第4話 UFO回収
司令部は、早速、機体回収の会議を始めた。回収といっても、UFOを秘密裏に空軍基地へ運ぶわけにはいかない。そこで、UFOを一先ずその位置に隠すことにした。そして、その地下にUFO研究施設を建築することになった。
その後、空軍が早急に建設資材を運び込み、プレハブハウスを築いた。それと同時に、地下では巨大なUFO研究施設が着工されていた。
プレハブハウスの中では、すでに科学者と技術者が結集され、秘密裏にUFO解析が始められていた。注目されたのが、UFOはどんな構造で、どんな推進システムなのかという事がであった。これらが解明されたら、近い将来、恒星間を飛行できる宇宙船が、我が国でもできると思われた。しかし、このUFOに乗ってきた宇宙人の目的が最大の問題だった。もし、侵略目的だったら、いまだ有人飛行では衛星にしか行っていない技術で、何光年以上の恒星から地球へ来られる宇宙人に、対抗できるとは思えないからであった。
宇宙人の目的が、侵略か友好か議論された。
UFO本体は破壊されず残っていた。しかし、UFOの中は、一部意図的に破壊された装置があり、情報らしき資料も持ち去られていた。
この事実は、未開拓の星を探しているため、知的生命体の星には侵入しないということではないか。つまり、友好も侵略の目的もないのではないかという楽観論だった。
しかし、悲観論もあった。それは、装置の他にもう一つ大変な物が発見されたからだ。それは、宇宙人の凍結受精卵と思しき忘れ物。この意味を持って悲観論者は言うのだ。凍結受精卵を送り込まなければならないほど遠い異星であるならば、この星を苦労して発見しながら、手放すはずがないというのであった。それゆえ、体勢を立て直すか、援軍を待つしかして、攻撃を仕掛けてくるのではないかと考えたのだった。
もし、攻撃されたら勝ち目はあるだろうか。今回は相手に痛手を負わせることができたが、あのビーム弾を本気で使われたら、この星の空軍では太刀打ちできないというのが大勢の意見だった。
それに、この太陽系には知的生命体の住む惑星は考えられない。一番近い恒星プロキシマ・ケンタウリでも約4.3光年は離れている。太陽に最接近する約2万7千年後でも約3光年の距離である。地球の科学技術ボイジャー1号(約17km/秒)でも数万年掛かる距離を、宇宙船で来られる高度な科学技術を持った宇宙人がいるという事実がここにある。ワープの技術を持っているとしか考えられない。古代のオーパーツや近代のアカシックレコードなど不思議なことが、厳然として存在している。
楽観論や悲観論は別としても、異星の超高度な科学技術を解明しなければならなかった。その第一歩として、UFOに匹敵する宇宙船を作り出すことが急がれた。
そして、もう一つ非人道的な計略が密かに進められていた。それは、トーマスやマクビルも参加した極秘の組織である“プロジェクト・フューチャー”の中で行われようとしていた。こうでもしなければ、超高度な科学技術を持つ宇宙人に征服されると考えられたからだった。
その計略は一言でいうなら人質作戦であった。これだけでも非人道的であると批判の的になりそうだった。そこに、この人質を産み出す方法に問題があった。それは、凍結受精卵では人質としての価値を持たないので、生育した子供でなければならないという意見が大勢を占めたからだ。
母船が戦闘機なら、すぐに攻撃してくるはず。遠い星から援軍を呼ぶなら長期になるので、準備期間は何年もあると考えられる。短期なら降参するか、友好関係を築くことを考えなければならない。
早急に、凍結受精卵を誕生させるのには、母胎が必要だった。たぶん、UFOの中で意図的に破壊された装置は、人工胎盤だったのだろう。しかし、地球にそれはない。
そんな時に、安易な方法を言い出す軍の幹部がいた。それは、人間の女性の母胎を使うという方法だった。しかし、もし宇宙人が人間とはおよそかけ離れた姿形をしていたら、その女性の母胎が持たず、お互いを死に至らしめるかもしれないという危険をはらんでいるのだった。
今回のUFO追跡で、宇宙人とは遭遇していない。ただ、UFOの回りに残っていた足跡のみが唯一、宇宙人の体格を特定できるものであった。足跡は、地球の成人よりも小さいもので、土へのめり込みも少なく、二足歩行であった。こうした事から、人間と同じような姿形をしていると考えられる。そうであるならば、人間の女性の母胎でいいのではないかというのであった。
国家機密と言えば、何でも仕方ないという風潮がなきにしもあらずというところがあった。もし、これが秘密裏に国の内外で行われたとしても、UFOの仕業で済むだろうというのである。また,遠からずUFO研究成果が現実化すると考えられたので、地球性UFOが飛び交い、目撃されるのであるから、すべて宇宙人の仕業にすればいいというのであった。
他の軍幹部は、人間の女性の母胎と似通ったゴリラの母胎を使ったらどうかと言い出した。人間の女性もゴリラの雌も、同じような妊娠期間だというのだった。ゴリラは背の高さが2メートルぐらいで、体重が200㎏ぐらいあるというのに、生まれた時の重さが2㎏ぐらいだという。見るからに怖そうなゴリラであるが、実際は大人しいともいう。また、雌ゴリラは体重が100㎏ぐらいで母性本能が強く赤ちゃんを可愛がるというのであった。
いくら、超高度な宇宙人に対する作戦にしても、全世界の賛同が得られるわけもない。また、秘密裏に人間の女性を拘束、監禁してこれを実行するということは何を意味するだろうか。意志ある人間の女性は、これに耐えられるはずがなかった。もし、合意だとしても、自分の母胎から誕生した赤ちゃんを、人質として差し出すことは、人情からしても出来ないだろう。このようなことからしても、人間の女性の代理母は難しいという結論がでた。この二大戦略、つまりUFO建造計画と宇宙人の人質作戦は、国内外に秘密裏に行われるのであった。そして、トーマス少佐とマクビル大尉が二大戦略の中枢にいた。そして、緊密な繋ぎ役でもあった。
宇宙人襲来は、世界中がパニックに襲われる事態だった。ただ、UFOは夢とロマンに満ち溢れたものに偽装させる事も出来ると“プロジェクト・フューチャー”は考えていた。世界が内部崩壊するか、小出しのUFO出現で宇宙人の存在を溶け込ませていけるかが分かれ目だった。
UFO建造計画はトーマス少佐に、宇宙人の人質作戦はマクビル大尉に委ねられた。
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