボンをきゅっと握ってこっちを見上げた。


これは多分、だっこしてほしいって事だ。

アルは言葉も少しずつ上達してきて、意思表示がようやく増えてきた。


実はこっそりバルバトスのメンバーに頼み込んでいた事があったのだ。

それはアルへのスキンシップだった。


アニマに虐げられてきた過去を振り切るには、人の優しさに沢山触れる事が

必要だと思ったからだ。


特にPちゃんさんとヘリコはこころよく同意してくれて、優しい言葉をかけて、よく手を繋いだり、抱いてくれたり・・・・本当に良くしてくれていた。


きっとその賜物なのだ。



「ボス、に行くならこの薬を届けてくれる?」


『あぁ、ウェルシュの薬か?』


「・・・・Y子と同室だから、五月蝿くってね。」


『・・・はぁ、何で喧嘩するんだろうな、あの二人は・・・』



おれはアルを抱き上げて、医務室の隣にある病室を覗いた。





「・・・アンタね、常識で考えなさいよ!!」

「プリンが4つあったら半分で割ったら2つずつでしょうが!」



「違います!お腹が減っていたら1個は1個として機能しないんです!」

「その場合3個で1個分です!そうしたら貴女には1個残る・・・・!!」

「・・・・計算通りです!!」


「バカじゃないの!?」

「それじゃどのみち計算合ってないじゃない!」


「バカじゃありませーん。」

「べろべろー。貴女にとってプリンは子腹を満たすオヤツかもしれないですけど

 こっちはガチ空腹なんでーす。」


「いや、意味不明だからその理屈」


「貴女こそわたしのプラモデルを踏んで壊したじゃないですか!」

「わたしだって痛みを抱えて生きてるんです!」


「ハイハイ、そんなん謝ったでしょ?」

「別にイクラの軍艦巻きのプラモデル踏んだって、粒々のプラスチックがバラける

 だけじゃない。ってかンなもん作って何が楽しい訳?」


「は、ハナで笑いましたね!?」

「お米の一粒一粒を丹精込めてバリ取りして、必要最小限の接着剤で器用に固めた

 忍耐と涙の情熱込もったわたしのシャリを!!」


「だから何が楽しいのソレ!!」


「寿司握れないからプラモ作ってるんですよっ!!」


「だから食えないでしょうが!!」


「頑張れば食えます!!」


「食うな!!」



『ああ~~~~ごほん。』

『・・・・お前等、ちょっといいか?』


二人はイラついた眼で同時にこっちを睨んだ。



「・・・・なんなの、何か用?」


「ボスボス!!聞いて下さい!」

「この女、可愛コちゃんぶりやがって、人の食への追求を否定してくるんです!!」


「あぁ!?」

「アンタのは食への追求でも何でもなくて、盗み食いでしょ!!」

「アンドロイドのくせになんで食い意地のステータスついてんのよ!」


「あ~~~アンドロイドのクセにとか言って差別された気分ですねぇ~~!!」

「こういうのって職場で許されていいんですかぁ~~~!!」

「生きる権利を否定された気がしたんですけどーーー!!」



「じゃあ・・・死・ね・ば?」



「ふっむーー!!!嫌です嫌です嫌です!!!」


「あーもうっ!バタバタしないで!うっとーしい!!!」


「ぜっっったいに死ぬもんか!!!」

「寿司プラモをコンプリートするまで死にたくないですー!!」



『・・・・・・・』


おれとアルは、ウェルシュの床頭台にそっと薬を置いてその野良猫のケンカのような

手の施しようのない空間から静かに離れた。


・・・病室では静かにするものだぜ、お二人さん。




医務室から出てきたニャンぷくが無駄な跳躍力でおれの頭の上に乗り、

ふぅ~楽だぜぇ、などとほざきやがったので、アルの相手をして遊んでくれた

礼にと考えていたチュールは買ってやらない事にした。


何なんだこの戦艦は。自由人の巣窟なのか。



エレベーターで上り、エントランスで降りて、少しでもバルバトス内の端末に

馴れておこうと司令室に向かえばそこにはパーマとシアンがいた。

パーマは端末を使って、何かデータを入力していた。


シアンはこちらに気付かずに自分の携帯端末を一生懸命弄っている。

夢中になると周りなんて見えなくなるタイプなんだな。この子は。



『シアン、待たせたな。』


「ほあーーーーっ!?」


『うぉっ!?』



突然話し掛けられてスーパー驚いたシアンが、おどつきながら振り向き

こちらに気付いて真っ赤になった。スーパー恥ずかしがり屋でもあるらしい。


「・・・なんでしょう?」

「・・・・あぁ、イタズラですか」


と言ってこちらを少し見て向き直るパーマ。

いや、スーパーそんな訳ねーだろ。



「ぼぼ、ボスさん!お待ちしてました!

