第3話 胎児、美声を聞く。
・・・、・・・・・・。
エーと、ココは・・・どこだ?
―――ここは、おなかの中か。
うーんと、私は・・・どうしたんだっけ?
―――近藤明日香の人生を終えて、【アナくれ】世界の悪役令嬢に転生したんだった。
ええと・・・私はいつまでこの状態なんだ?
―――いつというのはわからない、まだ先のことは出来上がっていないから知る事はできなかったんだった。
とりあえず今の状況は・・・妊娠9ヶ月に入ったところ、特に問題もなく、順調に育っていると。正産期に入ったから、本当にもういつ生まれてもおかしくないのか。
なんか・・・、すごいな。地球の常識をそのまま持ってきた世界なんだね。妊娠、出産の仕組みは地球と同じかあ。人体の構成も一緒なんだね、寿命も変わんない感じみたいだ。
ふぅん、一年は365日、うるう年まであって、時間の流れも同じ、四季もあるし血液型や星座なんかもそのまま流用、なのに獣人やモンスターや魔法の概念がめり込んできて、微妙にオリジナリティのある感じになっているわけかぁ。・・・ああそうか、ゲームメイクが適当だとこんな感じになるんだね。きっちり一からすべて世界観や環境を作り上げるのって大変だもんねぇ…。
世界のシステムや初期設定は地球からマルパクリで内容だけ挿げ替えるとか、なんかこうちょっと、・・・あれだ、二次創作的な感じがする。そうだなあ、確かに二次って盛り上がるもんなぁ、どれほど怪しい妄想で清純キャラたちの設定を活かして煩悩パラダイスに耽ったことか…屈強な猛者たちを恥ずかしい展開に持っていく達成感ときたらもう。
・・・設定ねえ、他にも色々ありそうだけど?
―――獣人の設定、魔法の設定、モンスターの設定・・・うわ、なんか一気にデータが!!頭の中に・・・どばーっと!!!
獣人の種類は大きく分けて12種、細かく分類すれば1225種、そのうち五種類はこの世界では解明されていないが実は同じ種類で、人間の外側だけが変質したタイプと動物の体を無理やり人間型にしたタイプが存在していて…そんなことより魔法が重要、空気のような感覚で魔法の起動スイッチが浮遊していて、生物の持つ磁力っぽい吸着力がそれを引きつけて脳内イメージと結びついて着火、パワーは個人で差があって引き寄せることができても思い浮かべる力が貧弱だったりするとできの悪い効果しか生み出せず、いろんな意味で魔法使いになれる人は夢見がちでなければいけない、なるほどねえ、でもって魔物ってのは魔法になりきれなかったイメージが解き放たれて目的もなくうろついてる、ああコレって地球の幽霊とよく似た状態なのか、へえ心霊現象ってこういう仕組みで、そういえばあの有名だった霊能者は…ああなんだあれはエンタテインメントで、本物は地味に暮らしてる場合が多くて・・・って!!!
ヤバイ、これは…だめだ!!
知ろうと思うと、ぞろぞろと知識?実態?事実?過去?出来事?全部のデータが降りてきて、芋づる式に次から次へと関連事項がずらーっと連なって!頭のナカが…スッキリしてるけどごちゃごちゃになっちゃうというか、ひとつひとつのデータはシンプルなのに、量が多すぎて集中できなくなっちゃって気が散るというか…しっちゃかめっちゃかにあふれる情報量について行けない、追いつかない、溺れてアップアップ状態!!!
ああ、あれだ、エロ単語を辞書で調べてたらいつの間にか日が暮れていた幼い日の感覚…、新作アニメを見てお気にキャラの声がイケボだった時に脳内にただれた妄想がもさもさ発生して、トリップしてるうちに放送時間が終了していたパターンなんかと同じニオイを感じる!!
そっか、わかったぞ…!!!
この【ゼンブシッテル】スキル、すべての存在している知識となるものを網羅することができるけど、その処理にはかなりの知力と体力と集中力が必要不可欠!!
一般人レベルでは到底太刀打ちできないようなこのシステム、ヘタに知りたい欲を出すと……詰むこと間違いない!!!
ちょっとまて、なんでこんなすごいスキルを、こんなごく普通の知能しか持たない私に付与した?!使いこなせなきゃ宝の持ち腐れだよね?!
