第18話 《暗闇の使い魔》



おれ達は楕円の異空間を潜った。



そこは照明のついていない真っ暗な空間だった。


カビ臭いな。音も何もない・・・外に比べたら大分涼しいが、当然ゆったり

したい場所ではない。命を懸けたデストロイ・ザ・肝試しの幕開けだ。


キングカードにはライト機能も付いているらしい。

ヘリコのカードは彼女の周囲を浮遊し、その意思に従うかの様に動いて

辺りを照らしている。未来的だな。


ここはエントランスでも何でもなく、何処とも分からない通路だった。


「ボス。とりあえずこの施設内の機能がどれ程使える状況なのか確認したい。

 システム制御室へ向かいましょう。そこから照明も回復させるのが望ましいわ。」


『そうだな。ここの見取り図はY子が把握してるんだろ?』

『案内は頼んだぞY子。』


「わかりました。私が先導します。」


『しかしこんな廊下に通じてるとはな・・・・

 Y子、取り敢えず現在地が解るように少し進もうか?』


「いいえ、大丈夫です。」

「わたしの異空間を展開してこの研究施設を作り出せば、その異空間を

 スキャンして内部構造と現在位置を照合できます。」


『へえ、そんな事もできるのか。すごいな。』


そういえば、こいつの異空間ってのは周囲の空間をして作り上げるってな

代物しろものだったな。自分の物にしてしまえば見るも触れるも自由って訳だ。



「記録によればこの現在位置は、施設を破棄する際に緊急の脱出口として設定された

 位相ポイントです。アニマの攻撃によりエントランスの出入り口が中和され

 使用不能とされた為、何とかここへ出口を繋いだ様です。」


『・・・アニマに襲撃されて、混乱しながらもなんとか脱出に成功したのがココ

 って訳か。それで通路なんかに通じてたわけだ。』


「このまま私の異空間で移動したいところですが、ここは生物兵器の開発研究

 施設ですから、厄介な被検体が複数存在している場合、わたしの異空間に攻撃を

 加えてくる可能性が高いです。このまま進む事を推奨します。」



指をくるくる回しながらパーマも口を開いた。


「そうですねぇ、此所を徘徊する敵性の個体が現れても

 私の能力で見つからない様にする事も可能ですから、私もそれが良いかと。」


『そ、そうか。パーマの能力は敵から完全に隠れる事が出来るんだったな。』


それはこの状況で、正にうってつけの能力だ。

・・・とまあ、こんな所で突っ立っていてもしょうがない。

そうと決まればさっさと行ってしまおう。


先頭にY子、後ろにパーマとおれとアル、そしてヘリコとウェルシュ、という順で歩き始めた。



『アル、怖くないか?』


「・・・・・」



アルはおれを見上げて小さく頷いてくれた。


意思の疎通はなるべく出来た方がいい。言葉の練習・・・ってほどじゃあ

ないにせよ、好き、嫌い、そういった自分の感覚を外に出せるよう、なるべく

アルに話し掛ける様に意識してみたが、その甲斐あってか大分だいぶ言葉や仕草に

反応してくれる様になった。


『怖かったり、疲れたらおしえてくれよ?』


「・・・・・」

またひとつ、頷いてくれた。

つくづく思う。この子の心が再起不能状態じゃなくて本当によかった。

奇跡というやつだろうか・・・・



しばらくおれ達はY子を先頭に通路を歩き続けた。


ずるずるずる・・・・ずちっずちっ・・・・・・


時折おれの耳には何かの引きずる音というか、何かがうごめく音というか、

そんな言い難いの音が聞こえてきた。


『・・・・Y子。』

『もしかしてこの周囲の怪しい物音っていうのは・・・・』


「・・・・・そうですね。」

「クリーチャーです。やっぱりいましたね。」


そうですねって。簡単に言うなぁもう・・・・


「でも安心して下さい。なるべく避ける様に通路を選んでいます。

 この施設はとても広く、入り組んだ内部構造になっているので目的地までの

 ルートは幾つか存在しているみたいです。」


『・・・そうか、助かるよ。』



パーマは何故か声を少々潜めて言った。


「音の正体は、やはり生物兵器ですか。」

「バイオ兵器とは言っても、ココは生物を利用した生身の兵器を手広く

 手掛けていました。それこそバクテリアや細菌などにとどまらず、鳥類から

 魚類、哺乳類、あらゆる生物のバリエーションを尽くした、至高の《キメラ》

 など・・・・まぁ噂は予々かねがね聞いていましたよ・・・」


『き、き、キメラぁ!?』

『お前、それファンタジーの住人だぞ・・・?』


「そうですねぇ、しかし科学も現実の世界での魔法の様な物だと思いませんか?