 ご、ゴメ・・・いやいや、スミマセン!新しいプログラムの開発に夢中に

 なってしまって、気付けませんでした!!」


『あぁ、いいよ。コッチこそごめんな?』

『シアン、忙しいのに付き合わせちゃってさ。』


「いえっ!そんな事ないです!」

「え、えへへ・・・ボスさんに頼ってもらえるなんて嬉しいし、わたし、メカの

 事で何か聞かれるの割と好きかもしれないですし・・・・えへへ」



シアンに、ここの端末の使い方や扱える情報、おれに出来る操作等を教えて

もらう為に前もって頼んでおいたのだ。


「オレ様にもいじらせろニャーーー!!!」


『だー!お前は辺りを弄くるんじゃない!鰹節やらんぞ!』


「ニャ!?」


『アル、じゃあ下ろすぞ?』

『ニャンぷくと遊んでやってくれ。』


「ぅん」


アルはニャンぷくを抱いて近くの段差に座った。


「にゃんぷく・・・おしゃ・・べり・・・しょ」


「いいぜ。11月だし、これから寒くなるからな。むしろ怪談話でその身を

 凍てつかせてやんよ。」



・・・・・一応、アルは氷属性を持ってるからな。驚かせてうっかり氷漬けに

されたとしても知らんぞ?・・・・とまあそんな心配は無用だな。



さぁて、それじゃあシアン先生にレクチャーを受けさせて貰うとするかね!

