第十二話 七日間講義一日目

 少しだけひんやりとした空気に目が覚める。ベッド上の窓を見ると、青空と少しレモン色をした小さな雲がこちらを覗き込み、青白い朝日が部屋に射しこんでいた。今日も天気が良いようだ。


 ゆっくりとベッドから出た僕はその場で伸びをする。伸びをしたまま左右に体を伸ばして深呼吸をする。この瞬間が少しだけ気持ち良い。

 服を着替え靴を履いた僕は一階へ降り、洗面台で顔を洗う。水が冷たく、一気に脳みそが覚醒する。

 今日は忘れず持ってきた自分のタオルで濡れた顔を拭く。すると後ろから誰かやってきた。


「コウくんおはよー。ふぁ~」

 あくびをしながら登場したのはミナさんだ。舞台の上での妖艶な姿とは裏腹に、髪はボサボサで寝起き感がすごい。


「おはようございます。ってかミナさん、髪が……」

「あぁ。私寝ぐせめっちゃ酷いの」

 そう言ってはにかんで笑うミナさんだが、そういうところもミナさんらしいのかもしれない。


「今日はお仕事ですか?」

「うん。エピノ宿のあと、セイレーンだよ~」

「大変ですねぇ」

「大変だけど、私働くの好きだからね~。踊り子は仕事って言うより趣味って感じだけどね」


 さらっと「働くのが好き」という言葉が出てくるあたり、さすがだなと思ってしまった僕であった。


 朝の身支度を終えた僕はキッチンへ行き、ミエさんに挨拶をする。

「おはようございます!」

「コウくんおはようさん。朝ごはんできてるよぉ」


 今日の朝食は、サンドイッチだ。レタスやハム、卵やチーズなど様々な具材が挟まっている。


「おはよ~」

 さっきの寝ぐせが嘘のようなとても綺麗なストレートヘアとなったミナさんもキッチンへやってきた。


「あれ?ミキはまだのようだね。先に食べちゃおうね」

 僕たちは、まだ来ていないミキよりも先に食事を始めた。


「いただきます」

 いただく命と食材に感謝を忘れずに。


 僕はミルクを少し飲み、レタスとハムのサンドイッチを齧る。パンのあとレタスのシャキっとした触感が来て、ハムの塩気とうま味が僕の口の中に広がる。、もう一口齧る。もう一口……。


 すると、ミキがキッチンにやってきた。

「おはよう。髪のクセ直してたら遅くなっちゃった」

 ミキも席につき、サンドイッチを頬張る。


 僕は、卵のサンドイッチを頬張る。マヨネーズと卵のうま味が口の中に広がる。つぶつぶの白身がプリっと弾けて最高の触感だ。

 その次はチーズのサンドイッチ。チーズ独特の塩味と甘味がパンに合う。


「今日から二人とも七日間講義なんだね。頑張りなね」

 僕たちがサンドイッチを頬張っていると、ミエさんが笑顔で言う。

 そうだ。僕たちは今日からレウテーニャ魔法大学校で七日間講義を受ける。門の塔へ入るために大切なことを学ぶのだ。


 

