第二十六話 銀の門・後編
「待って!母さん!」
母さんは、走って僕から逃げる。追いかけようとしても、足が上手く動かない。
僕の足はどうしてしまったのだろう。まるで、鉄か鉛の塊にでもなってしまったかのようである。
「母さん!母さん!」
僕は母さんを呼び続ける。まるで、迷子にでもなったかのような幼児のように、何度も何度も。
どうして母さんは止まってくれないのだろう。戻って来てもくれない。
僕は悲しい気持ちと苛立った気持ちで、胸の中が一杯になる。
すると、今度は母さんが両手を開きながらこちらへやってくる。
「母さん……。母さん……」
嬉しいのわからない、複雑な感情を胸に、言葉にならない声を上げる。
と、その時だった。
ガシャン!
大きな音がして、咄嗟に目を閉じた。
ゆっくりと目を開けると、母さんが縦に真っ二つになった状態で倒れていた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガバッと大きな音を立て、僕は起き上がった。
「夢か……」
ハァハァと息を荒立てながら、周囲を見渡して少しだけホッとする。
ここは銀の門の中の森だ。
昨日、この森で銀龍さんに会い、ミキが突然銀龍さんの体を掃除したいと言い出し……。夜はここで野宿したのだった。
「目が覚めたようだな。えらく大きな声を出して起きたが大丈夫か?」
後ろを振り向くと、銀龍さんの顔があった。僕が起きたときの一部始終を見ていたらしい。
「あ……。なんだか悪い夢を見たみたいで……」
「ほう。どんな夢だ?」
「……思い出したくもないです」
「よっぽど悪い夢だったんだな」
母さんが目の前で真っ二つになる夢を良い夢という人は、まずいないだろう。
それにしても後味が悪い夢だった。
昨日といい今朝といい、悪夢が続いている。疲れでも出ているのだろうか。不安が過る。
「コウ!起きたの?おはよう!」
えらく髪がツヤツヤになったミキが、森の奥からやってきた。
「ミキ、髪どうしたの?」
「あ、これね。小川の水で髪を洗ったの。そうしたら、とってもツヤツヤになって。私、いい女になっちゃった」
とても上機嫌でミキはそう言う。
「そうなんだ。僕もあとで髪洗いに行こうっと」
そしてミキは、僕の顔を見てあることに気が付く。
「コウ、また顔が真っ青だけど……」
「あ、いや、うん……」
「何か隠してない?」
「隠しては……」
「さっきまで夢でうなされてたぞ」
「銀龍さん!」
銀龍さんが、僕のことをハッキリとミキに告げ口した。
「やっぱり隠してた!コウ、無理してるんじゃ……」
「無理はしてないよ!昨日だって頭痛が治ったあとは問題なかったし……」
だが、僕自身も悪夢のことは気がかりだ。二日も見るのは異常だからだ。
「うむ。ここは俺の出番のようだな」
「銀龍さんの出番ですか?」
「おうよ。人間が使うような魔法は使えないが、悪夢の原因を探るくらいのことはできる」
「本当ですか!」
「ああ。体を掃除してもらっている礼だ。このくらい任せておけ」
「じゃあ、お願いします!」
僕たちは、銀龍さんのお言葉に甘えることにした。
「コウ、俺の前に立っていてくれないか」
「わかりました」
僕は、銀龍さんの顔の前に立ち、静かに待つ。
「呼吸はしていいが、動かずじっとしてくれな」
「はい」
僕は、その場でじっと待った。
すると、銀龍さんの茶色い目が光り、僕をじっと見据える。
ものの数分待っていると、銀龍さんの目の発光は消えた。
「どうでしたか?」
「うーん。何やら悪い虫がついているな」
「悪い虫ですか?」
「ああ。門に入ると稀に悪い虫がつくことがある。その虫が悪さをすることがあるんだ」
銀龍さん曰く、人には見えないほど小さな虫で、気づかないうちに虫が体内に入り込み、悪夢を見せたり、体調を崩させたりと攻略者の行く手を阻む存在なのだそうだ。
「その悪い虫ってどうやって追い払えば……」
「心配することはない。俺がさっき焼き払ってやったさ」
「焼き払った!?」
「ああ。コウの頭のあたりにいたのでな」
さっき銀龍さんの目が光っていたのは、虫を焼いていたのだろうか。
僕の脳みそが無事でよかったと少しだけホッとする。
「コウ!良かったじゃん!」
「良かった……のかな?虫を焼き払ったとか突然言われてもピンとこないけど……」