などと意気込んだその時であった。



「・・・・・おや、通信が入りましたねぇ。」


『ん?パーマ、Pちゃんさんか?』


「・・・・いいえ、これはKINGS軍事部門の統括部からです。」

「何でしょう、丁度ここに貴方も居ることですし、スクリーンに映しますね。」


『お、おう。』

今このバルバトス内での最高意思決定責任者は当然だがおれなのだ。

こんな時はいつもPちゃんさんが対応していたのだが・・・ここはおれが直接

取り合うしかない。



すると、上方のスクリーン二人組の男女が映し出された。


その映像を見てパーマは言った。

「おやおや、これはこれは、統括本部長と騎士長殿ではありませんか。」


『本部長と・・・騎士長?』




「・・・・こちら統括本部。」


「森子まさゆき殿を頼む」


画面中央に、後ろで手を組み立っているのはスーツ姿でちょびひげに刈り上げの男。

斜め後ろには、軍服を着て片目に眼帯を付けた女性が立っている。



『森川まさゆきは私ですが。』



「貴殿が森川まさゆきか。」

「私はタイフォン。軍事部門統括本部長である。」

「こちらは騎士長ストレラだ。」


「緊急の要件である為、このまま本題に入らせてもらう。」


タイフォンという男はその特徴的なその髭を人差し指で撫でながら

よく通る張った声で、平坦に言葉を続けた。



「つい先程、大平洋沖ピトケアン諸島に存在するデュシー島にて

 異空間圧力の裏返り現象、すなわち《特異点》が発生した。」


『・・・・特異点?』


ってこれを現行世界における“アニマ発現”と断定する。」



『・・・!!!』



「私はこれより各国へ配備予定の兵器戦力をピトケアン諸島周辺海域へ配置し

 包囲網を展開する。貴艦には早急にデュシー島にて生まれ来る新生アニマを

 駆逐して頂く。」



「嫌なタイミングですねぇ、現在ウェルシュとY子は万全とは程遠い状態

 なのですが。」



「ファントム、貴様の意見に意味など無い。」

「森川まさゆき殿、貴殿が本当にあの森川まさゆきであるのなら

 その役割を果たしてもらう。貴殿はその為に存在し、又我々はその

 為に存在するのだ。」



『わ、解りました。しかし、こちらも現在戦力が低下している事も事実です。

 包囲網に回している戦力か他の戦力でもいい、こちらに手配してもらえま

 せんか?』



まからん。貴殿の特殊チームはアニマ本体抹消の為に存在している。

 戦力分配は予め綿密に計算された状況予測に従って決定されている。

 貴殿のイヴシステム擁するバルバトスの戦力不足はシミュレーションには

 含まれてはいない。よって貴殿にはこのまま“森川まさゆき”による

 アニマ殲滅を実行してもらう。」


『そ、そんな無茶な!』

『計画なんてあくまで計画でしょう!』

『トラブルが起こった時に多少の変更も許容出来ない計画なんて・・・』


「それがKINGSである。」


「貴殿が森川まさゆきである以上、森川まさゆきに反する事は許されない。」

「同じく森川まさゆきを中心としたKINGSの計画にその想定を逸脱する事は

 許されない。その全ては既に決定され進行中なのである。」



『決定通りに運ばない事だってあるでしょう!』


「それは即ち“森川まさゆき”の該当要件から外れる事を意味する。」

「この場合、軍部統括の権限をもって“森川まさゆき”を語る貴殿を拘束させて

 もらう事になる。」


『・・・!!』


「ではこれより新生アニマ殲滅作戦を開始する。」

「作戦開始時刻は2時間後のAM13:30だ。バルバトスにてその戦力を

 デュシー島へ展開されたし。」



そう言い終えると間髪入れずに通信は切れてしまった・・・・・





『め、滅茶苦茶言うな・・・!!』


「あれが統括本部長タイフォンです。」

「彼はこれまでたったの一度も作戦を仕損じた事がありません。

 自らの作戦成功を至上命題として生きてきた彼の自己責任論はあの通り

 他者の都合は一切無視です。」



『そんなんでよく作戦仕損じた事無いな。』


「自分の作戦遂行に影響する都合は器用にカバーしますからねぇ」



『・・・しかしまずいな・・・』


『こんな時にアニマが生まれるってのか・・・!』



「アニマの発生時は、その戦力が無限に増殖する事は無いでしょう。

 もしそうであれば我々の世界は応戦の余地を与えられず瞬時に滅んでいた

 筈です。」


『・・・増える力を次第に増していったって事か。』



「ぼ、ボスさん!これを持って行ってください!」



シアンが差し出したのは、先日預けておいた吸引レールガンだった。

おれが自分の身を守れるようにと改造を施してくれていたのだ。


「今回の改造で、銃がボスさんの生体情報に自動的にリンクし、意識を

 読み取る事でボスさんの狙いたいターゲットに自動照準される様に作り

 変えておきました!」


「それとシールド展開も、反応速度を上げて範囲を細かくカバー出来るよう

 調整を変えています。その分弾の威力とシールドの耐久力は下がって