 この時代せかいでも、大々的にニュースになりにくいだけで裏ではそういった

 試みは常に行われていますよ?」


『言われてみりゃあそうだが・・・・・

 だがやっぱり生き物使うってのはどうにも希望が感じられないというか・・・・』


ポケットに手を入れて理知的に歩みを進めるヘリコもパーマに続いて言った。


「科学は機械仕掛けの“夢”から生まれるの。」


「優しさや希望からは生まれない。常に政治と戦争によって発展してきたわ。

 あなたもよく知っているラジオもインターネットも病院のレントゲンも、

 戦争によって産み出された技術・・・人は人を殺す行為の上に人の繁栄を

 築き上げてきた。此所のキメラもそんな繁栄のいしづえとなるべく産み出さ

 れた存在・・・という事よ。」



「自らの繁栄の為に自らの内側に狂気を見い出し、そして正気を保つ為にその狂気を

 用いて正気を棄損し、それを繰り返しながら脈々と受け継がれてきた歴史の上に

 私達の論じる正気が存在する訳です。さて、正気とは一体何なのでしょうか?」


パーマは肩をすくめてそう言った。


『それをおれに聞かんでほしいね。』



「ボス。わたしが思うに此所のクリーチャー達は、エネルギー接種の為に

 おそらく共食いをしながら生存、増殖を繰り返していると見ました。

 ・・・バイオ兵器・・・・・・一体どんな味なんでしょうか??」


『お前は正気に戻れ。』


Y子、それだけは、それだけは絶対にやめてくれ。マジで。



『・・・ともかく、おれは繁栄すれば何でもいいなんてのは願い下げだね。』


『不便だろうが何だろうが、それなら不便の中で幸せを探し求めた方がずっと

 生きてて気持ちがいい。』


「そうね。本来は科学も発展も人のより良き生の手段でしかない。

 でも、それ自体を目的化してしまうのは、紛れもない人のさがだわ。」


「人の本質的な敵はそのものでしかあり得ない。人が人と向き合って

 悪しき人の性を克服した時ようやく人は技術に追い付く事が出来る。

 そうなれば、生き残るため、繁栄するためのは薄れてゆく

 でしょうね。」


「それも所謂“リアリスト”の目の前ではファンタジーと言われてしまうの

 でしょうけど。」


その“リアリスト”とやらの目には、いびつなキメラでさえも現実的な希望に見えて

しまうのだろうか。


もしかしたら此所はある意味人間の“素顔”とでも言える様な場所なのかもしれない。

その狂気はおそらく隠れていて、此所みたいに突き抜けて先鋭化した極限状態の

場所に顔を表す物なのではないだろうか・・・・・

そう思うと、そこらを彷徨うろつく生物兵器達が更にただならぬ存在に思えてきたな。


繋いだアルの小さな手を感じながら、おれは正気を保たにゃいかんと内心身構えた。



おれ達は通路を右に左に曲がり、暗闇に包まれた道を進む。

・・・しかし。



(・・・・ぇ)



『・・・・・?』



(・・・・・・・サレエッ・・・)

(・・・・タ・・・サレエッ・・・)



『おい・・・誰か、何か言ったか?』

ふいに声が聞こえた気がして、つい立ち止まってしまった。


パーマは答えた。

「いえ?私達は何も。」


『・・・・おかしいな。』

『ウェルシュ、今何か聞こえなかったか?』


一番後方を歩いていたウェルシュにも聞こえていれば間違い無いが・・・

しかし、いつもより機嫌が悪いウェルシュは手をヒラヒラと振るだけだった。



(タ・・・チ・・・サレエ・・・!)


(タチサレエ・・・・!!)



(立チ去レエェェッッ!!!!)



『・・・!!!!!』一同



『う、うわっ!!』

『やっぱり!やっぱりなんか居るぞっ!?』


アルはおれの足にきゅっとしがみついた!

正直おれも何かにしがみつきたい気持ちだったが宛がない・・・!

