第2話 Lukky ? Unlukky ? Valentine's day!!〜その2〜

「ビールに合わせるならホップの苦みがあるから、ビターチョコレートの中でもボタニカルな風味を感じるものが良いだろうな。これなんて、檜のような独特の風味がある。 ビールとチョコレートのそれぞれの香りを引き立てるから、君にはあっているんじゃないのか?」


 普段嗜まないというのに、彼は一体どれだけ詳しいのだろう。その豊富な知識量にタカトは唖然となった。


「来月はお返しを買いに行かないといけないが……良かったら付き合ってくれないか?」

「え? 時間があうなら別に良いけど……急にどうした?」

「近年似たりよったりで、悩むから」


 甘いものを普段食べない者にとっては、全てが同じものに見えるに違いない。細やかなことでも意見が欲しいのだろう。


「あと、ジュリアには何か作ろうと思うのだが、試作が必要だ。是非手伝って欲しい」

「モテる男は色々ツライな〜試食係なら良いぜ! お前料理上手いもんな♪ きっとジュリアちゃん喜んでくれるだろうよ」

「去年はシフォンケーキにしたから、今年はフォンダンショコラにしようかと思う」

「うわ……お前自分はほとんど食べねぇというのに、そんなもんまで作れるのかよ! 本当にすげぇな!」

「必要にかられてしているだけだ」

「謙遜するなって。パティシエ級の腕を持っている癖に。ただ作るだけじゃなく、デコレーションまでしっかりやってそうなのが容易に想像出来るぜ」


 二人はいつの間にか、互いの非番の日の打ち合わせを始めていた。今日は珍しく冷え込んでいる日なのに、このルーム内は小春日和のように温かい気がするのは気の所為だろうか。


「あ〜やだやだ。暖房効かせてない筈なのに、何だか熱くなってきた気がしないかい? ナタリー? 見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうねぇ、全く」

「うふふ。本人達が至って無自覚なだけに、余計にねぇ。でもとっても楽しそうだから、そっとしておきましょ」


 女性エージェント達はぼやきつつも、どこか視線が浮ついている。すっかり鑑賞物にされていると、本人達は気付いていないようだ。


「まぁまぁ、平和なことは、良いことだ」

「そうだな。去年の四月五月のあの頃に比べたら、随分と落ち着いたと思うね、あのお二人さん。最初は一体どうなるかヒヤヒヤものだったしな!」


 ロバートとドウェインも、ルーム内に穏やかな空気が満ち溢れている様子を見て、目を細めている。


 去年の四月頃、緊急要請で「セーラス」本部の〝派遣執行部〟のエージェントとしてタカトはやってきた。ところが、肝心のバディ相手であるディーンと反りが合わず、しばらくぎすぎすとした状態が続いていたのだ。


 しかし、数々の困難を経てすっかり打ち解けあった二人は兄弟のように仲良くなり、いつの間にかファーストネームで呼び合う、公私ともに良きパートナーとなっている様子である。理由合って、鉄仮面状態の長かったディーンも、少しずつながら雰囲気が柔らかくなっており、益々社内の女性職員から熱い視線を集めているようである。


「さあ! せっかくのヴァレンタインですもの、私達も負けていられないわね! ほらロバート。あ~んして!」

「まさか、あたしのが食べられないとは言わないよな?」


 ナタリーから包み紙を剥がされたショコラを口元に押し付けられたロバートは、苦笑しながら口を開けた。ドウェインも右に同じ状態で、苦笑い状態である。美女達の手による「早く口を開けろ」と言われんばかりの勢いに、逆らえる猛者は到底いないだろう。


(やれやれ、猫も杓子も浮かれモードだなぁ)

(ゲームと一緒さ。年に一度のイベントだから、参加することに意義があるというヤツだ。ここは大人しく乗ってあげるべきだよ。参加しないやつは唐変木以外のなにものでもないさ)


 ロバートとドウェインは互いに目配せをしつつ、やや呆れながらも互いの相棒の相手をすることに徹した。


──完──

 

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