 僕たちはそれぞれのやることを終え、荷物を持ってアミマド屋を後にし、レウテーニャへ向かう。

 登校は昨日と同じように徒歩だ。

「ミキ、ごめんね。僕が箒で飛べないから」

「ううん。大丈夫だよ」

 この会話をしているときにも頭上にはたくさんの人が箒で飛び交う。まだテルパーノにきて三日だが、少しだけ慣れてきた。


「僕も魔法が使えたらなぁ」

「案外できるかもよ?自分が知らないだけで」

「そういうものなのかなぁ」


 ミキも突然変異とは言え、9歳のときから使えるようになったと話していた。僕も杖があれば、巨大な火の玉が出てくるような大魔法なんて使えたりするのだろうか。


「もしよかったら今日のお昼ごろ、私の杖使って試してみる?」

「いいの?ってか他人の杖って使っていいんだ」

「一応大丈夫だよ。いざというときは他人の杖を使うこともあるし」


 二人で話しながら歩いていると、レウテーニャ魔法大学校の校門が見えてきた。相変わらずたくさんの生徒が箒で飛びながら入っていく。


「えっと、教室はあっちだっけ」

「うん」


 僕たちは校舎へ入り、二階へ上る。そして”B教室”と掲げられた教室に着いた。

「ここだよね」

 僕たちは教室のドアをガラリと開く。だが、誰も居なかった。


「七日間講義、やっぱり私たちだけなんだね」

「うん。他にもいるのかなって思ってたけどね」


 もしかしたら僕たちと同じような攻略者がいるのかなと思っていたが、昨日の受け付けでは僕たちだけだったようだ。


 僕たちは真ん中最前列の席にそれぞれ座った。

「普段は他の子たちもいる教室に行くから、誰もいない教室って新鮮」

「そうなんだ。でも不思議な感じはなんとなくわかるかも」


 僕たちが今の状況について話し合っていると、あの鐘の音が聞こえてきた。始業の鐘だ。


 少しすると、B教室のドアがガラリと開いた。姿を現したのは昨日学長室で出会ったナロメ先生だった。

「お二人ともおはようございます。しっかり時間を守れましたね」

 ナロメ先生は教壇へ立ち、こう続けた。

「では、改めまして。私はナロメ・レスピナスです。今日のお二人の授業をしてくださる先生をお連れしましたので、ご紹介しますね。ではお入りください」


 またガラリとドアが開く。そこに現れたのは一人の男性だった。

「この方は我が校で歴史の教師をしている、ナナパ・デ・マッキ先生です」

「初めまして。ナナパです。普段は歴史の担当なんですが、こう見えて門の塔のことも研究していましてね。今日は門の塔について授業しますね」

 門の塔の研究をしている先生から授業してもらえるとは、とても貴重な話を聞けそうで僕は少しだけワクワクしている。


「それでは私はこれで」

 ナロメ先生は颯爽と教室を出て行った。


「えっとじゃあ、まず二人の自己紹介してもらおうか」

「私はミキ・ルル・アミマドです。現在休学中ですが、レウテーニャの魔法薬学科3年です。よろしくお願いします!」

「僕はコウ・レオーニです。門の塔攻略のためバーオボからやってきました。よろしくお願いします」

「お二人ともよろしくお願いいたしますね。それでは授業始めましょうか。昨日事務所で渡された教科書はありますか?」


 僕たちは教科書を開く。門の塔の歴史についてというページが最初に出てきた。

「では、門の塔の歴史からまずは学んでいきましょう」


 ――門の塔とはいつ頃、誰が、どのような理由で建てたのか、それとも自然にできたのか一切不明である。中は天国の門へと続く地上層と、地獄の門へと続く地下層に分かれている。だが、詳しい階数は誰にもわからない。そして、門の数も未だ不明である。


「門の塔、中にたくさんの門があること以外わからないのね」

「うん。僕も色々書籍漁ったけど、詳しいことは誰も分からないって感じの記述ばかりだったよ」


 過去に幾度か調査団を派遣したことがあるらしいが、戻って来なかったり、途中で調査を断念したりと散々な結果になったらしく、ここ数十年では調査が行われていないらしい。


「大の大人が集団で挑んで散々な結果になったのですから、本当に危険な場所なのです。僕としては、まだ20歳にも満たない君たちが行くのは少しだけ反対なんですがね」

 ナナパ先生は少し悲しそうな表情を見せながら続ける。

「でも、それぞれに理由があるのですよね。仕方ないです。では、次のページにいきますかね」


 次のページを開くと、”七英雄”について載っていた。

 ――”七英雄”とは、過去に門の塔の天国の門まで辿り着き、完全攻略できた者たちのことだ。

 一人目が約四百年前に人類史上初めて攻略を達成した”ガルモ・ウルロー”という剣士の男性。二人目が約三百年前に達成した”ヨシイチ・カガリ”という東の国ジャプニーナの男性。三人目が約百年前に達成した”モリー・ミント”という魔術師の男性。四人目から七人目が、今から17年前に達成した”マリーナ・ローゼンタール”、”エナ・アリスガワ”、”テオ・ヘーガー”、”ハイモ・オーケン”、の女性二人、男性二人の四人。


「現在、門の塔を完全攻略できたのはこの七名のみです。ただし、この七名は天国の門へ続く地上層の攻略者です。地獄の門へと続く地下層の完全攻略者は今現在一人もいません」