Y子とヘリコが照らすカードの明かりを目で追いながら声の主を探した。


『・・・・・あ、あれ!?』

『・・・・・・何処にも何もいない!?』


此処はただの通路だ。それほど視界を妨害する物は無いから、辺りを見渡せば

周囲には何も居ない事はわかった。


『・・・・おかしいな。』


「ボス。どうしますか?」


Y子の問いかけに選択肢はさほど無い。

襲い来る敵がいるなら迎え撃つか逃げるか選ぶ所だが、相手が居ない以上は

まさか引き返す訳にもいかない。


『・・・立ち去る訳にはいかないな。』

『Y子、敵の反応は無いのか?』


「・・・周囲にはいくつかの生体反応がありますが、こちらへの

 脅威となる様な個体は観測できませんね。このまま進んでも問題は

 無いと思います。」


『そ、そうか・・・・じゃあ進むとしよう』

『・・・慎重にな・・・・・慎重に・・・・』



「わっっっっ!!!!」


『・・・・・っっ!!!!』

『何だ!?どうした!?』


「・・・とか言ったら驚きますか?」


『バカーーー!驚くに決まってんだろ!!』


ふふ・・・さぁせん、ペロッ、とテヘペロをかましたこのアホにおれは

イノキ顔負けのスペシャルコブラツイストを決めてやりたくなった・・・!

アルも流石にビックリして、またしがみついてしまったじゃねーか。


『いいか?場所を考えろ場所を・・・寿命が縮んじまうだろうが・・・!』


「ふふふ。はい、行きましょうか。」


『何がはいだ何が・・・まったく・・!』

『い、行くぞはやく・・・・・』



おれ達は気を取り直して歩き出した。


少し進んで角を左に曲がると・・・・・




(・・・・サレエ・・・!)



(タァチィサァレェェェエェェェェェェェ!!!!!)



『うわぁ!!また出たーーー!!!!』


Y子とパーマが臨戦態勢を取った!


『だだ誰だ!!!何処にいるっっ!?』



(・・・・・コノママ立チ去ラヌト言フノナラ)


(・・・貴様ラニ逃レ得ヌ死ノ呪イガ降リ注グ事デアロウ・・・!!!)


『の、呪いだって・・・!?』

『お前は何者だ!どこにいる!?』


(ワレノ名ハ・・・・パーフェクトサンダー・サクリファイス四世・・・)


(現世ノ監視者ニシテ絶対的預言者・・・ソシテ魔王ノ眷属けんぞくナリ・・・)


『は・・・!?パ、パーフェクト・・・なに?』



(パーフェクトサンダー・サクリファイス四世・・・・・)

(貴様ラヲ地獄ニ突キ落トス存在デモアル・・・・・・!!)


『・・・・』


『・・・・・え?』



(イヤ・・・・ダカラ、パーフェクトサンダー・サクリファイス四世・・)


『それは分かった。しかし・・・・』


『・・・通ってもいいか?』



(・・・・!!!)


(ナッ・・・!聞イテイナカッタノカ!!)

(此処ヲ通レバ貴様ラニ逃レ得ヌ死が降リ注グ・・・)


『いや、親切に悪いが、急いでいるんだ。』


こいつはなんか大して脅威ではないんじゃないと、おれの脳は瞬時にそう判断した。

・・・・なんか中二病の臭いがする。



(・・・バカナ!!)


(ナラバ呪ワレテ地獄ヘ落チルガイイ!!!)


(イビル・アイ!!!)