痛みやかゆみなどもなく、なんだか不思議な感覚だが、これで悪夢を見る心配がないのは安心だ。
僕たちは、朝食を済ませ、銀龍さんの体の掃除に取り掛かった。
銀龍さんによって、僕に憑りついていた悪い虫とやらは消えたらしいが、これといった体の変化がなく、いまだ不思議な感覚と言った状態だ。だが、せっかく払ってもらったのだから、掃除はキッチリやろうとやる気に満ちていた。
昨日は銀龍さんの肩回りを、今日は背中を重点的に進めて行く。
ミキが箒に乗り、泡の魔法を使って掃除していく箇所に泡をかけていく。
僕は泡のある場所をデッキブラシで磨く。
昨日一日掃除したからか、デッキブラシの扱いが上手くなり、さほど力を入れなくても綺麗に磨けるようになった。
ザッザッ。デッキブラシは音を鳴らす。磨いたあとの銀龍さんのウロコはピカピカを銀色に輝き、少しだけ嬉しくなる。
今朝見た悪い夢のことはほとんど忘れ、掃除に集中していると、ミキが声をかけてきた。
「コウ!もうちょっとしたら翼なんだけど、銀龍さん広げてくれるかな?」
銀龍さんの背中には、とても大きな翼が付いている。レウテーニャ魔法大学校の校舎とどちらが大きいだろう……というくらい大きい。
「お昼休憩のときに聞いてみよう!たぶん広げてくれるよ!」
ふと空を見上げると、太陽はてっぺんでギラギラとしている。そろそろお昼だ。
僕たちは掃除を中断し、銀龍さんの頭の辺りへと向かった。
「おう。降りてきたか」
「あの、銀龍さん。翼を広げてもらうことってできますか?」
「翼か……」
銀龍さんは、少し苦い顔をする。
「どうしたんですか?」
「あー、いやそれが……。傷が痛くてな、広げられんのだ」
「傷ですか?」
「その、翼の傷はいつから……」
「確か五百年くらい前だ。それから一切広げていない」
「どうやってこの傷ができたんですか?」
「飛んでるときにな、森から離れた場所にある崖に引っ掛けてしまったんだ。あの頃は調子に乗っていたからな」
銀龍さんほど体の大きな龍が痛くて翼を広げられないほどだ、相当な痛みなのだろう。
「じゃあ、傷の手当をして……」
「そこまでしなくていい」
「でも……!」
「いいんだ」
銀龍さんは覚悟をしているような表情だった。
僕たちは昼食を終え、再び銀龍さんの背中のあたりを掃除し始める。
「コウ、私やっぱり……」
ミキは少し不安そうな表情を浮かべ、僕に話しかけてきた。銀龍さんの傷のことだろう。
「うん。僕もそのつもりだよ。今晩もう一度話してみよう」
ミキの思っていることはたった一つ、”銀龍さんの翼の傷を治療したい”だ。その気持ちは僕も同じだ。
銀龍さんの傷の話を聞いてから、全てが繋がった。
銀龍さんのあの体の汚れは、約五百年の間ほとんど動いていない、と言うより動けなくなってしまったからだ。
僕の悪夢の虫を払ってくれた恩返しに、治せる傷なら治してあげたい。僕たちは医者でも僧侶でもないが、レウテーニャの七日間講義で覚えた回復魔法もあるし、なんだったらミキは魔法薬学科の生徒だ。あの大きな体の銀龍さんの傷を治すのはかなりの時間を要するかもしれないが、出来る限りのことはしてあげたい。
「コウ、ありがとう」
「僕も同じ気持ちだから大丈夫だよ。でも、銀龍さんの傷を治すとなると、回復魔法だけだと大変だよね?薬草なんかも足りるかどうか……。それに、銀龍さんはこの門で生まれたんだよね?僕たち人間と同じようにして効果はあるの?」
「ちょっと前に、回復魔法も薬草も魔法生物に効くっていう研究結果があるって授業で習ったの。もし、銀龍さんもそうなら効くはず!でも、薬草とかは足りない……」
銀龍さんにも効くのならよかったが、やはり僕たちの手持ちだけでは足りない。どうすれば……。
すると、銀龍さんのいる場所まで連れて来てくれた、あの白いウサギのような生物が僕たちのいる場所までやってきた。
「そうだ!僕たちが掃除している間、この子たちに薬草を探しに行ってもらえれば……」
「でも、わかるかな?」
「少し前に、僕の靴を下に置いてきてって頼んだとき、言葉を理解してたんだ。薬草を見せたら案外……」
「物は試しね。一度お願いしてみる!」
ミキは帽子から箒を取り出し、白いウサギのような生物を連れて下へと降りていった。これでうまくいってくれさえすれば、薬草集めが少しだけ楽になる。
