エロの権化たる私、異世界転生したらまさかのヘンタイ乙女ゲーのデバガメ悪役令嬢?!しかも365日24時間イケボで実況中継されちゃうとか… あ り え な い ん で す け ど !

たかさば

第1話 エロい女子、リアル脳汁たれながす。

 近藤明日香こんどうあすかは、よわい22の、麗しい女子である。


 腰まであるストレートロングの黒髪に、睫毛ばさばさのとろんとした二重瞼が印象的な大きな目、ちょっぴり尖った唇は薄ピンク色で口角がキュッと上がり、小顔なのはもちろん全体的に華奢で、それでいて胸と腰はボリューミーに丸みを帯びすぎている、誰もがすれ違いざまに振り向きたくなる、振り向いてしまう、遠目で拝みたくなる、隠し撮りして家宝にしたくなるようなイケ女子大学生なのである。


 ……だが、しかし!!


「ぎゅフフ…、見てみてショウちん!!ヒエログリフ展だって♡さぞかしいやらしい感じの…ぐふ、グフフ……」

「……ちょっとアスっち!!街ナカの美術館のお知らせ見て…よだれ垂らしちゃ、ダメ、ダメ!!」


「いや…だってさあ、見てよココ♡女のマークなのにどう見てもエレクト…わかった!!古代エジプトにも男の娘が

「人目のあるトコで妄想垂れ流すのやめよ?!ここ一般道!!!」」


 明日香は、自他共に認める、明朗快活な巻き込み型のド変態だったのである!!!


 口を開いた途端げっそりされてしまうこと必至の、黙っていればかわいいのにとびきり残念なタイプの美(少)女……、それが明日香なのだ。


 可憐な唇からとめどなく漏れ出す…いや溢れ出す、飛び出す、大放出されるのは、耳を塞ぎたくなるような下品なギャグにドン引きするようなシモネタ、震え上がるようなエロまみれの発想にいかがわしいパワーワードという徹底ぶりである。


 たまに黙って物憂げな表情をしているなと思って近づいてみれば、国語辞典でエロ単語を調べる事に夢中になっているし、何やら小刻みに指先を動かしているなと思って覗き込んでみれば、手元のメモ帳に稚拙な技術だから許されてはいるがデッサン上級者だったら一発で成人向けまっしぐらな落書きをしていたりする、隙あらばいやらしい発想に邁進し一人ニヤニヤして至福に浸る、中年の脂の乗り切ったおっさんのような…生まれた性別と年代を間違えた残念女子と言えよう。


 明日香の歩んできたこれまでの歴史において、エロにまみれた妄想に引きずり込まれて致命傷を負った人物は…おおよそではあるが、軽く3桁を越える。

 普通の女子もか弱い女子も、スポーツ万能の先輩方も、年齢を重ねた女教師も、クラスメイトもサークルの仲間もいかついライバルも根暗な後輩もイケ女も真面目女子も生徒会長もヤンキーもSNSで繋がった本物の変態も礼儀正しい年齢層のお高いお友達の皆さんも…、みんながみんな明日香の底知れぬエロ沼に引きずり込まれ…藻掻き、慌てふためき、逃げ出していったのだ。


 ちなみに、今横にいるアリスファッションに身を包んだ大柄なおにいさ違った女子は、明日香の超ウルトラスペシャルハイパーグレートド変態発言をものともしない、心と懐が大きすぎる年上の親友、ショウちんである。

 大学四年生である明日香は、このたび彼違った彼女のおかげで商社への就職が決まり、今日は朝イチからお礼と称してお得意の甘ロリメイクを施して差し上げ、ユリデートを楽しんでいる真っ最中だったりする。


「ねね、この後どうする?新作のエロゲ予約行く?それとも二階にあるメイド喫茶の窓際からチラシ配りに邁進するコス民の胸元覗き込んで喜ぶ?」

「えっとね?!あたしコスメ欲しいな、ちょっとアツモリクロシ行ってもいい?!」


「おけ、んじゃとびきりエロいつけま選んだげる♡モノ欲しそうなぬるぬる光るグロスもね♡そうそう、新しいチーク出たの知ってる?素肌カラーってやつでさあ!!あれどう見てもエロ色しててちょーウケんの、も~さ、誰のどこの部分のカラーですかって…ぎゅふ、ぎゅふふ!!!」

「……こんなに清楚な見た目してるのに、なんでこうも拗らせちゃったのかしらね。何も知らない部長、絶対ダメージ大きそう。というか、今頃セクハラ計画しながらウハウハしてるおっさん連中が気の毒でならない……」


 明日香は、現代日本において珍しいレベルの、厳格で清純第一主義の潔癖思想に凝り固まった家庭に生まれた。


 ―――男と遊ぶなんて野蛮、女の子はおしとやかにね。

 ―――男とは極力口をきいてはなりません、手をつなぐなんてもってのほかです。

 ―――男に近寄ったらダメですよ、いいですね?


