第一章

第一話 聖地テルパーノ

 母さんが門の塔へ発ってから行方がわからなくなり、7年。僕は13歳になった。病弱だった僕も、今ではすっかり元気になった。


 母さんの行方を探すため門の塔攻略を決意し、アルバイトをしてコツコツとお金を貯めた。父さんを説得するのは大変だったけど、なんとか許可を貰った。


 バーオボからテルパーノまで三日三晩船に乗り続け、やっと聖地テルパーノの港イリーカに着いた。ここまで来られたのもヨーゼフさんたちのおかげだ。感謝してもしきれない。


 ヨーゼフさんたちとは港で別れ、簡単な入国審査をする。厳しそうな顔をした審査員に緊張したが、なんとか終わらせた。

 入国審査局を出たあと、船に乗り続けて強張った体を伸びする。斜め上にいる太陽に手をかざし、テルパーノに来たことを実感する。太陽は僕を祝福してくれているように朝日を輝かせている。


 それにしても人が多い。さすが聖地テルパーノだ。バーオボの港リョックルでもかなりの人が行き交うが、比べ物にならない。それもそのはず。聖地テルパーノは魔法の国。あらゆる物が揃う大都市だ。そして何といっても一番の目当ては”門の塔”だろう。


 ”門の塔”とは、地上から天へ高く伸びる塔のことだ。詳しい階数は分からないが、中には無数の門が存在する。地上3階までは一般人も自由に入塔できるので、世界中から観光客が訪れるのだ。


 ”門の塔”は観光以外にも、夢や願いを叶えるために”天国の門”を目指す”攻略者”もいる。その”天国の門”には何があるのかは分からないが、僕もその”天国の門”を目指して攻略するため、バーオボからここまでやってきたのである。


「まず攻略者用宿泊施設を探さないと」

 攻略者用宿泊施設とはその名の通り、門の塔攻略者が宿泊できる宿のことだ。観光者用もあるらしい。


「確か攻略者用施設の多い街があるんだったな」

 攻略者と観光者では必要になる物が異なったりと様々な理由があって施設が分けられている。宿泊施設もそうだが、道具屋や武具屋も観光者向けと攻略者向けでは違うものが売られている。


「街の名前は……エクパーナ!東の方角だ」

 港イリーカから東にある街”エクパーナ”は、攻略者用の施設や商店が数多く並んでいる。少しだけ割高なのがネック。だが僕は攻略者だ。多少割高でも喜んで攻略者用の施設を使おうと思っている。

 ちなみに、西側には観光者用施設が多く並んでいる街”ロクパーノ”がある。観光者向けというだけあって、とても華やかな街並みらしい。


「少し歩くけど……まぁ、ゆっくり街並み観光と行きますか」

 港イリーカからエクパーナは本来ならタクシーや車で行くほうが楽らしいのだが、ここは少しだけ節約したいので歩きで向かうことにした。


 人が多いテルパーノだが、魔法都市ということもあってか特に魔法使いがかなり多い。僕の頭上の遥か上を箒に跨った人たちがビュンビュン追い抜いていく。箒だけじゃない。街の至る所でごく当たり前のように魔法が使われている。重たい荷物も杖の一振りでヒョイと持ち上がる。少し伸びた髪も杖の一振りでサッパリ整う。欲しい服を注文すれば杖の一振りですぐに完成。バーオボでは見なかった光景なのでとても新鮮だった。


「本当に魔法大国なんだな……」

 僕の住むバーオボでも、バイクやちょっとした機械に魔法石を組み込んで動かすことはあるが、国民のほとんどが魔法を使えない。なので、今目の前に広がっている光景が本当に新鮮で不思議なのだ。

 

 街を見ながら少し歩いていると落ち着いた街並みになってきた。どうやらエクパーナに着いたらしい。

 まずは宿泊施設を探そうと地図を見ているときだった。


「すみません。今飼い猫を探しているんです。チラシだけでも受け取って頂けませんか?」


 少しウェーブがかかった青髪の少女に声をかけられた。黒く大きなツバのトンガリ帽子に、ひざ下まである長めのローブを羽織っていた。バーオボではあまり見ない格好で少し驚いた。前に、こういった格好をしている青年は魔法学校に通っているのだと本に書いてあったことを思い出した。この少女も魔法学校の生徒なのだろう。


 少女の手のチラシにはハチワレ模様の猫の絵が描かれており、大きな文字で”ガロという猫を探しています”と書かれていた。


「猫ちゃん居なくなったんですか?大変ですね」

「はい。三日ほど前から姿を見かけなくて。大切な家族だし、お腹もすかせてるだろうから心配で……」

 あまり眠れていないのか虚ろな目をしている。本当に大切にしているのだろう。


「あの、なんだか顔色悪そうですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫で……す、うっ!」バタンッ!

 少女は突然倒れてしまった。

「あの!大丈夫ですか?もしもし!」

 体を揺さぶっても返事がない。目の前で倒れた少女に焦っていた僕は声をかけるしかできない。


 すると近くで見ていた商店の男性が駆け寄ってきてくれた。

「おい!大丈夫かい!女の子が倒れたの見えたけど」

「あ、あのこの辺病院とかありますか?僕今日テルパーノに来たばかりで何も分からなくて」

「病院か。今日日曜だからどこも閉まってるな……。待てよ。この子どこかで……あっ!”アミマド屋のミキちゃん”じゃねぇか!」

 商店の男性はこの少女のことを知っているらしかった。

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