僕はいい方向へ進むよう祈りながら、デッキブラシでウロコを磨き続けた。
太陽が少し低めの位置へと移動した頃、ミキが戻って来た。一緒に下へと戻って行ったあの白いウサギのような生物はいない。
「どうだった?」
「薬草見せて、「探してきてほしい」ってお願いしたら分かったみたいで、他の動物たちと森の奥へ消えてっちゃった」
「これでうまくいけば……」
「銀龍さんの傷を治してあげられる!その前に、私たちは掃除がんばろ!」
「そうだね!」
僕たちは再び掃除に集中し、翼を除いた他の場所を進めていった。
今日は銀龍さんの腰回り近くまで進めることができた。
ミキと箒に跨り銀龍さんの頭付近まで戻って来たとき、あの白いウサギのような生物と他の動物たちが草陰から僕たちを見ていた。こっちへ来いということらしい。
僕たちは、銀龍さんに気づかれないようその草陰へ入ると、沢山の薬草が山積みになっていた。
「うわぁ!たくさん!」
「こんなに集めてきてくれたの?ありがとう」
すると、白いウサギのような生物がミキの体へと上り、頬ずりをしたあと、自身のおでことミキのおでこをコツンとくっつけたのだ。
僕は一瞬何をしているのか不思議に見ていた。
そしてミキが口を開いた。
「……みんな銀龍さんのお世話になってるから、何か力になりたかったの?」
「ミキ、今の……」
「この子ちょっとだけテレパシーが使えるみたい。おでこ同士をくっつけたときだけみたいだけど……」
テレパシーは小説の中でよく登場するが、この世に存在するのかと驚いた。
でもよく考えると、ここは門の塔の中の門。そして、この銀の門の中にいる生物は皆魔法生物だと銀龍さんが言っていた。何か不思議な力があってもおかしくはない。
すると、白いウサギのような生物は、またミキのおでこにコツンと自身のおでこを当てる。
「銀龍さんが飛べないのを知って、傷を治してくれそうな人を探してたんだね。それで私たちが……」
「五百年も飛んでないんじゃ、心配だもんね」
「体が汚れてるのも心配してたんだって。それに少しずつ銀龍さんの魔力が弱まってたって……」
銀龍さんが、傷を治さなくてもいいと言った理由が少し見えてきた気がした。
「もしかして、銀龍さんは消えて行く運命を待っていたんじゃ……」
「そんな……」
すると、また白いウサギのような生物がミキのおでこへ自身のおでこを近づける。
「銀龍さんやっぱり……」
「なんだって?」
「銀龍さん、自分の魔力が無くなるまであのままでいるつもりみたい。だから傷も放置してたって」
僕の予想が当たったようだ。
でも、どうして消えることを選んでいたのか。気になってしまう。
「このままだと薬草を集めても治療をさせてもらえなさそうだから、夕飯の時銀龍さんに話してみようよ」
「うん!でも、良いって言ってくれるかな……」
「うまく説得してみよう。それに、この森の動物たちも一緒に説得すれば……!」
銀龍さんが首を縦に振るという確証はない。でも、この森で共に生きている動物たちの姿を見れば、気持ちが変わるんじゃないかと僕は思った。
「ミキ、その子にテレパシーで伝えられるかな?一緒に説得してほしいって」
「わかった!やってみる!」
ミキは、手に上にいる白いウサギのような生物のおでこへ自身のおでこを近づけた。
「……たぶん、伝わったと思う!」
「よし!それじゃ、夕飯の準備をしよう!」
「うん!」
こうして、僕たちは夕飯の準備を始めた。
「おっ?夕飯は済ませたのか?」
僕たちが夕飯を素早く終え、道具を片づけていると、銀龍さんが声をかけてきた。
出来る限り早く夕飯を終えたのには理由がある。その理由に銀龍さんは気づいていないようで少し安心だ。
「あの、銀龍さん話があるの!」
ミキが片づけながら、銀龍さんに切り出す。確かにいいタイミングだ。
「話か?」
「はい。翼のことで……」
「またそのことか。治さなくていいと言っているのに……」
銀龍さんは呆れた表情で答える。
「でも、やっぱり気になるんです。それにこの子たちが……」
森の影から動物たちが大勢姿を現した。そして、それぞれ鳴き声を上げ、銀龍さんに思いを伝えているようだ。
「お前たち……」
「この子たちが教えてくれたんです。銀龍さんが翼を怪我してから飛んでないって。それと、魔力もどんどん弱ってるって」