 しまいましたが、使いやすさと柔軟性はとても高くなっていると思います!」



『ありがとうシアン。』

『こんな短い時間でよくこんな事できるもんだ。助かるよ』


「・・・・ぇへへ。」

「・・・あ、そうだ!だ、大事な事を忘れていました!」


「吸引レールガンは、空間兵器のコアとも言える、特異エネルギー

《アミノフォーゼ》のエネルギーを吸引してエネルギー充填を行います。

 ボスさんは空間兵器を他に持ちませんから、その替わりアミノフォーゼ

 の結晶体を銃身にセットする事でエネルギーを充填出来るようにしてあります。」


ここです、とシアンは銃身のスライドを指でなぞった。


スライドの一部が綺麗な水色の宝石になっており、これがそのアミノフォーゼという

特異エネルギーの結晶体らしい。まるでクリスタルの様に磨き抜かれている様だ。

この宝石を取り外して付け替える事でエネルギー補給をするのか。


「そのアミノフォーゼの結晶はかなり高濃度のアミノフォーゼを特別な液体に

 圧縮して固形化させたものです。エネルギーは少しでも残っていれば自家発電

 で自然に復活していきますが、使い切ってしまうと結晶体ごと割れてしまい

 ます。」



『打ち過ぎて弾切れを起こすと弾倉自体がなくなっちまうのか。』

『連続して使う場合は結晶体の交換がベストって訳だな?』


「はいっ!結晶体はまだその一つしか用意できていませんから、使うタイミングを

 見極める必要があります。」


「あと、発砲する場合もシールドを展開する場合も同じ結晶体からエネルギーを

 使用するので、気を付けてください。」


『あぁ、解った。』



「さて、ではバルバトスをデュシー島へと接続しましょうか。」



『ちょ、ちょっと待て、パーマ。』

『いくらなんでも、世界を滅ぼしたアニマの本体が生まれるってのに、

 今の状況では・・・・・』



「・・・・仕方がありません。」

「・・・・この状況下では、万全ではないにせよY子とウェルシュを出動

 させるより他に手はありません。今の通信は下の階の三人に繋いでおきました。」



・・・・となるとあの二人は確実に無理して戦闘に出るだろうな

一体どんな戦いになるのか検討もつかないのだが。



『なあパーマ、さっきのタイフォンって男が“イヴシステム”を擁するだの

 何だのって言ってたけど、前にPちゃんさんも言ってたよな。』


『何なんだ?それ・・・・』


すると後ろの開いたままの扉からその返答が帰ってきた。



「・・・それはわたしの中枢を構成するブラックボックスの事です。」



『Y子・・・・!』



「わたしのイヴシステムは、現行人類が開く事の出来ないブラックボックスと

 してわたしの中に存在しています。」


「・・・イヴシステムはアミノフォーゼの物理変換作用を強制的に支配、

 コントロールします。」



『・・・すまん。全然わからん。』


Y子はふらつく事なくおれの隣まで歩いた。



「・・・・・簡単に言えばわたしは」


「アニマの中枢機能に近い力を持っているという事です。」



『・・・・え?』


『なんだそれ?どういう事だ!?』



「・・・・詳しい事は、今は説明しません。」

「・・・でも直ぐに理解する筈です。」


「これから直面するのは裸のアニマ本体・・・」

「言い替えればアニマ真相そのものです。」


『・・・・Y子』


『一つ聞いていいか?』


「はい。」



『お前はアニマと直接・・・何か関係があるのか?』



「・・・・・・」


「それも直に判ります。」



・・・何故隠す?


また“森川まさゆきルール”か・・・・・?

いや、それは関係ないか・・・・・そのイヴシステムってやつがアニマと同質の

力を持っているってどういう事だ?アニマは謎の存在なんじゃないのか?

そんな力を何でお前が持ってるんだ・・・?


「・・・ボス、今回の新生アニマ討伐にはわたしのイヴシステムを使用します。」


『そのイヴシステムってのを駆使して、何をするんだ?』


「空間兵器の攻防ではらちが明きません。新生アニマを異空間に閉じ込めて

 異空間内に極小のブラックホールを発生させ、ブラックホールごとアニマを

 異空間消滅に巻き込んで完全消去します。」



『ブラックホールだって!?』

『それも空間兵器か!?』


「これはイヴシステムです。」

「膨大な力を使用します。使用後わたしは暫く行動不能になるでしょう。」

「しかしこれなら理論上、新生アニマをこの地球上から消滅させる事ができます。」


『・・・お前、ウェルシュの力を使って体を酷使したばかりじゃないか・・・』

『・・・・死んじまう・・・・なんて事ないよな・・・?』



「はい。貴方が望むのならわたしは死にません。」



シアンはY子の後ろで俯いている・・・・・


Y子のその言葉はえらく頼りない言葉に聞こえた。


・・・・ブラックホールだぞ?

惑星だって飲み込んでしまうような天文学的な現象なんだぞ?

