第2話 エロい女子、自分のスキルを知る。

 ・・・、・・・・・・。



 エーと、ココは・・・どこだ?


 ―――ここは、どこでもないのか。




 うーんと、私は・・・どうしたんだっけ?


 ―――しょうチンと一緒にユリデートしてて、車に撥ね飛ばされて死んじゃったのか。




 あの白いのは・・・なんだったんだ?


 ―――しょうチンの見せパンだったのか。なんだ、生おぱんつじゃなかったんだ、残念。



 って・・・、なんか、おかしいな。


 なんだろう、妙にこう、思考回路がスッキリしているというか、なんというか。

 もっとこう・・・、脳内会議って、ごちゃごちゃしてて、答えが出にくくて、疑問点が生まれて、謎について色々ああでもないこうでもないと理論をこねくり回すような感じじゃなかったかな・・・。



 この・・・、すぐにわかっちゃう感じ?サクッと理解してスッと腑に落ちるようなドストレート感は、一体、ナニ?


 ―――そうか、そういうスキルだからか。



 ……ちょっと待て、私はナニを今納得した?



 ―――自分がすべてのことを知っているスキル【ゼンブシッテル】を持っているということに納得したのか。


 ナニそのネーミング、センスない!

 って…ちょいまち、なんか私、それ、知ってる!!


 このダサいスキル名は……、伝説のド変態乙女ゲームに出てきたはず!


 確か、プレイヤーをことごとく邪魔する悪役令嬢が持っていたスキルで…、ちょっとした黒歴史をすべて白日の下に晒して、いたいけな変態の皆さんをいじり倒しては闇堕ちさせまくってたタチの悪いタイプのやつだ!!

 清廉潔白・几帳面・潔癖症・淑女の鏡・真面目一辺倒その他もろもろの頭の固い・硬すぎる偏屈お嬢様が己の正義を押し付けまくって、無双してくるもんだから気を抜くとすぐにバッドエンドまっしぐらになっちゃって…エロゲ仲間達とものすごく頭を悩ませながら全クリしたんだよぅ!!


 世間一般的にはクセが強すぎてクソゲー扱いされてたけど、わりと私は嫌いになりきれなくて、ぶうぶう文句を言いながらもフルコンプはもちろん薄い本まで制作するくらいハマったタイトル!!


【アナタとアキバ転生~ね、こんな僕でも愛してくれる?~】


 略して【アナくれ】は、数々のおかしな性癖をもつイケメンと聖女が悪役令嬢に邪魔されながらプラトニックラブを貫く乙女ゲーだった。

 個性豊かな攻略対象を調教&懐柔しつつ変態万歳シナリオを進めると、プレイヤーである聖女と攻略キャラクターが紆余曲折ののち固い絆で結ばれて、誰にも疎外されないオープンな性癖が許される世界を求めて大暴走した挙げ句、二人そろって豊かな発想のあふれる現代日本のオタ街に転生を目論み、星を大爆発させて二人の愛よ永遠に…で終わってしまうというトンデモ展開で……。


 ちょっとまって、このスキルを使ってるって事は、私、あの悪役令嬢に転生したってこと?!


 ―――そうか、生まれ変わったのか。


 なんで私が?!


 ―――たまたま選ばれたのか。


 この世の仕組みってのは一体どうなってるわけ?

 なんでわざわざこんなプレイヤーを選ぶ、著しく偏った思想大バンザイの乙女ゲーの世界を?!


 ―――想像した世界に現実を与えることで出来事を作り出すため、人が生まれる流れがあるのか。


 つまり、想像を想像で終わらせずに創造につなげることで世界として存在させ、その中の人々がさらに想像をして新たな世界の基盤を生み出して行く仕組みになっていると…へえ、無限に世界を続かせていくための摂理かあ。


 出来事があるから世界が存在する……、現実を生み出して過去を貯めていくってことなんだね。

 で、たまたま私は【アナくれ】世界を割り当てられて、ここで生きて行くしかなくなったと。わりと適当な感じで、ちょっとびっくりなんだけど……。


 ちょっと待って、私、この先一体どうなっちゃうの?!まさかゲームの内容そのままに、断罪パターン?!やだよ、ヤダヤダ、私あんな堅物のつまんない真面目女子になんかなりたくない!!


 ―――先のことはわからないのか。


 ……って!!!


【ゼンブシッテル】は、確定していない未来のことはわからないってこと?!


 ―――未来はまだ起きていない事象であって、存在していないから全部の一部になりえないということなのか。


 つまり、過去や現在進行形?起きてしまっていることは全部わかるけど、まだエピソードとして確立されていない出来事は知ることができないって事だよね。

 …あれかな、パンケーキを作ろうと思ったら、どんな出来上がりになるのか予測ができないみたいな?焼いてみないと焦げるか生焼けになるかわからない的な?失敗したら何が悪くてそうなったかはわかるみたいな…。


 うわぁ…なんかこれは大変なことになったぞぅ。もちろんいまさら転生回避は不可能なんだよね?


 ―――もうじきに生まれるから受け入れるしかないのか。


 ……私、悪役令嬢になるしかないってこと?


 ―――【アナくれ】の世界設定は存在しているけれど、【アナくれ】のエピソードはまだ存在していないからわからないのか。


 ……生まれたら、今の記憶がなくなるってことはないよね?


 ―――【ゼンブシッテル】があるから、今までの知識や経験も全部思い出せるのか。


 近藤明日香の記憶を持ったまま悪役令嬢として生まれるのであれば、きっと……大丈夫だよね。私はクセのある性癖には寛大だし、リアルに間近で眺めたいと願うし、むしろバッチ来いであんなぬるいプレイで満足するしかなかった気の毒な皆さんに色々と最先端の官能のあり方を伝授したいと思うわけで!!


 ・・・そうだ、私はこの【ゼンブシッテル】を使って、この世界の常識を変えよう!!

 みんな違ってみんな良い、性癖は個人のもの、誰かが口出ししていい領域ではないってね、それを広めてやがてオープンな性癖パラダイスを作って…ぐふ、ぎゅフフ!!!フフ、グフフ・・・・・・!



 なんか、ちょっとヤル気が出たら…急に、眠くなって……きちゃった。



 こうなったらもう、現実を受け止めて・・・まだ存在していない未来に・・・かけるしか、ない・・・もん、ね・・・。



 よぉ~し・・・、がんばる、ぞぅ・・・・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る