「気づいていたのか……」
「だからお願い!翼も治療したいの!」
「僕からもお願いです!」
少しの沈黙の後、銀龍さんは大きなため息をつき、口を開いた。
「……わかった」
「本当ですか!」
「ああ。そこまで言われちゃ仕方がない」
「ミキ!」
「うん!」
森の動物たちも喜んでいるようだ。
「じゃあ、さっそく薬草をすり潰さなきゃ!」
ミキはそう言って、動物たちが取ってきた薬草を置いている場所へと消えていった。
「あのミキってのは、なかなかの頑固者だな」
銀龍さんは、ミキが消えていったほうへ目線をやりながら、そう言う。
「はい。頑固ですけど、優しいですよ」
「そうか」
「でも、傷をどうして治そうとしなかったんですか?銀龍さんくらいなら自分で治せるだろうに」
「俺はこの門の中でもう何万年と生きている。そろそろ終わらせてもいいかと思っただけだ」
「だから怪我をしても放置を……」
「ああ。俺はもう十分生きた。いや、生き過ぎた。それに、ずっとこの中にいるのも飽きてきていたんだ。だから、魔力が尽きるのを待っていた。あいつらには黙っていたが、気づかれていたようだな」
銀龍さんは申し訳ないという表情をしている。
「この森の動物たちも、優しいですね」
「ああ。いい奴らだ。俺の友、いや、家族のような奴らだ」
「だったら、長生きしてくださいよ」
「……若造にそう言われちゃ、長生きするしかないな」
銀龍さんは笑顔でそう言った。
その後、動物たちの協力もあり、銀龍さんの体の掃除や、傷の手当が順調に進んでいった。
銀龍さんの体はみるみるうちに美しい銀色へと様変わりし、以前の姿が想像出来ないほど綺麗になっていった。
朝は早めに起き、お昼過ぎまで掃除。昼食を取り終えた後、翼の治療に取り掛かる。
銀龍さんの翼は大きさが想像以上だった。そして、約五百年もの間ほとんど動かしていなかったためか、汚れはさほどなかった。傷は割と大きく、薬草を塗る範囲が大変で動物たちの力を借りた。ミキの回復魔法もフル活用だ。
掃除と治療で疲れ果てた僕たちは、夜になると泥のように眠り、朝起きて、また掃除と治療。そんな毎日を繰り返していると、気が付けば初めて銀の門へ入ってから一週間という時間が経っていた。
そして、今日いよいよ掃除もラストというところまできた。最後は銀龍さんの顔だ。
「顔はそんなに汚れていないだろう!」
「汚れてますって!」
「汚れてない!顔だけは綺麗だ!」
「銀龍さん、自分の顔見えないでしょう」
「汚れてないったら、汚れてないんだ!」
銀龍さんは、顔を洗うのを拒んでいる。どうやら、泡や水があまり好きではないらしい。
僕はなんとか説得をしてみるものの、銀龍さんは駄々をこねている。これではまるで、巨体の幼児だ。
「銀龍さん……」
「もう!銀龍さんったら!さっさと終わらせたら後が楽だよ!」
「そうは言ってもなぁ……」
「もう問答無用でかけちゃうからね!」
「ちょっと、待っ……!」
ミキは杖を構え、躊躇せず呪文を唱えた。
「ワップワー!」
ミキの杖先からたくさんの泡が飛び出てきた。そして、一気に銀龍さんの顔を包み込んでいった。
「さぁ!コウ!やっちゃうよ!」
銀龍さんもミキには敵わないなと思いながら、僕は銀龍さんの顔をデッキブラシで磨いていった。
「ミキ!角のほうは頼むよ!僕は、口や髭のあたりをやるから!」
「わかった!」
手分けして銀龍さんの顔を掃除していく。森の動物たちも手伝ってくれるので、鬼に金棒だ。
ザッザッと音を立て、髭や口周りを掃除していく。掃除した箇所に水をかける。
作業を繰り返していくと、銀龍さんの顔は太陽の光を反射するほどピカピカになっていった。
「よし!こんなもんかな!」
「終わったか?」
「はい!もう目を開けても大丈夫です」
銀龍さんはゆっくりと目を開いた。
「どうだ?俺の顔は?」
「ピカピカです!」
「うん!若返った感じ!」
すると、銀龍さんはゆっくりと体を起こし始めた。
「久しぶりに動かすとダメだな。全身が硬くなっておる」
銀龍さんは、自身の体を確かめるように動かしていく。
「翼も広げてみてください!」
銀龍さんは、僕にそう言われ、背中の大きな翼をゆっくりと開いた。
全身のウロコと翼が太陽に照らされ白く輝く姿は、とても美しく幻想的だった。正しく”銀龍”の名に相応しい。