『・・・!』


ピュンッ、と一瞬カメラのフラッシュの様に前方から光が瞬き、

声は光と共に直後に消え去ってしまった。



『・・・・・な、なんだ・・・・?』


「ふむ、気配もありませんでしたね・・・声の主は一体何者なので

 しょうか・・・今の光も攻撃などではなく、本当にただのフラッシュ」

 だった様ですが・・・」


パーマが不思議そうに呟くとY子も続いた。


「・・・・音声と光の発生源を捉えようとしましたが、特定出来ませんでした。

 あらゆる生体反応を高度に隠蔽している様です。しかし、さほど気に止める

 必要は無いかと。」


『そうなのか?』


「言語を使える知性のある被験サンプルとはいえ、危害を与える意思さえ

 持たなければ現状問題ありません。と、いうか、わたし達を地獄に突き落とす

 割には立ち去る事をすすめて、立ち去らないと決めれば雲隠れする・・・

 意味不明です。たぶんアレはアホですね。そんなのは無視ですよ。」


いやお前がアホを無視するとか言ったら、それはお前にとって非常に

困るんじゃないだろうか・・・・・


『ま、まあそうだな。』


予想だにせぬ不思議イベントではあったが、気にせず前進する事に決めた。

何だったんだ本当に・・・・・・



おれ達はY子の誘導で目的のシステム制御室へ到着した。

二重引き戸の自動ドアは停止しており、おれは手で無理やりドアを開いた。


「・・・着いたわね。」


ヘリコが中へ進入し、おれ達も続くとそこにはあらゆる見慣れない端末や

機材が設置してあった。辺りをカードの光で探ってみる。

・・・・すると



(クククっ)


(・・・・・ヤハリ現レタカ・・・!)



(・・・・コノ身ノ程知シラズノ愚カ者ドモメ!!)



『・・!!お前、さっきの奴だな!』

『用があるなら姿を見せろ!』


(クハハハハハハッ!!貴様ラニハ私ノ姿ヲ捉エル事ナド出来ヌ!!)

(ワレハ偉大ナル魔王ノ眷属!ネバー・ジェノサイド・クラフト四世!!)


『え?・・・お前、さっきと名前違ってないか?』


(・・・・エ?)


(・・・アァっ!違う!正確ニハワレニ固有ノ名前ナド存在シナイノダ・・・!)

(ワレハ一ニシテ全、ソシテ光ニシテ闇・・・更ニハ絶対ニシテ無限ナノダ!!)


『・・・・いや、素直に意味がわからん。』


(コノ愚カ者!!ツマリ貴様ラハ此処でワレニ始末サレルノダ!!)

(クハハハハハハッ、サァ命乞イヲシテミセロ!泣ケ!喚ケェ!!)


アルの手がきゅっとおれの手に力を入れたのがわかった。

ふと隣のアルを見てみると、アルは室内のデスクの上を見つめていた。


キングカードの光で一部を照らされて、周囲が薄闇になっているお陰で

その視線の先にがあるのかが解った。


(クハハハハハハッ、ドウシタっ!?恐怖ノ余リ声モ出ナイカ!?)

(コノ臆病者達メッッ!!ドウシタ!!今ナラバ土下座デ許シテヤランデモナイ!)

(クハーーハハハッ、コノ臆病者モノォッッ!!)


おれはアルの視線の先にいるを片手でつまみ上げた。


(オ前達ノ様ナ臆病者ハ臆びょ・・・にゃ!?)



『・・・・まさか。』


「うわーーっ!は、はなせニャぁーーー!!この無礼者共メっっ!!」


容易く首根っこをつままれて、ぶらんと緩やかに揺れるのは

紛れもない・・・・・猫だった。


黒猫だ。


『・・・・お前か。何とかサクリファイス・・・もとい

 ネバー・クラフト・ジェノサイド四世ってのは。』


「オレ・・・いやいや、我ニハ名前ナド無意味っ!!」


『お前は何なんだ?何で喋れるんだ??』


猫は宙でバタバタと悶えながら答えた。



「猫が喋れたら可笑おかしいか!お前らこそ何だ!こんな所に人間が現れる

 なんて可笑おかしな話じゃねえかよコンチキショー!!」


『あっ!いてっ!!』


猫はもがいておれの手に引っ掻きを入れ、手を逃れてデスクの上に軽やかに

着地した。


「この生き物はキメラね。」


ヘリコは顎に手を添えて冷静に言った。


『キメラ!?これが?』

喋る事には驚いたが、姿形すがたかたちはただの黒猫だ。

蛇の尻尾も鷲の翼も生えてはいない。


「猫の頭に、人間に似せた脳を移植してあるってトコでしょう。」

「・・・まあ、あまり珍しくもない生き物ね。」


いや、それだけで極めて珍しい様な気がするんだが・・・!

ヘリコ達の世界ではそうなのか・・・?


ヘリコは気にせずトコトコと歩いて行き、奥の端末を操作し始めた。



「ふっ、お前らこのオレ様を見くびるなよ?」

「おい!そこのYシャツネクタイの冴えない男ォ!お前ぐらい簡単に一捻りだぜ!