 地獄の門へと続く地下層攻略は、何人か攻略に挑んだ者がいるそうだが、誰一人として戻ってこなかったそうだ。攻略を中断したのではなく、戻ってこなかった。いや、戻って来られなかったと言ったほうがいいのかもしれない。


「そして、どうして地上と地下と分かれているのかハッキリとした理由は分かっていませんが、七英雄は天国の門へ入ったとき1つだけ願いを叶えてもらえたそうです。なので、門の塔へは皆さん叶えたい願いがあるから行くのです」


「地下層の地獄の門まで行くと……どうなるんだろう?」

「僕にもわかりません……。何せ今まで到達した人が居ないのですから。答えは神のみぞ……いや、門の塔のみぞ知ると言ったところでしょうか」


 すると、学校中に鐘の音が響いた。一限終了の合図だ。

「おっと。それでは一限の授業終わりますね。二限も同じように座学なのでB教室に居てくださいね」

 そう言うとナナパ先生は教室を出て行った。



「門の塔……。本当に謎が多いんだね」

「うん。僕もたくさんの文献や書籍を読んだけど、結局いつからどうしてそこにあったのかとか一切分からないから、仮説ばかりだったな。宇宙から降ってきたとか、地中から生えてきたとか、龍が作ったとか、偉大な魔法使いが種に魔法をかけたら塔になったとか。でも、真実は誰にも分からないんだよね」


 僕たちが生まれる何百何千年もの歴史を見てきてるであろう門の塔。様々な憶測も結局想像や妄想に過ぎないのだ。


「地下層まであるのは知らなかったな。地獄の門って名前ですでに怖いから地下には絶対行きたくないかも……」

「僕も初めて知ったよ。とんでもない門とかありそうだよね」

「うん。門に食べられちゃいそう」

 冗談交じりで地下層の話をしているが、あながち人を食べる門が居てもおかしくないのかもしれない。


 するとまた鐘の音が響いた。

「二限始まるね」

 すると、B教室のドアがガラリと開く。ナナパ先生が二限の授業をしにやってきた。

 僕たちはお行儀よく席に着いていた。


「お二人ともお揃いですね。それでは二限の授業を始めますね」

 僕たちは教科書を開く。

「一限で七英雄の話をしましたね。今度は七英雄のその後についてお話しましょう。まずは人類史上初めて天国の門へ到達した”ガルモ・ウルロー”から」


 ――剣士の”ガルモ・ウルロー”は天国の門へ到達後、「自分の国を建国したい」と願った。そして聖地テルパーノが出来たそうだ。その後彼は初代聖帝テルパーノとなり、テルパーノを魔法の都市へと発展させ、未来永劫繁栄させるため、門の塔やその周辺を観光地化した。その後もたくさんの事業などを成功させ、国民からすごく愛された。

 だが、彼自身は孤独な運命を辿る。彼は生涯に4度結婚したが、妃となった者は皆すぐ不倫をし、金や権力に目が眩み、不貞や不正が発覚する度に別れを繰り返していたため、彼には子供ができなかった。最後に彼の友人に当たる魔法使いの男に帝位を譲り、その生涯を閉じたそうだ。


「ガルモ・ウルロー、テルパーノを作った人だったんだ」

「ミキ、知らなかったの?」

「まだ歴史の授業取ってなかったの」

「ミキさん。帰ってきたら僕の授業取ってくださいね。では次、二人目の達成者”ヨシイチ・カガリ”について」


 ――”ヨシイチ・カガリ”は東の国ジャプニーナから遠路はるばるテルパーノにやってきた。天国の門へ到達後、「魔法を使えるようになりたい」と願った。すると彼は魔法を使えるようになった。火や水、風や草木、雷雨などありとあらゆる物を呪文や魔法で自在に操れるようになった。そして彼は故郷へ帰ったが、まだ魔法が珍しかったジャプニーナの人々は彼の魔法を見るやいなやとても怖がり、「ヨシイチは鬼になった」と噂し、彼は人々から避けられるようになってしまった。魔法を使う他国の人間に少しでも近づきたかったヨシイチは、故郷で差別を受けるようになってしまったのだった。その後彼は人気のない山奥でひっそりと暮らし、その生涯を終えたそうだ。