東京上空を光線でなぎ払うというとてつもない規模とはまた違うスケール

なんだ・・・・


そこでパーマが空気の硬直を払い去る様に言った。


「さぁて、準備を整えましょう。」

「作戦内容としては、決め玉のイヴシステムによるブラックホールの発動で

 良いのですが、その為には新生アニマを異空間に閉じ込める必要があります。

 その為に新生アニマ本体を攻撃し、弱らせなければいけません。」


足音と共に入り口からウェルシュとヘリコが現れた。


「アニマをメチャクチャにしてやればいいって訳ね」


「・・・・最悪なタイミングだわ。」



『だ、だがアニマの本体って何なんだ?向こうも戦艦とか移動施設とか

 そういう本拠地みたいな形で現れるのか?』


Y子が答えた。

「ボス、この戦いの最終目的は新生アニマの排除ですが、他に大きな意味が

 あります。」


『何だよ・・・・?』


「ボス、貴方とアニマとの邂逅かいこうです。」

「・・・・貴方がアニマの姿を認知する事。」


「・・・貴方はもしかしたら、この戦いで始めて人類とアニマの戦いの意味を

 知る事になるのかもしれません。」


「その時、貴方にアニマの本体がに見えるのか。」

「それがその疑問の答えになるでしょう。」



『アニマの本体が・・・何に見えるのか』



お前はアニマが何者なのかを知っているのか・・・?

Y子・・・・


「ボス、バルバトスは異空間で戦闘体制を整えるわ。」

「バルバトスには私とシアン、アルで待機してあなた達の回収に備える。」

「それで良いかしら?」


『あ、ああ・・・・』



「オイーッ!このオレ様を忘れてニャいかー!?」


するとアルがニャンぷくを隣に置いてこちらへ駆け寄り、おれの足に

しがみついた。


「まさゆ、き」


『どうした?アル』


「・・・・あるも」

「・・・ある、もいく」


『え・・・!?』

『アルも行きたいのか!?』


アルはこくんと頷いた。


『・・・い、いや、悪いなアル。今回はいつもよりも危ない戦いに

 なるかもしれないんだ。』


『アルはここでお留守番して、おれ達が帰ってくるのを待っていてくれないか?』

『なぁに、またすぐに帰ってくるさ』


「・・・・・」


アルはおれの顔を見て、眉間を少し歪ませた。

・・・それは今にも泣きそうな表情だった。


『どうしたんだアル?』

『大丈夫さ。本当にすぐ戻ってくるよ』

『なにも心配する事はないんだぞ?ヘリコもシアンもニャンぷくも居るだろう?

 今回もちょっとだけ待っててくれ』


「・・・」


俯いてしまった。


アルまでどうしたんだ・・・?

これからアニマが生まれるから何かを感じてる・・・?