 ヘイヘイ掛かって来いよぉ!ビビってんのか?ボーイ!」


『なんだと!!』


「ニャっっ!!!」



猫は急にこちらへ飛び付き、にゃくっ!と、おれの右頬を引っ掻いた!


『いてっ!!』


おれは反射的に両手で猫の両脇を掴んで、上へ持ち上げた!


「うわぁーーーっ、はなせニャぁーーー!!!」


『え?・・・・よっわ・・・』


「うるさいニャーー!オレはまだこんなもんじゃないニャーーっ!」

「は、はなせぇ!さもなくばオレの片腕に封印されし邪悪竜が抑えられなく

 なっちまうんだニャぁぁーーー!!!」


『・・・・・ほぅ、邪悪竜が封印されとんのか。ほか。封印解いてみろ。』


「はっはっ!後悔すんなよぉ!?これが必殺のぉぉぉ~~~~!!!」



「イビル・アイっ!!!」


『うおっ、眩しっ!』


ピュンッと猫の目から光が放たれ一瞬だけ眩しくなったが、別にどうという事も

なかった。ただのフラッシュである。


「くくく・・・・・眼がイッたかァ・・・・??」


『・・・お前、ただの中二病だろ。竜はどうした竜は。冬眠中か?』


「にゃ!?効いていニャい!?貴様も闇の眷属!?」



「ボス。施設の稼働状況が解ったわ。」

「全体のあらゆる箇所が破損しているものの、目的の研究室は健在ね。

 これから電力供給を未使用の非常用電源に切り替えて施設を半分起動させる。

 ここからは気を付けて。」


『何か問題でもあるのか?』


「あらゆる生物兵器が目覚め始める。

 施設の機能が復活して、強制的に眠らされている生物兵器達が目を覚まし、

 今以上に此所は異形の敵が徘徊する危険エリアと化す可能性が高いわね。」


『・・・ま、マジか・・・』


そこに捕捉するようにY子も説明を重ねてくれた。


「さらに厄介な事にこの先、空間ごと施設の通路が捻れて歪曲わいきょくしている様です。

 アニマの空間兵器によって、かなり手痛く打撃を受けた跡ですね。」


「厄介なのは、その空間圧力が機雷きらいの様に張り巡らされているので

 この先はわたしの異空間で経路を探る事はできません。」


『な、なんてこった。』



「はははっ!困っているみたいだな人間共!」

「このまま此所のモンスター達にやられちまうか?」


『ええい猫!お前は黙って・・・・・って、ん?』

『猫。お前、此所に住んでるんだよな?』


「あぁ、あたぼうよ!」

「オレの聖地へようこそだぜ!この死に損ない共!」


・・・この猫はドコでそんな言葉を覚えたのだろうか。


『っていう事は、この研究施設について詳しいんだよな?』


「そりゃあそうだ。此所はオレ様の庭だからな。

 人間なんぞ見たのは久し振りだぜ・・・・お前らって何なの?」


それをこいつが聞くか・・・・


『おれ達はここにいるアルのパペッターボックスってのを無力化しに来たんだ。』

『・・・なあお前、こんなイタズラ仕掛けてくるって事は暇なのか?』


「・・・・ひ、暇っつーか・・・まぁ、なんだよ。

 ここにはモンスターしかいねぇしな・・・久々にリアクション取れる相手が

 現れたんで・・・・ちょっと可愛がってやったんだよ」


『要は寂しかったのか?』


「・・・・!!!ちっ、ちっげーよっ!!ちっげーしっ!!」


「そ、それに別に人間見て此所から出られるかもなんて思ってねぇーし!!」


・・・・つまりこうか。この研究施設に閉じ込められて、心細く、寂しく

過ごしていた所に丁度おれ達が現れて、もしかして此所から脱出できるかも

と思ったが、寂しさの反動で逆におれ達にどう接触したらいいのか解らず、

中二病を全面に押し出してちょっかいを出してきたって訳か。


・・・・分かりやすいやっちゃな。



『・・・・なあ、相談なんだが。おれ達にココを案内してくれないか?』


「は、はぁっ!?おまっ・・はぁっ!?」

「何でこのオレ様がお前ら人間に手を貸してやらニャあならねーんだ!」


『そうか!手を貸してくれるか!!ありがとうっ!猫っ!』


「おい!何勝手に決めてんだエテ公共っ!!