 その他もろもろ…、非常に偏った見識を持つ祖母と母が牛耳る、女系の家に育った。


 ―――清廉潔白純真無垢で育って立派な大人の女性になったら、然るべき男性とお見合いをさせてあげますからね。

 ―――貴方は結婚するまでは俗世間に穢されてはなりませんよ。


 当然、テレビの恋愛ドラマなど見たこともないし、恋愛のにおいがするアニメは一切見せてもらえず……国民的アニメでパンに恋をする細菌のエピソードを見ただけでチャンネルを変えられる有様であった。


 徹底的に色恋関連を排除され、男と言えば年に数回会う父親と祖父、女子校の校長ぐらいしか知らずに育った明日香。


 小学三年生、ゴールデンウィーク直前の事だ。

 彼女は、己の運命を、大きく変える事になる。


 はじめて性教育の授業を受けた時、明日香は衝撃を受けた。それまでなんとなくしか知らなかった男女の体の違いを、初めて、はっきりくっきりバッチリ目の当たりにしたのだ。好奇心を鷲づかみにされてしまったのは、もはや必然と言えよう。


 新しい知識を得て、未知な分野への探究心が生まれた。

 もっと知りたい、真実を知りたい、知らねばならない……、向上心を胸に学んだ成果を母親に報告した事が、これまた悲劇の幕開けとなってしまった。


 ―――こんな事に興味を持つなんて破廉恥な!!

 ―――あなたは女性なんだから、男の体のことなんか知らなくて良い!!

 ―――はしたない、今後一切こういうことを言わないでちょうだい!!


 人というものは、禁止されるほどに……知りたくなるものである。


 家族に隠れて性に関する書物を読み漁り、いかがわしいマンガを友人宅で読み耽り、堂々と書店の官能コーナーに陣取り、ヤング雑誌のエッチな投稿欄をガッツリ何度も読み返し脳髄に叩き込み、やがて創作の世界へ飛び込んで自給自足に精を出すようになり、誰にも教えを乞うことなくエロを独自に追求し、正しい答えからかけ離れたところに真実おもいこみをでっちあげ、オリジナリティ100%で究極の淫猥の旋律を奏で…、ふと気が付いた時にはもう完全に修正不可能なレベルに到達しており、周りの常識を木っ端みじんに打ち砕くレベルに仕上がってしまっていた。


 信じられないほど潔癖な家に育ってしまったせいで、明日香は盛大に道を誤ってしまったのである。


 派手に貞操観念を拗らせた結果、ランジェリー売り場の横を通るだけでニマニマしてしまうのはもちろん、スーツのスラックスの裾から白い靴下がチラ見えしたおじさんを見ただけでおかしな妄想が捗り、「エロ」という二文字のカタカナを目に映せば溜め込まれたいかがわしい知識エピソードがでろんでろんと脳内でうごめきどこどこ溢れ出すような、おかしな人間になっていたのである。


 ……就職が決まり、春から晴れて一人暮らしが確定した明日香は、いつも異常違った以上に浮かれていた。


 常に机の中チェックを欠かさない厳格な祖母から逃げることができる。隙有らば学友に伺いを立てて男の影を探る母親の呪縛から解き放たれる。パソコンに厳重なロックを施す必要もなくなるし、いちいち検索履歴を削除しなくても良くなる。部屋いっぱいにいかがわしいポスター貼りまくりもできるようになる。知りたいことを誰にも咎められずにすべて調べられる環境が間も無く手に入る。ビバ素っ裸で過ごしても叱られないパラダイス!!エロメンのつやめかしいASMRも心置きなく聞くことが―――!!!


 ……いつも以上に、注意力散漫になっていたことは否めない。


「ア!!見てみてショウちん、あれ老舗エロゲの新キャラ、ヤマタノオロチだって!!も~さ、八つもまたがあるくせにあいつら全部タダの首でつまんないよね、せっかくの神秘の器官複数ゲットのチャンスなのにナニ無駄遣いしてんのって…うーん、もしかしたら隠し絵的な感じで描き込まれてる可能性!!よーし、近くでじっくり観察してやろ!」


 一方通行の道路の、反対側の歩道のビルの壁にある、特大ポスターに気をとられた暴走エロ魔人が好奇心を抑えきれずに飛び出した、その瞬間。



 キィ―――――――――!!キキ――っ!!



「アスっちあぶない!!!!」



 青春時代を共に過ごしたエロ友の伸ばしたごつい手は、煩悩の権化を捕らえることができなかった。



 ……どんっ!!!



 暴走自動車に跳ね飛ばされた肉体から、エロ根性の染みた脳汁とエロ要素がたんまり蓄えられた体液があふれ出し、アスファルトの上に広がってゆく。


 ドスドスと重低音を響かせながら駆け寄る、大柄な男の娘の顔を見上げることは、……できない。


 朦朧とする意識の中で、明日香が最後に見たのは。


 目の前でしゃがみこんだ、親友の。


 真っ白な、なにか・・・。



 それが、下着だったのか、靴下だったのか。


 エロ汁違った体液を流しすぎてしまった明日香には、見分けるだけのパワーは残されてはいなかったのだった。

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