いや、まさか・・・・


「アルちゃん。一緒にここで待っていましょう?」

「大丈夫。かならずみんなアルちゃんの所に戻ってくるわよ」


ヘリコはアルの小さな肩をそっと抱いて優しく微笑みながら言った。


「そーだぜー!」

「アニマ本体との戦いだなんて危ねートコに、わざわざ自分から行こうとする

 奴があるかよ!オレ達ゃここで菓子でも食って待ってようや。な?」


『ニャンぷく、頼んだぞ。』

『ヘリコとシアンは恐らく仕事で手一杯になるかもしれん。

 お前がアルの側に居てやってくれ。』


「いいぜ?代償は頂くがな・・・!」

「・・・今夜のオレ様のディナーは新鮮なかつおの刺身ニャ!!ぐふーっ」


『現金な奴だなお前。』


『アル、おれ達の帰る場所を、皆とよろしくたのんだぞ』



アルは俯いたまま、小さくうなずいた。



その時、突然上方のモニターに映像が映し出され、そこにはさっきの

統括本部長タイフォンではなく、その隣にいた軍服に眼帯の女性が映されていた。



「・・・・バルバトス諸君、少々時間を頂こう。」



「おやおや、矢継ぎ早に何でしょう。」

「騎士長殿もお忙しいのでは?」


「ふん・・・!」

「ファントムめ、お前に用はない。」


「森川まさゆきに告ぐ。これより私と取り引きをしろ。」



『取り引き?』



「改めて、私の名はストレラ。」

「KINGSにおける最高の戦力、ゴスペル騎士団騎士長のストレラだ。」


「先程バルバトスの戦力不足を嘆いていた様だが」

「・・・私のゴスペル騎士団は、新生アニマの出現ポイント周辺を哨戒する

 任務を受け持っている。」


「アニマとの戦闘が開始された際のどさくさに紛れて、諸君等に力を貸しても良い」


『ほ、本当ですか!』


「ただしその代わり、新生アニマを討ち取った暁には森川まさゆきの権限を行使し、

 現行のバルバトス構成員を全員解散してもらう。そしてその座には我々

 ゴスペル騎士団が着任する。」



『か、解散だって!?』


「我々ゴスペル騎士団は、元々森川まさゆきを頭に据えたアニマ討伐戦力

 となる筈だったのだ。」


『・・・それはここに居るY子達なんでしょう?』



「その少数精鋭に疑問を持った急進派がゴスペルを増強推進し、現行の

 森川チームを刷新する筈だったのだ。」



その説明にパーマが続いた。

「元々、騎士団は我々をサポートする目的でクラウスという人物が生み出した

 戦闘もこなす補助機構だったのですが、サピエンテスのバルトネロ擁する

 急進派によって改変されてしまったのです。騎士団長は交替し、その位置付けを

 このチームにすげ替える事になったのですが・・・・それは敢えなく失敗に

 終わりました。」



「原因は我々の実力不足にあった。」

「しかし今は違う。現在の我々の戦闘能力は貴艦のそれを上回るだろう。」



『・・・しかし、メンバーの選定基準がある筈でしょう。』



「戦闘要員としての強靭さ。」

「それが、我々が以前退けられた際の条件であった筈だ。」


『パーマ、そうなのか?』


「その時はそうでしたね。司令はその条件で受けました。

 ですから一度模擬戦闘を行ったのですが、騎士団総勢300名を相手取り

 Y子が単独で全滅させてしまったのです。」


『えぇぇ・・・・?』


「・・・・戦闘能力は直ぐに御覧に入れよう。」

「何ならこの作戦終了後にこの私がまたイヴシステムと対決し、打ち倒して

 しまってもいい。」



『・・・・何故、アニマ討伐メンバーに拘るんです?』



「・・・・・くだらん質問だな。」

「私達は兵器だ。兵器としての存在を全うする事でしか兵器は自らの

 存在を実感する事は無い。私は騎士団長として全ての騎士達の存在を

 最大限に発揮させる義務がある。」



それは困る。


おれが森川まさゆきとして最もやりたい事の一つに、その兵器の概念の撤廃が

あるからだ。それを前提としたバルバトスには、騎士団が固執する理由がそもそも

始めから無いという事になるじゃないか。


『・・・・それは』


「いいわ。作戦後、アンタ等騎士団総出で私達の内の一人でも打ち負かす事が

 出来たなら、私達が自ら辞退してあげる。」


『お、おい!ウェルシュ!?』


「・・・いいから、今は同意しときなさい」



「ほう!」

「流石の自信だなっ!」

「・・・・では取り引き成立だ!尤も、我が騎士団の実力を以前と変わらぬ物と

 高を括っているのだろうが、それが命取りだ・・・・・!!」


「・・・・では森川まさゆき殿。」

「当作戦、新生アニマの討伐に援護を約束しよう。」


「せいぜい失望だけはさせないで欲しいな。」

「替わりに我が騎士団がアニマを討つ、などという結末では現行チームに

 我々の実力を御賞味頂く前に即解散となってしまう。それではつまらない。」


「・・・フッ、せめて健闘を祈るとしよう。」



そう言い残してゴスペル騎士団長ストレラは通信を切った。




『あんな約束して・・・・』

『お前達を信頼してない訳じゃないが、これからアニマと本格的に

