48 -正体
──新月様の力……この世界では魔力の強さを魔素値で示すっすね。
そう、前置きをして話し始める。
新月様は前に言ってたっす。
「自分が持つ魔素の限界まで、力を使ったことは一度も無い」
──僕は新月様から身体を作られているっす
──同時に動力である魔素識も、新月様からいただいているっす
──そのせいか、僕の魔素値を数値化すると1万はゆうに超えるっす
それを聞いた3人は顔を見合わせた。
大国の魔法団団長でも魔素値1万は稀である。
6千あれば強いと言われるのが常。
9千あれば、その隊は負け知らずと言われるものだ。
「ただし、僕には攻撃の才は受け継がれず、隠密能力とサーチ能力に極振りなんすけどね」と少し、恥ずかしそうに言う──
──ケプシャルの能力は本物である。
ハーララ2位の力を持つのは紛れもない事実だ。
そのケプシャルに改造を加え、エスターゼ・ラニサプが自らの力をも植え付け翼を授けた。翼を持つ者は魔素値が格段に跳ね上がる。
翼1枚につき、どれくらい魔素値が増えるかは、本人が元から持つ強さも加味されるので、正確な数値化は難しい。
数値化は難しくても、増加量の法則は決まっている
翼を得ると、力は倍倍で増えていく。
それが魔法に詳しい者の知識として当たり前だった。
例えば翼1つの力が3の場合。
両翼が揃えば3+3の6で増えるのではない。
両方の翼が対となり揃ったのなら3×3の9で増える。
そんな認識である。
翼が対に揃った今のケプシャルの強さは、新月丸が最初に出会ったときと比べ桁外れに高い。今はそれだけの魔素を有している。
それでもケプシャルの片目は新月丸の視線を外せないままだ。
外せないながら、ケプシャルも負けてはいない。
新月丸を隻眼で睨みつけている。
測定不能の超高熱の中で、双方、全くダメージを受けない睨みあいが続く。
両者、何も言わず対峙したまま、静かに時間が過ぎていった。
その静けさを打ち破ったのはケプシャルの魔法。
「
高熱へ。
さらに熱を加えるべく、なんの前触れもなく得意魔法を唱え放つケプシャル。
低温は絶対零度以下にできない制約があるが、高温に絶対高度なる制約は無い。数字で表せる限り、熱を上げられるのだ。
己の得意魔法である
周囲を包んでいる熱は一気に跳ね上がった。
「燃えてしまえ、消えてしまえ」
ケプシャルが言っているのか、裏にいるエスターゼ・ラニサプが言っているのか。
それは定かでないものの、新月丸への憎しみの感情が激しい。
魔法を重ねがけし、周囲の熱を増したが問題はすぐに起き始めた。
跳ね上がった熱の中でケプシャルの肌は所々、皮がめくれている。
自ら放った強烈な魔法が自身の体を蝕み焼き焦がしていく。
でも、新月丸の姿は何も変わらない──
──熱も冷気も、新月様のダメージにはならないっす
──身体の周りに極薄い宇宙があると聞いたけど、理屈はよくわからないっす
宇宙? とタロウは口に出た。
ティールと同様、理解ができていない。
理解ができないのはクレアも同じだったが、1つ心当たりがあったのだ。
国がまだ、落ち着かない頃。
前体制のほうが都合のいい元貴族や帝王直属の軍に所属していた者達が、強盗や殺人などを集団で行う暴徒と化していた。
街を復旧させようとしている国民が何人か犠牲になる事件が頻発したとき。被害のほどを調べる為に王と共に街の視察をしたのだ。その際、クレアは物陰に隠れていた暴漢から襲われた。
暴漢は元、国の兵士だったのだろう。魔素を帯びた武器を持っていて、クレアは大怪我を覚悟したのを今でも鮮明に覚えている。
そのとき、新月丸がクレアと暴漢の間に割って入った。
魔素を帯びた武器は攻撃力がとても高く、貴重で高価だ。
一部の特権者のみが持てる武器の代表である。
しかし、その武器をもってしても新月丸に全くダメージを与えられなかった。
新月丸の身体を打ち据えたのは確かに見たのに。
身体にあたったのに、あたっていないように見えた不思議な感覚を思い出す。
──極薄い宇宙ってのは新月様の魔素値分の防御力があるらしいっす
それは新月丸の魔素値を超える魔素でダメージを与えなければ、一切の攻撃が通らないことを意味している。
──新月様は様々な魔法を使えるっすけど、最も得意なのは2種っす
それは──
ケプシャルが放った魔法で生じた熱は2人の周りの全てを溶かした。
グツグツと煮え溶ける石の上に立つ新月丸。
溶岩の上に浮かんでいるケプシャルは、その状況に満足している風を見せる。
「俺を殺す為だけに、これだけの広範囲を焼き尽くすか……」
一般階級民、という名の奴隷を住まわせている貧民街は、ウデーが連れ逃げた家族が住んでいた場所を中心に焼け落ち溶けた。範囲はおおよそ、半径500メートルくらいだろうか。
「奴隷はいくらでも、増やせるからのう……」
この言葉を聞き、新月丸は動く。
動くと言っても、攻撃を仕掛けたのではない。
左手を上げ、何かを念じる風を見せただけ。
その一瞬、世界は暗黒に包まれる。
何もかもが見えない漆黒の闇が明けた後。
熱は完全に失せ溶けた地面は固まり、ゴツゴツした岩に変わっている。
エスターゼ・ラニサプは思わず、玉座で大声を出してしまう。
「またか!あれはなんなのだ‼︎」
大声は操っているケプシャルの口を通し、そのまま言葉になった。
「わからねぇだろうなぁ」
口元だけはバカにしたような笑みを浮かべたものの、やはり目だけは笑っていない新月丸。
俺の力は──
──新月様の得意とする力の1つは闇っす
「闇?」
その闇は新月様が望むものを全て、吸い取るっす。
吸い取って力にするのか、完全に無にしてしまうのか。詳しく知らないっすが、とにかく消すっす。
なんとかホールとか呼ばれている力は真なる闇で、それは光すらも吸い取るらしいっすよ。
タロウと
それって──
俺のこの能力はな、意のままに高密度の闇を呼び出し操る力だ……とケプシャルから目を離さずに言う。
「この力で吸えないものは存在しない」
あり得ない!そんな訳がない!
高密度の闇だと⁉︎
こいつも広く考えれば天体系の力を操ると言うのか⁉︎
玉座に座ったままケプシャルを操るエスターゼ・ラニサプは動揺を見せた。
それはまるで、ブラックホールの力ではないか——
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