「痛みとかありますかー?」
「……うむ。問題ない」
すると、銀龍さんは翼を大きく羽ばたかせた。
ブワッと大きな音を立て、辺りの木々をなぎ倒す勢いの風を吹かせる。僕たちまで吹き飛んでしまいそうなほどだった。
「おっと。すまない。手加減し忘れていた」
「だ、大丈夫です!」
そして、銀龍さんは僕たちをその大きな手で掬い上げた。
突然のことで驚いたが、銀龍さんの目線近くになったとき、森を一望できるほど高い場所に居た。
「どうだ?これが俺の森だ」
「広い……!」
「さて、お前たち。俺の頭の上に来い。ひとっ飛びしてやろう」
僕とミキは銀龍さんの頭の上へ行き、銀龍さんの角をしっかりと掴んだ。
銀龍さんは大きな翼を大きく羽ばたかせ、一気に上空へと上がっていく。どんな飛行船や鳥よりも早い。
そして、今度は垂直方向に進む。僕たちの居た場所があっという間に離れて行く。
「これが、俺たちの森だ」
銀龍さんはとても愛おしそうに言う。
「いい森です」
「私、この森のこと大好きになっちゃった」
「ハハハ!」
銀龍さんは高らかに笑った。
僕たちと銀龍さんは、元居た場所へと帰って来た。
銀龍さんとの空の旅は最高だった。
「翼の調子も良い。体も綺麗になったし、最高の気分だ。本当にありがとうな」
「もう無茶はしないでくださいね!あと、怪我もちゃんと治してください!」
「そうだな!ハハハ!」
すると、銀龍さんは僕たちの前に右手を差し出し、手を開いた。
「これを持って行け」
そこには、銀色に輝く二枚のウロコがあった。
「これは……?」
「俺のウロコだ。悪い虫を避けてくれるはずだ。あと悪い魔法もな」
僕たちは銀龍さんからウロコを受け取った。
そのウロコは太陽の光を反射し、ピカピカと白く輝いている。
僕たちは、銀龍さんから受け取ったウロコを、お守り袋にしまった。
「門の出口はあいつらが案内してくれる。……本当に世話になったな」
「僕たちこそ!」
「掃除は大変だったけど、本当に楽しかった!」
少し名残惜しいが、僕たちは門の塔攻略者だ。いつまでもここに居られない。
銀の門の中で過ごした日々を忘れることはないだろう。いや、決して忘れない。
「マルサにもよろしく伝えといてくれ。お前の息子は立派だってな!」
「銀龍さん……!」
「俺のお墨付きだ。自信を持て」
「はい!」
僕たちは銀龍さんと別れ、出口へと向かった。
そして、森の動物たちが、僕たちを案内してくれた。
「みんなとも今日でお別れか……」
「寂しくなるけど、元気でね!」
ミキはそれぞれの動物たちを撫でたり、抱擁したりして別れを惜しむ。
ゆっくりと歩いていると、銀色に光る何かが見えた。どうやら出口のようだ。
「あれ?銀の門ってこんなのだっけ?」
入り口の門は、こじんまりとした地味な印象だったが、出口の門は銀色に美しく輝いている。
「もしかして、銀龍さんの魔力が戻っているのかも」
銀の門の主である銀龍さんが魔力を取り戻したことで、門にも輝きが戻ったようだ。
「……銀の門も、この森も、ずっと残っているといいね」
「銀龍さんがいるし、きっと大丈夫だよ」
「そうだね!」
そして、僕たちは森の動物たちと別れ、出口へと入った。
長い通路が続く。少しだけ明るい通路をコツコツと歩く。
一週間もこの門の中に居たが、時間はあっという間だった。
「楽しかったね」
「うん。私、銀の門にだけならまた入ってもいいかな」
ミキはすっきりとした笑みを浮かべ、そう語る。
すると、銀色に輝く門が見えてきた。門の塔へ戻って来たらしい。
僕たちは銀色に輝く門を開いた。
「銀の門クリアー!」
ミキがそう叫ぶ横で、僕はサコッシュからマップを取り出し、開いた。
”銀の門”と記された場所に、星マークが付いている。クリアだ。
「さーて!お魚とお野菜ばっかりだったし、今日はお肉にしよー!」
「そうだね。ちょっと早いけど、夕飯にしようか」
「賛成ー!私、食料棚見てくるよ!」
そう言ってミキは、食料棚へと向かった。
一週間ぶりの門の塔。少しだけ懐かしい感じがする。それと同時に、寂しい気持ちが沸き上がって来た。
”銀の門”。この先のずっと未来にも銀の門が残っていることを、僕は心の底から願うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます