第十五話 七日間講義二日目②
三限が始まり、僕たちは小回復魔法の練習を行っていた。
僕とミキは、ナロメ先生が魔法で出した枯れかけた花に小回復魔法をかけ、綺麗な花を咲かせるという方法で練習を行っていた。
ミキは魔法を使い慣れているためか、すんなりと花を綺麗に咲かせるが、僕は焦りがあるのか少しだけ時間がかかってしまう。
「なかなか難しいですね……」
「コウさん。何事も焦りは禁物です。杖先にだけ集中を」
ナロメ先生は少し厳しく指導してくれるが、僕としてはとてもありがたい。何と言ったって、この七日間講義が終わったら門の塔へ行くのだ。ここで挫折していてはいけないのだ。
「杖の先に集中……。杖の先……」
僕は杖の先に集中する。
「大地に住まう精霊たちよ、この者を癒したまえ、ヴァリーヴァリー」
僕はゆっくり呪文を唱える。目の前の枯れかけた花と杖先に集中しながら。
すると、杖先から緑色の光が溢れ、枯れかけた花はみるみるうちに一輪の綺麗なピンク色の花を咲かせた。
「やった!うまくできた!」
「順調ですね。あと3回ほど練習してみましょう」
ナロメ先生が杖を振ると、3本の枯れかけた花が出てきた。
僕は集中を切らさないよう、一本ずつ丁寧に魔法をかけていった。
「ヴァリーヴァリー……」
最後の三本はどれも上手に魔法をかけられた自信がある。少しホッとする僕だった。
「お二人とも、次は中回復魔法を使ってみましょうか」
ナロメ先生が杖を振ると、枯れかかった一本の苗木が出てきた。
「今度はこちらに中回復魔法をかけていきましょう。まず私がお手本をお見せします」
ナロメ先生は枯れかかった苗木へ杖を向け、呪文を唱えた。
「風と共に流るる精霊たちよ、この者を癒したまえ、モトエヴァリーヴァリー」
ナロメ先生はそう唱えながら、杖先をゆっくり回転させた。
すると、とても緑色の強い光が枯れかかった苗木へ降り注ぎ、枯れかかった苗木はみるみるうちに成長し、腰くらいの高さの一本の木になった。
「すごい……!」
「中回復魔法は骨折などにも有効な魔法です。いざというときのために必要だと思いますのでここで練習しておきましょう」
ナロメ先生はそう言いながら杖を振ると、枯れかかった苗木が20本ほど出てきた。
「一人10本ずつ練習していきましょうか」
僕たちは枯れかかった苗木に呪文をかけていった。
ミキは順調に苗木を成長させていくが、僕は一本目から詰まってしまった。
「コウさん。また焦りがでているのかもしれません。少し落ち着いてやってみましょう」
ナロメ先生に言われ、僕は立ち上がって大きく深呼吸をした。
ふと空を見上げると、太陽はてっぺんまで来ていた。もうお昼近い時間だ。
両手を広げたまま、流れる風に意識を向ける。そよそよと流れる風は僕の体を包み、少しだけ休憩させてくれているかのようだ。
気を取り直し、目の前の枯れかかった苗木に杖を向け、呪文を唱える。
「風と共に流るる精霊たちよ、この者を癒したまえ、モトエヴァリーヴァリー」
すると杖先から光が溢れ、苗木はみるみるうちに成長し、腰ほどの高さの一本の木になった。
「やった!」
「その感覚です。他の苗木にも呪文をかけていきましょう」
「はい!」
回復魔法は、とにかく落ち着いてゆっくり唱えることが重要なようだ。僕はゆっくりと他の苗木にも呪文をかけていき、全ての苗木を元気な姿へ成長させた。
すると鐘の音が響いた。三限終了の合図のようだ。
「三限も終わりですね。四限も同じ場所で授業しますので遅れませんように」
ナロメ先生はそう言い、箒に乗って校舎のほうへ飛んで行った。
「今日のお昼はどうしよっかな~」
三限を終えた僕たちは食堂へ来ていた。
食堂前のメニュー表を見ながら、あれやこれやと悩んでいる生徒が多数いるが、僕たちもそこへ混ざっていく。
「今日のオススメは……、生姜焼き定食だって。コウどうする?」
「じゃあ、僕は生姜焼き定食にするよ。ミキはどうするの?」
「私は……。オムライスにする!」
僕たちはそれぞれ注文した品を受け取り、外のテラス席へ移動した。
ミキは、オムライスにレモンゼリーとアップルティーを注文したようだ。僕は、生姜焼き定食とアップルティーを注文した。
「じゃ、食べよっか!いただきまーす!」
「いただきます」
僕は手を合わせた。いただく命と食材に感謝を忘れずに。
生姜焼き定食は、見ての通り豚肉を醤油と砂糖で炒めたものだ。付け合わせの野菜にキャベツの千切り。そして白いご飯。お味噌汁がついている。
僕はまず、お味噌汁をすする。魔法をたくさん練習して疲れた体を温めて癒してくれる。そこへ、生姜焼きを一枚箸で取り、口へ放り込む。口に生姜焼きを運んだあと、白いご飯を放り込む。口の中で生姜焼きと白いご飯が出会い、共にワルツを踊るように舌の上で転がる。白いご飯と一緒に食べるため、少しだけ濃い目に味付けされたのだろう。味が中和され、とても美味しい。
僕はまたお味噌汁をすすり、今度は生姜焼きで白いご飯を包み、口へ放り込んだ。生姜焼きのドレスを纏った白いご飯。噛めば噛むほどうま味が口の中に広がり、「ありがとう」と言いたくなってしまうほどだ。
僕は生姜焼き定食を完食した。ミキもオムライスとレモンゼリーを完食したらしい。
「美味しかったね」
「うん」
そして僕たちは、疲れた体を癒すかのようにアップルティーをゆっくり飲む。
僕たちの真上でギラギラを輝く太陽は、テラスから見える校庭の草木を青々を輝かせている。そこへそよそよと心地いい風が吹いている。
「ミキ、今日帰ってからでいいんだけど、薬草学の本貸してくれないかな?」
「いいけど、どうして?」
「今日回復魔法をやってみて思ったんだけど、必要なときにうまく出来なかったら困るし、昨日ナナパ先生が言っていたでしょ?魔法が使えない門もあるって。だから今のうちに少しでも勉強しておきたくて……」
ミキは少し悩んだ後、こう告げた。
「わかった!いいよ!あと言ってくれたらいつでも教えるからね!」
◆
コウとミキが昼休みをとっている頃、ナロメ・レスピナスはイスカ・ロローがいる学長室へ来ていた。
ナロメはイスカに、コウの魔法について報告していた。
「――やはりか」
イスカは昨日弟が言っていたことと、ナロメが今日授業で感じたことを聞き、何かを確信していた。
「本日は仮の杖なので一概には言えませんが、やはりコウさんの魔法はかなり弱いものと思われます」
「君もそう言うのなら、昨日のリーウが言っていたこともほぼ確定ってことだな」
「リーウさんが言っていたこととは?」
「コウくんには、魔法を使いにくくするようなリミッターみたいな呪いがかかっているって」
ナロメは少し考え込む。コウには魔法ではなく、体術や剣術を身に付けさせたほうが彼のためになったのではと。
「やはり彼には体術以外にも剣術をお教えするべきではと私は思います。あの魔力ではいくらミキさんが付いていようと不安要素が大きいように思います」
「ふむ。やっぱり彼女を呼ぶしかないか……」
「今日の夕方、セイレーンが始まる前に彼女を尋ねてみます」
「そうしてくれ。彼女には少し忙しくさせてしまうが……」
イスカは窓から遠くを見つめていた。
「ところで学長」
「なんだい?ナロメ先生」
「今日のお昼は食堂長に頼んでタダにしてもらったそうですね」
「ど、どうしてそれを?!」
「昼食代はしっかりお給料から引かせていただきますね」
「うぅ……辛辣ぅ……」
◆
僕とミキは、四限の授業が始まる前に校庭へやってきた。
少しだけ斜めにズレた太陽は、相変わらずギラギラと眩しい。
「えっ!コウって牧場でアルバイトしてたの?」
「うん。」
「すごい!でも、牧場ってことは朝早いんじゃないの?」
「4時とか5時起きだよ」
「夕方とか眠くなりそう」
僕たちが話していると、ナロメ先生が箒に乗ってやってきたと同時に鐘の音が響いた。
お昼休みが終わり、四限が開始するという合図だ。
「お二人ともお揃いですね」
ナロメ先生はゆっくりと降下してきた。
「四限は解毒と解痺の魔法をお教えします」
ナロメ先生はこう続ける。
「毒や麻痺については、魔法薬学科のミキさんのほうが詳しいと思いますので細かい話は彼女から聞いてくださいね。ここでは飽くまで呪文をお教えします」
ナロメ先生が杖を振ると、目の前にイスカ学長が現れた。
「あれ?コウくんとミキくんじゃないか! でもなんで僕がここに?」
イスカ学長は学長室に居たのだろうか。突然校庭にいるのだから自分でも訳が分からないという様子だった。
「えっと……」
「私たちが聞きたいくらいです」
僕とミキが困惑していると、一人だけ満面の笑みになっているナロメ先生がこう告げた。
「イスカ学長には実験台になっていただきます。クードワ!」
ナロメ先生がそう言いながらイスカ学長に杖を向けると、イスカ学長は顔色がとてつもなく悪くなり始めた。
「う……うげぇ!えっ?どゆこと?うぇっ……」
「学長に毒の呪文をかけました」
「待って……聞いてな……うげぇ!」
イスカ学長の顔は真っ青になり、今にも内臓から色々な物を吐いてしまいそうという表情をしている。
ナロメ先生はイスカ学長に対して全く容赦しないなと思いながら苦笑いをする僕だった。ミキもきっと同じことを思っているだろう。
「では、ミキさん。解毒の魔法のお手本を見せてください」
ミキは、杖をイスカ学長に向け呪文を唱えた。
「草木の精霊たちよ、この者の毒を消し去ってしまえ、ジョーイクードワ!」
ミキがそう唱えると、杖先から黄色い光が溢れ出し、イスカ学長を包み込んだ。
すると、イスカ学長の真っ青な顔がみるみるうちに元の血色の良い顔へと戻っていった。
「……わっ!治った!やったー!」
イスカ学長が飛び上がっているのを横目に、ナロメ先生は続ける。
「今のが解毒の魔法です。回復呪文と同じように精霊を召喚する魔法ですので、こちらも焦らずゆっくり呪文を唱えてください。それではコウさんも練習してみましょうか。クードワ!」
ナロメ先生が呪文を唱えると、イスカ学長の顔色は先ほどの真っ青な顔へと戻ってしまった。
僕は深呼吸をして心を落ち着かせた。そして真っ青な顔のイスカへ杖を向け、呪文を唱える。
「草木の精霊たちよ、この者の毒を消し去ってしまえ、ジョーイクードワ」
僕の杖先から黄色い光が溢れ出し、イスカ学長を包み込んだ。
すると、イスカ学長の真っ青な顔色は消え失せ、元の顔色へと戻っていった。
「やった!成功した!」
「その意気です。次は解痺の魔法ですね。レービィ」
ナロメ先生はイスカ学長へ杖を向けた。するとイスカ学長はその場でへたり込んで動かなくなってしまった。
「あわわ……あわ……わ……」
「こ、これは」
「相手を麻痺させる魔法です。神経にも響くので結構痛いですよ」
ナロメ先生は満面の笑みでそう答えた。
僕は少しだけ鳥肌が立ってしまった。
「ではミキさん。引き続きお手本を」
ミキはそう言われ、イスカ学長に杖を向けて呪文を唱えた。
「草木の精霊たちよ、この者の痺れを取り払いたまえ、ジョーイレービィ!」
ミキがそう唱えると、杖先からオレンジ色の光が溢れ、イスカ学長を包み込んだ。
すると、先ほどまでへたり込んでいたイスカ学長が元に戻った。
「ふぁっ!やった!アハハ!」
「という感じなので、コウさんも試してみましょう。レービィ」
そう言うとナロメ先生はまたイスカ学長に麻痺魔法をかけ、へたり込ませた。
「ひぅ……いっ……。やさし……く……して……ね」
優しくしてねなんて言われたら少しだけやりづらいが……僕はイスカ学長へ杖を向け、深呼吸しながら呪文を唱えた。
「草木の精霊たちよ、この者の痺れを取り払いたまえ、ジョーイレービィ」
すると、杖先からオレンジ色の光が溢れ、イスカ学長を包み込んだ。
イスカ学長は元に戻った。
「やった!元通り!」
「とまぁ、こういった感じです。あまり人に毒や麻痺をかけてしまうと最悪の場合死に至りますので、今回はこの辺で終わりにしましょう」
僕はイスカ学長の体調が少しだけ気がかりだった。
「では、イスカ学長。もう用事は済みましたので、元の場所へお戻ししますね」
ナロメ先生がそう言いながら杖を振ると、イスカ学長の姿が消えた。
どうやら学長室に戻されたらしい。
「あの、イスカ学長の体調とか大丈夫なんでしょうか?」
「あの方はたぶん大丈夫ですよ。無駄に丈夫な体なので」
ナロメ先生は満面の笑みを浮かべながらそう答えた。僕はナロメ先生がいつかイスカ学長を……などと良からぬことを想像してしまった。