「ヨシイチ・カガリ……なんだか可哀想だね」

「うん……」

「では三人目の達成者”モリー・ミント”について読んでいきましょうか」


 ――”モリー・ミント”。テルパーノ出身の魔術師で、門の塔の研究をしていたそうだ。5回攻略に挑み、4回は中断撤退したものの、5回目の挑戦で天国の門へと到達した。天国の門では「門の塔のことをもっと知りたい」と願った。彼は一度テルパーノへ戻ってきたが、突然姿を消し、住んでいた家ももぬけの殻となっていた。それからの彼の消息を知る者はいないそうだ。


「まだ三人だけだけど……。みんな悲しい最後だったんだね。モリー・ミントは消息不明だけど」

「僕も思った。なんだか願いを叶えても最後は悲しい結末になってるよね」

「お二人ともよく気づきましたね。天国の門へ到達した者は皆願いを叶えてはいます。そして最後は孤独だったり行方が分からなくなったりしています。どうも門の塔ではその人の人生の何かを代償に願いを叶えているようなのです。一部研究者の間では”門の塔の呪い”があるのではと言われています」


 ”門の塔の呪い”――。ふと母さんが出て行ったときの会話を思い出す。確かにあのとき呪いと言っていた記憶がある。


「……」

「コウ。どうしたの?」

「あ、うん。何でもないよ」

 僕が考え事しているとミキが気にかけてくれた。


「では、他の四人の英雄についてですが、まだご存命なので最後についてはまだわかりません。攻略達成から日も浅いので、願いが叶ったのかや呪いなどもわかっていないようです」


 ”門の塔の呪い”は生涯を通してわかっていくものなのかもしれない。

 人生の何かを代償にしてまで叶えたい願いなのか。今一度よく考えよという教えなのだろう。


「それでは、次のページにいきましょう。門の塔のルールについて。これだけはしっかり守ってください。ルールを破ると、どうなると思いますか?では、ミキさん答えてください」

「うーん。強制退場とか?」

「正解です。強制退場となり、二度と門の塔へ入ることができなくなります。そしてその”ルール”ですが……」

 僕とミキは息を飲み、ルールがどんな物なのか心して聞く。


「1つ目は”他人の物を盗むこと”。そして2つ目は”他人を意図的に殺すこと”。以上です」


 僕たちは少し拍子抜けしてしまった。思っていたより少なかった。いわば窃盗と殺人をしなければいいのだ。普段生活しているのと何ら変わりないのだ。

「思ってたより少ないね」

「うん」


 バーオボにいるとき書籍や文献などを漁ったが、ルールについてまでは載ってなかった。もっと厳しいものを想像していたため、七日間講義で目いっぱい叩き込んで挑もうと思っていたのが……。


 すると鐘の音が響いてきた。二限終了の合図だ。

「それでは二限を終了しますね。三限も同じく座学なのでこの教室にいてくださいね」

 そう言うとナナパ先生は教室を出て行った。


「ルール、もっと厳しいと思ってたよ」

「うん。僕ももっと多いと思ってた」

「でも、この少ないルールでも天国の門まで行けたのって7人だけなんだよね。中の門がそれくらい危ないのかな」

「みんながみんな窃盗や殺人をするとも思えないし……。それはそうとミキ、本当に門の塔に入って大丈夫?」

 僕は願いの代償のことを思い出し、ミキに聞く。

 ミキが門の塔へ入る理由はガロを探すためだ。ガロ一匹を見つける願いを叶えて人生の大切な物を失ってしまうのはリスクが大きいように思えたのだ。


「大丈夫って?」

「ほら、ミキが門の塔に入る理由ってガロを見つけるためじゃないか。願いの代償のことを考えるとどうしても……」

「あぁ。うん。大丈夫だよ。天国の門まで行けるかわからないし、途中でガロさえ見つければ攻略中断してもいいかなって思ってるし。もしもガロが中で亡くなってたら……中で弔ってあげたいしね」


 するとまた鐘の音が響いた。三限開始の合図だ。

「わかった。僕はミキとガロがまた再会できるのを見届けるね」

「うん。それまでよろしくね。同行者として」

 


