第4話 胎児、生命の危機に直面する。
《儚くも美しい、気高く清らかな乙女の伝説が、今、始まろうとしているのだ。》
脳髄に直接染み込んでくる、色気のある低音ボイス・・・いわゆるエロメン声。
うわぁ、ちょっとお気に入りASMRの俺様君に似てる!!なんていうんだろ、ちょっぴりハスキーで、それでいてしっとりしている、決してバリトン系ではないが重低音を感じる、しかしながら跳ね上がるような語尾のしゃくれにやや高音部が認められ、さぞかしいい喘ぎ声を上げてくれるんだろうなという予感しかしない、吐息の混じる句読点のエロさもあいまって・・・ダメだ!!怪しい妄想がでろんでろんと―――!!!
《母オースタは、腹部の規則的な痛みに気がついた。今から麗しの令嬢をこの世に生み出すのだと、覚悟を決め…医務室の主治医の元を尋ねた。屋敷の中が、にわかに騒がしくなった。》
ああ、ナレーションが入るおかげで、膨張する煩悩がキュッと縮こまって妄想大暴走に…ストップがかかる!!!
ちょっとまってよ、コレってひょっとして実はわりとかなり相当もしかして、助っ人登場的な展開なんじゃ!
《出産という人生の一大事を乗り越えるべく、戦場が準備された。20畳の客間には大量のタオルとさまざまな医療器具、医療術者とメイドが集まった。》
・・・わりと細かくナレーションが入るんだね。
助っ人はありがたいけど、まさかずっとこの調子なんじゃないでしょうね。いくら
ちょっとコレ、何とかなんないの?!
―――ナレーターもたまに休憩するから大丈夫なのか。
って!!はい?!
ナレーター?!ナレーションとの違いは?!
休憩って、ナニ?!
―――スキル【ナレーション】を持った人がいて、その人がナレーターを担当していると。で、色々と考えたりぼんやりする時間もあるから、その間は何も聞こえてこなくなるのか。
え、ちょっと待って、私以外の人物も…この世界に転生してきたって事?!
―――たまたま同時期に同じ世界に転生してきた人なのか。
っていうか、人?!
どこでナレーションしてるの?!
そもそもスキル【ナレーション】ってなに?!
―――ナレーションすることで時間の流れからはぐれるスキルなのか。
つまりナレーターをしている間は時間が流れず、現実に混じれなくて、夢の中にいるような状態になってるんだね。肉体は時間のない空間にいる間は存在してないのか、何そのご都合主義…って、そういうものなんだね。
……うん?ちょっと待ってよ、じゃあもしかして、ナレーターの人ってナレーターをしなければ、時間を取り戻すこともできるって事なんじゃ?
―――自分が特殊スキルを持った人間だって事に気付いてないから、今のところは無理なのか。
というか、今戻られたら私の暴走をとめてくれる貴重な人材が消滅するからなあ、…しばらく様子見しておこう。どのみち今はまだ生まれてもいないし、何も出来ないからね。
《主治医が痛み緩和の呪文をかけているが、苦痛はどんどん増している。オースタの額に浮かぶ汗をメイドがガーゼで拭った。》
って言うか、さっきからちょいちょい気になってたんだけど…。よくよく聞いてみると、いい声してるけどわりとこう、ナレーションしてる文章?微妙にこう、残念というか、なんだろう…ところどころに違和感のようなものが。
やたら「た」で終わるし、ちょっと単語選びがぎこちないというか、主語がなんとなくぶれてるというか、アンバランスというか、なんだ、この感じ?
―――本人の技量でナレーションしてるからなのか。
ああ、つまりナレーションのプロだったからナレーターとしてここに来たわけではなく、一般人がナレーション役に抜擢されたみたいな…完全素人が大役任された感じってこと?!何それ!!!
―――死ぬ前に自分を実況中継したから、コレ幸いと抜擢されたのか。
出たよ!!この謎の肝心なところでやっつけ仕事っぷり!!
ああ〜、でも選ばれてしまったからにはもうどうしようもない。このナレーションの人も、ナレーターとしての役割を持ってここにいるわけで、もはや逃げ出すことは出来ないわけで…、気の毒にねえ……。
って、あれ、ちょ…、なんか、苦しいような。
《…、……!》
《!!!》
《……!》
いや、体が痛い?圧力がすご…
《…アストリ……、母……。》
め、めり…、みぎっ、ぐ、ぐぐっ……みし、みしっ……!
ギャ――――――!!
頭、めりめりって!!
苦しい!!ヤバイ、痛いとかそういうレベルじゃない!!
《…、…アスト…いま……》
《!?……!!》
《……!》
なんかナレやらこもった音がうるさいけど!!!
まったく聞けない余裕ない痛い苦しい狭い首もげる肩抜ける首締まる足伸びるヘソ熱い心臓が破裂するア、ア、ア、ア!
コレ、ちょ!!マズイ、生まれる前に、し、しぬっ!!
《ああ、アストリットが今、ここに!!》
「あ、アアあああああぉおおおおガーーーーーーーーー!!!」
「・・・!!・・・・・・?!…っ!!!……!!!」
《まばゆい光に包まれてこの世に生を受けたアストリット!産婆はクリーン……》
「!!!、~、オーラヴさま・・・、ふぇす・・・・・・」
《胎脂にまみれた出生直後の体がぬるま湯と魔法で除去されていくと…うす紫色をしたしわだらけの皮膚が……
・・・なんか、めちゃめちゃ不愉快なナレーションが聞こえてきた気も、するけど。
私、出産の、生まれる側のダメージ、舐めてたわ・・・。
ちょっと、気、失っても・・・・・・、いい、よ、ね・・・・・・。
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