 誰がそんな事言ったよ!!オレ様はな!そんじょそこらの人間なんぞに力を

 貸してやるほど安くはねぇんだ!どうしてもってんならオレ様にこうべを垂れて

 懇願してみせなっ!!」



「パーマ、ナイフ」


後ろからナイフよりも冷やかで鋭利な一言が聞こえた。

パーマは変わらぬいつもの表情でどうぞ、と自身のナイフをウェルシュに渡した。


ガドンッッ!!!!

と、普通ではまず聞けないような音を立てて、ナイフは猫の3cmほど目の前で

金属のデスクにぶっ刺さった・・・・・!



「・・・刺身にされてそこらの化け物に食われるか案内するか」


「・・・・選べ」



「ニャッ・・!!?」

「ちゅ、ちゅつんで案内させてもらいますニャッッ!!!!」


一発であった。


そりゃそうだよな。ウェルシュの脅しは本物だ。

おれもその凄みに逃げ回ったわけだが・・・・・・・



『悪いな、猫。その代わり敵に襲われても心配は要らないからな。

 ここに居るメンツは戦闘のプロだ。安心していい。』


「あ、あ、安心できないにゃぁ~~~~」

「こ、こわいにゃぁ~~~~・・・」


『ところでお前、名前は何ていうんだ?』

『まさか本当にさっきの名前じゃあないんだろ?』


「お、オレ様みたいな孤高の一匹にゃんこには名前なんて必要

 ねーんだよ・・・!つまんねぇ事きくんじゃねぇ!」


『ふーん。』

『でも名前が無いと呼びづらいよな。おい猫!・・・じゃあ言いずらいぞ。』


『・・・・・どう思う?アル。』


アルは猫を興味深々で見つめていた。


「・・・・・・・」


「・・・な、なんニャ」


おれは猫を抱き上げてアルに近付けてみた。


「うわっ何しやがんだっ!」


「・・・・・」


アルは物言う不思議な猫を深淵な眼差しで見つめている。

じぃ~~~~っと、見つめて、なんとなーく触りたそうに見えた。


『触ってみるか?アル。』


「おいっ、オレをそこらの動物みたいに扱うんじゃねーよ!!」


アルはそっと指先で猫の頭に触れた。

さわさわと、ぎこちない手で猫を撫でている。


「にゃ、ニャ~・・こ、こらっ!くすぐったいだろ!」


「・・・・にゃん」


『え?』


「・・・にゃん・・・ぷく」


「・・・・・へ?」


『にゃん・・・ぷく?』


あるは小さく頷いた。


『そうか!こいつの名前か!』

『ははっ!ニャンぷくっ!いい名前じゃないか!』


「んなっ・・・!!!」


「特別な意味は無いのでしょうが、カワイイ響きじゃないですか。」

パーマはクスっと笑いながら言った。


「イヤだ!オレ様をそんな気の抜けた名前で呼ぶんじゃねぇ!!」


「七輪で焼いたら膨らみそうな名前ですね。」

Y子的にはしっくり来たらしい。生唾を飲み込んでいる・・・


『そうだな。もちみたいで和むぞ。』


「さぁ、アルに美味しそうな名前を貰った所で行くわよ。

 既にエネルギーが供給されて、通路も一部は照明がついたと思うわ。

 さっきも言ったけど、もう生物兵器達が活性化を始めている筈。」


ヘリコの言う通りだ。どの行動も早いに越した事はない。


『あぁ、そうだな!よし、急ごう!』


「い、いや、オレ様の意見も聞けよ!?」

「呼ぶならもっとイケメンな名前で・・・・・・」



「・・・・うっさいわね」



「ひっ!?・・・ご、ごめんニャしゃい・・・・」


猫・・・・もとい、“ニャンぷく”はウェルシュの一言で簡単に口をつぐんだ。


少々強引だったとは思うが、今は早くここの用事を済ませて早く立ち去りたい。

ニャンぷくに言われなくたって、この生物を侮蔑ぶべつしているかの様な施設の中では

何かしらの魂やら怨霊やらに本当に呪われる気がするのだ。



今のところ、その生物兵器には遭遇しちゃいないが、果たしてこのまま

出くわすこと無くニアミスで事なきを得る事はできるのか・・・・?




おれの中の嫌な予感はまだ払拭されずに不安と共にここにあった・・・・



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