 戦うってのに・・・・・・』


「確かに作戦成功後に私達が消耗しきっている可能性はある。

 でも私達の目的はアニマの殲滅でしょ。」


ウェルシュの言葉に、ヘリコが司令室の端末を操作しながら続けた。


「そうね。今はこの手の議論をしている場合じゃないわ。」


「・・・彼女ストレラは交渉がヘタね。殆んど交渉と言える内容じゃなかった。

 統括本部長のタイフォンが彼女をその座に据えた理由が解ったわ。

 連中からしたら操り易そうだもの。」



『・・・・ま、まぁ確かに、交渉と言う割には随分こちらに有理な話だったな』


そういえば事後の果たし合いだって、日時も何も決めずに終わってしまったな。

こちらがすっぽかしたって、そのリスクが提示されていない以上は理由を付けて

逃げおおせられるのでは・・・・


パーマが椅子からぬっと立ち上がって言った。


「彼女も己の存在を実感する最大の機会が欲しいのですよ。」

「初代団長のクラウス失脚後、数度に渡り団長が交替しましたが、急進派に迎合

 できない者や知恵が回る者はその席から降ろされてきました。」


「森川まさゆきに忠誠を誓った騎士・・・とは名ばかりの形骸的な兵器部隊。

 それが現在のゴスペル騎士団の実態です。」


『・・・初代団長のクラウスって人は今どうしてるんだ?』


「今はもう、この世の人ではありません。」


『失脚って、暗殺かよ・・・・!』


つくづく自ら人間を手放していく奴等だな、KINGSってのは。

その騎士団がそうなったのは結局サピエンテス権力者の意思じゃないか。


・・・・無理矢理首輪をはめられて、その役割を果たすべく血眼になっているその

存在には心当たりがある。脳裏に浮かぶのは以前サンドウ氏の研究所で出会った

ムッシモールだ。前に進む強い力を、盲目なまま行使するそのしたたかさを

表現するのなら、奴等はまさしくそれそのものだ。


・・・・こいつらは、どうすれば救われるんだ?



「ぼ、ボスさんっ!」

「デュシー島に空間接続が完了しました!」


『あ、ああ!』

『もうアニマは出現したのか?』


「いえ!でも、デュシー島中心にとてつもないエネルギー反応が・・・!」

「アミノフォーゼが異常に凝縮して特異点と化してるんだ・・・すごい・・・!」


『シアン、映像とか出せないか?』


「は、はい!モニターに映します!」



そこに映し出されたのは、真っ青な海に浮かぶ、真ん中がポッカリ空いた浜だけの

小さな島だった。しかし変だ。モニターに変なノイズが走り、島の中央上空には

色が反転し変色した丸い空間があり、そこを取り巻く様にして周囲が歪んでいた。


『モニターの故障か?』


「こ、故障ではないと思います・・・・このノイズ現象は、あの異常な歪み方を

 しているデュシー島の中心部・・・特異点が空間に与えている影響の一つ

 みたいです・・・・」


『シアン、これはこのまま空間接続しても大丈夫なのか・・・・?』


「は・・・はい。」

「映像を見て下さい。よ、よく見ると、島周辺の海が凝固しているのが解ります。

 高濃度のアミノフォーゼが海水に干渉して結晶化してしまったみたいです・・・

 この上の、島中心部からできるだけ離れた位置に接続を変更すれば多分・・・」


Y子が口を開いた。


「ボス、このまま近付けば、生身の人体は身体中の水分も結晶化して死んで

 しまうでしょう。わたし達兵器と呼ばれる存在は、空間兵器の力による

 アミノフォーゼの反作用で結晶化を免れる事ができますが、貴方はそれを

 持ちません。」


「なので、貴方の身体にわたしの異空間障壁でシールドを展開します。」


『なんかよく解らんが、それが無いとあの島で生きていられないんだな?』


「はい。貴方の吸引レールガンの防御機能では対処しきれない筈です。」


『そ、そうか。じゃあ宜しく頼んだぞ。』

『・・・・異空間障壁ってやつの強度が気になるが・・・今は言ってても

 しょうがないんだよな。』


作戦の手順はこうだ。


アニマが新生したら一斉攻撃で本体を弱らせて、Y子の異空間に閉じ込め、

その“イヴシステム”ってのを使って極小ブラックホールを作り出し、アニマをその

ブラックホールに巻き込ませつつ異空間ごとブラックホールとアニマを消滅させる。


・・・・順調にいけば、これで以上だ。



今出来る限りの万全を整えて、時間が来たら決行だ



全てが謎に包まれた存在“アニマ”の発現。

事の真相の片鱗を垣間見る代償は計り知れないかもしれない。

・・・・悪魔に出会うために地獄に赴いている気分だが、今ここで

Pちゃんさんの言葉をふと思い出す。


「あなたは一人じゃありません」


そう。この顔触れで数々の死線を乗り越えてきたじゃないか。


今回だってきっと何とかなる。


・・・・・・そうでなくちゃ困る。






―――しかしこの時のおれは、こののちに起こる、かつて無い地獄の様な窮地を

全く想像だにしていなかったのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る