第9話 《ウェルシュと不在証明》


KINGS本部から次元の壁をくぐって外へ出ると、そこは森の中だった。

『どこだ?ここ。』


パーマがハンドポケットで、やはり胡散臭いにやけづらで答えた。

「山梨のとある山道ですよ。」

「ここにアニマの反応が検出されました。数は150といった所でしょう。

 これからそのターゲットを見つけ出し、殲滅せんめつします。」


『150!?そんなにいるのに、こっちはこの人数か?』


「フフ、ウェルシュと私は、戦力としてではありませんからね。

 もし、どちらか一人でも、力が余りすぎるくらいです。

 司令は、貴方がこちらに引っ張られて来る事を想定してこの任務

 にウェルシュを選んだのでしょう。私は貴方のための保険です。

 彼女はよくウェルシュを解っていますからね。」


Pちゃんさんは、おれがウェルシュの事を理解する必要があると考えたの

だろうか・・・・おれの想像以上に事態は切迫しているのか?


でもこのウェルシュって人は何だか怖いんだよなぁ・・・・



「パーマ、あんたは北に向かいなさい。

 私はそこの木偶でくぼう連れて北東へ。」


『え?・・・ちょ』

と言いかけた瞬間、ウェルシュの眼光に刺されたおれはつい黙ってしまった。

・・・・怖すぎる。


「そうですか!」

「それでは彼は貴女あなたにお任せして、私は北へ向かうとしましょう!」

パーマはパチッとウインクして、かろやかに木々の向こうへ消えていった・・・・

奴は面倒事には敏感に反応して、前もって身軽にかわすタイプだな。


・・・・それにしてもまじかよ。よりにもよってこの人と二人きりだなんて。


「・・・・・・」

彼女は無言で歩きだし、おれはその少し後ろを付いて行くことにした。


木々の間を抜ける細く荒い道は、傾斜は殆ど無く緩やかだった。

こういう道は、森林作業員の人達などが通る為の道なのだろう。

長い時間、人が通っていない雰囲気を感じた。


少し歩くとウェルシュは立ち止まってしまった。

『・・・・・?』


「さて、と。」

「そろそろ考えておかなきゃね」


そう言って彼女がポケットからスルッとあるものを取り出した。


―――ナイフだ―――


「作戦行動中に、うっかり事故で死んでしまう」

「・・・なんて事って、よくあるのよね。」


彼女は片手でナイフを宙に投げては器用にキャッチし、

だるそうに繰り返しながらこちらに振り向き、深淵な目で

こちらを眺めた。


「知ってる?」


「アニマの戦闘員は、多くの種類が存在していて、その種類によって戦闘能力

 が大きく違う。」


「最弱をLEVELレベルワンとして、強くなるにつれて数字が上がっていく。

 記録によるとあんたが遭遇したのは一番数が多いLEVEL-1」


「・・・不意に、もっと格上の敵に突如囲まれ、全身を刺されて死亡・・・」


「もしくは、敵の襲撃に取り乱し、私のテリトリーから勝手に抜け出した瞬間

 狙撃され、地面に転がった所でとどめの一撃を・・・・グサッ・・・」


『な・・・何を』


「あんたが死ぬ描写。」



「・・・・どうせ無駄死にする事だし、やっぱり邪魔になる前にここで

 一思いに殺してあげる。」



『・・・・っ!!』



ヒュッ、と彼女は一瞬で距離を詰め、その刃を振り下ろした。


おれは咄嗟とっさに横にかわし、その勢いで尻餅をついた・・・!


『・・・・・な・・・ちょっ!』


いわゆるサバイバルナイフという奴だ。

その刀身には深い溝が多く連なっており、そのギザギザが独特のシルエットを

表現していた。


彼女はその溝を指でなぞり、冷たい視線でこちらを見下ろし言った。


「セレーション。

 何度も刺されると痛いから、一発で仕留めてあげる。

 逃げると急所が外れて地獄を見るわよ?」


おれは血の気が引き、慌てて後方へ走ったが、しかし!