「攻撃呪文はポーとチーをお教えしましたが。ルーはまだお教えしておりませんね。今日はルーをお教えして終わりにしましょう」
先ほどの満面の笑みからいつもの表情になったナロメ先生はこう言った。
ルーという水の呪文は、昨日リーウさんの店でやらせてもらったが、僕はじょうろのような勢いのない水しか出すことができなかった呪文だ。少しだけ不安が残っている。
「まずは私がお手本をお見せします」
ナロメ先生がそう言いながら杖を構えた。
「ルー!」
すると、ナロメ先生の杖先から勢いよく水柱が出てきた。
「今は水柱のような形ですが、使い方を変えれば水を弾丸のような形にして敵を攻撃することもできます」
ナロメ先生はそう言いながら、ボール大の水の弾丸を的に当てていく。もの凄い勢いで飛んで行くので的が壊れている。確かに敵への攻撃に有効だ。
「昨日うまくできなかったけど、ナロメ先生みたいにできるかな……」
「まずはやってみましょう。そこから解決策を考えれば良いのです。今は七日間講義です。まだ門の塔の中ではないので安心して練習しましょう」
ナロメ先生はそう言ってくれた。そうだ。ここは学校であり、七日間講義の最中なのだ。魔法のテストでも無ければ、門の塔の中でもない。練習する場所なのだ。
僕とミキは目の前の的に向かって杖を向け、できる限り集中する。
さっきナロメ先生が出していた水柱……あれを想像すればいいのだ。
そして僕は勢いよく呪文を唱えた。
「ルー!」
昨日リーウさんの店の庭で出した水の魔法よりは強いが、的には届かない水柱が出てきた。
「ルー!」
続けてミキが呪文を唱えた。ミキが出した水の魔法は勢いがあり、的に届く強さだった。
やっぱりミキはすごいなんて思ったりもしたが、僕はもう一度呪文を唱えてみた。
「ルー!」
少しだけ距離は伸びたが、やはり勢いがないじょうろの水のようだ。
「コウさん。水柱ではなく、水の弾丸でやってみましょう」
僕はナロメ先生に言われるがまま、水の弾丸で出してみることにした。
壁や物にぶつかったとき、勢いよく弾けるボールを想像する。ダンッダンッ!と弾け、当たると痛いボール。
僕はイメージを思い浮かべながら、杖を構え、呪文と唱えた。
「ルー!」
すると、顔ほどの大きさの水の玉が杖先に出現し、勢いよく的へ向かって飛んで行った。
「やった!できた!」
「水の弾丸のほうがイメージしやすいようですので、コウさんはこれからそちらを使うようにしたほうがいいのかもしれません」
「はい!次からそうしてみます!」
僕たちは時間が許す限り、練習をした。うまくいかなければ思い浮かべるイメージを変えたり、一度気持ちを落ち着かせたり。
そうこうしていると、気づけば鐘の音が校庭中に響いた。四限終了の時間のようだ。
太陽は少しだけ傾き、直に夕方へと近づく時刻となっていた。
「それでは四限も終わりましたので、本日はここまでにしましょう。明日も同じように実技ですのでしっかり体を休めてくださいね」
僕たちはナロメ先生と別れ、荷物を持ち、レウテーニャを後にした。
「今日はいっぱい魔法使ったから疲れたね」
「ほんとだね。僕ヘトヘトだよ」
僕たちは今日の事を話しながら帰路に付く。
「ところでミキ、魔法の練習っていつもどこでやってるの?」
「学校が多いけど、うちの庭でもたまにやってるよ」
「朝早くに練習してたら叱られちゃうかな?」
「水の魔法くらいなら大丈夫だと思う。火の魔法は前に練習してたら洗濯物焦がしちゃってママに怒られたんだよね。あと音が大きくてお隣さんがビックリさせちゃったこともあったっけ」
ミキはテヘッと言いそうな表情で言う。
「水の魔法か……。あと回復魔法とかは?」
「回復魔法も大丈夫だけど、回復させる物がないからなぁ」
やはり魔法の練習はレウテーニャの校内でするのが一番いいのかもしれない。学校ならナロメ先生や他の先生にもすぐ相談ができるという利点もある。
それにしても魔法を使うと多少体力を使うのだろうか、やはり疲れが出る。僕は少し体力をつけたいと帰りながら考えていた。
ミキと話しながら歩いていると、アミマド屋に戻ってきていた。
僕は二階の借りている部屋へ行き、テルパーノ全体が載っているマップを開く。
ここからここで……約5キロメートルくらいかと指を使ってだいたいの距離を測る。
僕は明日から早起きをしてランニングをしようと考えていた。少しでも体力をつけるにはじっとしているだけではダメだ。動くのが一番。幼少期は病弱で人より少し体力や筋力面で劣っている。少しでもミキのように魔法を扱えるようになるにはこうするのが一番だという結論に至ったのだ。
5キロメートルなら往復で10キロメートルか。それなら約一時間もあれば……と考えていたときだった。
――トントン。
ドアからノック音が聞こえた。
「コウ?いるー?」
「ミキかい?どうしたの?」
「薬草学の本何冊か持ってきたよー!」
僕はドアを開け、ミキを部屋へ迎え入れた。
「ありがとう!助かるよ!」
「ここらへんに置いとくね!あれ?マップ見てたの?」
ミキは僕が机上に広げていたマップを見て尋ねてきた。
「うん。明日から早朝ランニングしようと思って」
「だったら、いいコース知ってるよ!」
ミキは杖を取り出した。
「うちから左へ出て商店街近くの噴水広場に出たら、ここをこう行って……」
杖先でそのオススメのコースをなぞると、そのなぞった部分だけが淡く光輝く。
「なぞったところが光ってる!これも魔法?」
「ううん。これはマップの紙にリーカイ草っていう草の成分が入ってて、杖先に反応して光ってるだけなんだ。」
僕はテルパーノのマップの紙にはそんな成分が含まれているなど知らなかった。
ミキは続ける。
「で、この道を北に行くと、レウテーニャの校門前まで出てくるの。レウテーニャってとっても大きい正方形になってるから走りやすいみたいで早朝ランナー多いし、うちからだと往復で一時間ちょっとで走れるはずだよ」
「確かに。このコースなら……!ありがとうミキ!」
ミキが部屋から出ていき、僕はマップを眺める。早朝ランニングするコースを頭へ叩き込むためだ。
それにしても、マップが光るなんてすごい技術だ。リーカイ草様様だなんて思いながら何度もコースを確認していた。
少しすると、なにやらいい匂いがしてくる。ミエさんが夕飯の支度をしているらしい。
僕は匂いに耐えながら、明日の予習と、ミキが貸してくれた薬草学の本に目を通す。明日も実技と言っていたので、予習と言っても教科書をさらっと見る程度で大丈夫だろう。
そして、僕は薬草学の本を手に取り、読み始める。
まずは傷を癒すような薬草を見てみよう。
目次を開き、傷や治療を書かれた項目を確認する。……あった。
――ロル草。傷に治療などに使われる薬草。どこにでも生えており、安価で手に入りやすい。薬研などですり潰し、傷に塗ると良い。料理の薬味として使われることもある。
僕は、バーオボから持ってきた片手ほどの大きさの手帳にロル草の特徴などを書きこんでいく。
すり潰して使うということは、何かそういった道具を持って行ったほうが良いといいことだろうか。門の塔へ入る前にミエさんに相談してみよう。
次のページを開くとまた薬草のページだった。
――エーロル草。ロル草の上級草。傷の治療などに使われる薬草。どこにでも生えており、安価で手に入りやすい。すり潰し、傷に塗ると良い。魔法を使うと回復薬になり、疲れた体を癒す効果もある。
僕は手帳にエーロル草のことを書きこむ。
魔法を使うと回復薬にもなる薬草。僕にもできるのならたくさんあれば重宝しそうだ。ミキにも聞いてみよう。
その他にも、解毒や解痺に使われる薬草、やけど治療に使われる薬草なども載っていた。
薬草学の本を読み進めていると、ドアのノック音が聞こえた。
「コウ!ご飯できたって!」
ミキの声だ。夕飯が出来たらしく呼びに来てくれたらしい。
「うん!すぐ行くよ!」
僕は薬草学の本にしおりを挟み、部屋から出て行った。
綺麗に並べられた夕飯を皆で囲み、他愛もない会話をしながら平らげていく。
明日からは少し早めに起きてランニングだ。夜はしっかり寝よう。そう思いながら箸でおかずを摘み食事を楽しむ夜だった。
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