 教室のドアがガラリと開いた。ナナパ先生が入ってくる。

「それでは三限の授業を開始します」

 僕たちは教科書を開く。

「この時間は門の中でのことを授業でお教えしますね」

 僕たちは開いたページを見ながらナナパ先生の話を聞く。


「まず、門の塔の門の数は未だ全ての数は不明ですが、一部だけ観光者向けに開放されている階層があり、その階層部分の門の数は分かっています。地上層の一階から三階まで各十対ずつ、合わせて三十対の門です。三十対の門で特に有名なのが、虹の門や水の門などですね。観光ガイドブックにも載るくらい人気なのだそうですよ」


 観光者向けに開放されているということは、ほとんどの門が安全だということなのだろうか。序盤の攻略は少し楽に進めそうだなと思った僕だった。


 ナナパ先生は続ける。

「そして門の中ですが、魔法や道具の使用は基本大丈夫なようです。ですが、門によって魔法の制限がかかっている門もあるようですので、注意が必要です」

「魔法の制限……ちょっと困るかも」

「なので七日間講義では体術などもお教えします。攻略者の中には魔法が使えない方もいるのでね」

「体術かぁ。体動かしたりするのちょっと苦手なんだよね……」


 ミキは元々魔法が使えるのにいざ使えないとなると不便なのだろう。だが、僕のような人間には少しありがたい話だ。


「僕から何個か門のことについてお伝えすると、まず門に入る前に”門の詩”を確認してください。どの門にも必ず詩があり、危険な門なのか、攻略の手助けになるヒントなどが書かれているみたいです。そして、門の前に門番と言われる不思議なランプを持った謎の人物がいます。この門番も各門の前に必ずいるので、門番の言ってることを聞き逃さないようにしてください。これも攻略のヒントとなるはずです」


「詩と門番か。しっかり見て聞かなきゃだね」

「ちなみにですが、門番の正体は不明だそうです。そして、老若男女いるらしいことは分かっています。全ての門番が黒く長いローブのようなものを羽織っているそうですが、中を覗いても何も見えないそうです」

「ナナパ先生本当にお詳しいんですね」

「いえ、研究してるだけですので。ここまで知っていても、門の塔には行ったことないのですよ。攻略者や観光者からの話を聞いて僕なりに整理していってるだけですので」


 僕はバーオボでかなり勉強したつもりでいたが、本だけでは1割もわかっていなかった。


「まだ門のことについて続けますね。門の中には危険なものも数多く存在すると言いましたが、どうして人に危害を加えるのかという点です」


 言われてみてばそうだ。いくら天国の門へたどり着くための試練とは言え、あくまで攻略の邪魔をすればいいだけで、人を怪我させたりするまではしなくていいように思う。


「どうも、門の中には人の生命力を吸収してそれを魔力に変え、門の存続を維持している物もあるみたいなのです。僕が勝手に言っていることではありますが、人を魔力源にしている……”門の肥やし”にしていると僕は表現しています」


「”門の肥やし”……」


「なのでお二人は門の肥やしにならないよう願っています。本当は行ってほしくないですけどね」


 ナナパ先生はまた悲しそうな顔をして言うのだった。

 僕はふと気になったことがあったので質問をした。

「ナナパ先生。門の塔の門はどうして魔力が必要なんでしょうか?」

「いい質問ですね。理由は定かではありませんが、門の塔の門は何年かに一度消えたり新しい門ができたりしているようなのです。僕は魔力が維持できなくなった門は消えていく運命にあるのではないかと思っているのです。そのため人を襲ってでも吸収してでも維持しようとしているのではないかと」

「それって門に意思があるみたいな……」

「不思議ですよね。ただの門なのに。でもそう思えてくる。ですが門の塔のことは本当に何もわかっていないのです。ほとんど僕の憶測なのでここで言ったことは正しいとは限りません。とりあえず、中へ入ったら命だけは大事にしてください」


 門と魔力、詩、門番……。門の塔の研究をしているというナナパ先生の話を聞けたのはとても貴重だったが、門の塔のことはよりわからない存在になってしまったように思う。


 すると、鐘の音が響いた。三限終了の合図だ。

「それでは三限終了ですね。今日の授業はこれで終わりです。明日はナロメ先生が授業してくれるはずです。それではお二人ともさようなら」

 ナナパ先生は颯爽と教室を出て行った。



「今日の授業終わったね。この後お昼食べて、校庭でコウの魔法試してみよっか」

「うん。じゃあ、食堂に行こう」

 僕たちはB教室を出て食堂へ向かった。

 

 

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