『・・・!!』

空気中をヒュン!と細い音が横切り、スコン!と目の前の木の幹に

ナイフが突き刺さった。

耳下をかすったらしく、細い傷から少量の血がにじんだ。


『・・・・』

これはどうする・・・・!?

こ、殺すって、いくらなんでも唐突にぶっ飛びすぎている・・・!

木に刺さったナイフを抜いて戦うか?いやムリだね、勝てる気がしない!

彼女はゆっくりと歩みを向けてくる。


『ま、待て!』

彼女はピクッと歩みを止めた。

『あんたと争うのは御免だ!何か他の方法で手を打とう!』


「イヤよ。」


『でもおれを殺したら、あんたの立場だって・・・!』

「別にどうにもならないわよ?」

『・・・え!?』


「KINGSは、アニマと戦う戦力を自ら失う事は出来ない。」

「何かしらの処分は受けるでしょうけど、わたしの能力が失われるわけでもなし。

 結局私はKINGS内でこれまでと大して変わらず任務に当たる事になる。」


「おわかり?」


・・・・・ぐ。

KINGSにおける、おれという存在の重要性を一番疑っているのはおれ自信だ。

妙に説得力を感じるな・・・!!


ウェルシュはもう一本、ナイフを取り出した。

あの、スローイングを考えると、逃げるのも難しそうだ・・・!


こ、こうなったら・・・・奥の手だ・・・!!

『一つ、聞かせてくれ!』

『あんたは、未来の世界で“森川まさゆき”に会った事はあるのか!?』


「・・・・・・ないわ。」


『そ・・・・そうか、それなら知らないんだな。』


「?」


『実は隠していたんだが、もう隠しきれないな。非常事態だ・・・・・』


『おれはな、確かに一つ英雄と呼ばれるにふさわしい能力を持ち合わせている。』

・・・・嘘である。ハッタリをかましてうまく逃げられないかという、

打算にすらならない苦肉の策である。


「能力?」


『おかしいと思わないか?

 何の能力も持たない一般人が、世界の救世主などと呼ばれるなんてよぉ・・・』


おれは、背筋を伸ばして大股で仁王立ちをし、顎を引いて顔を少しうつむき、

さながら少年漫画の主人公が隠し玉の必殺技を匂わせるようなポーズを取った。

・・・そんなおれは、来年30歳になります。


『おれには、辺り一帯を吹き飛ばす必殺技がある!!!』

迫力を出すために、腹に力を込めて叫んだから少しむせそうになったが

今は真に迫った演技力がなけりゃこの場を切り抜けられない・・・!我慢だ!


「ふーん。」

「やってみたら?でも周囲が吹き飛んだら、あんたも吹き飛んで死ぬと思うけど。」


『あ、いや・・・!おれは・・死・・・なない様に出来てるのだ・・・!!』


『り、理由をしりたいのか・・・・?』


「めんどくせーからさっさとしろ。」


『え!あっ、うん』

と間の抜けた返事をしてしまったので、その印象を払拭するために、

おれは人生最大級の集中力で、真に迫った迫力で、本気の剣幕で、

必殺技を使用した・・・・!


男の子なら誰しもが一度は隠れて練習するあの必殺技・・・・

おれは両足を半円状の軌道で地面を擦りながら開き、上半身を相手に向けひねり、

両手の間に丸く空間ができるように向かい合わせ、左脇腹の横に構えた!



『かぁ~~~・・・・』



おれの頭の中では既に手元からギュイィ~ンという光の音がこだましていた

『めぇ~~~~~~・・・・』



おれの気が高まる・・・溢れる・・・・!!様な気になる・・・!

ぅぉぉおおっ!!!集まれっ!おれの!オラのめいっぱいの気ィ!!!

『はぁ~~~~~~~~~~~・・・・・!』

ゴゴゴゴッと地球全体の大気が震えだした!




『んめぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!!!!!!!』

ちゅんちゅんっ。小鳥が鳴いている!

やめてくれぇぇぇっっ!!!今一番大事な場面なんだよ!!

後にしてくれっ!! 効果音が凄い場面なんだっ!!!



くわっ!!!!

『はぁぁぁぁっーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!』

ドンッッ!!!

脳内で、おれの声と野●雅子さんの声が渾然一体のフュージョンを果たし、

全身の気をめいっぱい解放した瞬間・・・・・・!!


ウェルシュがナイフを振り上げ、一瞬で距離を消し去った!

「・・・・・・!!」


ふよッ!


・・・・・あれ?


満を持して放った、かめはめ波の手はオオカミの様に口を開いて

前方に勢いよく爆発し、敵をやっつけるはずだった(妄想)


・・・・しかし摩訶不思議。

その手には、同時に距離を詰めた彼女のがジャストミートしていた。


「・・・・・」


一瞬時が止まった。

この両手にドラゴンボールを掴んだ代わりに

おれの摩訶不思議アドベンチャーは終わりを告げ、

次回予告に悟●が現れる事はなく、豚が龍にパンツを懇願した時の様に

全ての希望は閉ざされてしまったのだ。


瞬間、時は動きだし、ゆっくりと目が合った。

『・・・・・事故だ』


解っていても避けようのない強い衝撃がおれの右頬を強打し、

おれは斜面を転げ落ちてふもとの古木こぼくへぶつかって止まった。

ちゃらへっちゃら・・・・とは言えないが、ふらつきながら立ち上がり

折角開いた距離を活かして木々の間を縫うように走り出した。


ラッキースケベで死んだんじゃ情けなさすぎる・・・!


木々を抜けて、広めの山道に出た。

日頃の運動不足が祟って、もう息が絶え絶えだった。

おまけに先日の軽い全身打撲が痛んで散々だ。


さて、ここからどう逃げればいいのかと考えた瞬間、頭上を

ひゅっ、と黒い影が飛び越えておれの目の前に着地した。


『・・・・・げっ!!』


「やってくれるじゃん」


ウェルシュだ!!

まじかよ・・・!

身体能力の差が異次元すぎる・・・・!!!


「もう逃げられないでしょ」


『・・・・・くっ』



「私達の様な兵器が編成された部隊ならまだしも

 あんたみたいな普通の人間が1人存在したところで無意味なのよ。」


「・・・私達の世界ではね、特殊な能力を持たない普通の人間でも空間兵器の

 餌食になって膨大な数が死んだわ。私達も生身の人間を大勢殺した。

 だから世界から1人数が減る事に、大して何も感じないの。わかる?」


『・・・・解る訳ないだろ!』

『不要だと判断したら、目の前の人間を殺せるのか!?』


「殺せるわ。」


「空間兵器の存在は、この世に希望を生んだ訳じゃない。

 同じ人間の中に敵を産み出した。」


「あらゆる夢の技術に飛び付いて、他人を出し抜こうとする者達。

 人は人と戦争をし、簡単に悪魔に化けた。」


「あんた達のこの世界でのうのうと生きてる人間達は私達の世界の

 そんな人間達と同じ。全ての人間が悪魔の種を持っている。」


「私からしたら、その種が花開くかどうかなんて、どうでもいいの。

 どうせあんた等は同じ人間。そういう生き物。」


「最後に人類が存続できる最低限の数が残っていれば、それで任務達成。

 オメデトーって訳。」


『そんな訳に行くか!!』

『それじゃあ戦う為に、お前達が人間辞めてるようなものだろ!』


「そうね。とっくに人間辞めてるわよ?

 ヒューマニズムっていうの?期待するだけ無駄。

 私達は肉親も友人もいらない、いえ、求めない様に作られてきた。

 それを求めても、否定され、奪われて生きてきた。」


「兵器は、ただ目的の為に生きる。」


「利害で選択する。」



『・・・・・』




・・・・・おれは、突然に悲しくなった。



彼女の言葉を聞いて、あの公園で出会ったボロボロの女の子を思い出したからだ。


あの女の子が、お前達の本当の姿なのか?・・・ウェルシュ


意味を押し付けられて、人間を生きる事を閉ざされて、兵器として・・・


Y子やパーマも、そうか?

あの最高司令官、Pちゃんさんも・・・・?


みんな仮面を付けてるのか?