―――この世界は超越者を望んでいないからか。
それならなんでスキルなんて設定を…ってダメだ、こんなのずっと堂々巡りするやつ!!
マズイ、もともと好奇心旺盛で知りたがり、いろんなことの真実を追い求めては自己流の解釈をして、新たな妄想に繋がって沼にはまって身動きが取れなくなってきた私、わりとかなりピンチかもしれない。
明日香だった時は、しょうチンや御腐人ちゃん、汁男爵に茹でまる君のツッコミがあって何とか変わり者の一般人で踏みとどまることができていた。よくよく考えれば、日常的に口うるさい家族の妨害があったからこそ大暴走が阻止されていたわけで……、たった一人で転生してきた今、この世界には…ストッパーとなる人物が、いない状態!!!
まずい、まずいよ、余計なことを考えて沼にはまってぼんやりしてたら、シナリオどおりに悪役令嬢一直線になるかもしれない!!
異世界転生なんか初めてだから、この世界の元になったゲームのシナリオがどれほど強制力を持っているのかもわからないし…、欲望のままに知識を追うのは絶対に悪手だ。知識ばかりが増えて頭の中が潤沢でも、外堀を悪役令嬢の流れで固められたら逃げられなくなる可能性!!身動きできなくなったら…詰む!!!
膨大な情報に繋がる疑問を思い浮かべるのは危険極まりない。せめて自分の知らないことについて考えるのではなく、自分の知っていることについて考えるようにしないと!!
くぅ、こんなの一瞬も気が抜けないやつじゃないの!!勘弁してよ、こんなんじゃせっかく転生しても…前世の監視生活と変わらないよ!
……あー、もぉー!!なんでこんな事になっちゃったかな、本当だったら今頃しょうチンの会社でエロそうな上司に囲まれて下品なシモネタ聞きながら大はしゃぎしてたはずなのに!!せっかく生おっさんパラダイスに潜入できることになったのに、油っぽいおじさんのニオイすらかげずに異世界転生とかありえないでしょ!!
長年女子校育ちで、ずっと女性にばかり囲まれて生きてきた私は、はっきり言ってオトコに飢えている。就職が決まってようやく叶うと思っていた、生男子生青年生お兄さん生おじさん生爺さん達との、好きなだけ見て良い/エロフィルター越しに愛でられる/現物妄想ができる/たまに
セクハラ発言されたらエグイおっさん受けシチュ返ししてドギマギさせてやろうって決めてたのに!!リアルオヤジをモデルにして薄い本いっぱい刷って、マジカルヌードグラス(お湯入れると服が消えるやつ)作って限定販売して、御腐人とはしゃぐはずだったのに!!
なんで世を渡った先で、こんなにも私は追い詰められるハメにならねばならないのか。
……どうせ苦悩するなら、おっさん達をお口ぱかーさせるくらいとびきり破壊力のあるシモネタワードを、あーでもないこーでもないとうんうん唸りながら考えたかったよぅ……。
《・・・、・・・・・・!》
《・・・・・・、・・・。》
・・・うん?
なんか聞こえる、ような。
なんだこれ?
―――両親の会話か。
なんかぼそぼそしてて聞き取りにくいなあ、おなかの中の赤ちゃんが親の言葉を聞いてるって聞いたことあるけど、こんなもんなの?
―――ああ、耳の穴に胎脂が詰まってるから鼓膜が震えなくて聞こえにくいのか……。
《……間も無く、この世界に一人の、美しい女性が産声を上げる。》
?!
なんかいきなり!!
ハッキリした感じのやつ、聞こえてキタ━━━━(゜∀゜;)━━━━!!
え、これは・・・なんで聞こえるの?!
胎脂、たいしはっ?!
―――耳で聞いているわけではなくて、脳の感覚野に直接作用しているので…胎脂は関係ないのか。
《この物語の主人公、アストリット・グドブランズドーテル=ナンセン。》
……って!!直接ってどういうっ…?!
ていうか、地味にめっちゃいい声!!
ナニ、コレ?!
―――なんだ、ナレーションか。
・・・って、ハイ、ハイ?!
はいぃいいイ?!
ちょ、誰だよ!!
勝手に人の脳みその中に乗り込んできた、このイケボはっ?!
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