第3話 空軍戦闘機
空軍の仕向けた戦闘機が10機、UFOを取り囲んだ。アニーとヘレナは、シミュレーションで戦闘の訓練を積んでいたので、難なくこの場を逃げ出したかにみえた。しかし、10機の戦闘機が放ったミサイルの中には、UFOをかすめるものが何発かあった。UFOは逃げながら、目くらましにレーザービーム弾を発射した。すると、空軍の何機もが逃げ出した。打ち落とすつもりもない閃光弾ではあったが、効果抜群であった。
そして、UFOは大渓谷の中に消えた。
「アニー、推進システムがおかしいのよ」
「本当、これでは母船まで帰れないわ。すぐに着陸して」
アニーが叫んだ。
「この星の科学力もたいしたものね。当たり所が悪ければ、竹槍だって駄目か」
ヘレナが変な感心をしながら、着陸した。
「早く故障箇所を修理しましょう」
とアニーが言って、二人は船外に出た。
「これはすぐに直りそうもないわね」
と、ヘレナが言った。
「母船に連絡するわ」
アニーが、船内へ向かう。
「私は、修理しているわね」
「艦長、応答願います。アニーです」
「連絡が遅いので、心配していましたよ」
発信すると相手方に受信される恐れがあるため、差し控えていた苛立ちもありながら応答した。
「すいませんでした。この星があまりにも美しいので、知的生命体が存在することを確認しながら、深入りし過ぎ、大変なことになりました。今、10機ぐらいの戦闘機に追われています。推進システム部分が敵のミサイルにやられて、大気圏を抜け出して星から脱出することが不可能ですので、修理しているところです」
「その星の知的生命体を敵にしてしまったのですね」
「申しわけありませんでした」
「それで、直る見込みはありますか」
「すぐには直りそうもありません」
「その星の知的生命体は手強そうですか」
「思ったより、科学が進歩しているようです」
「仕方がありません。円盤を捨てて、緊急脱出用小型円盤に凍結受精卵ケースを積んで避難して来てください」
「はい、了解しました」
アニーは、命令に従った。
今度は、アニー自身で冷凍室から凍結受精卵ケースを取り出して、緊急脱出用小型円盤へ二人で乗り込んだ。
故障した円盤の上部が開いて、小型円盤は上空へ舞い上がった。そこからは、戦闘機の中の人間がまばたきする間に遠い天空へ消え去った。
トーマスは空軍司令部に連絡した。
「先程のUFOではなく、小型円盤で逃げられました。まだ、先程のUFOは残っているはずです。引き続き捜索します」
「分かった。他の空軍機は基地へ戻す。二人は極秘に探索を続けてくれ」
と、空軍司令部から命令された。
そして、政府は国の内外に未確認飛行物体に遭遇し、追跡したが見失った事を公表した。空軍には、
UFOの問い合わせが殺到し、否定し得なかった。
トーマスとマクビルは、大峡谷を探索した。ここ大峡谷は高原を浸食し、巨大な岩壁が高くそびえ立つ雄大な景観に包まれている。その中の残された高原には、ごつごつした岩と途切れ途切れに木が生えている。そんな高原に、木が薙ぎ倒され焼け焦げた所を発見した。その真ん中に、シルバーの反射体が見えた。
「UFOを発見しました。木がなぎ倒され焼き焦げた所の中に機体があります」
トーマスが通信した。
「先ずは、着陸して偵察してくれ」
司令部から指示があった
二人は近くの平坦な場所を探して着陸した。エンジンは掛けたまま、トーマスが先に行き、マクビルが後に続いた。そして、二人でその物体の方へ歩いて行き、遠くからUFOを眺めた。それは、まさしく特殊ビデオカメラで撮影したUFOに違いなかった。静止しているUFOは光り輝くということもなく、ただひっそりと置き去りにされているようだった。
「トーマスです。UFOには動きは見られません」
「戦闘機を10機出動させる」
「その前にUFOに近付けさせてください。偵察します。UFOの捜索の際に見たレーザービーム弾による大峡谷の岩壁の破壊現場は凄まじいもので、あなどれないと思います。しかし、宇宙人は脅すだけで命中させませんでした。それに、小型円盤で逃げる際にUFOを時限装置で爆破しなかったのにも、友好的な感じがします」
「では、近くで観察してもう一度連絡してくれ。いつでもスクランブルはできる状態だ」
「はい、分かりました」
「トーマス中尉、まだ宇宙人はいるのでしょうか」
「あの小型UFOで去ったと思う。私が近くまで行って見てくるから、何かあったら一人で逃げてくれ」
「いいえ、私も行きます。あの小型円盤で宇宙人の一部が、救援機を呼びに行ったとしたら、まだ中に残っている可能性もあります」
「いいや、戻ってくるにしても、中にはもう誰も残っていないはず。あの小型円盤で逃げたよ。私一人で行く。マクビルは残って司令部に連絡してくれ、命令だ。
私は宇宙人と戦争したくない。この宇宙人は友好的だ。怒らせたくない。いなくても、見ている。恐れているだけで、話し合いをしなければ、科学力で完膚なきまでに打ちのめされ、敗北する。今、出来る事は、目の前にあるUFOを回収して、研究材料にしてもらうことだ」
「危険過ぎます」
「私の命は、軍隊に入った時に国へ捧げたつもりだ」
「中尉‥‥」
「行ってくる。攻撃がなかったら、いないということだ」
トーマスはUFOへ向かった。
トーマスはUFOに近づいて行った。そして、UFOの周りに点在する足跡を見つけた。トーマスはマクビルに合図をして、呼び寄せた。マクビルは嬉しそうに手を振り駆けてきた。
「UFOの周りに宇宙人らしき足跡が二種類ある」
「宇宙人はもういないですね」
「司令部、トーマスです。宇宙人はもういないようです」
「中に入れるか」
「これから、二人で入ります」
「では、中に入って、中の探索をするように」
と、司令部から命令された。
「はい、入ります」
UFOの上部から降りているタラップを上って、てっぺんへ辿り着くと、小さなハッチの近くに二種類のボタンがあった。その左を押したが何も動かず、右を押すと、扉は静かに開いた。二人は銃を抜いて、内部に通じるエレベーターの横の階段を下った。横に広がるスペースは小型円盤の飛び去った後のようだ。それから、船室を隈なく探したが宇宙人は見当たらなかった。
「やはり、宇宙人はいません。それに中は、そんなに破壊されていません。引き続き、探索します」
「交代要員を送った」
と、司令部から命じられ、30分後に交代した。
二人は空軍司令部へ向かった。司令部では空軍司令官が待ちかねていた。
「只今、帰還しました」
「ご苦労。どうだった」
「はい、UFOは直径15メートルほどありました。UFOの中には、宇宙人は見当たりませんでした。無人だったかもしれませんが、ロボットではなく有人だったと思われます」
「やはり、小型円盤で宇宙人は逃げてしまったのか」
「UFOの周りに二種類の足跡らしきものが点在しておりました。修理を試みたのでしょうが、諦めたようです。船室に、工具が散らばっていました」
「そうか。では、明日から二人にもUFOの回収作業にあたってもらう。そして、二人を二階級特進とする。これからのUFOに関する任務は、トーマス少佐に指揮を取ってもらう。マクビル大尉はその補佐役を勤めるように。今後、機密事項が多くなるので、十分注意して任務にあたるように」
と、司令官が言って出て行った。
「はい」
二人は、司令官を敬礼で見送った。
「回収作業の会議を開くので、追って連絡する」
と、今度は中佐が言って出て行った。
「はい」
二人は、中佐を見送った。
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