言葉を矯正きょうせいしてるのか・・・・?

その仮面の下に、綺麗な服の下に、ボロボロの体を隠して

もう痛みを感じないのか・・・・?


こいつらは、一体誰の人生を生きているのだろう。

・・・・いや、こいつらは誰の人生も生きてやしない。

こいつらに生き方を強制しているのも多分、誰かじゃない。

こいつらの生きてきた世界そのものがそうさせるんじゃないのか。


・・・・やめちゃえよ。


そんな生き方全部やめて、逃げ出してしまえよと・・・そんな手遅れな言葉を必死に

奥へ押し込めて、おれは言った。


『おれは、それは間違ってると思う。』


「?」

「間違ってるとか、そうじゃないとか、そういう話に聞こえた訳?」


『あぁ。聞こえたさ』

『だって、おまえの立ってる場所には、誰もいないじゃないか。』


「・・・・・!」


『おまえは、一体誰の為に戦っているんだ?』

『人間誰だって誰かの為に生きてるもんさ。回りに大切な人がいない奴は

 自分の為に生きるだろ。当たり前だよな、自分を生きてるのは自分だもんな。』


『自分が傷付いて一番痛いのは自分だ。

 そこに居る筈の自分を殺して、痛くない奴なんているもんか。』


『自分を痛めつけて他人を殺す。そんなの間違ってるとおれは思うよ』



「・・・・」

「・・・・ふぅん。」


なんて興味無いけど、知った様な口叩くじゃん。」

「で、その正しくないものにあんたは殺されるわけね。」


『・・・・そうだな。

 それでもおれは、お前の理屈に屈すること無く、人としての自分を

 貫いて死ぬのなら、おれはおれの中のを守りきったことになる

 ・・・・おれの勝利だ。』


を守る筈のお前は、自分の中のを殺して

 自分の使命をたがえて負けるんだ。』



・・・・・もう逃げ場はない。生きる手段もない。


言いたいだけ言って、おれは覚悟を決めた・・・・


「・・・・・・・」



その時だった!

おれとウェルシュの周囲で突然爆発が起こったのだ!!

『!!!!!』


「・・・・きたわね」


尻餅をついて周囲を見渡すと、こちらを取り囲む様にアニマの

軍勢が出現していた・・・!!


『な・・・こ、この数は・・・・!?』

150体という数を軽く超えてその倍近くはいる様に見える!


と、おれの後ろから奴等が高速で接近する音が聞こえて

はっと振り返ると、既に目の前で、敵の三体ほどが剣を振り上げて

おれに振り下ろそうとしていた!!


「・・・・・木偶の坊」


メキョッ!と音を立てて、なんと、おれの目の前の敵は

三体とも遥か後方に吹き飛んでいった・・・!!


『・・・・なんだ!?』


その瞬間!!

荒波に包まれた様な、けたたましい発砲音が一斉に上がり、

おれ達はその包囲網から徹底的な集中射撃を受けてしまった!!


・・・・死んだ!!!


『っ・・・・・・!!!!』


『・・・・・・・・・』


『・・・あれ?』


咄嗟とっさに閉じた瞼を恐る恐る開くと、不思議な光景が広がっていた。


おれとウェルシュの周囲360°全方向を銃弾が取り囲み、制止したまま宙に浮いて

いたのだ・・・・!!!

『なんだこれ・・・・・どうなってるんだ?』


宙に浮いた弾丸達がバラバラと地面に落ちると、それを合図に

敵はこちらに一斉に向かってきた!


「はぁ・・・・単細胞」


ウェルシュは、ただ唖然とするおれの襟をひっ掴み、突如宙に舞った!

『ぐえっ!!!』


なんと、ウェルシュはおれをぶら下げて20メートルほど跳躍し、しかも!

落下する事なくおれ達は宙に浮いていた!!


メキメキッという、現実では聞き慣れない音と共に、下方で樹木が根っこから

宙に浮き初め、その木が自ら布団叩きの様に敵を殴り潰した!

メキョッ!ドオッ!と、形容しがたい音を何度も立てて、やがて

地上が土煙に覆われてしまう。

その視界も糞もない煙の中からまた多くの射撃音が鳴り響き、

そしてまたおれとウェルシュに到達する前に、その弾丸はことごとく

宙で制止してしまったのだ・・・!


『ぐ・・・・ど、どうなってるんだ・・・・!?』


土煙がだいぶ収まってくると、こちらに発砲し続ける敵の数が

一つ、また一つと減っていった。

目を凝らしてよく見ると、銃を構えている奴等が次々に倒れていくのだ!

困惑していると、ウェルシュとおれは降下を初め、無事地面に着地した。


もはや敵は6体しか残っておらず、その内の4体がこちらに向かってきたが

その4体はまた鈍い音を立ててぶっ飛んでいった。

残りの2体はさらにあっけなく、その場で突然膝を付いて倒れてしまった。


ごく短時間で、約300ほどいた敵は完全に沈黙し、そこにはただ

ウェルシュと、おれだけが立っていた。

『これは・・・・・』流石に言葉を失い、茫然ぼうぜんとしていると、


「手ぇ抜いてんじゃないわよ」

とウェルシュは言い放った。


誰に言っているのかと思ったおれの目の前に、突然パーマがすっと現れた!

『うっっわっ!!!』


「貴女の攻撃が無慈悲なもので、つい腰が引けてしまいました」


パーマはにっこり肩をすくめてこちらを見た。

『おまえ、いつから居たんだ!? 』


「フフ、さっきです。」

いやだから何時いつのさっきかをだな・・・・・



「アニマの反応消滅」

「さ、とっとと帰るわよ」


『・・・・え?』

ウェルシュはそっぽを向き、歩き出してしまった。

ウェルシュの前方の50mほど先が歪み、最初に通ってきたKINGSの

出入り口の様に、その歪んだ空間から光が漏れていた。

迎えの様なものなのだろう。


「彼女とのデートはどうでしたか?」


『ふっざけんなっ!』

『おれは今日もまた死にかけたんだぞっ!?』

『あと敵の数150体以上いたぞ確実に!』


「フフ、彼女はKINGSの一員ですから、貴方を死なせたりしませんよ」

「それに、空間兵器を使い移動する敵は、簡単に増えるものです。」

パチッとウインクするその目に、おれは目潰しを見舞ってやりたかたった。


・・・・・・・・

まさかとは思うが、こいつ、最初から一部始終を覗いてのではあるまいな。

もしそうならば、もう片方の指で鼻の穴にフィンガークラッシュを見舞っている

ところだ。



・・・ウェルシュは異空間に入る直前に少し立ち止まり、離れたおれを少し

振り返り見て、直ぐにその中へ入って行った。



・・・・・死なずに済んだ。

いや、そもそも、彼女は本当におれを殺す気はあったのだろうか。

ほぼ混乱状態だったから、今気付いたが、あれほどの身体能力と謎の超絶パワーを

持っていたら、おれを殺す事なんて一瞬で出来ただろう。


しかし、ナイフを振り下ろしてきたあの勢いは、本気の雰囲気を感じさせた。


おれは、試されたのか・・・・?

それは解らんが、結果的に生き残った事実を喜ぶべきなのかもしれない。

今後彼女と顔を合わせる機会がまだあるのだと思うと、やはりいささかかの

恐怖はいなめないが・・・・


取りえずおれはパーマと共に空間の歪みに入った。


ウェルシュの話でおれは、この戦いの重さをまた少し思い知った様な気がした。

パーマが言ってたな。戦争は人の道理を変えてしまう力がある・・・と。

あいつらの世界の道理からしたら、この世界はどの様に見えるのだろう・・・


・・・・・・・


・・・・無理だ。流石に今日はもう、無いアタマを使う気力が無い。

おれは既に限界突破した頭を、今度こそ完全に思考停止状態にするため努める

ことにした。


Y子の話では、これから何かがようやく始まるらしいが・・・・

もう勘弁してくれ。



おれは身体中のしつこい痛みにうんざりしながらそれに耐え、

異次元の移動を終えたのであった。


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